アブラシ・プランテーション
〜 ダイジェスト版 〜
緑の監獄
〜油ヤシ・プランテーション〜

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<Update 2007.10.25>
◇日本と熱帯林とパーム油
 熱帯林は“モノ”を通してみてみると、私たちとつながりの深い関係にあります。例えば「熱帯木材」。机やいすなどの家具、フローリングやコンクリートパネルを始めとする建築材などの木材は熱帯木材が使用されている割合が高いのです。例えば「エビ」。日本はアメリカに次ぐエビの大量消費量国です。大半は海外から、しかも熱帯林の一種であるマングローブを切り開き、養殖池を作って養殖、冷凍され日本にやってくるのです。他にも天然ゴム、バナナ、アルミニウム、木炭、製紙用チップ、スパイス、天然ガス、籐など、熱帯林から日本にやってきて私たちの生活を支えているのです。“モノ”を通してみると、熱帯林と私たちは密接につながっていて、熱帯林で起きているさまざまな問題も、私たちとは無関係ではない事、また、私たちにとって身近で生活に欠かせないものを生み出す熱帯林は、そこに暮らす先住民族にとってもかけがえのないものであるといえるのです。
 
 では、パーム油と私たちはどのようなつながりがあるのでしょうか。パーム油のイメージとしては、オリーブオイルやごま油に比べて実際に油そのものを目にする事が少ないため、その実態があまり知られておらず、イメージが湧かないのが現状です。また多少知られているとしても、その情報源はテレビで流れるシャンプーや家庭用洗剤のコマーシャルが多く、「手に優しい」「地球に優しい」といったイメージを抱いている人が多いようです。こうしたメーカーは「植物性」ということを前面に押し出して宣伝を行っているためにこうしたイメージが定着したのではないでしょうか。


◇増加する「見えない油」パーム油の生産量

 パーム油はアブラヤシという西アフリカ原産のヤシ科の植物から採れる植物性油脂です。アブラヤシはその果肉から「パーム油」、種子から「パーム核油」という2種類の油が採れます。東南アジアには19世紀半ばに観賞用として持ち込まれました。世界的な生活水準の向上と、途上国の人口増加による食用油の消費量増加により、パーム油の生産量も増加し、現在は大豆油に次いで多い生産量があります。日本でもその輸入量はここ数年で急増しています。

 なぜこんなに多量に生産されるようになったのでしょうか。まず挙げられる理由は「低価格で安定している油」ということです。同じ面積で大豆油の約4〜6倍の生産量があるため、安い植物油として市場に供給されます。また熱帯地方が栽培地域であるため、季節による生産量の差が無いという安定感もあります。「宗教的」な理由もあります。イスラム教やヒンズー教では、豚や牛などの動物性の油はあまり好まれず、主に植物性油脂が使用されています。「多様な用途」も生産量を増やしている原因です。日本に輸入されるパーム油のうち約7割が食品加工用の油脂として使われます。ビスケットなどのショートニング、マーガリン、スナック菓子やインスタント麺の揚げ油などに使われたり、冷凍食品などにも含まれます。そして約3割が洗剤やシャンプーなどの家庭用洗剤、化粧品などにも使われています。最近マレーシアではパーム油で車を走らせることにも成功していて、将来さらに用途が広がりそうです。また、私たちの「食生活の多様化」による食用油の消費量も増大も関係があります。特に外食産業の伸びと油の消費量は同じ右肩上がりで増えています。インスタント食品の増加も関連があ ります。1950年代後半にインスタントラーメンにパーム油が使われ始め、現在では年間数億食の消費にまでなっており、日本ばかりでなく世界中で消費量が増えています。

 このように、パーム油は「見えない油」として多く使われています。そのため多くの輸入量があリ、生活のあらゆる所で活躍しているにもかかわらず、普段の生活で目にする事があまりないのです。


◇「パーム油」の来し方で起きていること

 このように「見えない油」として消費されているパーム油ですが、その来し方ではどんな問題があるのか、マレーシアのサラワク州の事例です。

A.単一大規模栽培の危うさ
 アブラヤシのプランテーションは、広大な面積にアブラヤシのみを植える「大規模・単一栽培」です。確かに今はパーム油の市場価格は右肩上がりですが、生産過剰や何らかの要因で市場価格が下がった場合、その生産地は大きなダメージを受けることが予想されます。

 さらに、単一栽培の特徴である病害虫の加速的な拡大を防ぐための多量の農薬散布、長期間におよぶ連続した栽培による土壌の疲弊を補うための多量の化学肥料の使用などが、土壌・水質汚染を引き起こし、周辺住民および環境に影響を及ぼすことが懸念されます。残留農薬の問題も指摘されています。

