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◆ JIS Q 19011規格

序文

 この規格は、2002年に第1版として発行されたISO19011:2002、Guidelines for quality and/or environmental management systems auditingを翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
 なお、この規格で点線の下線を施してある備考は、原国際規格にはない事項である。
 日本工業規格のJIS Q 9000ファミリー及びJIS Q 14000シリーズでは、組織の品質及び/または環境方針の効果的な実施を監視し、検証するためのマネジメントツールとして、監査の重要性を強調している。また、監査は、外部の審査登録などの適合性評価活動、並びにサプライチェーンの評価及びサーベイランスの不可欠な部分でもある。
 この規格は、監査プログラムの管理、品質及び/または環境マネジメントシステムの内部または外部監査の実施、並びに監査員の力量及び評価についての手引を提供する。この規格は、幅広い潜在的利用者に適用することを意図している。この潜在的利用者には、監査員、品質及び/または環境マネジメントシステムを実施する組織、契約上の理由によって品質及び/または環境マネジメントシステムの監査の実施が必要な組織、並びに、適合性評価分野において、監査員の認証もしくは訓練、マネジメントシステムの審査登録、認定または標準化に関与する組織を含む。
 この規格に示す手引は、柔軟性のあることを意図している。規格本体のさまざまな箇所で示すように、この指針の利用の仕方は、監査の対象となる組織の規模、性質及び複雑さ、並びに実施する監査の目的及び範囲に応じて変わり得る。この規格全体を通じて、特定の事項に関する補足的な手引または事例を実用上の手引として枠で囲んで示している。事例の幾つかは、この規格を小規模組織が利用する際に役立つことを意図している。
 4.は、監査の原則を示している。これらの原則は、規格利用者が監査の本質を認識するのに役立つとともに、5.、6.及び7.にとって必要な導入部である。
 5.は、監査プログラムの管理に関する手引を提供し、並びに監査プログラムを管理する責任の割当て、監査プログラムの目的の決定、監査活動の調整及び監査チームへの十分な資源の提供といった課題を取扱っている。
 6.は、監査チームの選定を含めて、品質及び/または環境マネジメントシステム監査の実施に関する手引を提供している。
 7.は、監査員に必要な力量に関する手引を提供し、監査員の評価プロセスを示している。
 品質及び環境マネジメントシステムをともに実施している場合には、品質マネジメントシステム監査と環境マネジメントシステム監査を別々にまたはともに行なうかに関しては、この規格の利用者の裁量による。
 この規格は、品質及び/または環境マネジメントシステムの監査に適用できるが、規格の利用者は、この手引を、他のマネジメントシステム監査を含めた別のタイプの監査に適用するために、修正または拡張することを考慮することができる。
 この規格は、手引を提供するだけであるが、規格の利用者は、自身の監査に関係する要求事項を作成するために、この規格を応用することができる。
 また、製品仕様または法律及び規制といった要求事項への適合性の監視に関心を持つその他の個人または組織にも、この手引が役立つかもしれない。

1. 適用範囲

 この規格は、監査の原則、監査プログラムの管理、品質マネジメントシステム監査及び環境マネジメントシステム監査の実施、並びに品質及び環境マネジメントシステム監査員の力量に関する手引を提供する。
 この規格は、品質及び/または環境マネジメントシステムの内部監査、もしくは外部監査を実施する必要のある全ての組織または監査プログラムの管理を行なう必要のある全ての組織に適用できる。
 この規格を他のタイプの監査に適用することも原則として可能ではあるが、そのような場合は、監査チームメンバーに必要な力量の特定に特に配慮する。

(参考)
この規格の対応国際規格を、次に示す。
なお、対応の程度を表す記号は、ISO/IEC Guide21に基づき、IDT(一致している)、MOD(修正している)、NEQ(同等でない)とする。
ISO19011:2002,Guidelines for quality and/or environmental management systems auditing(IDT)

2. 引用規格

 次に掲げる規格は、この規格に引用されることによって、この規格の規定の一部を構成する。これらの引用規格のうちで、発効年または発行年を付記してあるものは、記載の年の版だけがこの規格の規定を構成するものであって、その後の改正版・追補には適用しない。
JIS Q 9000:2000 品質マネジメントシステム−基本及び用語 JIS Q 14050:2003 環境マネジメント−用語

(参考)
ISO9000:2000,Quality management systems - Fundamentals and vocabularyがJIS Q 9000:2000と、ISO14050:2002,Environmental management - VocabularyがJIS Q 14050:2003と一致している。

3. 定義

 この規格で用いる主な用語の定義は、次によるほか、JIS Q 9000及びISO14050に規定されている定義による。
 定義または参考の中で用いる用語で、3.で定義している用語は太字で示し、あとの丸括弧内にその用語の箇条番号を示す。太字で示す用語は、その用語の定義の全文と置き換えることができる。

3.1 監査(audit)

 監査基準(3.2)が満たされている程度を判定するために、監査証拠(3.3)を収集し、それを客観的に評価するための体系的で、独立し、文書化されたプロセス。

(参考1.)
内部監査は、第一者監査と呼ばれることもあり、マネジメントレビュー及びその他の内部目的のために、その組織自体または代理人によって行なわれ、その組織の適合を自己宣言するための基礎としてもよい。多くの場合、特に中小規模の組織の場合は、独立性は、監査の対象となる活動に関する責任を負っていないことで実証することができる。

(参考2.)
外部監査には、一般的に第二者監査及び第三者監査と呼ばれるものが含まれる。第二者監査は、顧客など、その組織の利害関係者またはその代理人によって行なわれる。第三者監査は、JIS Q 9001またはJIS Q 14001の要求事項への適合性を審査登録または認証する機関のような、外部の独立した監査機関によって行なわれる。

(参考3.)
品質マネジメントシステム及び環境マネジメントシステムをいっしょに監査する場合、これを複合監査という。

(参考4.)
1つの被監査者(3.7)を複数の監査する組織が協力して監査する場合、これを合同監査という。

3.2 監査基準(audit criteria)

 一連の方針、手順または要求事項。

(参考)
監査基準は、監査証拠(3.3)と比較する基準として用いる。

3.3 監査証拠(audit evidence)

 監査基準(3.2)に関連し、かつ、検証できる、記録、事実の記述またはその他の情報。

(参考)
監査証拠は、定性的でも定量的でもよい。

3.4 監査所見(audit findings)

 収集された監査証拠(3.3)を、監査基準(3.2)に対して評価した結果。

(参考)
監査所見には、監査基準に対する適合も、不適合も示すことができる。また、改善の機会も示し得る。

3.5 監査結論(audit conclusion)

 監査目的と全ての監査所見(3.4)を考慮した上で、監査チーム(3.9)が出した監査(3.1)の結論。

3.6 監査依頼者(audit client)

 監査(3.1)を要請する組織または人。

(参考)
監査依頼者は、被監査者(3.7)であってもよく、または規制上もしくは契約上監査を要請する権利を持つ他の組織であってもよい。

3.7 被監査者(auditee)

 監査される組織。

3.8 監査員(auditor)

 監査(3.1)を行なう力量(3.14)を持った人。

3.9 監査チーム(audit team)

 監査(3.1)を行なう1人以上の監査員(3.8)。必要な場合は、技術専門家(3.10)による支援を受ける。

(参考1.)
監査チームの中の1人の監査員は、監査チームリーダーに指名される。

(参考2.)
監査チームには、訓練中の監査員を含めてもよい。

3.10 技術専門家(technical expert)

 監査チーム(3.9)に特定の知識または専門的技術を提供する人。

(参考1.)
特定の知識または専門的技術とは、監査の対象となる組織、プロセスもしくは活動に関係するもの、または言語もしくは文化に関係するものである。

(参考2.)
技術専門家は、監査チームの監査員(3.8)としての活動はしない。

3.11 監査プログラム(audit programme)

 特定の目的に向けた、決められた期間内で実行するように計画された一連の監査(3.1)。

(参考)
監査プログラムは、監査を計画し、手配し、実施するのに必要な活動の全てを含む。

3.12 監査計画(audit plan)

 監査(3.1)のための活動及び手配事項を示すもの。

3.13 監査範囲(audit scope)

 監査(3.1)の及ぶ領域及び境界。

(参考)
監査範囲は、一般に、場所、組織単位、活動、プロセス、及び監査の対象となる期間を示すものを含む。

3.14 力量(competence)

 実証された個人的特質、並びに知識及び技能を適用するための実証された能力。

4. 監査の原則

 監査は幾つかの原則に準拠しているという特徴がある。このことによって、監査は、経営方針及び管理業務を支援する効果的、かつ、信頼のおけるツールとなり、また、組織がそのパフォーマンスを改善するには何に取り組むべきかについての情報を提供するものとなる。 適切で、かつ、十分な監査結論を導き出すため、そして、互い独立して監査を行なったとしても同じような状況に置かれればどの監査員も同じような結論に達することができるようにするためには、これらの原則の遵守は、必須条件である。
 次の原則は、監査員に関係する。

a) 倫理的行動:職業専門家であることの基礎
信用があり、誠実であり、機密を保持し、分別があることは、監査にとって本質的な要素である。

b) 公正な報告:ありのままに、かつ、正確に報告する義務
監査所見、監査結論及び監査報告は、ありのままに、かつ、正確に監査活動を反映する。監査中に遭遇した顕著な障害、及び監査チームと被監査者との間で解決に至らない意見の食い違いについても報告する。

c) 職業専門家としての正当な注意:監査の際の広範な注意及び判断
監査員は、自らが行なっている業務の重要性、並びに監査依頼者及びその他の利害関係者が監査員に対して抱いている信頼に見合う注意を払う。必要な力量を持つことは、1つの重要な要素である。

 次の原則は、独立及び体系的であると定義されている監査に関係する。

d) 独立性:監査の公平性及び監査結論の客観性の基礎
監査員は、監査の対象の活動から独立した立場にあり、偏り及び利害の衝突がないものである。監査員は、監査所見及び監査結論が監査証拠だけに基づくことを確実にするために、監査プロセス中、終始一貫して客観的な心理状態を維持する。

e) 証拠に基づくアプローチ:体系的な監査プロセスにおいて、信頼性及び再現性のある監査結論に到達するための合理的な方法
監査証拠は、検証可能なものである。監査は限られた時間及び資源で行なわれるので、監査証拠は、入手可能な情報からのサンプルに基づく。サンプリングを適切に活用しているか否かは、監査結論にどれだけの信頼をおけるかということと密接に関係している。

