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4.4.1 資源、役割、責任及び権限
経営層は、環境マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、改善するために不可欠な資源を確実に利用できるようにすること。資源には、人的資源及び専門的な技能、組織のインフラストラクチャー、技術、並びに資金を含む。
効果的な環境マネジメントを実施するために、役割、責任及び権限を定め、文書化し、かつ、周知すること。
組織のトップマネジメントは、特定の管理責任者(複数も可)を任命すること。その管理責任者は、次の事項に関する定められた役割、責任及び権限を、他の責任にかかわりなくもつこと。
a) この規格の要求事項に従って、環境マネジメントシステムが確立され、実施され、維持されることを確実にする。
b) 改善のための提案を含め、レビューのために、トップマネジメントに対し環境マネジメントシステムのパフォーマンスを報告する。
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1. 各責任者の役割、責任および権限を明確に!
ここでは「効果的な環境マネジメントシステムを実施する」ために必要な社内体制や責任、権限を定めて、それを関係者に周知することが求められています。「効果的」とは、システム、プロセス、あるいは手順を実施すれば、見込んでいた(計画していた)とおりの結果が得られることを意味し、環境マネジメントシステムでは環境方針に沿って、環境目的・目標をどれだけ達成できるかということです。
「効果的な環境マネジメントシステムを実施する」ために、各責任者(従業員を含む)の役割、責任および権限を明確に定め、それらを関係者に周知させ、実施させることが必要とされます。それぞれの役割、責任、権限については環境マニュアルあるいは実施計画の中で詳細に記載されているはずです。たとえば、「××課長は○○をいついつまでにどのようにする」といったように5W1Hを基本として環境マネジメントシステムにかかわる行動が記載されているはずだからです。
ですから、ここではそれらの概略を各責任者ごとにまとめて「業務分掌表」というような表にして記載しておけばよいと思います。ただし、いわゆる「星取表」と呼ばれるものは審査員には歓迎されません。というのは、「星取表」からはこの責任者は具体的にどういった責任、権限があるのかまったく見えてこないからです。
各責任者の役割、責任および権限が定まったならば、それを関係者に周知させましょう。周知させる手段としては教育・訓練(4.4.2項)を利用するという方法が最も確実です。言うまでもなく、4.4.2項の中でも責任・権限の周知に関する項目が述べられていますから、教育・訓練の中で取り上げなければならない項目の1つだということにはなりますが・・・。
2. 経営者よ、何をやっているんだ!
環境マネジメントシステムを構築し、ISO 14001の認証を取得する鍵を握っているのはやはり何と言っても経営者の姿勢、関与の程度と環境管理責任者の人選と言えます。経営者のやる気と意気込みは従業員ひとりひとりのやる気に即、つながります。
経営者の鶴の一声で環境マネジメントシステム構築・認証取得活動を始めたのはよいが、ふと気づくと経営者の姿はなく、遠くから「やっておけ!どうなっているんだ!」と部下任せにし、部下を責めるだけというのは「経営者の無責任」の代表的かつ典型的な例です。
また、環境マネジメントシステムを構築し、運営していく上で、経営資源が必要となってくる場面はいくらでもあります。ところがリストラなどにより要員が少なくなって余裕がなくなっている職場を見て見ぬフリをしたり、法的要求事項順守のために設備投資が必要なのにそれを渋ったり「なんとかしろ!」と怒鳴るのも無責任経営者によくある症状です。
自室で腕組みをしてふんぞり返って偉そうなことを言っているだけの経営者は既に社会の中で必要のない存在(リストラの対象)となっています。経営者には経営者として果たすべき役割、責任および権限があるということを自覚する必要があります。
3. 環境管理責任者の人選と役割、責任および権限
環境管理責任者の人選は経営者が実施し、環境マネジメントシステムに関する経営者の右腕として構築、運営・維持に対してすべての責任を負います。環境管理責任者としての役割、責任および権限が規格要求事項として定められており、他に負っている役割、責任および権限(例えば、工場長としての責務)とは別に遂行しなければなりません。
環境管理責任者の人選に関して、環境マネジメントシステムの実質的な最高責任者ですから、組織内(最低でも環境マネジメントシステムの適用範囲内)全体に影響力を及ぼせる立場と実力を兼ね備えた者を選ぶべきです。そうでなければ、環境管理責任者としての責務をまっとうできないばかりでなく、その下で働く推進事務局に相当の負荷がかかって機能しなくなり、結局、環境マネジメントシステム自体も根付かなくなってしまいます。
環境管理責任者の人選は環境マネジメントシステムのできを大きく左右する極めて重大な問題だということを認識すべきです。経営者の環境マネジメントシステムに対する本気度が分かるポイントでもあります。
環境管理責任者の人選は1名ということではなく、事業所が複数あるような場合など組織の規模や状況に応じて複数名任命することも可能です。そのような場合には、各事業所を管轄する環境管理責任者、そして、各管理責任者を統括する統括環境管理責任者というように役割分担をしっかりと決めておくことをオススメします。
環境管理責任者は、責務として環境マネジメントシステムの運用状況、環境活動の結果を経営者に報告します。この報告には、次の項目を含めておくとよいでしょう。
・ 環境目的・目標の達成状況
・ 法的およびその他の要求事項の順守状況
・ 内部・外部監査、審査の結果
・ 是正・予防処置の実施状況
・ マネジメントレビューで挙げられた課題の解決状況
・ 内外の状況変化によるシステムの見直し要因(改善提案を含む)
・ 環境マネジメントシステムの適切性、妥当性、有効性に関する所見
審査の場面を考えますと、トップレビューにおいて経営者は環境マネジメントシステムの運用状況(でき栄え、実績、成果、課題など)を問われますから、環境管理責任者からのこれらの報告にしっかりと目と耳と心を傾けて、経営者としての見解、方向性をまとめておいてください(言うまでもなく、審査のためだけにこのようなことを行うのは無意味です)。
4. 2004年版改訂による変更点
資源に含まれるものとして、インフラストラクチャーが追加されました。ただし、設備投資を推進するものではなく、環境側面の適切な管理のために必要な場合には費用対効果を考慮して投資をすればよいということです。そして、この判断は経営者の責任です。常識的には、このような活動は実施されているはずなので、環境マニュアルなどへの表現の追加のみで対応できると思われます。
インフラストラクチャーの例としては、次のようなものが挙げられます。
・ 建物
・ 通信回路
・ 地下タンク
・ 排水路
・ 環境対応型生産設備
・ 監視・測定機器
5. 質問と回答
質問内容
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回答
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資源に含むものとして、インフラストラクチャーおよび技術が追加されましたが、以下の点はどう考えるべきですか?
@ インフラストラクチャーに対する解釈は?
A 水質検査を外部に委託していますが、経営者が資源を担保していると判断可能ですか?
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@ EMS運用上必要なインフラストラクチャーを整備する責任が経営層にあると解釈できます。
A EMS管理上必要な水質検査をするための資源を、外部の専門業者に求めてもよいと考えます。
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6. 関連サイト・書籍など
7. 不適合・改善要望事例と考察
不適合・改善要望事例 | 考察 |
マニュアルや廃棄物管理規定等で部門固有の役割、責任が不足しています。 |
階層ごとの役割、責任、権限は明確にしていたが、部門ごとの環境に関連する役割や責任までは記述する必要がないと認識してしまっていた。 |
規格の「資源には、人的資源及び専門的な技能、技術並びに資金を含む」に関する記述がありません(環境マニュアル)。 |
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