HOME 屋根裏 > ELK をめぐる冒険 > ニュース・ご報告 12/25 > 新しい年に. . . カニグズバーグについて、E.L. カニグズバーグの作品、E.L.About EL KONIGSBURG

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「冒険」ニュース― 12/25号
岩波書店の方とお会いしました。
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2003. 12. 25



*  2003年12月19日、岩波書店 児童書編集部 責任者の 若月万里子さんと、編集局 部長の 高村幸治さんとお会いし、2 時間ほどお話をしました。


高村さんと若月さんいわく:
岩波書店では、カニグズバーグ作品の邦訳のうち、以下の三つの作品を、順に、全面的に見直し、改訂する

* 1.  『800番への旅』 ― 原題 "Journey to an 800 Number"
* 2.  『エリコの丘から』 ― "Up from Jericho Tel "
* 3.  『ティーパーティーの謎』 ― "The View from Saturday"

また、上記の作品から多くの文章が引用されている
* 4.  『トーク・トーク』 "Talk Talk" については、1〜3の変更に準じ、改訂する。

・ 今後、じゅうぶんな検討を加えた上で、批判に耐えうる改訂版を準備する。
・ どうすればより十全なものに仕上げることができるか、現在その方法を深く検討中である。
・ 可能なかぎり早急に対応したいと考えている。

  「どれくらい」良くなるのかが知れないうちは、手放しでは喜べないけれど、それでも、少年文庫にも収録されている三作品の見直しがなされるということを、ほんとうに嬉しく思います。


  また、12/9 に、若月さんから今回の面談のリクエストがあった際に、その目的の一つとして、
 * 「私どもの対応が遅れ、また不適切・不十分な点がありましたので、お詫びを申し上げたい」(12/11メール)
と、説明いただいたとおりに、私はこの件に関して十分過ぎるほどのお詫びの言葉を受けました。
  (ほんとうに謝罪すべき相手は、私ではなく、読者の子どもたちのはずだけど. . . と思いながら聴きました。)


  そして、岩波書店の私に対する対応の遅れは、次のような理由によるものだそうです。

* 1.  8/7 岩波書店のサイト「愛読者の窓」から送った私のメールは、夏休みとも重なり、編集部へ届くのが遅くなった。「愛読者の声」には数多くの声が集まるので。
* 2.  8/13 の児童書編集部に宛てた私の書簡は、編集部に "届いていない"。
* 3.  以上のことから、9月末に、原作者のカニグズバーグから連絡を受けて、はじめて私の存在を知った。
* 4.  原文・邦訳の確認をし、指摘に対処することが先決と考えたために、私個人に対する対応が遅れ、不適切・不十分となった。


  次に、インタビューの内容について. . . 。

  まず、カニグズバーグの三作品に関して、高村さんも若月さんも、「ご指摘いただいたことについて」と何度も仰るので、私は、

*  「サイトで取りあげているのは、あくまでも例であって、変なところは、他にもたくさんあるのです。」 と、強調しなければなりませんでした。


*  私が、この「カニグズバーグをめぐる冒険」を通じて、皆さんにお伝えしたいのは、

言葉やフレーズなど、 一つ一つの「誤訳」のことではなく、

1.  岩波版では、カニグズバーグのニュートラルな表現にいちいち粉飾がされていること、
2.  誤訳の多くは、物語の「誤読」によって生まれているということ、
3.  そして、何よりも、問題はその「日本語」にある、ということで. . .

  お二人にも、そうしたことを受け止めてもらえるよう、祈るような気持ちでお話しました。


  高村さんも若月さんも、優しく誠実そうな雰囲気の方だったので、きっとご理解いただけたのではないかと思います。
  でも、お二人のお話の内容からは、(その立場の違いによるものなのか) それぞれの「理想」とするものや「守りたい」ものが、かなり違っている、という印象を受けました。
  私には、どちらの言葉や態度が「岩波書店」という出版社のものなのか、判断ができず. . .  ほんとうに美しい邦訳にしてもらえるのか. . .  率直にいうと、不安を感じました。


* 「この三作品の日本語が変だって、今まで誰からも言われなかったのですか?」
  という私の問いに対する、若月さんの
* 「一度もありません。」
  というお答えや、私が指摘したせいで
* 「大変なことになってしまった」
  という意味あいの言葉には、とても驚きました。

  改訂されることになった作品が変だということに気づいていた人は、大勢いると思うのです。たとえば、『ティーパーティーの謎』について、さくまゆみこさんたちの読書会では2001年4月にお話し合いがされているし. . . 。
  もしかして、フィードバックが聴こえにくいシステムなのかな。(読者からのメールや手紙も、担当セクションには届きにくい. . . とか ? ) それとも、みんな、言っても仕方がないと最初からあきらめてしまうのでしょうか。

  それにしても、私が投書などしなければ、編集部は平和だったし、改訂などせずに済んだ、と仰りたかったのかなぁ . . . ?


