物件を見過ぎてマイホーム選び失敗

旧サイトから編集・転載しています。

マイホームにはこだわりたい。絶対に妥協しない。
よく探せば、理想の物件があるのではないか?
そんな意気込みをもっていたお客様が手に入れた物件とは!?


百戦錬磨

某不動産業者に勤めていた頃、
広告を見たというお客様から、反響の電話がありました。
聞けば土地を探しているとの事で、
早速週末に来社される事になりました。

週末になり、反響のあったお客様がご夫婦で来社されました。
おふたりともちょっと神経質そうな印象を受けました。
早速お話を伺うと、

お客様
「建物は注文住宅で建てたいと思っています。
その建設用地をを探して、不動産屋さんを尋ね歩いているのですが、
希望する条件に合う物件が中々ないのです。
こちらで5軒目になります。
どこかに良い物件は無いかと思って伺いました。」


「まずご予算はどのぐらいでしょうか。」

お客様
「土地は2000万円ぐらいですね。」


「住宅ローンの計算はどちらか業者さんで出してもらった事はありますか?」

お客様
「はい、自分でも計算しています。」


「その結果が2000万円という事ですね。」

お客様
「そうです。」


「お探しになっているのは、この周辺エリアですか?」

お客様
「そうですね、電車通勤なので、このエリアから都心よりが良いのです。
ここより奥は考えていません。」


「毎日電車で通勤されてるとの事ですが、駅までの距離は、どのぐらいまででしたら可能だとお考えでしょうか?」

お客様
「そうですね、10分以内です。遠くても15分以内ですね。それ以上は考えていません。」


「その他に要望はありますか?」

お客様
「陽当たりを重視していますから、南道路か南側に何も無い事は絶対条件です。
それから、土地の広さは最低40坪は必要です。」

希望する物件の条件をお伺いすると、
お客様の予算で希望する条件は、
そのエリアでは相場的に、条件に当てはまる物件など、
到底あり得ない事が分かりました。

正直「困ったな。」と思いました。

折角お越しいただいたのに
「そんな物件ありませんよ。」
と無下に返すのも失礼かと思い、
少しでも現実を理解して頂こうと、お話をさせて頂きました。


「2000万円で最低40坪という事は、坪単価にすると50万円になります。
しかし、この駅のエリアで駅まで徒歩10分、15分以内ですと、
相場では60万円以上しますから、無理だと思います。
もう少し駅を都心から奥にされるか、駅から離れないと2000万円で40坪は難しいと思いますよ。」

お客様
「でも条件は絶対に譲れないんです。よく探しください。」


「その様におっしゃられても、不動産は相場で動きますから、特別安い物件と言うのはあり得ないんです。
あるとすれば、日当たりが悪かったり、地形が悪い条件の悪い物件になってしまうんです。」

お客様
「陽当たりは絶対に譲れない条件です。それに地形が悪いのも価値が無いと言いますから、妥協できません。」

お客様は聞く耳をもちません。
「これはお帰り頂くしか無いかな?」
と思い始めた所、

お客様
「おたくが広告に載せていた物件を見せてくませんか?」

その当時自社物件で、建築条件付きの売地をチラシに掲載していました。


「お客様は注文住宅で建築されるとおっしゃいましたが、建築条件付き売地というのは、
私共の会社で建物を建てて頂く事が条件となります。
間取りや外壁の色、内装の色などはお選びいただけますが、仕様は手前どもの指定の物になりますが、
それでもよろしいですか?」

お客様
「建物はテレビに出ていた設計士さんに頼もうと思っているんです。」


「申し訳ございませんが、この物件の場合、設計士も含めて弊社の指定になってしまうんです。
間取りや色はお選び頂けますが、基本構造などは、ごく一般的な建物になります。」