 この規格の5.以降で示す手引は、上の原則に基づく。

5. 監査プログラムの管理

5.1 一般

 監査プログラムには、監査の対象となる組織の規模、性質及び複雑さに応じて、1つ以上の監査を含めてもよい。これらの監査にはさまざまな目的があってもよく、また、合同監査または複合監査を含めてもよい(3.1の参考3.及び参考4.を参照)。
 さらに、監査プログラムは、監査のタイプ及び数について計画を立てて手配するために必要な、並びに、規定された時間枠内で効果的及び効率的にそれらの監査を実施する資源を提供するために必要な、全ての活動を含む。
 組織は、複数の監査プログラムを策定してもよい。
 組織のトップマネジメントは、監査プログラムの管理のための権限を与えることが望ましい。
 監査プログラムの管理責任者は、次の作業を行なうことが望ましい。

a) 監査プログラムを策定し、実施し、監視し、レビューし、及び改善する。
b) 必要な資源を特定し、それらが確実に提供されるようにする。

 監査プログラムの管理のためのプロセスフローを図1に示す。

図1 監査プログラムの管理のためのプロセスフロー
図1 監査プログラムの管理のためのプロセスフロー

(参考1.)
図1は、この規格における“Plan-Do-Check-Act”手法の適用についても示している。

(参考2.)
図1及び以下の全ての図において表示されている数字は、この規格の箇条番号を示す。

 監査の対象となる組織が、品質マネジメント及び環境マネジメントの両方のシステムを運用している場合は、その監査プログラムに複合監査を含めてもよい。その場合には、監査チームの力量に特に注意することが望ましい。
 複数の監査する組織が、それらの監査プログラムの一部として、協力して合同監査を行なってもよい。その場合には、責任の分担、追加資源の提供、監査チームの力量、及び適切な手順に特に注意することが望ましい。監査開始前に、これらについて合意しておくことが望ましい。

実用上の手引き−監査プログラムの例

 監査プログラムの例を次に示す。

a) 組織全体にわたる品質マネジメントシステムに関して、今年度に行なう一連の内部監査
b) 重要な製品の供給者候補社に対して、6か月以内に行なう第二者マネジメントシステム監査
c) 環境マネジメントシステムに関して、審査登録機関と依頼者との間の契約で取り決める期間内に第三者審査登録機関が行なう登録審査及びサーベイランス

 監査プログラムは、プログラムの範囲内で監査を行なうための適切な計画の策定、資源の提供及び手順の確立も含む。

5.2 監査プログラムの目的及び範囲

5.2.1 監査プログラムの目的

 監査の計画策定及び実施を方向付けるために、監査プログラムの目的を設定することが望ましい。
 監査プログラムの目的は、次の事項を考慮することによって設定することができる。

a) 経営上の優先事項
b) 商取引上の意図
c) マネジメントシステムの要求事項
d) 法令、規制及び契約上の要求事項
e) 供給者を評価することの必要性
f) 顧客要求事項
g) その他の利害関係者のニーズ
h) 組織に対するリスク

実用上の手引き−監査プログラムの目的の例

 監査プログラムの目的の例を次に示す。

a) マネジメントシステム規格に対する審査登録のための要求事項を満たす。
b) 契約上の要求事項への適合を検証する。
c) 供給者の能力に対して信頼感を獲得し、維持する。
d) マネジメントシステムの改善に寄与する。

5.2.2 監査プログラムの範囲

 監査プログラムの範囲は、さまざまであり、監査の対象となる組織の規模、性質、複雑さ及び次の事項によって影響を受けることがある。

a) 実施するそれぞれの監査の範囲、目的及び期間
b) 実施する監査の頻度
c) 監査を受ける活動の数、重要性、複雑さ、類似性及び場所
d) 規格、法令、規制及び契約上の要求事項、並びにその他の監査基準
e) 認定または審査登録の必要性
f) これまでの監査結論、または前回の監査プログラムのレビュー結果
g) 言語、文化及び社会上の問題
h) 利害関係者の関心事項
i) 組織またはその運営の顕著な変更

5.3 監査プログラムの責任、資源及び手順

5.3.1 監査プログラムの責任

 監査プログラムの管理責任は、監査の原則、監査員の力量及び監査技法の適用について全般的に理解している1人または複数の個人に割当てることが望ましい。監査プログラムの管理責任者は、管理能力があり、並びに監査を受ける活動に関連する技術及びビジネスを理解することが望ましい。
 監査プログラムの管理責任者は、次の事項を行なうことが望ましい。

a) 監査プログラムの目的及び範囲を設定する。
b) 責任及び手順を確立し、並びに資源が確実に提供されるようにする。
c) 監査プログラムが確実に実施されるようにする。
d) 適切な監査プログラムの記録が確実に維持されるようにする。
e) 監査プログラムを監視し、レビューし、及び改善する。

5.3.2 監査プログラムの資源

 監査プログラムに必要な資源の特定に当たっては、次の事項を考慮することが望ましい。

a) 監査活動を計画し、実施し、管理し、及び改善するために必要な財源
b) 監査技法
c) 監査員の力量を確保及び維持するプロセス、並びに監査員のパフォーマンスを改善するプロセス
d) 特定の監査プログラムの目的にふさわしい力量を備えた監査員及び技術専門家の利用可能性
e) 移動時間、宿泊施設及びその他監査に必要な事項

5.3.3 監査プログラムの手順

 監査プログラムの手順では、次の事項に対処することが望ましい。

a) 監査を計画し、スケジュールを作成する。
b) 監査員及び監査チームリーダーの力量を保証する。
c) 適切な監査チームを選定し、役割及び責任を割当てる。
d) 監査を行なう。
e) 該当する場合は、監査のフォローアップを行なう。
f) 監査プログラムの記録を維持する。
g) 監査プログラムのパフォーマンス及び有効性を監視する。
h) 監査プログラムの全体の達成状況をトップマネジメントに報告する。

 中小規模の組織では、上の事項を1つの手順で対処することができる。

5.4 監査プログラムの実施

 監査プログラムの実施に当たっては、次の事項に対処することが望ましい。

a) 関係者に監査プログラムを連絡する。
b) 監査プログラムに関連する監査及びその他の活動について、調整及びスケジュールの作成をする。
c) 監査員の評価及び監査員の専門能力の継続的開発のためのプロセスを、それぞれ7.6及び7.5に従って確立し、維持する。
d) 監査チームの選定を確実に行なう。
e) 必要な資源を監査チームに提供する。
f) 監査プログラムに従って監査の実施を確実に行なう。
g) 監査活動の記録の管理を確実に行なう。
h) 監査報告書のレビュー及び承認を確実に行ない、監査報告書を監査依頼者及びその他の定められた関係者に確実に配付する。
i) 該当する場合は、監査のフォローアップを確実に行なう。

5.5 監査プログラムの記録

 監査プログラム実施の証拠とするために記録を維持することが望ましい。記録には次の事項を含めることが望ましい。

a) 個別の監査に関係する次のような記録
 − 監査計画
 − 監査報告書
 − 不適合報告書
 − 是正処置及び予防処置報告書
 − 該当する場合は、監査のフォローアップ報告書
b) 監査プログラムのレビュー結果
c) 次の例を含む監査要員に関係する記録
 − 監査員の能力の評価及びパフォーマンスの評価
 − 監査チームの選定
 − 力量の維持及び向上

 記録は、保管し、適切に保護することが望ましい。

5.6 監査プログラムの監視及びレビュー

 監査プログラムの目的が満たされているかを評価するために、及び改善の機会を特定するために、監査プログラムの実施を監視し、適切な間隔でレビューすることが望ましい。その結果は、トップマネジメントに報告することが望ましい。
 次のような特性を監視するために、パフォーマンス指標を用いることが望ましい。

− 監査計画を実施するための監査チームの能力
− 監査プログラム及びスケジュールとの整合
− 監査依頼者、被監査者及び監査員からのフィードバック

 監査プログラムのレビューでは、例えば、次の事項に配慮することが望ましい。

a) 監査の結果及びその傾向
b) 手順との適合
c) 利害関係者から新たに出てきたニーズ及び期待
d) 監査プログラムの記録
e) 代わりのまたは新規の監査方法
f) 類似した状況下での監査チーム間でのパフォーマンスの一貫性

 監査プログラムのレビューの結果から、監査プログラムの是正処置及び予防処置、並びに改善につなげることができる。

6. 監査活動

6.1 一般

 6.では、監査プログラムの一部としての監査活動の計画及び実施の手引を示す。図2は、典型的な監査活動の概要を示す。6.がどの程度適用されるかは、特定の監査の範囲及び複雑さ、並びに監査結論の使用目的によって異なる。

図2 典型的な監査活動の概要
図2 典型的な監査活動の概要

(参考)
点線は、監査のフォローアップ処置があっても、通常、監査の一部とはみなさないことを示す。

6.2 監査の開始

6.2.1 監査チームリーダーの指名

 監査プログラムの管理責任者は、特定の監査に対して監査チームリーダーを指名することが望ましい。
 合同監査を行なう場合は、監査する各組織の特定の責任、特にその監査に対して指名されたチームリーダーの権限について、監査する組織の間で監査開始前に合意に達しておくことが重要である。

6.2.2 監査の目的、範囲及び基準の明確化

 監査プログラムの全体的な目的の枠内で、個々の監査は、文書化された目的、範囲及び基準に基づいていることが望ましい。
 監査の目的は、その監査で何を達成するのかを明確にするものであり、次の事項を含めてもよい。

a) 被監査者のマネジメントシステムまたはその一部の、監査基準への適合の程度の判定
b) 法令、規制及び契約上の要求事項への適合を確実にするためのマネジメントシステムの能力の評価
c) 特定の目的を満たす上での、マネジメントシステムの有効性の評価
d) マネジメントシステムの改善が可能な領域の特定

 監査範囲とは、監査すべき場所、組織単位、活動、プロセス、及び監査で対象となる期間といった、監査の及び領域及び境界を示すものである。
 監査基準とは、適合性の判定の基準として用い、適用される、方針、手順、規格、法律及び規制、マネジメントシステム要求事項、契約上の要求事項または業界の行動規範を含めてもよい。
 監査の目的は、監査依頼者が明確にすることが望ましい。監査の範囲及び基準は、監査プログラムの手順に従って、監査依頼者と監査チームリーダーとで決めることが望ましい。監査の目的、範囲または基準のいかなる変更も、同一関係者間で合意することが望ましい。
 複合監査を行なう場合、監査チームリーダーにとって重要なことは、監査の目的、範囲及び基準が、複合監査の性質に照らして適切であることを確実にすることである。