  同じく、若月さんの
* 「カニグズバーグさんの作品の傾向は(30年のあいだに)変わっていますよね?  『クローディアの秘密』などと比べると、最近の作品は難しいですよね?」
という言葉にも、ビックリ. . . 。 だって、カニグズバーグって、私にさえ読めるような、子ども向けの、シンプルできれいな英語で書かれた、解りやすく楽しい物語ばかりなのですもの。それを難しいと言ってしまっては、文学の翻訳などできないような気がします。
  (事実1: 私は、英文の児童書はなんとか読めますが、大人向けの新聞や雑誌は、辞書なしでは読めません。)

  もちろん、私も、カニグズバーグ作品は変わってきていると思います。でも、それは、作家が作品を世に送り出す度に、子どもたちに「伝わっている」という実感を得て、いわゆる親切すぎる説明をしなくなったから. . . 。つまり、小さな読者たちを信頼することによって、文章の洗練の度合いがより高まっただけで、決して言葉づかいやテーマや、物語じたいが難しくなったわけではありません。

  (事実2: 出版社のWEBサイトの書評欄などを見ると、アメリカでは、8歳・9歳の子どもたちが、カニグズバーグの各作品に対して、面白かった! 大好き! とたくさん書き込みをしています。また、『ティーパーティーの謎』などは、多くの小学校で国語の授業の副教材として使われています。)

  それに、もしも、「最近の作品は、翻訳が難しい」と認識されていたのであれば、より優秀な翻訳家を起用し、その日本語の校正や編集にも一層の力を入れるべきだった、と思うのですが. . . 。

* 「三作品以外についてのご指摘は、直接私どもに. . . 」―  (たぶん)今後はWEBには書かないでくれませんか、という意味あいの提案には、
*  「現行訳が売られている以上、他の作品についても、不思議に感じることは、今までどおり、個人的な見解として載せていきます。それが、カニグズバーグさんと私との約束ですし、それに、今では、彼女の作品や児童書や日本語に関心を持ってくださっている多くの方々に対しても、報告する義務があると思いますので . . . 」と、答えました。そして、

*  「けれど、そのことを、社会問題のようにして取りあげるつもりはありません。私の夢は、" カニグズバーグ作品を、本来の雰囲気のまま、美しい日本語で、子どもたちに届けたい" . . . ただそれだけです。」

*  「"早急に"と言っていただくことは嬉しいけれども、取り繕ったような修正版は望んでいません。少し余計に時間が掛かっても、しっかり改訂をしてほしい. . . 。20年後、30年後. . . 50年後の子どもたちにも読み継がれる本にしていただきたいのです。それがカニグズバーグさんの希望でもありますし. . . 。」 などと、お話しました。


  12/19 の会談のあらましは、以上のような感じ . . . かな?  〈 注1 〉

  緊張していたし、途中で涙ぐんだりしてしまって、しどろもどろだったけれど、想いだけはどうにか伝えられたような気がします。



  20日の朝、作者の E.L. カニグズバーグには、不安な材料は除いて、(9月からずっと、「あなたのタルーラがこんな風にされている」などと、悲しませることばかり言ってきたので、もうこれ以上心配を掛けたくなくて. . . 。) 4冊の本が改訂されることになった、ということだけを報告しました。そうしたら、すぐに、
*  これ以上素晴らしい Chanukah gift(ハヌカーの贈りもの)は思いつけません。ほんとうにありがとう!
というメールが返ってきました。わーい!  (*^ - ^*)
  ハヌカー(Hanukkah, Chanukah )というのは、ユダヤ教の宮清めの祭のことで、今年は12月19日から27日. . . 。米国との時差を考えると、偶然にも、ハヌカー祭の始まりの日に、ちょっと良いニュースを届けることができて、ほんとうに嬉しく思います。(涙)


  さて、今後のことですね. . . 。

  私は、岩波書店の編集局部長、高村さんの、
* 『800番への旅』『エリコの丘から』『ティーパーティーの謎』につきましては、社としてご指摘の意味を汲み取り、じゅうぶんな検討を加えた上で批判に耐えうる改訂版を準備し・・・ どうすればより十全なものに仕上げることができるか・・・ 方針が決まり次第、ご連絡します。
という言葉を信じ、ご連絡を待ちたいと思います。今回の問題は、出版社としての岩波書店が、その真価を問われるようなことですから、きっとほんとうに十全な作品にしてくださると思うんです。


  なーんて書くと、応援やご心配くださっている皆さんの中には、「やみぃは甘い」「楽観的すぎる」と、ジリジリする方もいらっしゃると思います。(もう、すぐにも声が聴こえてきそう. . .  ありがとう。^^)

  けれど、「ちいさいおうち」「銀河鉄道の夜」「トムは真夜中の庭で」「ナルニア国ものがたり」「長くつ下のピッピ」「くまのプーさん」など、今も私の中で息づいている多くの物語が、今は信じて待つことを、私に勧めるのです。

