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What a relief!  What a joy!
改訳版、『800番への旅』 & 『ティーパーティーの謎』
2005. 10. 25


 
 9月はじめにアマゾンに注文していた、新しい『800番への旅』と『ティーパーティーの謎』が、ようやく届きました。
 どちらも、とても素敵な本になっていて. . .
(ああ、よかった. . . ♪)

 両作品とも、わだかまりの残ってしまった『エリコの丘から』の改版(04年)と比べると、誤訳の箇所は言うまでもなく、人物設定、言葉づかい、文体など、より全面的に直されているという印象です。
 あくまでも "改版"であって、もとの訳文が基調なわけですから、「最高にステキ」とまでは言えないのですが、それでも、物語としての愉しさや整合性も戻り、ずっと解りやすく、読みやすくなっていると思います。

(ほんとに、よかった. . . )
 この二日ほど、嬉しさと、安堵の気持ちとが合わさって、少しぼんやりしています。


(このあと、どうしよう. . . ?)
 もちろん、上記の三作品にしても「少年文庫」版の改訂が済んだだけで、高価な「カニグズバーグ作品集」に収められた分の改版は、未定。また、作品集にはほかにも、『誇り高き王妃』『13歳の沈黙』など、改訳のリクエストをしたい作品が残っています。ごく個人的には、『Tバック戦争』についても検討してみたいし. . . 。
 まだまだ、しなければいけないことは、たくさんあるのですけれど. . . 。

「でも、やっぱり、まずはカニグズバーグさんに、この嬉しい報告をしなくちゃ!」
 というわけで、昨日は何時間も、苦手の英作文をしていました。^^


 改訳版──大手の本屋さんでも、置いているところは少ないのですが、公共の図書館や小・中学校の図書室で、買い換えたところは、もっと少ないそうで──実際に、読者のもとに届くようになるまでには、かなりの時間がかかりそうです。
 一日もはやく、多くの方に、新しい版を読んでいただけるといいのですが. . . 。
 そのためにはどうしたらいいのか、そんなことも少しずつ、でも、しっかり、考えていきたいと思っています。

 ご感想やアドバイスを、お待ちしています。  (メールは: yuyujp@park.zero.ad.jp まで)

 「カニグズバーグをめぐる冒険」に、これからも、おつきあいください。




800番への旅』 & 『ティーパーティーの謎
(ともに、05. 8. 26改版。 金原瑞人・小島希里 共訳)

 ◇ アマゾンjpでも岩波書店の直販コーナーでも、「内容紹介」や表紙の写真は旧版のままですが、
注文した場合には、8月26日発行の「改版、第一刷」が届きます。(05年10月25日現在)


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共訳)

* 追伸:

 以下、改版は、どんなふうに「解りやすく、読みやすく」なったのか、例を少し. . . 。
 誤訳部分や、意味の取りにくい表現が正されただけでなく、全体にすっきりした文章に直されていることが、お分かりいただけると思います。
 (はじめての方は、一昨年(03年)取りあげた、『800番への旅 *』、『ティーパーティーの謎 *』へのもろもろと、合わせてお読みください)。


* まず、作者のカニグズバーグ自身も、大好きな作品だという『800番への旅』から. . . 。

 キャンピングカーのフロントウインドーの外をみたら、アーメッドの後ろ姿がみえた。目の前にしっぽがゆれている。ラクダの最後部をみてドキドキするのなんて、異性のラクダだけ、発情期の異性のラクダだけだよ。ラクダっていうのは、これまでこの世に創りだされた獣のなかで、いちばんみためが悪い。恐竜だって、かっこいいとはいえないけれど、まあ堂々としてるよ。意味もなくかさばってたんだろうし、やっぱりまぬけだったんだろうけど、でも、みためはまがぬけてなかったはずだよ。とにかくアーメッドの後ろ姿ときたら、これがいちばん問題なんだけど、はげてるんだ。(旧版 P.36)
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*  キャンピングカーの前の窓から外を見たら、アーメッドの後ろ姿が見えた。目の前でしっぽがゆれている。ラクダのおしりを見てわくわくするなんて、異性のラクダだけ、発情期の異性のラクダだけだ。ラクダっていうのは、これまでこの世に創りだされた動物のなかで、いちばん見ためが悪い。恐竜だって、生き残ることはできなかったけれど、まあ堂々としてる。やたらと体がでかくて、頭もよくなかったんだろうけど、でも、見ためはもっとましだった。とにかくアーメッドのおしりときたら、これがいちばん問題なんだけど、毛がはえてないんだ。(改版 P. 36)