6.2.3 監査の実施可能性の判定

 監査の実施可能性は、次の事項の利用可能性を要因として考慮し、判定することが望ましい。

− 監査の計画を策定するために十分かつ適切な情報
− 被監査者の十分な協力
− 十分な時間及び資源

 監査が実施不可能な場合、被監査者と協議し、監査依頼者に代替案を提示することが望ましい。

6.2.4 監査チームの選定

 監査が実施可能であると表明された場合、監査の目的を達成するために必要な力量を考慮して、監査チームを選定することが望ましい。監査員が一人だけの場合は、その監査員が監査チームリーダーとして該当する全ての任務を果たすことが望ましい。7.は必要とされる力量を決定するための手引を示し、かつ、監査員を評価するプロセスを示している。
 監査チームの規模及び構成を決めるに当たっては、次の事項を考慮することが望ましい。

a) 監査の目的、範囲、基準及び予測される期間
b) 監査が複合監査または合同監査であるかどうか
c) 監査の目的を達成するために必要な監査チーム全体としての力量
d) 該当する場合には、法令、規制、契約及び認定/審査登録の要求事項
e) 監査を受ける活動から監査チームの独立性を確保し、利害の衝突を回避する必要性
f) 被監査者と効果的に意見を交わし、共同で作業をするための監査チームメンバーの能力
g) 監査で使う言語及び被監査者に特有の社会的及び文化的特長の理解。これらの事項には、監査員自身の技能によって対応してもよく、技術専門家による支援を介して対応してもよい。

 監査チーム全体としての力量を保証するプロセスには、次のステップを含むことが望ましい。

− 監査の目的を達成するために必要な知識及び技能の特定
− これらの必要な知識及び技能の全てが監査チームに備わっているような監査チームメンバーの選定

 監査チームの監査員だけでは必要な知識及び技能が完全には確保できない場合は、技術専門家を加えることによって満たしてもよい。技術専門家は、監査員の指揮のもとで作業することが望ましい。
 訓練中の監査員を監査チームに加えてもよいが、指揮または指導なしに監査をさせない方がよい。
 4.に示す監査の原則に基づく妥当な事由があれば、監査依頼者及び被監査者のいずれもが、特定の監査チームメンバーの交代を要請できる。妥当な事由の例としては、利害衝突がある場合(例えば、監査チームメンバーの一人が以前に被監査者の従業員であった場合や、以前に被監査者のコンサルティングを行なっていた場合)、及び過去の非倫理的行為がある。 このような事由は、監査チームリーダー及び監査プログラムの管理責任者へ連絡し、監査チームリーダー及び監査プログラムの管理責任者は、チームメンバーの交代について決定を下す前に監査依頼者及び被監査者とともに問題を解決することが望ましい。

6.2.5 被監査者との最初の連絡

 監査のための被監査者との最初の連絡は、公式なものであっても、非公式なものであってもよいが、監査プログラムの管理責任者または監査チームリーダーがその連絡を行なうことが望ましい。最初の連絡には次の目的がある。

a) 被監査者の代表者との連絡窓口を決める。
b) 監査の実施上の権限を確認する。
c) 提案された日程及び監査チームの構成に関する情報を与える。
d) 記録を含む関連する文書の閲覧を要請する。
e) 適用される現地の安全規則を決める。
f) 監査のための手配をする。
g) オブザーバーの参加及び監査チームのための案内役の必要性について合意する。

6.3 文書レビューの実施

 現地監査に先立って、文書化されている範囲において、監査基準に対するシステムの適合性を判定するために、被監査者の文書をレビューすることが望ましい。この文書には、関連するマネジメントシステム文書及び記録、並びにこれまでの監査報告書を含めてもよい。この文書レビューでは、組織の規模、性質、複雑さ、並びに監査の目的及び範囲を考慮に入れることが望ましい。 場合によっては、現地での監査が始まるまでこの文書レビューを遅らせてもよい。ただし、遅らせることによって、その監査の実施の有効性に有害な影響が出る場合は、この限りではない。また、入手可能な情報の的確な概要を把握するために、事前に現地を訪問してもよい。
 文書が不適切であると判断した場合は、監査チームリーダーが、監査依頼者、監査プログラムの管理責任者及び被監査者に連絡することが望ましい。監査を続行するか、または文書に関する問題点が解決するまで中断するかについて決定することが望ましい。

6.4 現地監査活動の準備

6.4.1 監査計画の作成

 監査依頼者、監査チーム及び被監査者の間で、監査の実施に関する合意形式の基礎とするために、監査チームリーダーは、監査計画を作成することが望ましい。監査計画によって、監査活動のスケジュール作成及び調整をしやすくすることが望ましい。
 監査計画に提示する詳細さの程度は、監査の範囲及び複雑さを反映していることが望ましい。例えば、その詳細は、初回監査とその後の監査とで異なってもよく、また、内部監査と外部監査とでも異なってもよい。現地監査活動の進行に伴い監査範囲を変更することが必要になる場合があるが、監査計画は、このような変更を許容し得るように十分な柔軟性を持っていることが望ましい。
 監査計画は、次の事項を網羅することが望ましい。

a) 監査の目的
b) 監査基準及び関連の基準文書
c) 監査を受ける組織単位、部門単位及びプロセスの特性を含む監査範囲
d) 現地監査を行なう日時及び場所
e) 被監査者の管理者層との会議及び監査チーム内の会議を含む、現地監査活動の予定の時刻及び所要時間
f) 監査チームメンバー及び同行者の役割と責任
g) 監査の重要な領域への適切な資源の割当て

 監査計画には、必要に応じて、次の事項も盛り込むことが望ましい。

h) 監査に対する被監査者の代表者の特定
i) 監査中及び監査の報告の際に用いる言語が、監査員及び/または被監査者の言語と異なる場合の、監査及び報告書に使用する言語
j) 監査報告書の記載項目
k) 監査の後方支援に関する手配事項(移動、現地の施設など)
l) 機密保持に関係する事項
m) 監査のフォローアップ処置

 監査計画は、監査依頼者がレビュー及び承諾し、現地監査活動が始まる前に被監査者に提示することが望ましい。
 被監査者から意義があれば、監査チームリーダー、被監査者及び監査依頼者の間で解決することが望ましい。監査計画に改訂があれば、監査を続行する前に、関係者の間で合意されることが望ましい。

6.4.2 監査チームへの作業の割当て

 監査チームリーダーは、監査チームと協議し、特定のプロセス、部門、現場、領域または活動を監査する責任をチームメンバー一人一人に割り当てることが望ましい。このような割当てを行なう際には、監査員の独立性及び力量に関するニーズ、並びに資源の効果的活用、また、監査員、訓練中の監査員及び技術専門家それぞれの異なる役割及び責任を考慮することが望ましい。監査の目的を確実に達成するために、監査の進行に伴い作業分担を変更してもよい。

6.4.3 作業文書の作成

 監査チームメンバーは、監査の割当てに関連する情報をレビューし、並びに、参照のため及び監査の進行状況の記録のために、必要に応じて作業文書を作成することが望ましい。このような作業文書には、次を含む。

− チェックリスト及び監査サンプリング計画
− 根拠となる証拠、監査所見、会議議事録などの情報を記録するための書式

 監査活動の程度は、監査中に収集した情報の結果によって変化し得る。したがって、チェックリスト及び書式を利用することが、監査活動の程度の制限にならないことが望ましい。
 作業文書は、作業文書の使用の結果として生じる記録を含めて、少なくとも監査が完了するまで保持しておくことが望ましい。監査完了後の文書の保持は、6.7による。機密情報または占有情報を含む文書は、監査チームメンバーが常に適切な安全対策を施すことが望ましい。

6.5 現地監査活動の実施

6.5.1 初回会議の開催

 初回会議は、被監査者の経営層、または適切な場合には監査を受ける部門若しくはプロセスの責任者が参加して開催することが望ましい。初回会議の目的は、次の事項である。

a) 監査計画を確認する。
b) 監査活動をどのように実施するかの要点を紹介する。
c) 連絡窓口を確認する。
d) 被監査者が質問をする機会を提供する。

実用上の手引き−初回会議

 多くの場合には、例えば、小規模な組織での内部監査では、初回会議は、単に監査がこれから実施されることを伝え、その監査の性質を説明するだけでもよい。
 他の監査の場合には、初回会議を正式に開催し、出席者の記録を残すことが望ましい。会議では、監査チームリーダーが議長を務め、次の事項を適宜考慮することが望ましい。

a) 参加者及びその役割の概要の紹介
b) 監査の目的、範囲及び基準の確認
c) 監査の時間割及び被監査者とのその他の関連する取決め事項の確認。例えば、最終会議の日時、監査チームと被監査者の管理者との中間会議、及び後からの変更の確認。
d) 監査実施の方法及び手順。これには、監査証拠は入手可能な情報のサンプルだけに基づくであろうこと、及びそのため監査には不確実性の要素があることを被監査者に説明することも含む。
e) 監査チームと被監査者との正式な連絡窓口の確認
f) 監査中に使用する言語の確認
g) 監査中は、監査の進捗状況を被監査者に常に知らせることの確認
h) 監査チームが必要とする資源及び施設が利用可能であることの確認
i) 機密保持に関係する事項の確認
j) 監査チームのための関連する、作業安全、緊急時及びセキュリティの手順の確認
k) 案内役の手配状況、その役割及び氏名の確認
l) 不適合の等級付けを含む、報告の方法
m) 監査を打ち切ってもよい条件に関する情報
n) 監査の実施または結論に関する異議申し立ての仕組みについての情報

6.5.2 監査中の連絡

 監査の範囲及び複雑さによっては、監査中の監査チーム内及び被監査者との連絡について正式な取決めが必要な場合もある。
 監査チームは、情報交換、監査進捗状況の評価、及び必要な場合には、監査チームメンバー間での作業の再割当てを行なうために、定期的に打ち合わせをすることが望ましい。
 監査中、監査チームリーダーは、監査の進捗状況及び懸念事項を、被監査者及び適宜監査依頼者に、定期的に連絡することが望ましい。監査中に収集した証拠の中に緊急かつ重大なリスク(例えば、安全、環境、品質など)を示唆するものがあれば、被監査者及び適宜監査依頼者に、遅滞なく報告することが望ましい。 監査範囲外の問題について何らかの懸念がある場合には、監査依頼者及び被監査者に連絡をとる場合に備えて、記録をとり監査チームリーダーに報告することが望ましい。
 入手できる監査証拠から監査の目的が達成できないことが明確になった場合には、監査チームリーダーは、適切な処置を決定するために、監査依頼者及び被監査者へ監査の目的が達成できない理由を報告することが望ましい。このような処置には、監査計画の再確認若しくは修正、監査の目的若しくは監査範囲の変更、または監査の打切りを含めてもよい。
 現地監査活動の進行につれて、監査範囲の変更の必要が明らかになる場合には、このような変更の必要性を、監査依頼者及び適宜被監査者とともにレビューし、承認することが望ましい。

6.5.3 案内役及びオブザーバの役割及び責任

 案内役及びオブザーバは、監査チームに同行してもよいが、監査チームに属しているわけではない。案内役及びオブザーバは、監査の実施に影響を及ぼしたり、邪魔をしたりすべきではない。
 被監査者が案内役を指名している場合、案内役は、監査チームを手助けし、監査チームリーダーの要請に応じて行動することが望ましい。案内役の責任には、次の事項を含めてもよい。

a) 面談のための相手方及び時間を設定する。
b) 現場または組織の特定の部署への訪問を手配する。
c) 現場の安全及びセキュリティに関する規則について、監査チームメンバーへの周知及び遵守を確実にする。
d) 被監査者のために監査に立ち会う。
e) 情報収集において不明な点を明らかにし、または情報収集の手助けをする。