 プランテーション開発は伐採よりもひどい熱帯林破壊だという声があります。伐採は切る樹を選ぶ「択伐方式」で行われるため、伐採のダメージがあるものの、森は残ります。つまり熱帯林が再生する可能性があります。しかしアブラヤシ・プランテーションの場合、すべて樹が切り払らわれるため、その地には永遠に、熱帯林が失われることになります。

B.労働力不足と労働環境
 サラワクはパーム油増産に力を入れる反面、労働力不足の問題をかかえています。労働力不足を補うために、各プランテーションでは外国人労働者を雇わざるをえない状況になっています。しかしその大半が非合法で入国してきた不法滞在者です。不法労働者の労働環境は不法滞在であるという立場の弱さにつけこんだ、低賃金で劣悪なものです。彼ら・彼女らは不法滞在であるがために生活すべてをプランテーション内で過ごすのです。中には家族ぐるみで来ている場合もあり、当然子ども達は学校に通えず、収穫作業の手伝いをします。地面に落ちて散らばった実を、一つひとつ拾い集めるのです。また主に女性の仕事として農薬散布があります。高い位置に実っている実に噴霧器で農薬を散布するので、当然その農薬が自分の身に降りかかってきます。一見、アブラヤシ・プランテーションは緑豊かに見えますが、劣悪な条件で働かざるを得ない労働者が生きる「緑の監獄」といえるのではないでしょうか。

C.周辺コミュニティーへの影響
 サラワク州政府はアブラヤシ増産のため、慣習地を持つ先住民族と60年間の土地の借用契約を結び、プランテーションとして開発する政策を打ち出しました。先住民族は土地を提供し、その土地に植えられたアブラヤシの管理を任されます。管理委託金や収穫益などが支払われます。安定した現金収入が得られるという事で契約を結ぶ所有者も出てきています。しかし問題がいくつかあります。提供した土地にはすべてアブラヤシが植えられるため、今まで自給していた米や野菜は買わなくてはなりません。先住民族にとって米作りは文化でもあり、米作りに関するお祭りや儀式、コミュニティでの共同作業なども多くあります。米作りをやめることは、伝統文化やコミュニティの崩壊を意味するのです。仮に60年後に契約が切れて土地が返還されたとしても、農薬や化学肥料による土地の疲弊で、再び米作りができるかどうか大きな疑問が残ります。

 当然、プランテーション開発に反対する先住民族もいます。しかしサラワク州政府の方針であるプランテーション開発に対して反対を唱えることは、いわば「反政府」的な行為と見なされます。反対運動に対して警察、軍当局の圧力がかかったり、先住民族が訴訟を起こすケースもあります。先住民族の「生きる権利」とサラワク州政府の「方針」との摩擦の行方が注目されています。


◇パーム油をめぐる問題の「行く末」?

 日本ではこれまで、熱帯林伐採に対して、さまざまな形での課題解決のための運動が展開されました。しかしパーム油を取り巻く課題に対しての活動は、熱帯林伐採のようにスムーズではありません。前述のようにパーム油が「見えない油」として消費されているため、具体的にターゲットを絞りにくいのが大きな要因です。私たちは「見えない」パーム油を取り巻く課題に対して、どう向き合えばよいのでしょうか。「パーム油を取り巻く課題を解決する九つの方法」を通していくつかの取り組みの可能性を考えました。

@環境保全型農業への転換
 環境に配慮した方法として、アブラヤシの茎や葉、搾油過程で生じる繊維などを利用した有機堆肥作りや、稲やサゴヤシなど他の農作物との混作による単一栽培からの脱却などが考えられます。また、プランテーションと牛の放牧を組み合わせる「アグロフォレストリー」では、下草を牛が食べ、糞が有機肥料として利用できます。

Aパーム油使用に関するガイドラインの作成
 消費者として企業に対して基準(ガイドライン)を作るように提案するのはどうでしょうか。労働条件や周辺環境への考慮、殺虫剤や農薬の使用量、有機的な栽培方法の採用などの基準を設け、パーム油を買い付けたり使用する際の採用条件とするのです。消費者が変わることにより企業が変わり、そして生産者も変わっていくことが期待されます。

B消費者としての意識の向上
 パーム油が使われている商品は、「植物生まれ」を前面に押し出し「地球にやさしい」「手にやさしい」というイメージで売り出され、それらの商品をあまり疑問も持たずに消費している私たちの姿勢が問われています。ただイメージに流されるのではなく、現状を知ることで「見えない」アブラヤシの課題が、自分の問題として見えてくるのです。


◇最後に〜みんなで考えてみよう〜

 パーム油をめぐる問題・課題は見えにくいだけに具体的な解決策が出てきません。私たちはこの問題をもっと多くの人に知ってもらい、解決に向けての多様なアイディアが出てくることを期待して、取り組んできました。今後も出来るだけ多くの人とこの問題を考えることが、解決の糸口になることを願ってやみません。

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