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テキスト: カニグズバーグ作品集4 『誇り高き王妃』 岩波書店 (2002.07)
"A Proud Taste for Scarlet and Miniver" Simon & Schuster (1973/2001)
* 参考文献

* * *
「誇り高き王妃」 アキテーヌのエレアノール2
― Eleanor of Aquitaine ・ Alienor d'Aquitaine―



 *表紙の絵 細かいことは、今回でおしまい。

  『誇り高き王妃』についても、原作者カニグズバーグの意向を大切にしながら、いずれ改訳をリクエストしたいと考えています。


*  天国に昇天させてもらえたのだ。
*  レイモンは、エレアノールより九歳しか年がはなれていませんでした。
*  陪審は、「正しき恋愛技法論」という本のなかから読みあげました。
*  崖っぷちの下を見下ろすと、下の方にある谷が目に入りました。
*  ヘンリーは寝るとき、食べるとき、そして祈るときだけしか、ほとんど馬から降りようとしませんでした。
*  わたしにもまだ、人を見る目がまだあったのです。
*  どうやったらそなたたちを、わたしの王国には、法律は一つでいいということをわからせることができるのだろうか。
*  その年、わたしたちはクリスマス宮廷に集まり、
*  ベルナールはこん棒のように教会をジョフロワの頭上にかざしていました。


  このようなエラーや、読みにくい表現が、全編にめじろ押しです。
  また、語り手たちの言葉づかい(とくに敬意表現)がハチャメチャなので、登場人物の性格や関係性が解りにくくなっています。
    たとえば、エレアノールは、ジュジェールのことを「大修道院長さま」「先生」と呼んで慕っていますが、その彼に「あなたが死んだからよ」 と言い、自分の死については「わたしが亡くなったとき」と婉曲表現をします。
  homage (尊敬、忠誠)に「貢ぎ物」という訳語があてられていたり、などで、イングランド全土が安っぽい感じになっているのですが、その国の王ヘンリー2世に至っては、まるで『エリコの丘から』のタルーラ のようです。マティルダ皇后までを「そなた」と呼び、「母上、・・・それでいいのだ。・・・なのだぞ。」と横柄な物言いをし、だのに、自ら「平民」と呼ぶ人に対して敬語を使ったり、整合性がありません。豪胆と粗野は違います。そもそも、マティルダ皇后が、息子のヘンリーにそのような言葉づかいを教えるはずも、許すはずもなく. . .  


  なーんて言っていくとキリがないので、文法や作法のことは、これで終わりにします。
  他のカニグズバーグ作品についても、今後、初歩的な日本語の問題は取り上げません。つまらない繰り返しは避けたいですし、昨年9月以来、すでに問題のありようは十分にお伝えしてきたと思います。



  というわけで、これからは、作品の楽しさや、登場人物の魅力が伝わりそうな部分を選んで. . . ♪



*表紙の絵 フランス王 ルイ七世

  エレアノールの最初の夫。 国王よりも修道士の方が似合うと言われるほど、敬虔でまじめな人でした。

  以下は、エレアノールに出会った頃のルイの様子です。
  親の決めた婚約者でしたが、ルイはエレアノールに夢中になります。未来の妻に気後れを感じながらも「恋する喜び」を、相談役の修道院長ジュジェールに報告します。
  「快活さ、品位、知性、乗馬の腕まえ、エレアノールは、何もかもが素晴らしいんです。」と . . . 。


*  「ルイ、わたしの大切な王子、信心以外のありとあらゆる面で自らを天秤の軽い側に置かれているようですが。」
「それに、申し分のない財産。わたしはヨーロッパ一有望な女性と婚約し、エレアノールは貧しい次男坊と婚約しているのですよ。その次男坊がフランス王の跡継ぎとなり、すばらしいご婦人の夫となったのは幸運としかいいようがありません。」(P. 29)

"Louis, my prince, you are putting yourself on the light side of the balance in everything but piety."
" And, good fortune, dear Abbot. I am betrothed to the fairest lady in all of Europe, and she is betrothed to a poor second son, one that fortune has raised to be heir to the king of France and husband to a great lady." (P. 24)

  ルイは、自分の方がまさっている点が二つあると言っているのでは?  シュジェールの言うとおり piety(敬虔、信心)と、もう一つは good fortune(幸運)であると。 fairestは、マイ・フェア・レディの フェアの最上級ですね。で、まだ結婚式の前です。

* 「ルイ、わたしの王子は、ご自身の何もかもを天秤の軽い方に置かれているようですね、信仰心は別でしょうが。」
「いいえ、幸運もです、院長先生。わたしはヨーロッパ随一の美しい人と婚約し、かたや、エレアノールは貧しい次男坊と婚約しているのですから。その次男坊が、フランス王の跡継ぎとなり、すばらしい貴婦人の夫になるなど、幸運としか言いようがありません。」