6.5.4 情報の収集及び検証

 監査中は、監査の目的、範囲及び基準に関連する情報を、適切なサンプリングによって収集し、検証することが望ましい。関連する情報には、部門、活動及びプロセス間のインタフェースに関係する情報を含む。検証可能な情報だけを監査証拠としてよい。監査証拠は、記録することが望ましい。
 監査証拠は、入手可能な情報からのサンプルに基づいたものである。したがって、監査には不確実性の要素があり、監査結論に基づいて行動をとる人は、この不確実性を認識することが望ましい。
 情報収集から監査結論に至るまでのプロセスの概要を、図3に示す。

図3 情報収集から監査結論に至るまでのプロセスの概要
図3 情報収集から監査結論に至るまでのプロセスの概要

 情報を収集する方法には、次の事項を含む。

− 面談
− 活動の観察
− 文書の調査

実用上の手引き−情報源

 選択する情報源は、監査の範囲及び複雑さに応じて異なってもよく、それには次の事項を含んでもよい。

a) 従業員及びその他の人との面談
b) 活動、周囲の作業環境及び作業条件の観察
c) 方針、目的、計画、手順、規格、指示、許認可、仕様、図面、契約及び注文といった文書
d) 検査記録、会議の議事録、監査報告書、監視プログラムの記録及び測定結果といった記録
e) データの要約、分析及びパフォーマンス指標
f) 被監査者のサンプリングプログラムに関する情報、並びにサンプリングプログラム及び測定プロセスを管理するための手順に関する情報
g) その他の出所からの報告書。例えば、顧客からのフィードバック、外部関係者からのその他の関連情報及び供給者のランク付け
h) コンピュータデータベース及びウェブサイト

実用上の手引き−面談の実施

 面談は情報を収集するための重要な手段の1つであり、その場の状況及び被面談者に合わせた形で行なうことが望ましい。しかしながら、監査員は、次の事項を考慮することが望ましい。

a) 面談は、監査の範囲内で、活動または業務を遂行している適切な階層及び部門の人に対して行なう。
b) 面談は、通常の就業時間中に、差し支えなければ、被面談者の普段の職場で行なう。
c) 面談を始める前及び面談中に、被面談者の緊張を解くためにあらゆる努力を試みる。
d) 面談を行なう理由、及びメモをとるのであればその理由を説明する。
e) 被面談者の仕事について説明を求めることによって面談を始めることができる。
f) 回答を歪めるような質問(すなわち、遊動尋問)は避ける。
g) 面談の結果をまとめて、その内容を被面談者と確認する。
h) 面談への参加及び協力に対しては、被面談者に謝意を表する。

6.5.5 監査所見の作成

 監査所見を作成するために、監査基準に照らして監査証拠を評価することが望ましい。監査所見では、監査基準に対して適合または不適合のいずれかを示すことができる。監査の目的で規定されている場合には、監査所見は、改善の機会を特定することができる。
 監査中の適切な段階で監査所見をレビューするために、監査チームは、必要に応じて打合せをすることが望ましい。
 監査基準への適合は、監査した場所、部門またはプロセスが分かるように要約することが望ましい。監査計画に含まれている場合は、適合に関する個々の監査所見及びその根拠となる証拠も合わせて記録しておくことが望ましい。
 不適合及びその根拠となる監査証拠は、記録しておくことが望ましい。不適合は、等級付けしてもよい。不適合は、被監査者と確認することが望ましい。この確認作業の目的は、監査証拠が正確であること、及び不適合の内容が理解されたことについて被監査者に認めてもらうことである。 監査証拠及び/または監査所見に関して意見の相違がある場合には、それを解決するためのあらゆる努力を試みることが望ましい。解決できない点は、記録しておくことが望ましい。

6.5.6 監査結論の作成

 監査チームは、最終会議に先立って、次の事項を行なうために、チーム内の打合せをすることが望ましい。

a) 監査所見及び監査中に収集したその他の適切な情報を、監査の目的に照らしてレビューする。
b) 監査プロセスに内在する不確実性を考慮した上で、監査結論について合意する。
c) 監査の目的で規定している場合は、提言を作成する。
d) 監査計画に含む場合は、監査のフォローアップについて協議する。

実用上の手引き−監査結論

 監査結論では、次の事項を扱いことができる。

a) マネジメントシステムの監査基準への適合の程度
b) マネジメントシステムの効果的実施、維持及び改善
c) マネジメントシステムが引き続き適切、妥当、有効で、かつ、改善が継続することを確実にするためのマネジメントレビュープロセスの能力

 監査の目的に規定している場合は、監査結論を、改善、ビジネス上の関係、審査登録または今後の監査活動に関する提言につなげることができる。

6.5.7 最終会議の開催

 被監査者に理解され認めてもらえる方法で、監査所見及び監査結論を提示するために、並びに、該当する場合には、是正処置及び予防処置の計画を提示する時間枠について被監査者と合意するために、監査チームリーダーが議長を務め、最終会議を開催することが望ましい。 最終会議の参加者には被監査者を含むことが望ましいが、加えて監査依頼者及びその他の関係者も含めてよい。もし必要であれば、監査チームリーダーは、監査結論に寄せられる信頼性を低下させ得る監査中に遭遇した状況について、被監査者に知らせることが望ましい。
 多くの場合、例えば、小規模な組織での内部監査では、最終会議は監査所見及び監査結論だけを伝えるだけでもよい。
 他の監査の場合には、最終会議を正式に開催し、出席者の記録を含めて議事録を残すことが望ましい。
 監査所見及び/または監査結論に関して、監査チームと被監査者との間で意見の食い違いが生じた場合は、協議し、可能であれば解決することが望ましい。解決に至らない場合は、全ての意見を記録に残すことが望ましい。
 監査の目的で規定している場合は、改善の提言をすることが望ましい。提言には拘束力がないことを強調しておくことが望ましい。

6.6 監査報告書の作成、承認及び配付

6.6.1 監査報告書の作成

 監査チームリーダーは、監査報告書の作成及びその内容に責任を持つことが望ましい。
 監査報告書は、全般にわたる、正確、簡潔かつ明確な監査の記録を提供するものであり、次に示す事項を含むか、またはその事項の参照先を示すことが望ましい。

a) 監査の目的
b) 監査範囲、特に、監査を受けた組織単位及び部門単位またはプロセスの特定、並びに監査の対象とした期間
c) 監査依頼者の名称
d) 監査チームリーダー及びメンバーの特定
e) 現地監査活動を行なった日時及び場所
f) 監査基準
g) 監査所見
h) 監査結論

 監査報告書には、適宜、次に示す事項を含めてもよく、またはその事項の参照先を示してもよい。

i) 監査計画
j) 被監査者の代表者の一覧表
k) 監査プロセスの要約。これには、不確実性及び/または監査結論の信頼性を低下させる可能性のある、監査中に遭遇した障害を含む。
l) 監査計画に従って、監査範囲内で監査の目的を達成したことの確認
m) 監査範囲内で監査しなかった領域
n) 監査チームと被監査者との間で解決に至らなかった意見の食い違い
o) 監査の目的に規定されている場合は、改善のための提言
p) 合意したフォローアップ処置の計画
q) 内容の機密性に関する記述
r) 監査報告書の配付先一覧表

6.6.2 監査報告書の承認及び配付

 監査報告書は、合意した期間内に発行することが望ましい。これが不可能な場合は、遅延の理由を監査依頼者に連絡し、新たな発行日について合意することが望ましい。
 監査報告書は、監査プログラムの手順に従って、日付を付し、レビュー及び承認を受けることが望ましい。
 承認された監査報告書は、監査依頼者が指定した受領者へ配付することが望ましい。
 監査報告書は、監査依頼者の所有物である。監査チームメンバー及び全ての報告書受領者が、その報告書の機密保持を尊重し、維持することが望ましい。

6.7 監査の完了

 監査計画に示した全ての活動を実施し、承認された監査報告書を配付した段階で、監査は完了となる。
 監査に関係する文書は、監査に参加した関係者間の合意によって、及び監査プログラムの手順並びに適用される法令上、規制上及び契約上の要求事項に従って、保持または破棄することが望ましい。
 法律で要求されない限り、監査チーム及び監査プログラムの管理責任者は、監査依頼者の明確な承認なしには、及び被監査者の承認が必要な場合にそれなしには、文書の内容、監査中に入手したその他の情報または監査報告書を、他の者に開示しないことが望ましい。監査文書の内容の開示を要求された場合は、できるだけ速やかに監査依頼者及び被監査者に知らせることが望ましい。

6.8 監査のフォローアップの実施

 監査結論には、該当する場合には、是正処置、予防処置または改善処置の必要性を示してもよい。通常、合意した期間内に被監査者がこのような処置を決定し、実施するが、このような処置は監査の一部とはみなされない。被監査者は、これらの処置の状況を、監査依頼者に常に連絡することが望ましい。
 是正処置の完了及び有効性は、検証することが望ましい。この検証は、その後の監査の一部としてもよい。
 監査チームメンバーによるフォローアップを監査プログラムに規定してもよい。これは、監査チームメンバーの専門知識及び技能を活用することによって付加価値を与えるものとなる。この場合、その後の監査活動の独立性の維持に注意することが望ましい。

7. 監査員の力量及び評価

7.1 一般

 監査プロセスに対する信用及び信頼は、監査を行なう人の力量に依存する。この力量は、次の実証に基づいている。

− 7.2に示す個人的特質
− 7.4に示す教育、業務経験、監査員訓練及び監査経験によって身に付けた、7.3に示す知識及び技能を適用する能力

 監査員の力量の概念を図4に示す。7.3に示す知識及び技能には、品質及び環境マネジメントシステム監査員に共通のものも、それぞれの分野に特有のものもある。
 監査員は、継続的な専門能力の開発及び監査への定期的な参加によって、自らの力量を開発し、維持し及び向上させる(7.5参照)。
 監査員及び監査チームメンバーを評価するプロセスを7.6に示す。

図4 力量の概念
図4 力量の概念

7.2 個人的特質

 監査員は、4.に示す監査の原則に従って行動できるような個人的特質を備えていることが望ましい。
 監査員は、次のようであることが望ましい。

a) 倫理的である。すなわち、公正である、信用できる、誠実である、正直である、そして分別がある。
b) 心が広い。すなわち、別の考え方または視点を進んで考慮する。
c) 外交的である。すなわち、目的を達成するように人と上手に接する。
d) 観察力がある。すなわち、物理的な周囲の状況及び活動を積極的に意識する。
e) 知覚が鋭い。すなわち、状況を直感的に認知し、理解できる。
f) 適応性がある。すなわち、異なる状況に容易に合わせる。
g) 粘り強い。すなわち、根気があり、目的の達成に集中する。
h) 決断力がある。すなわち、論理的な思考及び分析に基づいて、時宜を得た結論に到達する。
i) 自立的である。すなわち、他人と効果的なやり取りをしながらも独立して行動し、役割を果たす。