お客様
「それを変更する事はできませんか?」


「申し訳ございませんが、その辺りの変更はお受けいたしかねます。」

お客様
「では物件だけでも見せてくれませんか?」

私は追い返そうという思いから言いました。
「もしお気に召しても、弊社の指定する条件の建物になりますが、それでもよろしいでしょうか?」

お客様
「その時は、その時で考えます。」
とおっしゃるので、営業車で物件を案内する事になってしまいました。

現場に行く道すがら、売りに出されている物件をいくつか案内しましたが
「これは見た、あれも見た。」
と全部の物件を既に他社で見たあとでした。

現場に着いてご紹介したのですが、
「向きが悪い。道路が狭い。」
と難癖を言うだけで、まるで話にならず、
帰りは駅までお送りして別れました。


有名人

それから一年程経ったある日、
業界の仲間と飲み会がありました。
その飲み会の席で、他社の営業マンが、
酔っぱらいながら最近案内した顧客の話を始めした。

「この間案内した客なんだけど、土地を探してるてんで話を聞いたら、
理想ばかり並べて、丸で話にならないんだよ。
案内したら、ここは見た、あっちも見たって、
だったら来るなよ!ってな感じだったんだぜ。」

すると別の会社の営業マンが、
「それって〇×さんじゃないか?ちょっと神経質っぽい夫婦でさ。」
と言うと、更に別の会社の営業マンが
「その人、ウチにも来た!」

そう、私が案内したあのお客様だったのです。
どうやらその後もあちこちの不動産会社に行って、
物件を探し続けていた様です。

我々不動産業者は、自社物件以外は、流通している物件をご紹介しています。
つまり、どこの業者に行っても、ご紹介している物件は同じ物なのです。
そのお客様は、物件の条件に強いこだわりを持っていて、
「よく探せば、きっと理想にあう物件があるのでは無いか。」
と探し回っていたのでした。


ついに購入!

さらにそれから半年程経ったある日、
仲間の営業マンから電話が来ました。

「お前知ってる?前に話があった、土地をあちこち探しまくっていた〇×さん。
とんでも無い物件を買ったぜ。」

「え~、あの人が物件買ったの?どこを買ったの?」

「ほら、□△商事が持っていた、
 墓場の裏の三角地、売れなくて何年も塩漬けになっていた奴あるじゃん。あれ。」

「うそ~!」

その物件は、ある不動産業者が持っていた物件で、
一段高くなっている墓地に隣接していて陽当たりと地形が悪く、
おまけに裏が川という最悪の条件を全て持ち合わせていた物件で、
売れなくて有名な物件だったのです。

その物件は、あまりに条件が悪く、こてんぱんに値下げして、
担当ボーナスが付いていたのですが、
それでも3年以上売れ残っていた物件だったのです。

担当ボーナスとは、客づけした営業マンに、
売主業者がおこずかいを付けてくれる物件の事です。
そんな売れ残りの塩漬け物件を、
あのこだわりを持ったお客様が買ったというのです。

「誰が客づけしたの?」

「☆×ホームの□△さん。」

「あ~、□△さんね。あの人ならやりかねないわ。」

□△さんとは、営業仲間の中でも有名というか、伝説の営業マンで、
今どき珍しい「飲む」「打つ」「買う」の三拍子揃った
「べらんめぇ調」の押しの一手で、力づくで契約にねじ込む事で有名な
違法スレスレの昔ながらの営業マンだったのです。
きっと博打ですってんてんになったか、
夜の繁華街で散財してしまって、担当ボーナスを狙ってやったのでしょう。

「それにしても良くあんな物件契約したよな。」

「□△さんの話によると、案外簡単だったらしいよ。
 物件見過ぎて、何が良くて何が悪いのか分からなくなっていたから、
ちょいと目をまわしてやったら、簡単に落ちたって言ってたぜ。」

「へ~、□△さんらしいや。」

実は□△さんとは、以前同じ会社で一緒に仕事をしていた事があったのでした。
□△さんは、昔から力ずくの営業が持ち味で、どちらかというと
理論より情で詰めて行く、昔ながらのスタイルの営業マンだったのです。

きっと件のお客様は、物件を見過ぎて判断が付かなくなってしまい、
そこに強力な情の押しに詰められて契約をしてしまったのだと思ったのでした。

それにしても、あれだけ理想を並べていたお客様が、
それのま反対の物件を契約するなんて、
今頃気が付いて、後悔してるかも知れません。

物事は、どこでどうなるか分からないものだと、
つくづく思ったのでした。

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2018年04月22日