申込証拠金のトラブル

申込証拠金の扱いにおいてトラブルが発生しているそうです。
そもそも申み証拠金というのは何なのでしょうか?

民法206条 所有権

申込証拠金の説明をする前に、
少し法律の説明をさせてください。
これに申込証拠金が関連しているからです。

所有権(所有権者)という物があります。
「これは私の物!」
という物です。
所有権者は、法令の制限の範囲内で自由に、
所有物の使用・収益・処分をする事ができます。

物を売ったり買ったりする事は、
所有権を移転するという事になります。

所有権移転の時期と売買契約

所有権の移転は金銭授受とは関係なく、
互いの意思表示をする事によって発生します。
書面にする必要はありません。口頭や態度でも構わないのです。
「これをあなたに譲ります。」「頂きます。」
と合意すれば、その瞬間所有権は移転するのです。

売買の場合はそれに、買主は代金を支払う事が条件となります。
これらを互いに約束する事を「売買契約」と言います。

売買の予約と売買契約

正式に契約はしてはおらず、予約の状態の場合は、
まだ売買契約は成立しておらず、
「売買の予約の状態を終了(完了)して、正式に契約をする意思」
を示した時から「売買契約」の効力が生じます。

手付金(解約手付)

手付金とは売買契約に際して、
購入する固い意志がある事を証するお金の事で、
売買契約締結と同時に買主が売主に預けるお金の事です。

解約手付

正式に売買契約を締結し手付金も支払ったけれども、
重大な事情ができて、
契約を破棄しなければならない事が起きる事があります。

民法では、契約を途中で破棄する事ができるとしています。
ただし、
「互いに契約の内容に手を付けていなければ」
という条件が付きます。

民法では、
一旦は堅い約束の売買契約を結んだのだから、
契約を破棄するのであれば、
相手に対してそれなりの謝罪をしなければならないとしています。

その謝罪は、
買主から契約を破棄する場合は
買主が売主に預けた手付金を放棄する。

売主から契約を破棄する場合は、
買主から預かった手付金を倍額にして買主に支払う。

とすれば、契約を破棄する事ができるとしています。。
こうした性格を持つ手付金の事を
「解約手付(金)」と言います。

買付申込書(買付証明書)

見学した物件を気に入って、直ぐには契約できない場合、
買付申込書を売主に差し入れます。
買付申込書は
「その物件を購入する意思があるので売買契約の申し込(予約)をします。」
という事を表した書面です。

(買付)申し込み証拠金

(買付)申込証拠金とは、
買付申込書と合わせて売主に預けるお金の事です。
書面だけでは無く、
金銭を売主に預ける事でその意志が固い事を表します。

(買付)申込証拠金を返さない

物件を見学して気に入って、
契約しようと言う事で、
まずは買付申込書を差し入れ、
更に申込証拠金を売主に預けます。

でもよく考えたら、他の物件の方が良かったり、
購入しない方が良いと判断した場合、
買付申込みを撤回する事があります。

ここでトラブルが発生します。
「買付申込書を差し入れ、
申込み証拠金も支払っているという事は、
売買契約は成立しており、
申込証拠金は解約手付金なので、
申込を撤回するのならば申し込み証拠金は返さない!」
として、
申込証拠金を返金しないというものです。

買付申込金の法的性格

買付申込書(買付証明書)を売主に差し入れ、
申込証拠金も売主に預け、
売主はそれらを受け取ったのだから
民法上も売買契約は成立しているとみられますが、
「買付申込書(買付証明書)と申込証拠金を売主に預けた段階では、
まだ売買契約は成立していない」
という判例が出ています。※大阪公判H2.4.26

判決によれば
①いわゆる買付証明書(買付申込書)は、
不動産の買主と売主とが全く会わず、
不動産売買について何らの交渉もしないで発行されることもあること。

②したがって、一般に、
不動産を一定の条件で買い受ける旨記載した買付証明書は、
これにより、
不動産を買付証明書に記載の条件で
確定的に買い受ける旨の申込みの意思表示をしたものではなく、
単に、不動産を将来買い受ける希望がある旨を表示するものにすぎないこと。

③そして、買付証明書が発行されている場合でも、
現実には、その後、買付証明書を発行した者と
不動産の売主とが具体的に売買の交渉をし、
売買についての合意が成立して、
始めて売買契約が成立するものであって、
不動産の売主が買付証明書を発行した者に対して、
不動産売渡の承諾を一方的にすることによって、
直ちに売買契約が成立するものではないこと、

⓸このことは、不動産取引業界では、一般的に知られ、
かつ、了解されている。
として、売渡承諾書が送付されていても、
本件不動産の売買契約は有効に成立しない。

と判断しています。

つまり、買付申込書(買付証明書)の段階では、
「売買契約」は成立していない。
という事なのです。

返還されるべき申込証拠金

買付申込書(買付証明書)を取り交わした段階では、
まだ売買契約は成立しておらず、
当然売主に預けた申込証拠金は(解約)手付金ではないので、
買付申込が破棄された場合には、
売主は買主に申込証拠金を返還しなければなりません。

悪辣な不動産業者

所が悪辣な不動産業者は、
「買付申込の段階で売買契約は成立しているから申込証拠金は返さない!」
と言うのです。
とんでも無い事です。
知っていてわざと主張しているのか、
知らずに主張しているのか、
いずれにしても同業者として恥ずかしい限りです。

相談窓口

もしも買付申込(買付証明)を差し入れた後で、
買付申込を撤回した際に、
申込証拠金を返還しないトラブルに巻き込まれたら、
不動産業者を監督する役所に相談に行きましょう。

不動産業者を監督する窓口は、
各都道府県庁にあります。
不動産業者の宅地建物取引業免許証が
「都道県知事免許」「国交省免許」に関わらず、
その不動産会社の本店(本社)がある都道府県庁に、
その窓口があります。

窓口の名称は、
各都道府県庁によって異なりますから、
総合受付窓口にお尋ねください。
きっと役所がその不動産業者に対して指導し、
申込証拠金が返還されると思います。

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2019年02月28日