7.3 知識及び技能

7.3.1 品質マネジメントシステム監査員及び環境マネジメントシステム監査員としての共通の知識及び技能

 監査員は、次に示す領域の知識及び技能を備えていることが望ましい。

a) 監査の原則、手順及び技法

 これによって、監査員は、異なる監査にそれぞれ適切な原則、手順及び技法を適用し、一貫性のある体系的な監査を確実に行なうことができる。監査員は、次の事項ができることが望ましい。

− 監査の原則、手順及び技法を適用する。
− 効果的に作業を計画し、必要な手配をする。
− 合意した日程内で監査を行なう。
− 重要事項を優先し、重点的に取り組む。
− 効果的な面談、聞き取り、観察、並びに文書、記録及びデータの調査によって、情報を収集する。
− 監査のためにサンプリング技法を使用することの適切性及びそれによる結果を理解する。
− 収集した情報の正確さを検証する。
− 監査所見及び監査結論の根拠とするために、監査証拠が十分かつ適切であることを確認する。
− 監査所見及び監査結論の信頼性に影響し得る要因を評価する。
− 監査活動を記録するために作業文書を使う。
− 監査報告書を作成する。
− 情報の機密及びセキュリティを維持する。
− 自分の語学力で、または通訳を介して、効果的に意志の疎通を図る。

b) マネジメントシステム及び基準文書

 これによって、監査員は、監査範囲を理解でき、監査基準を適用できる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− さまざまな組織へのマネジメントシステムの適用
− マネジメントシステムの構成要素間の相互作用
− 監査基準として用いる、品質若しくは環境マネジメントシステム規格、適用される手順、またはその他のマネジメントシステム文書
− 基準文書間の相違及び基準文書の優先順位の認識
− さまざまな監査状況への基準文書の適用
− 文書、データ及び記録の、承認、セキュリティ、配付及び管理のための、情報システム及び情報技術

c) 組織の状況

 これによって、監査員は、組織の運営状況を理解できる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 組織の規模、構造、機能及び相互関係
− 一般的な業務プロセス及び関連用語
− 被監査者の文化的及び社会的慣習

d) 当該分野に適用される法律、規制及びその他の要求事項

 これによって、監査員は、監査を受ける組織に適用される要求事項の枠内で、監査業務を行なうこと及びその要求事項を認識することができる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 地方、地域及び国家の、基準、法律及び規制
− 契約及び協定
− 国際条約及び国際協定
− 組織が同意しているその他の要求事項

7.3.2 監査チームリーダーとしての共通の知識及び技能

 監査チームリーダーは、監査の効率的及び効果的な実施を容易にするために、監査のリーダーシップに関する追加の知識及び技能を備えていることが望ましい。監査チームリーダーは、次の事項を実施できることが望ましい。

− 監査の計画を策定し、監査中に資源を効果的に活用する。
− 監査依頼者及び被監査者との連絡では監査チームを代表する。
− 監査チームメンバーを取りまとめ、指揮する。
− 訓練中の監査員を指揮及び指導する。
− 監査チームを統率して、監査結論を導き出す。
− 種々の衝突を防ぎ、解決する。
− 監査報告書を作成し、完成する。

7.3.3 品質マネジメントシステム監査員に特有の知識及び技能

 品質マネジメントシステム監査員は、次の領域の知識及び技能を備えていることが望ましい。

a) 品質に関係する方法及び技法

 これによって、監査員は、品質マネジメントシステムを調査し、適切な監査所見及び結論を導き出すことができる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 品質用語
− 品質マネジメントシステムの原則及びその適用
− 品質マネジメントツール及びその適用(例えば、統計的工程管理、故障モード影響解析など)

b) プロセス及びサービスを含む製品

 これによって、監査員は、監査を実施している技術内容を理解できる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 業界特有の用語
− プロセス及びサービスを含む製品の技術的特性
− 業界特有のプロセス及び慣習

7.3.4 環境マネジメントシステム監査員に特有の知識及び技能

 環境マネジメントシステム監査員は、次の領域の知識及び技能を備えていることが望ましい。

a) 環境マネジメントの方法及び手法

 これによって、監査員は、環境マネジメントシステムを調査し、適切な監査所見及び結論を導き出すことができる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 環境用語
− 環境マネジメントの原則及びその適用
− 環境マネジメントツール(例えば、環境側面/環境影響の評価、ライフサイクルアセスメント、環境パフォーマンス評価など)

b) 環境科学及び環境技術

 これによって、監査員は、人間の活動と環境との基本的関係を理解できる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 環境に対する人間の活動の影響
− 生態系の相互作用
− 環境媒体(例えば、大気、水、土地)
− 天然資源の管理(例えば、化石燃料、水、動植物相)
− 環境保全の一般的方法

c) 運用の技術的側面及び環境側面

 これによって、監査員は、被監査者の活動、製品、サービス及び運用と環境との相互作用を理解できる。この領域の知識及び技能は、次の事項を網羅することが望ましい。

− 業界特有の用語
− 環境側面及び環境影響
− 環境側面の著しさを評価する方法
− 運用プロセス、製品及びサービスの重要な特性
− 監視及び測定の技法
− 汚染の予防技術

7.4 教育、業務経験、監査員訓練及び監査経験

7.4.1 監査員

 監査員は、次の教育、業務経験、監査員訓練及び監査経験を備えていることが望ましい。

a) 7.3に示す知識及び技能を身に付けるのに十分な教育を終了していることが望ましい。

b) 7.3.3及び7.3.4に示す知識及び技能の開発に寄与する業務経験があることが望ましい。この業務経験は、判断、問題解決、並びに他の管理者または専門家、同僚、顧客及び/またはその他の利害関係者との意思疎通を含む。技術的、管理的または専門的立場での経験であることが望ましい。
 この業務経験の一部は、次の分野の知識及び技能の開発に寄与する活動を行なう立場での経験であることが望ましい。

− 品質マネジメントシステム監査員に対しては品質マネジメント分野
− 環境マネジメントシステム監査員に対しては環境マネジメント分野

c) 7.3.1、7.3.3及び7.3.4に示す知識及び技能の開発に寄与する監査員訓練を修了していることが望ましい。この訓練は、本人の所属する組織または外部の組織のいずれが提供してもよい。

d) 6.に示す活動における監査経験があることが望ましい。この経験は、同じ分野の監査チームリーダーとしての力量がある監査員の指揮及び指導のもとで得られたものであることが望ましい。

(参考)
 監査中に必要となる指揮及び指導(7.4.1、7.4.2、7.4.3及び表1)の程度は、監査プログラムの管理責任者及び監査チームリーダーの裁量による。指揮及び指導は、常時監督をすることを意味するものではなく、また、この任務のための専任者を置く必要があることを意味するものでもない。

7.4.2 監査チームリーダー

 監査チームリーダーは、7.3.2に示す知識及び技能を開発するための追加の監査経験を積んでいることが望ましい。この追加の経験は、監査チームリーダーとしての力量がある別の監査員の指揮及び指導のもとで監査チームリーダーの役割を遂行する過程で得られたものであることが望ましい。

7.4.3 品質及び環境マネジメントシステムの両方を監査する監査員

 品質マネジメントシステムまたは環境マネジメントシステムの監査員で、第二の分野の監査員にもなろうとするものは、次の事項を満たすことが望ましい。

a) 第二の分野に対する知識及び技能を身に付けるのに必要な訓練を受けており、また、業務経験がある。
b) 第二の分野において監査チームリーダーとしての力量がある監査員の指揮及び指導のもとで、その分野のマネジメントシステムを網羅する監査を行なったことがある。

 一方の分野の監査チームリーダーが第二の分野の監査チームリーダーになるためには、上の事項を推奨として満たすことが望ましい。

7.4.4 教育、業務経験、監査員訓練、及び監査経験のレベル

 組織は、7.6.2に示す評価プロセスのステップ1及びステップ2を適用することによって、監査員が監査プログラムに適切な知識及び技能を得るために必要な、教育、業務経験、監査員訓練及び監査経験のレベルを設定することが望ましい。
 表1に示すレベルが、審査登録または類似の監査を行なう監査員に対して適切であることは、経験上明らかである。監査プログラムによっては、これらよりも高いレベルでも低いレベルでも適切であるかもしれない。

表1 審査登録または類似の監査を行なう監査員のための教育、
業務経験、監査員訓練及び監査経験のレベルの例
パラメータ 監査員 両分野の監査員 監査チームリーダー
教育 中等教育(参考1.参照) 監査員と同様 監査員と同様
業務経験の合計 5年(参考2.参照) 監査員と同様 監査員と同様
品質または環境マネジメント分野の業務経験 合計5年のうちの2年以上 第二の分野で2年(参考3.参照) 監査員と同様
監査員訓練 40時間の監査員の研修 第二の分野での研修を24時間(参考4.参照) 監査員と同様
監査経験 監査チームリーダーとしての力量がある監査員の指揮及び指導のもとで、訓練中の監査員として完全な監査を4回かつ延べ20日以上行なった経験(参考5.参照)。これらの監査は過去3年以内に完了していることが望ましい。 第二の分野で監査チームリーダーとしての力量がある監査員の指揮及び指導のもとで、第二の分野での完全な監査を3回かつ延べ15日以上行なった経験(参考5.参照)。これらの監査は過去2年以内に完了していることが望ましい。 監査チームリーダーとしての力量がある監査員の指揮及び指導のもとで、監査チームリーダーの役割を担当した完全な監査を3回かつ延べ15日以上行なった経験(参考5.参照)。これらの監査は過去2年以内の完了していることが望ましい。

(参考1.)
中等教育とは、初等教育の後にくる国家の教育制度の一部で、大学または同等の教育機関への入学前に修了するものである。

(参考2.)
中等教育後に適切な教育を修了している場合は、業務経験の年数を1年減らしてもよい。

(参考3.)
第二の分野での業務経験は、第一の分野での業務経験と同時期であってもよい。

(参考4.)
第二の分野での研修は、関連する規格、法律、規制、原則、方法及び技法の知識を習得するためである。

(参考5.)
完全な監査とは、6.3から6.6に示す、全てのステップを網羅する監査のことである。監査経験全体としてマネジメントシステム規格全体を網羅することが望ましい。

7.5 力量の維持及び向上

7.5.1 専門能力の継続的開発

 専門能力の継続的開発は、知識、技能及び個人的特質の維持及び向上に関係する。これは、追加の業務経験、訓練、個人学習、指導、会合、セミナー及び会議への参加、またはその他の関連する諸活動といった、いろいろな手段で達成できる。監査員は、専門能力の継続的改善を実証することが望ましい。
 専門能力の継続的開発活動では、個人及び組織におけるニーズ、監査の慣行、規格、並びにその他の要求事項における変化を考慮することが望ましい。

