CHAPTER−42

川を下っている間もずっと雨は降ったり止んだりしていた。
しかし、最後の方になると雨雲は通り過ぎたようで、もう降らなくなった。
ラピッドライダーは川の中間地点ぐらいから始めたが、ゴールまではかなり距離があった。
でも楽しいから全然苦にならない。
途中、川沿いに立つ現地人の家から不思議そうな顔で見られたりした。
「そりゃ見るわな、アホっぽい外人が川をマットで流れてるんやもん」
自分達でもそのアホアホ姿は容易に想像つくが、そんなことは関係ない。
楽しかったらいいねん。

オカは持ち前の川の知識を活かし、結構アグレッシブに下っていた。
すると盗賊船頭がボートの上から「おまえ、うまいなあ!」と声をかけてくれた。
「そやろ!だってラフトのガイドやもん!」少しだけオカは天狗になった。

結構長い時間川を下ったと思う。
でもゴールが近づくと、とても寂しかった。
「え〜〜、もっとやりてぇ〜〜…」
全員が同じことを口にする。
それぐらい楽しかったから…
こんなことなら帰りはずっとラピッドライダーで下ればよかった…

とうとう最初にボートに乗った船着場に到着。
ここがゴール。
「あ〜、楽しかった〜!」
4人は川から上がり、階段を上ってベンチのある所まで移動。
そこで少し休んでいると、二人の船頭が俺たちの荷物を上まで持ってあがってくれた。
本当に楽しかったから、4人は心から船頭さんに感謝した。
「オレが日本に行った時には、ラフティングの仕事を回してくれよ」と盗賊船頭が言った。
「おう、もちろんいいで」オカは気さくに答えた。
でも、この川でガイドしてても、正直小歩危はできんだろうな、と感じた。

そのうち車が迎えにきて4人とネイさんは乗り込んだ。
ここで二人の船頭達とはお別れ。
「バイバ〜イ」
「気をつけてな〜!」

車の中でもラピッドライダーの話で持ちきりだった。
ホンマこれだけでもブルネイに来た甲斐があったというもの。
オカもオランウータンに会えなかった悔しさを忘れてしまうぐらいに。

またイリコが和代さんから聞いたブルネイ情報をいろいろ教えてくれた。
モスクの近くで見たスラムのような水上生活者、彼らは決して貧しいわけじゃないらしい。
ブルネイは敬虔なイスラム教徒。
だから少しでもモスクに近いところに住みたいがために水の上に家を建てているらしい。
「なるほど、そういうことやったんか…」
しかも話しによると水上集落の人々は政府関係の人も多く、結構裕福なんだとか。

あとネイさんがブルネイについていろいろ語ってくれた。
「私も旅行とかすごく興味があるの。でも外国に行ったことがないの」
「へぇ、そうなんや。いろんな所行ってそうやのに」
するとネイさんがやわらかな表情で語り始めた。
「ほら、ブルネイって凄く平和で安全でしょ。だから外の国に行くのが本当に怖いのよ」
そっか、国民はみんなこの平和さに慣れてしまってるから、雑多な国には恐怖感があるんか。
「でも私はブルネイが大好き。こんないい国はほかにないわ」
胸を張ってそう言えるネイさんを見てうらやましく思った。
今の日本でそう言える人なんか、ほとんどおらんのんちゃう?って。

さまざまな話に花を咲かせたしばしのドライブも終わり、ゲストハウスに到着した。
「さぁ、ついたわよ。車から降りて、中で着替えて待ってて」ネイさんが言う。
そして4人はゆっくりと腰を上げ、車から降りはじめた。

 

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