家は夏を旨とすべし
「家は夏を旨とすべし」
吉田兼好が徒然草55段に書いた随筆です。
徒然草55段 家は夏を旨とすべし
家の作りやうは、夏をむねとすべし。
冬はいかなる所にも住まる。
暑き比(ころ)わろき住居(すまい)は、堪へがたき事なり。
深き水は涼しげなし。浅くて流れたる、遥かにすずし。
こまかなる物を見るに、
遣戸は蔀(しとみ)の間よりも明し。
天井の高きは、冬寒く、灯暗し。
造作(ぞうさく)は、用なき所をつくりたる、
見るも面白く、万(よろづ)の用にも立ちてよしとぞ、
人の定めあひ侍りし。
現代語訳
家は夏を過ごしやすい構造にした方が良い。
冬はどんなところにも住める。
暑い夏に悪い住まいは耐え難い事だ。
深い水は涼しい風情が無い。
浅く流れる水は涼し気だ。
遣戸(吐き出し引き戸)のある部屋は
蔀(板で作られた窓)のある部屋よりも明るい。
天井が高いのは冬寒く、灯りが暗い。
用の無い所を作り込んでいると見るに面白く、
万事、用にかなって良いと、
人の評定しあった事だ。
西洋化した日本の建物
明治維新後、日本には西洋文化が流れ込んできました。
器用な日本人は、
西洋文化を巧みに取り入れて、
独特な現代の日本文化を創り出してきました。
建築物にも西洋文化が入り込み、
鉄筋コンクリートのマンションが作られ
一戸建ては開口部が少ない壁式構造の
高気密、高断熱の建物が作られ
建材や設備は高度に進化しています。
冬を旨とした西洋の建物
西洋・ヨーロッパは、南ヨーロッパでも
日本の北海道と同じぐらいの北緯にあります。
したがって、ヨーロッパの冬は日本よりも寒く、
夏は日本よりも涼しい環境にあります。
西洋建築は、
保温性を高める為に開口部が小さく、
その代わり直射を室内に取り入れる為に
深い軒や窓には庇がありません。
建物のつくりは、
その土地の気候風土・環境に適した造りになっています。
西洋文化を取り入れた現代の日本の多くの建築物は、
開口部が少なく、独立した部屋で屋内の通風が無く
寒冷地に適した西洋風の建物になっています。
これでは蒸し暑い日本の夏の気候には合いません。
そこで日本の気候風土に適合させる為、
気密性、保温性を高めて冷暖房機器を設置して
エネルギーを使う事によって、
快適性を保つ建物になっています。
エコ住宅の矛盾
近年、エコが叫ばれています。住宅も同様に、エコ住宅が注目されています。
ソーラーパネルを乗せたエネルギーゼロ住宅という物もあります。
東日本大震災の時に原発が止まり電力不足が起きました。
その時に日本の住宅が、
いかにエネルギーに頼っているかを思い知らされました。
暑ければ冷房、寒ければ暖房、
灯りも食事を作るにも
全てインフラを使ったエネルギーを利用しなければ
成り立たなかったのです。
エネルギーに掛かる費用負担を減らす為、
この20年で、太陽光発電を取り入れた住宅が増えました。
気候風土に合わない建物を建てて、
快適性を保つ為にエネルギーを使い、
エネルギー費用を抑える為に、
特別な設備に費用を投資する。
見方によっては全然エコではありません。
日本の夏に適した昔の日本建築
近代文明が無い頃、
日本の家屋は、自然と共生する建物でした。
近年古民家に人気があります。
木の柱や土の壁、囲炉裏と畳、そして続き間。
古民家には、日本人の心の底にある何かをくすぐる様です。
日本古来の建物は徒然草にある様に、
蒸し暑い夏を意識した構造になっています。
古民家などの古来の住宅には、深い軒があり縁側があって、
部屋はその奥に引っ込んで、
夏には冷えた空気を室内に取り込む構造になっていて、
直射を部屋に入れる構造にはなっていません。
床も上げて、
床下の風通しを良くして、
湿気に弱い木造住宅を守っています。
現代の多くの住宅は西洋化して軒がありません。
触接日光が家の中に差し込んでいます。
そして陽当たりが最重要視される様になりました。
それは西洋の建物文化の影響なのだと思います。
温故知新
近代文明を否定する気は毛頭ありません。
近代の文明の中にあって、
日本人が積み重ねて来た知恵も取り入れようという事なのです。
西洋化した現代の建物は、
日本の気候風土、特に夏の気候には適合しておらず、
それを文明やエネルギーに頼って
快適性を生み出しているのです。
そこに、
伝統的な日本家屋の利点を取り込む事によって自然と共生し、
エネルギーを使わない本当のエコ住宅ができると思うのです。
例えば越窓では無く、掃き出し窓を設けて、
軒の代わりにテラス屋根を取り付ければ、
昔の家の軒に換える事ができ、
ポリカーボネートの屋根は丈夫で採光も取れ、
室内が暗くなる事はありません。
更に屋内の空気の通りをよくしてやれば、
必要最低限の冷房で済みます。
逆に冬は、気密性・保温性に優れた現代の建材、構造から
暖房効果に優れています。
温故知新
先人の知恵を、現代文明に置き換えて取り入れれば、
エネルギーを使わない、
よりエコで快適な住宅ができるのではないかと思います。