7.5.2 監査能力の維持

 監査員は、品質及び/または環境マネジメントシステムの監査に定期的に参加することによって、監査能力を維持し、実証することが望ましい。

7.6 監査員の評価

7.6.1 一般

 監査員及び監査チームリーダーの評価は、客観的で一貫性を持ち、公正及び信頼できる結果を提供するために、監査プログラムの手順に従って、計画し、実施し、記録することが望ましい。この評価プロセスでは、訓練及びその他の技能向上のニーズを特定することが望ましい。
 監査員の評価は、次に示す異なった段階で実施する。

− 監査員になることを希望する人の最初の評価
− 6.2.4に示す監査チーム選定プロセスの一部として実施する監査員の評価
− 知識及び技能の維持及び向上のニーズを特定するための監査員のパフォーマンスの継続的評価

 これらの評価段階の相互関係を図5に示す。
 7.6.2に示すプロセスステップをこれらの評価段階で用いてもよい。

図5 評価段階の相互関係
図5 評価段階の相互関係

7.6.2 評価プロセス

 この評価プロセスには、4つの主要なステップがある。

ステップ1−監査プログラムのニーズを満たす個人的特質、並びに知識及び技能を特定する

 適切な知識及び技能を決めるときは、次の事項を考慮することが望ましい。

− 監査の対象となる組織の規模、性質及び複雑さ
− 監査プログラムの目的及び範囲
− 審査登録及び認定上の要求事項
− 監査の対象となる組織のマネジメントにおいて監査プロセスが果たす役割
− 監査プログラムで要求する信頼のレベル
− 監査の対象となるマネジメントシステムの複雑さ

ステップ2−評価基準を設定する

 この基準は、定量的(例えば、業務経験及び教育の年数、実施した監査の回数、監査員研修の時間)であってもよく、定性的(例えば、訓練または職場で示された、個人的特質、知識または技能のパフォーマンス)であってもよい。

ステップ3−適切な評価方法を選定する

 評価は、表2に示す方法のうちの1つまたは複数を利用し、1人でまたは委員会で行なうことが望ましい。表2を利用するときは、次の事項に注意することが望ましい。

− 表2に示す方法は、さまざまな選択肢の中の代表的なものであり、全ての状況に適用できるとはかぎらない。
− 表2に示す方法の信頼性は、それぞれ異なることがあり得る。
− 評価方法が客観的で、一貫性を持ち、公正で、かつ、信頼できることを確実にするために、通常、複数の方法を組み合わせて用いることが望ましい。

ステップ4−評価を実施する

 この段階では、その個人について収集した情報をステップ2で設定した基準と比較する。その人が基準を満たさない場合は、追加の訓練、業務経験及び/または監査経験を要求し、その後に再評価をすることが望ましい。
 ある内部監査プログラムを想定し、それに対してどのように評価プロセスのステップを適用し、文書化するかの例を表3に示す。

表2 評価方法
評価方法 目的
記録のレビュー 監査員の経歴を検証する。 教育、訓練、雇用及び監査経験の記録の解析
肯定的及び否定的なフィードバック 監査員のパフォーマンスがどのように受け止められているかに関する情報を与える。 調査、質問票、照会状、感謝状、苦情、パフォーマンス評価、相互評価
面接 個人的特質及び意思疎通の技能を評価し、情報を検証し、知識を試験し、並びに追加情報を得る。 面接及び電話による聞き取り
観察 個人的特質、並びに知識及び技能を適用する能力を評価する。 ロールプレイ、立会い監査、業務中のパフォーマンス
試験 個人的特質、並びに知識、技能及びそれらの適用を評価する。 口頭及び筆記試験、心理試験
監査後のレビュー 直接観察することが不可能または不適切な場合に、情報を与える。 監査報告書のレビュー、並びに監査依頼者、被監査者、同僚及び監査員本人との質疑

表3 想定した内部監査プログラムにおける監査員評価プロセスの適用
力量の領域 ステップ1
個人的特質、知識
及び技能
ステップ2
評価基準
ステップ3
評価方法
個人的特質 倫理的である、心が広い、外交的である、観察力がある、知覚が鋭い、適応性がある、粘り強い、決断力がある、自立的である 職場での十分なパフォーマンス パフォーマンス評価
共通の知識及び技能
監査の原則、手順及び技法 顔見知りの職場の同僚と意思疎通を図りながら、組織内部の手順に従って監査を行なう能力 内部監査員研修コースを修了している。
内部監査チームのメンバーとして3回の監査を実施している。
研修記録のレビュー
観察
相互評価
マネジメントシステム及び基準文書 マネジメントシステムマニュアルの関連部分及び関係する手順を適用する能力 監査の目的、範囲及び基準に関連するマネジメントマニュアルの手順を読んで理解している。 研修記録のレビュー
試験
面接
組織の状況 組織の文化、組織構造及び報告体系の枠組みの中で、効果的に業務を運営する能力 その組織で監督者として1年以上働いた経験がある。 雇用記録のレビュー
適用される法律、規制及びその他の要求事項 プロセス、製品及び/または環境への排出物に関係する該当法律及び規制の適用を特定し、理解する能力 監査の対象となる活動及びプロセスに関連する法律についての研修コースを修了している。 研修記録のレビュー
品質特有の知識及び技能
品質に関係する方法及び技法 組織内の品質管理方法を示す能力
工程内試験および最終試験の要求事項を区別する能力
品質管理方法の適用についての研修を修了している。
工程内試験手順及び最終試験手順を職場で実際に用いていることを実証している。
研修記録のレビュー
観察
プロセス及びサービスを含む製品 製品、その製造工程、仕様及び最終的な使用方法を特定する能力 工程計画の策定担当者として生産計画に携わった経験がある。
サービス部門に勤務した経験がある。
雇用記録のレビュー
環境特有の知識及び技能
環境マネジメントの方法及び手法 環境パフォーマンスの評価方法を理解する能力 環境パフォーマンス評価に関する研修を修了している。 研修記録のレビュー
環境科学及び環境技術 組織が使用している汚染の予防の方法及び汚染管理の方法が組織の著しい環境側面にどのように対応しているのかを理解する能力 類似の製造環境で、汚染の予防及び管理に6か月の業務経験がある。 雇用記録のレビュー
運用の技術的側面及び環境側面 組織の環境側面及びそれらの影響[例:原材料、その相互の反応、原材料が漏洩または流出した際の環境への潜在的影響]を認識する能力
環境事故に適用される緊急事態対応手順を評価する能力
原材料の貯蔵、混合、使用、廃棄及びそれらの環境影響についての組織内の研修コースを修了している。
緊急事態対応計画の研修を修了し、緊急事態対応チームのメンバーとしての経験がある。
研修記録、コースの内容及び結果のレビュー
研修記録及び雇用記録のレビュー

品質及び/または環境マネジメントシステム
監査のための指針
解 説

序文

 この解説は、本体に記載した事柄、及びこれに関連した事柄を解説するもので、規格の一部ではない。
 この解説は、財団法人日本規格協会が編集・発行するものであり、この解説に関する問合せは財団法人日本規格協会へお願いします。

1. 制定の趣旨

 これまで、品質マネジメントシステム監査、環境マネジメントシステム監査については、次の国際一致規格があった。

− JIS Q 14010:1996 環境監査の指針−一般原則
− JIS Q 14011:1996 環境監査の指針−環境マネジメントシステムの監査
− JIS Q 14012:1996 環境監査の指針−環境監査員のための資格基準
− JIS Z 9911-1:1996 品質システムの監査の指針−第1部:監査
− JIS Z 9911-2:1996 品質システムの監査の指針−第2部:品質システム監査員の資格基準
− JIS Z 9911-3:1996 品質システムの監査の指針−第3部:監査プログラムの管理

 これまでの品質、環境両分野の監査経験を踏まえ、品質、環境両分野の監査規格を見直し、また、品質と環境の両分野の“両立姓(compatibility)”の観点から1つの規格にまとめるために、ISOにおいて、TC176(品質マネジメント及び品質保証)の分科委員会SC3(支援技術)及びTC207(環境マネジメント)の分科委員会SC2(環境監査及び関連調査)からなる共同作業グループ(Joint Working Group;JWG)で検討が行われ、2002年10月1日にISO 19011:2002,Guidelines for quality and/or environmental management system auditingとして発行された。
 この日本工業規格は、ISO 19011の国際一致規格として制定、発行されたものである。
 ISO 19011では、旧規格の内容は基本的に可能な限り継承することとしたが、品質と環境の共通部分では調整を図り、また、状況の変化に応じて変更した部分もある。
 全体の構成において、“監査の原則”が導入されたこと、“監査プログラムの管理”がその重要性から中心部に置かれたこと、監査員の力量に重点が置かれたことが全体としての大きな変更点である。
 この規格が作成された結果として、

a) 監査プログラムの管理に眼が向けられ、重要視される。
b) 監査員の力量(competence)が評価され、重要視される。
c) 監査活動が明確になったため、内部監査が行いやすくなり、また、内部監査の評価が行いやすくなる。

であろう。
 そして、全般的に監査の質が向上することが期待される。

2. 制定の経緯

 1997年に京都において開催された第5回ISO/TC207総会では、環境及び品質のマネジメントシステム規格の整合化、並びにISO/TC176との連携強化が取り上げられた。ISO/TMBが両TCの連携強化の指示を出し、技術諮問グループ(TAG12)、TC207/TC176調整グループ(JCG)、監査CSG、用語JAGなどで調整が図られた。

 既に、TC176では、2000年を目指してISO 9001、ISO 9002、ISO 9003の改訂とともに、監査規格ISO 10011の改訂作業に取りかかっており、ISO WD3 10011が提案されていた。改訂の理由は、監査員の資格基準が時代に合わず種々の問題が表面化してきたこと、ISO 10011-3(監査プログラムの管理)が利用されていないこと、ISO 14010の内容である監査の原則がISO 10011にはないことなどであった。

 ISO 10011の改訂案には、同規格のPart1〜Part3の統合、監査に対するプロセスアプローチ、監査プログラムのマネジメントの必要性、“feasibility review”の導入、各種の状況(審査登録、内部監査など)への適用、“力量”という観点(competencies approach)からの資格基準の見直し、これに関連して監査員資格判定委員会に関する要求事項(normative)の削除などが盛り込まれていた。