  ルイって、いい人なんです。いい人過ぎて困る、ではありますが。― '財産' にはほとんど関心がありません。^^



*表紙の絵 サン・ドニ修道院長 シュジェール

  ゴシック建築の先駆者。
  芸術を熱愛し、美しいものをコレクターのごとく収集しては教会を飾りたて、厳格なシトー派の(聖)ベルナールからは世俗的だと批判されます。けれど、シュジェールにとっては、美を探求し創造することが「神への賛美」でした。


*  ・・・この二週間に、わたしはボルドーの教会を見てまわりました。サン・ドニにあるわたしの教会を建て直したいと考えていたわたしは、神のご加護のもと、建物をより高くし、光をより取り入れる新たな方法を探っていました。ボルドーの古い教会は、重厚な様式で建てられていました。わたしの教会は、基礎にへばりついたような建物にしたくありませんでした。基礎の上に空高くそびえ立たせたかったのです。(P. 28)

・・・During those two weeks I spent my time studying the churches of Bordeaux. I had in mind rebuilding my church at St. Denis, and with God's help I was searching for a new way to make buildings higher and let in more light. The old churches of Bordeaux were built in a heavy style. I didn't want my church dumped onto a foundation. I wanted it to soar above it. (P. 23)


  シュジェールは「重厚」なものを嫌いません。(ゴシック建築も重厚と言われていますし。)
  ボルドーの教会は、heavy style(厚い壁、小さな窓、暗い室内)だったので、新構想の実際的な参考にはなりませんでした。

* ・・・ この二週間に、わたしはボルドーの教会を調べてまわりました。サン・ドニの教会を建て直すつもりだったので、神の助けをかり、建物をもっと高くし、より多くの光を取りこめる、新しい建築方法を模索していたのです。ボルドーの古い教会は、どれも重苦しく退屈な造りでした。石や煉瓦で土台を固めただけの教会はいりません。天に届くような大聖堂が欲しかったのです。


  美しいステンドグラスの薔薇窓も、シュジェールの研究のおかげかもしれません。^^


ユトリロのサン・ドニ修道院




*表紙の絵 イングランド マティルダ皇后

  ヘンリー2世の母親。 沈着冷静で洞察力があり、息子夫妻のことも客観的に公平に見ます。

  次は、エレアノールが、ヘンリーとベケットに疎外され始めた頃の様子。
  マティルダ皇后が語ります。


* (エレアノールは・・・言いました) 「かわいいコンスタンスのお嬢さんの世話をしなくていいなんて、幸せのかぎりです。こんなおまけがついてくるとは、なんと思いがけないこと。」
  ヘンリーとベケットは互いにめくばせをしあいました。喝采の声をあげてはいても、エレアノールの誇りは傷つけられていました。 (P. 116)

"I am happy to be relieved of the care of sweet Constance's daughter. I had not expected such a bonus in the bargain."
Henry and Becket exchanged a glance. For all her bravado, Eleanor's pride had been hurt. (P. 107)


  あれ?  喝采など一度もしていません。bravado(虚勢、からいばり、強がり)と brava(女性に対するブラボー)の取り違えでしょうか? 最後の文は、

* 強がってはいたけれど、エレアノールの自尊心は傷ついていました。


  邦題に含まれる「誇り」という言葉は、リザーブしたいな。誰かによって「傷つけられ」るような「プライド」と、王妃が生涯持ち続けた「誇り」とは、やはり分けたいので. . . 。

  ついでに、「かわいいコンスタンス・・・」は、ルイ七世の再婚相手について、マティルダ皇后が言及した、

* 今度の相手は、スペインのコンスタンス、かわいらしい(この形容詞は、問題を起こすような活力に欠ける女性を修飾するときのためのものです)ということばがぴったりの少女でした。 (P. 107)

This time his choice was Constance of Spain, a girl best described as sweet―an adjective I reserve for women who lack sufficient spirit to cause trouble. (P. 99)

を受けたものです。
  「スイートという形容詞は、コンスタンスのような女の子のために、ふだんは使わずにおいていますの。」 と手厳しいことを言う皇后に、エレアノールが共感している様子が伝わってきます。二人の取って置きの sweet なので、ぜひ同じ訳語に. . . 。

  spirit to cause trouble ― マティルダ自身、従兄のスティーブンと王位継承権を争ったり、トラブルを起こしては、神聖ローマ帝国とイングランドに多大な影響を与えた人ですから、この言い方、よけいに楽しいです。^^

  精悍なヘンリー2世や、「騎士の中の騎士」と謳われたウィリアムや、他にも紹介したい人やエピソードがいっぱいですが、いつの日か別枠を作ることにして、次のページでは、王妃エレアノールのことを . . . ♪


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