  それに、私は、E.L. カニグズバーグ作品の再翻訳を求めているのですから、その方法も、彼女に倣いたい. . . 。

  カニグズバーグの作品はいずれも、上にあげた、リンドグレーン、宮沢賢治、ピアス、C.S.ルイスといった作家の物語と同様の「普遍性」を持っています。彼女の作品は、これから何十年ものあいだ、いいえ、世紀をこえて、多くの子どもたちに読まれるべき物語だと思います。
  少なくとも、かつての私のような子どもにとっては、カニグズバーグはたいへん重要な作家です。. . .  子どもの、孤独をなぐさめ、存在を肯定し、そして、その子がこの世界で生き抜いていこうとすることを、その決心や姿勢を、励まし続けてくれるのですから。

  カニグズバーグという1930年生まれの作家が、その作品を通して教えてくれることは、たとえば、言葉というものの大切さであり、たしかな抗議を静かに続けていくことの美しさであり、決して投げやりにならない強さであり、そのために工夫をすることの楽しさであり. . . (あ、また泣けてきちゃった. . .  ぐすん。)

  そして、エレイン・カニグズバーグは、彼女の物語や、その登場人物と同じ. . . 。今もなお、作品を書き続け、求められれば講演にも出向き、常にエレガントに、誠実に闘い続けている女性です。

  だから私も、「カニグズバーグをめぐる冒険」を、静かに、決してあきらめず、ずっと楽しく続けていきたいと思っています。
  カニグズバーグ作品に限らず、よい作品をよい形で、子どもたちに、そしてそのまた子どもたちに手渡すために. . . 。

  しばらくのあいだ、私は、岩波書店の良識と誠意を信じ、高村さんからのご連絡を待ちます。そしてその結果によって、どういった路を選び、どんな歩き方をするか(たぶん、どのみちテクテクでしょうけれど、 ^^)、しっかり考えて、決めたいと思っています。

  どうかこれからも、この小さな「冒険」に、おつきあいください。

2003年12月25日 ― やみぃ






*  追伸 1

12月22日、 『誤訳天国』の著者、ロビン・ギルさんから、連絡がありました。

  ビックリしすぎて、私は、椅子から転げ落ちそうでした。(笑)
  Google(グーグル)でいろいろ検索中に、このサイトを見つけ、お読みくださったそうで、

*  「あの日本語を読む子はいったいどういう日本語を書くようになるのでしょう」
と、書かれていました。

  ロビンさんの 3 通めのメールはなぜかすべて英語で、私はまた辞書と格闘です。 でも、
*  ・・・ I tell this to you because one possibility is that a poor editor encouraged the translator/s to produce that crap (excuse my bad language).

というような楽しいお話を、たくさん聴かせていただけそうで、嬉しく思います。

ロビンさんの新作、RISE, YE SEA SLUGS! <浮け海鼠> も、とても面白そう。楽しみです。


*   ロビン・ギルさんからの思いがけないメールもあって、「インターネットって、すごいなぁ」と、あらためて感じています。

  WWWの世界では、「誰が言ったか」ではなく、「何が言われているか」に心を動かす人たちと、高い確率で逢うことができます。
  そこでは、年齢や性別、経歴や肩書きなどにさほどの意味はなく、人種も宗教も国籍も関係なく、ただ、情報や論理や思想、優しい気持ちだけが、自由に行き来しています。

  ―  実際には、すごーいキャリアや、信仰心の持ち主も、それをひけらかしたり、押しつけたりしない  . . . で、なんだか一層すごいと思ったりします. . . 。 (Special Thanks のページに並んでいるのは、すべてそうした人たちのお名前です。^^)


  2003年は、エレイン・カニグズバーグをはじめ、たくさんの素敵な人たちと会うことができて . . . 幸せな年でした。
  「通じる人には通じる」という実感が、今の私を支えています。

  皆さん、ほんとうにありがとう. . . 。(ウルウル。)

 Much love, やみぃ

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*  12/19 の ミーティングについて。

「会話はすべてを録音を」「信頼できる人に付き添ってもらうこと」という多くの友人たちのアドバイスを無視して、私はMDレコーダーも持たず、一人で出掛け、会談中はメモさえ取りませんでした。なので(もちろん事実に即して書きましたが)、もしかすると思い違いがあるかもしれません。

岩波書店の高村さん & 若月さん。 記述に事実誤認などがありましたらご指摘ください。メールをいただけましたら、公正を期して全文をWEB上に掲載したいと考えています。

やみぃ― 渋谷由美  やみぃへメール♪ ELKの状差し


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*  追伸 2

12/18 までに、皆さんからお寄せいただいたご意見やアドバイスで、「ELKの状差し」に載せられなかったものは、お名前やメールアドレスを伏せて、高村さんと若月さんにお見せしました。
カニグズバーグ作品をはじめ岩波の読者の「リアルな声」をお届けできたと思います。
ご連絡をくださった皆さんのお一人お一人に、感謝しています♪



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