 1997年からは、日本からも代表が参加して、監査CSG(Common Study Group)において監査規格の統合に関する検討が行われた。

a) システムの有効性、適切性の判断主体の相違
b) 監査資格の基準の相違
c) 監査プログラム管理の有無

という品質と環境の監査規格の差異分析を踏まえ、マーケットニーズも踏まえつつ、ISO 9001及びISO 14001の要求事項に照らして矛盾がないものとすることと、品質/環境の複合監査、合同監査などを促進できるものとすることを考慮した上で、次の最終勧告が提出された。

a) 1つの監査規格(one combined standard)とする。
b) 監査プログラムに関して品質、環境で差異があることは構造上問題ないが、システムの有効性/適切性の判断主体、監査員の資格基準に関する基本的概念について検討を要する。
c) “one combined standard”作成に関する新規作業提案(NWIP)をTC176/SC3とTC207/SC2から各国に回付する。
d) 新規作業提案が承認された場合、“one combined standard”作成のためのTC176とTC207のJWGを設置して、新規格を作成する。

 1998年のTC176サンフランシスコ会議の後、共通監査規格のNWIPが賛成多数で承認されたことを受けて、TC207及びTC176の両代表からなるTC176/SC3-TC207/SC2JWGが設置され、以降8回の国際会議が開催された。日本からはTC176及びTC207の両国内委員会から各1名、計2名がこのJWGに参加した。

3. 審議中に問題となった事項

3.1 表題(Title)

 表題にand/or表現を用いることに違和感もあり議論になったが、品質または環境マネジメントシステムにも、また、複合マネジメントシステムにも適用できることを明確にするために、“Guidelines for quality and/or environmental management systems auditing”となった。

3.2 全体的な構成

 原則的には、ISO 10011-1、ISO 10011-2、ISO 10011-3、ISO 14010、ISO 14011、ISO 14012にあることはすべて網羅することとした。とくに監査プログラムの管理が重要ということで、これを中心に据えた。また、監査の重要性と特徴を明確にするため、4.に監査の原則を置いた。
 この指針は監査全般に関する基本的指針であり、第一者、第二者、第三者監査の区別はせず、これらに共通の項目が取り上げられている。この指針のユーザー、被監査者の状況などは広範に渡ることから、序文でも述べられているように、この指針の適用に当たっては、具体的方法、程度などはそれぞれの状況に応じて柔軟に(flexible)決めればよいことが強調されている。

3.3 監査員は“資格”でなく“力量”で選ぶ

 この監査規格の指針では作成当初から、“監査員(審査員)”は、“資格”によって保証されるのでなく、“competence(力量)”によって評価されるべきであるとして、“competencies approach”ということが提案されていた。これは、これまでの監査に対する反省であり、市場からの要請によるものである。
 特に、審査登録の審査員に対しては、客観的な指標・基準が要求されるので、何をもってこれにあてるかに苦労したのも事実である。最終的には、品質でも環境でも旧指針で使っていた教育/業務経験/監査員訓練/監査経験を、“力量”を得るための手段として、審査登録審査員の基準の一例として例示している(表1)。 これは審査登録の審査員に限定した例示であるので、その他の監査では、状況に応じて高くても、低くてもよいとしている。さまざまな議論があったものの、結果的には、審査登録審査員に対しても“これがminimum levelである”とはしていない。これに加えて“力量”の指標及び基準並びにその評価方法を、審査登録の審査員については審査機関が、内部監査員については組織のマネジメントが、監査(プログラム)のニーズに応じて定めることになる。
 表3の作成は、日本からも強く要望したものである。これは内部監査に対応するものであり、“competencies approach”を具体化し、“力量”を決定するためのプロセスの例として示されている。ここでも、そのレベルはその組織が決めることとしているので、組織の規模、状況に応じた内部監査員を選ぶ際の指針として使っていただきたい。

3.4 先行諸規格との関係(特に用語について)

 ISO 9000ファミリーの2000年版が既に発行されているが、この指針の作成に当たっては、JWGでの検討によって最も適切な表現をとるということになった。ISO 19011の発行後、必要があればISO 9000及びISO 14050を改訂するという手順を踏むことになっている(ISO 9000でも、ISO 19011の発行に伴って修正される可能性があると記している)。
 JIS作成に当たっては、ISO規格の同じ原語(英語)の対応する日本語訳が他のJISと異なっては、混乱を招くということで、できる限り、既に発行済みの国際一致規格の訳語を使用するように努めた。また、この規格の使用者が多岐にわたることも踏まえ、直訳よりも、わかりやすさ、読みやすさ、理解しやすさを優先するように訳語の工夫に努めた。 よく出てくる用語については、できるだけ統一した訳語を用いることにしたが、状況によって他の訳語をあてたものもある。
 頻出する用語の日本語訳は、次のとおりとした。

a) address 状況によって、“対応する”、“述べる”とした。
b) audit “監査”、審査登録が明確な場合は”審査”とした。
c) auditing 厳密には“監査の実施”とか“監査すること”を意味するが、翻訳した表現が冗長にならないようにするため、また、検討の結果、日本語の表現が原文の意味を損なわないと判断して、JIS作成に当たっては“監査”とした。たとえば、ISO規格の表題は、Guidelines for quality and/or environmental management systems auditingであり、これを“品質及び/又は環境マネジメントシステム監査実施のための指針”と翻訳することもできるが、“監査実施のための”としなくても、“監査のための”で原文の意味を表している。 また、Principles of auditingは、“監査実施の原則”と訳すこともできるが、4.では、簡単に“監査の原則”とした。一方で、“監査(audit)”という用語は3.1で定義されているが、auditingを“監査”とした箇所(上記の2例、その他の箇所)に3.1の定義を当てはめても特に問題は生じない。
d) audit plan “監査計画”とした。定義及びその規格全体の内容から、必ずしも“監査計画書”とは限らない。
e) applicable 法律について、“適用される”と訳したが、環境関係では適用の可能性を考慮する必要がある場合がある。
f) arrangement 状況によってさまざまのことを指す場合があり、“手配”、“取り決め”としたが、関係者間でのさまざまな取り決め、協定、用意・準備などを含む。
g) communication “連絡”、“意思疎通”などとした。双方向の流れが含まれる。
h) competence “力量”とした。適用能力が問われ、本体での定義によれば、監査に必要とされる“個人的特質”までを含むものとなったため、“能力”では表しきれない。
i) demonstrate “実証する”としているが、意識的に“外部から分かるようにする”ことを言っている。見て、聞いて、読んで分かるようにすることである。
j) describe、description “示す”、“示すもの”とした。“describe”は辞書によれば“set force in words”(Concise Oxford Dictionary)、“to tell or depict in written or spoken words”(Random House Unabridged Dictionary)などとなっており、必ずしも“記す”、“書く”ことではない。
k) direct “指揮する”とした。統率する、方向付けすることを含む。
l) discipline “分野”とした。この規格では、品質マネジメントシステム分野又は環境マネジメント分野を指す。
m) diplomatic “外交的である”とした。内容は7.2で説明している。
n) ensure “〜を確実にする”又は“確実に〜する”としたが、何らかの手段を講じて、漏れのないように又は保証のできるようにすることである。
o) guidelines、guidance それぞれ“指針”、“手引”とした。
p) management、manage “管理(する)”としたが、全体を運営管理することであって、英語でいう“control”ではない。他の用語と一緒に使われる場合は“マネジメント”(例 品質マネジメントシステム)とした。人に対して“management”が使われている場合、全体の運営管理にかかわる場合には“マネジメント”、具体的なその人の管理の対象が明確な場合には“管理者”とした。
q) objective、purpose 類似した意味で用いられ、“purpose”は出発点から見た方向性や意図を示し、“objective”は具体的にどこまで行うか(到達点)を示すという違いがある。共に“目的”としたが、本来の理解の上では問題はないと判断した。
r) organization “組織”とした。
s) personal attributes 日本語訳を“個人的資質”とする意見もあったが、広辞苑によれば、“資質”は“生まれつきの性質や才能”となっている。しかし、規格の中でpersonal attributesとして箇条書きになっている内容を見ると、生まれつきの性質や才能だけでなく、訓練、経験、努力などによって培われるものでもあるので“個人的特質”とした。
t) planning “計画の策定”とした。
u) previous どこまでさかのぼるかが問題になることがある。“前回の”としたところと“これまでの”としたところがある。原文の5.2.2f)に、results of a previous audit programme reviewという表現があるが、ここではa previous reviewであるから“前回の”とした。一方、同じ5.2.2f)にはconclusions of previous audits、及び6.3にはprevious audit reportsという表現が出てくる。これらの箇所ではpreviousの対象となっているのはauditsとかreportsなどのように複数となっているので、“これまでの監査”とか“これまでの監査報告書”などと翻訳した。
v) proprietary information “占有情報”とした。自分たちだけが知っている、又はそう思っている情報で、他人には知られたくないものである。幾つかの組織又は個人が自分たちだけのものと思いながら、同じ情報を別々に占有している場合もあり得る。
 なお、“専有情報”という言葉もあるが、これは、法的に権利として認められた“他人と分かち合うものでない”情報である。
w) reference “基準”とした。比較の基準となるもの。また、“reference document”は、“基準文書”とした。基準となる規格や文書を指す。
x) review、reviewing ISO 9000における定義と合う場合は“レビュー(する)”とした。その他は文脈によって、“確認”、“調査”としているところもある。
y) security “セキュリティ”とした。この言葉にはさまざまな内容が含まれており、国内ではさまざまな訳がされているが、この規格では、組織を守ること。又はそのために必要なことと捉えている。
z) set of “一連の”とした。基準、監査、組織などで、幾つかの“もの”や“こと”をひとまとめにする説明として用いられている。
aa) smaller organizations “中小規模の組織”とした。ただし、必ずしも“中小企業(small and medium size enterprize)”を指すわけではなく、比較論としての小ささで、同じような組織でも比較的小さな組織(たとえば、同じ企業内での規模の小さいもの)を指すような場合もある。
ab) training “訓練”とした。特に、社内外におけるコースプログラムによる座学を中心とするような場合は“研修”とした。