 ぼくは着替えると、すわって後ろの窓から外をながめた。そこからだと、みえるのは州間道路だけだったけれど、後ろ足の股間はみえなかった。(旧版 P.36)
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* ぼくは着替えると、すわって後の窓から外をながめた。そこからだと、見えるのは州間道路だけで、アーメッドの股間は見ないですんだ。(改版 P. 36)


 ……そのあいだぼくは何をやってたのか、説明はできないけど、でもとにかくずっと忙しくしていた。びんをお父さんに持っていって、膀胱を空にしてあげたり、缶入りのチキンスープをのませてあげたり、頭をささえてあげてコークや水をのませてあげたり。昼食がすむころには、お父さんの熱はさがってきたようにみえたんだけれど、四時ごろになってまた、ぐんぐん元の高さにもどったので、ぼくはぬれた冷たいタオルでからだをふきつづけた。(旧版 P.112)
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* ……そのあいだぼくは何をやってたのか、説明はしにくいけど、でもとにかくずっと忙しくしていた。びんを持っていって、父さんのおしっこを取ったり、缶入りのチキンスープを飲ませたり、頭をささえてコークや水を飲ませたり。昼食のあと、父さんの熱はさがってきたように見えたけど、四時ごろになってまた、ぐんと上がったので、ぼくはぬれた冷たいタオルで父さんのからだをふきつづけた。 (改版 P. 112)


「ウッドロー・スタッブス、ずいぶん老けこんだじゃないの。二度目の朝ご飯たべてなかったら、あんたのことまるごと食べちゃうのに。ちょろちょろお毛けの、ひょろひょろ足の獣は、元気にしてるかい? もちろん、アーメッドのことだよ。男の大事な場所の話じゃないよ。」(旧版 P.165)
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*「ウッドロー・スタッブス、ひさしぶりだねえ。二度目の朝ご飯たべてなかったら、あんたをまるごと食べちゃうのに。毛が短くて足の長いあの子は、元気にしてる? もちろん、アーメッドのことさ。深い意味はないよ。」 (改版 P.165 )



*  そして、カニグズバーグ、二度目のニューベリー賞受賞作品『ティーパーティーの謎』からも少々。
 二つ目の例では、原文の"Fact: "のニュアンスとは違う、「実はね」という思わせぶりな表現の繰り返しが、すべて「事実──」に変わっています。そのため、理数系が得意な少年、ノアの、整然とした論理がよく見えるようになりました。


……そしたらお母さんは、こんなことを言った。あんたたちの世代の人間はあらさがしはできるけど、礼状の書き方も知らないんだから。西洋文明がすたりかけてるのはそのせいなのよ。(旧版 P. 12)
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*……そしたらお母さんは、こんなことを言った。西洋文明も、もうおしまいね、あんたたちの世代ときたら、あらさがしはできるけど、礼状の書き方も知らないんだから。(改版 P. 12-13)


 どう考えてみても、おじいちゃんとおばあちゃんに礼を返さなくちゃならない義理はどこにもないよ、とぼくはお母さんに言った。それから、真相を詳しく話した。実はね、ぼくは客として泊めてもらったわけじゃない。ぼくは家族の一員だ。しかも実はね、自分で選んで泊まりにいったわけでもない。しかも実はね、お母さんはエピファニーの住宅を世界でいちばん多く売ったということでクルーズ旅行をもらったんだけど、そのせいでぼくはおばあちゃんちに行かされたんだから。お母さんが、夫つまりお父さんとじゃなくて、ぼくとジョイといっしょにクルーズに出かけてたとしたら、とにかくフロリダに行かされることはなかったんだ。しかも実はね、感謝する義理があるのはお母さんであって、ぼくじゃない。しかも実はね、泊まってたあいだすごくてきぱきとあれこれ手伝ってあげたんだから、おじいちゃんとおばあちゃんたちこそ、ぼくに礼状をだしたいと思っているはずなんだ。(旧版 P. 12-13)
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* ぼくは、お言葉を返すようですが、おじいちゃんとおばあちゃんにお礼なんかしなくてもいいと思う、と言った。そして、ぼくの言い分をのべた。事実──ぼくはお客として泊めてもらったわけではない。ぼくは家族の一員である。事実──ぼくは好きで泊まりにいったわけではない。なぜなら、事実──ぼくを行かせたのはお母さんである。もしお母さんがエピファニーの住宅を世界でいちばん多く売ったごほうびに、クルーズ旅行に夫つまりお父さんとではなく、ぼくとジョーイといっしょに出かけていたら、そもそもフロリダに行かされることはなかった。事実──感謝するのはお母さんであって、ぼくではない。さらに、事実──滞在中、ぼくは見事な手伝いぶりを見せたのだから、祖父母こそ、ぼくに礼状を出したいと思ってるはずである。 (改版 P. 12-13)






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