4. 規定項目の内容

 各項目の内容に従って、本体の内容を次に示す。

a) 序論
 品質/環境、外部監査/内部監査のいずれにも対応できるようにするため、また、この指針のユーザーは、監査員、マネジメントシステムの実施組織、第二者監査組織、審査登録機関、研修機関、認定機関など多方面にわたるため、この指針は柔軟であることをうたっている。とくに小規模の組織で使いやすいように、追加のガイドや例を“実用上の手引(Help Box)”で示したが、あくまでも一例であり、これに拘泥する必要はない。品質/環境の監査を一緒に行うか、別々に行うかはシステムの実施者の決定による。

b) 適用範囲
 品質及び/又は環境マネジメントシステムに関する内部監査もしくは外部監査を実施する必要のある、またはそのための全般的管理である監査プログラムの管理を行う必要のある組織すべてに適用するとしている。本来は、品質および環境マネジメントシステムの監査を対象としているが、適切に修正または拡張することによって、今後行われるであろうさまざまなマネジメントシステム監査などにも応用できるようなものになっている。この場合、監査員に要求される力量は状況によって異なることから、十分な考慮が必要としている。

c) 定義
 3.1監査の項では、内部監査の独立性、とくに中小規模の組織における内部監査の独立性に関して議論がなされた結果、“とくに、中小規模の組織の場合は、独立性は監査対象となる活動に責任を負っていないことで示すことができる”と参考がつけられた。また、第二者監査とは“利害関係のある者によって行われる監査”としている。
 3.2監査基準は、ISO 9000を踏襲して、“set of policies, procedures or requirements used as reference”となっていたが、このままではとくに“used as reference”が分かりづらいとの意見が多く、最終的にはこの部分を参考にまわして、“監査基準(audit criteria)一連の方針、手順または要求事項。また、参考で、監査基準は、監査証拠(3.3)と比較する基準として用いる。”となった。
 3.8監査員は、監査を行う“資格”のあるものから“力量”のあるものへ変更された。
 3.9監査チーム(audit team)は、必要な場合は技術専門家が支援する。一方、監査2.では、“監査チームには訓練中の監査員を含めてもよい”となっている。つまり、訓練中の監査員は、チームのうちにあり、“auditor”としての役割、責任を含めたトレーニングを受ける。
 本体では、“主任監査員(lead auditor)”という用語がなくなり、チームの監査員の1人が“監査チームリーダー(audit team leader)”に指名されることになった(参考1.)。ただし、そのような監査員には、監査チームリーダーとしての力量が必要である(7.4.2)。チームリーダーとしての力量を身につけるためには、すでにチームリーダーとしての力量が認められている監査員のもとで、リーダーとしての役割、責任を含めたトレーニングを受ける(7.4.2)。
 3.11監査プログラムは、特定の目的に向けた、決められた期間内に実施するように計画された個々の監査をまとめたものであるが、参考がついて、計画、手配、実施などの必要な活動も含むことになった。
 3.14力量(competence)は、“個人的特質”も“力量”のうちであるとし、また、知識と技能を(実地に)適用できる能力で、実証されたものとして、実際的な応用能力を要求している。

d) 監査の原則
 監査の原則は、ISO 14010には記載されているが、ISO 10011には記載されていなかった。本体では、その重要性に配慮し、内容を見直した上で、監査員に関する原則3項目と監査方法に関する原則2項目を挙げている。
 b)(公正な報告)の中で、”監査活動をtruthfully and accuratelyに反映すること”とあるが、ここでは真実であることと正確であることの2つを言っている。したがって“ありのままに、かつ、正確に”とした。
 d)でいう客観的な心理状態は、周囲の状況に支配されることなく、持論にこだわらず、客観的に思考ができる状態である。

e) 監査プログラムの管理
 ISO 10011ではPart3に置かれてあまり顧みられることがなく、ISO 14010シリーズでは項目にも挙げられていなかったが、前述のように監査の全般的マネジメントを、意図をもって、あらかじめ設定された時間枠の中で確実に行うことの重要性から、この規格では中核にこれを置くことになった。監査プログラムの管理に当たっては、管理責任者がPDCAを回しながら、監査を実施する組織としての監査パフォーマンスの継続的改善を図ることができるように意図した指針となっている。
 監査プログラムに含まれる個々の監査には、品質または環境マネジメントシステムを単独で監査する通常の監査だけではなく、品質と環境を合わせて監査する“複合監査(combined audit)”、および複数の監査機関が1つの組織を監査する“合同監査(joint audit)”などの監査があり得る。複合監査の場合は監査チームの力量にとくに注意を要するが、合同監査の場合は監査チームの力量のほかに、参加する監査機関の間での責任分担を明確にすることなども重要になってくる。
 監査プログラム管理の責任者(1人または複数)の役割は重要である。この責任者には管理能力はもちろんのこと、被監査組織の活動に対する技術上、事業上の理解があって、適切な監査チームの編成などができる必要がある。監査プログラム(3.11)の定義は、“特定の目的(purpose)に向けた、決められた期間内で実行するように計画された一連の監査”となっている。一方、監査プログラムの目的(5.2.1)では、監査プログラムに関して目的(objectives)を設定することが望ましいとなっている。さらに、監査プログラムレベルの“overall objectives”と個々の監査レベルの“objectives”がある。
 “objectives”は種々の要因によって左右されるが、その1つになっている“商取引上の意図”(commercial intentions)については、“販売戦略”から“営業、事業上の方向性”まで多岐にわたるであろう。

f) 監査活動
 全体の監査プログラムの中で実施される個々の監査について、開始から報告書の作成/配布に至るプロセスの標準的な手順を示している。この指針では、監査のフォローアップは、通常、監査の一部とはみなされないこととしている(6.1、図2、備考および6.8)。
 個々の監査に関しては、チームリーダーを選任するところから始まる(6.2.1)。チームリーダーは個々の監査の責任者であり、また、監査現場の状況に一番通じていることになるので、範囲と基準の決定に参画する(6.2.2)。
 6.2.3では、監査の実行可能性の判断と代替案の提案が取上げられているが、とくに“誰が”ということは言及していない。柔軟な対応があってもよいということであろう。
 監査においては情報を集め、そのうち検証可能な(verifiable“検証”しようとすればできる)ものをもって監査証拠(evidence)とする。したがって、検証が済んでいる状態(verified)までは要求されていない。この監査証拠を監査基準と比較して監査所見(audit finding)とする。
 監査計画はチームリーダーが作成する。監査の主体がチームリーダーなので、依頼者に示してレビューおよび承諾をもらって(reviewed and accepted)、被監査者に示すことになる(6.4.1)。
 監査で得られた機密情報または占有情報は管理されなければならないが、盗難や機密漏洩などに対する“安全対策を施す(safeguarded)”とした。
 監査の範囲外の問題(an issue)についても、懸念事項(any concern気懸かりになること)があれば依頼者、被監査者に伝えることもあるので、記録にとってチームリーダーに報告しておくこととなっている。
 6.5.4情報の収集については、“実用上の手引”で具体的な方法についても述べているが、設備、監視・測定を含む機器、作業場の環境などの観察から得られる情報も貴重なものとなろう。

g) 監査員の力量および評価
 個人的特質は“能力”とは別と言えるが、“能力”を発揮する基礎となるものとして“力量(competence)”の定義の中に入った。
 監査員の知識および技能には、品質と環境に共通のもの(監査自体に関すること、マネジメント文書に関すること、被監査者に関すること、法規制に関することなど)とそれぞれに特有のもの(たとえば、品質技術/製品、環境科学/技術/側面)がある。ここでは、品質と環境という観点から、“共通の知識および技能”という表現にしたが、英語は“generic knowledge and skill”である。他の分野にも通用する監査員の力量の根幹となる“一般的な知識および技能”ということになる。
 チームリーダーは、監査員であることに加えてリーダーシップを取れなければならない。
 力量を得るための手段が、教育/業務経験/監査員訓練/監査経験である。
 監査員の訓練に関して、監査員(7.4.1)の項では、監査チームリーダーとしての力量を有する者の指揮と指導下で経験を積むこととしている。参考として、指揮および指導の程度は監査プログラムの責任者とチームリーダーで決めればよいこと、常時監督することではないこと、およびこの任務のために専任者をおく必要があるということでもないことを追記している。指導者と離れていても、報告をきちんとして、指導を仰ぐという訓練も可能であろう。
 監査員がチームリーダーになるための監査訓練はリーダーシップも含めてのトレーニングであるため、チームリーダーとしての力量を認められている監査員の指揮と指導下で、訓練を受ける監査員がチームリーダーの役割を果たすことになる。
 品質、環境いずれかの監査員で、他方の分野の監査員にもなろうとするには、他方の分野の知識、技能を身につけるに必要な訓練を受け、業務経験があり、他方の分野での監査経験を満たす必要がある。
 品質と環境のいずれかの分野でチームリーダーをできる人は、少なくとも他方の分野で監査員としての要件を満たすことが推奨されている。表1の位置付けについては最後まで議論された。結果として、第三者審査員に対するこれまでの実績による基準を一例として示すということになった(これまでの規格にあるものと類似の数値の入ったものとなっている)。第一者、第二者、第三者監査ともに状況によってこれより高くても低くてもよいとしている。
 4回延べ20日の完全な監査とは、原文では“four complete audits for a total of at least 20days”となっており、4回、かつ、20日を満たさなければ、この条件を満たすように完全な監査を追加しなければならない。
 “完全な監査”とは、表1および参考5.の第1文に記載されているように、“6.の文書レビュー(6.3)から報告書の作成/配布(6.6)をカバーするもの”である。表1に示された監査経験の表現では、“完全な監査”の回数と日数が示されているが、参考5.の第2文によれば、“監査経験の全体を通してマネジメントシステム規格の全体をカバーすることが望ましい”となっていることを理解しておく必要がある。
 チームリーダーとしての力量を得るためには、“2年間で3回、延べ15日のチームリーダー経験を積むこと”となっているが、短期に集中することが望ましいということでこのようになった。品質または環境の審査員が他方の分野でも審査員になるためには、同様の理由で、2年間に3回、15日の経験を積むこととなった。
 品質または環境審査員に関して、他方の分野の審査員になるための審査員研修については、不足部分を補うということで、3日相当としている。
 表2に評価の方法として、試験の項目に“心理試験”という項目がある。英語では“psychometric test”となっているが、“個人的特質”を評価するための“メンタルテスト”に近いものである。そのまま訳せば“計量心理テスト”となるが、これは心理学における解析手法の1つである。ここでは、もっと広い意味ととらえ、“心理試験”とした。
 評価を確実にすることが必要であることから、中小企業の内部監査を例にとって、監査員評価の手順と具体的な例を表3に示している。一見、難しそうな“個人的特質”についても評価の例を挙げている。
 品質特有の知識および技能の“品質に関係する方法および技能”の評価基準で、“工程内試験手順および最終試験手順を職場で実際に用いていることを実証している”とあるが、これは、現場で実際にやって見せて、それを評価者が“観察”という評価方法(表2参照)で確認することである。

5. 懸案事項

 品質および環境のマネジメントシステム監査の規格が一本化された。
 実際に、複合監査(審査)や合同監査(審査)も行われているが、本体ではその内容までには立ち入らなかった。標準化までにはまだまだ実例が不足していることもある。今後、実態を踏まえた指針策定に向けた議論も必要であろう。
 内部監査員の力量の評価については、表3を一例として多くの組織で実績を積上げ、表3を見直していくことが必要であろう。一方、第三者監査に携わる監査員の力量に関しては、表1のみに限定せず、competence approachに基づいたより適切な力量評価ができるように関係者の取組みが望まれる。
 この規格で与えられている監査の管理と実施に関する指針は、そのほとんどが手続的なことであり、いわゆる監査手法とか監査技法と言われる事項に関してはわずかの指針しか示されていない。たとえば、面談の仕方については実用上の手引で示されているが、監査におけるサンプリング計画の立て方などは指針も例示も示されていない。今後さらに監査の質を向上するためには、サンプリング計画、証拠となる情報の検証の仕方、監査の筋道、その他の監査技法に関する指針を開発していくことが必要であろう。

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