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カニグズバーグ作品を透して


カニグズバーグへの手紙  ― 続 ―


*  2003年 9月23日未明、 E.L. カニグズバーグから連絡がありました。

  その最初のメールには、8月に出した手紙に対する 優しいお礼の言葉や感想に続いて、「翻訳の質について考慮しようと思う。至急、岩波書店の編集者と自分のエージェントに、あなたの手紙のコピーを送る。」と、書かれていました。

  1930年生まれの、ニューベリー賞を二度も受賞している作家が、海外のどこの誰かもわからない一読者に対し、NYの出版社経由の手紙を受け取ったその日に返事をする. . . 。
  ほんとうになんて素敵な人なのだろうかと、胸がいっぱい. . . です。

  以下は、E.L. カニグズバーグ本人と彼女のエージェントに宛てて送った二通めの公開書簡です。

  それにしても、この英文を書くのに1週間。 はぁ . . .  休憩。で、日本語にするのにも1週間。 ふぅ . . .  休憩。 なんだって、こんなにスローなんでしょ?   カタツムリやみぃと呼んでください。^^

  また、岩波書店に宛てたメール(8/7)や、それに対する回答? の様子なども、下の方に注釈として載せています。



* * *

The Second Letter to E.L. KONIGSBURG」より

2003年 9月29日

エレイン・カニグズバーグ様

  お返事、ほんとうにありがとうございます。
  これほど心のこもったお便りをいただけるなんて、予想もしていませんでした。 いいえ、ほんとうは心の奥の方では期待していて. . . でも、その気持ちは抑えていました。あなたからのお返事がどのようなものであろうと、約束(夢)は果たさなくちゃ、と考えていました。
  なので、お便りを拝読したときには、嬉しさのあまり声も出せませんでした。

  今日は、WEB上で展開している「素敵な本」の実現のための小さなキャンペーンについてご報告させてください。この試みは「E.L. カニグズバーグをめぐる冒険」と名付けられ、すでに18ページ -- 最初の手紙の16倍ほどの長さ -- が出来上がっています。私は、そのWEBページに、あなたの作品やその日本語版についての様々な文章を書きました。
  おかしく聞こえるかもしれませんが、私にはこのコーナーを作る必要があったのです。

  6月. . . 。 「岩波の子どもの本なんだけど、日本語が変で、なんかみすぼらしい! 」と友人たちに話してみました。でも、誰一人、私の言うことを真に受けてはくれません。
 * そんなのあり得ないよ。やみぃ、神経質になりすぎなんじゃない?
 * どんな翻訳書にも、幾つかの誤訳ってあるよ、ね?
  友人たちの言いたいことはわかりました。彼らは(それまでの私と同じで)活字というものを信じていたし、次のように考えたのです。
1.  岩波書店は由緒ある出版社で、とくにその日本語の辞典や児童向き図書で有名である。
2.  E.L. カニグズバーグは著名な作家 (ニューベリー賞は日本でもよく知られています)だから、どんな出版社も彼女の作品は重んじるはずである。
3.  児童文学は、読みやすい。語彙も限定されている。したがって、それを目に余るほどのひどい日本語にできるわけがない。etc.
  それで、友人たちは結論したんです。「やみぃ、そんなのって、あり得ないよ。」

  けれど、私が、邦訳の中のいくつかのフレーズや文章を電話口で読みあげると、彼らはすぐに事態を深刻に受け止めはじめました。
 (今ではみんなが、私のキャンペーンを応援してくれています。)


  7月. . . 。 私は考えました。
  最初は友だちさえ信じなかったくらいだもの、出版社は私のリクエストなんか認めないかもしれない。一介の読者からのメールや手紙など重要でないとして、捨て置かれちゃうかもしれないなぁ。(案の定、今のところ 〈9/29 現在〉 岩波書店からは何の回答もありません。 → 注1
  たとえもし、ミセス・カニグズバーグが私の手紙を理解してくれたとしても、出版社はきっと彼女に言うに違いない。「この人物は、ごく稀にみる"あら探し"好きの読者なのです。あなたの作品は高く評価されていますし、実際に多くの部数が出ています。」と. . . 。その局面では、私の声は弱すぎる. . . 。 どうしよう?  どうしたら、この事実をしっかり認識してもらえるだろうか?


  私はすべての見解や懸念をWEB上で公開することを思いつきました。
  そして、多くの事実を並べ立てて自説を例証していきました。
  あなたのオリジナルと岩波版の文章を比べて、原文がどれほど素晴らしいかを明らかにしています。(ただしプロットは決して明かしません。^^)
  岩波書店と佑学社の日本語も、詳細に比較しました。

  ハードカバーの作品集に解説を書いている人たち ― 児童書、精神医学、文学などの権威たち― にも疑問を投げかけました。(解説文はどれも非常に優れています。彼らはあなたの作品をそれぞれ深く理解しています。でも、それならばなぜ、本文の杜撰な日本語をよしとしているのか? きっと声に出さず「速読」をしているのでしょう。あなたの物語は、面白すぎて、大人にはのんびり読むのは難しいですし。このことが、彼らが誤謬を見逃してしまう理由ではないかと、私は思います。それで、一つ一つの作品を声に出してゆっくり読んでほしい、子どもの立場になって見直してほしい、と皆さんにお願いしました。)

  それから、"The View from Saturday" の日本版「ティーパーティーの謎」について、そのぎこちなさを指摘しているウェブサイトを紹介し、最近の岩波の仕事に対して異議を唱えているは、私だけではなく、児童書のプロフェッショナルの中にも同じように感じている人たちがいる、ということを示しました。

  また、あなたに宛てた私の最初の手紙も訳して載せました。この手紙こそが、「カニグズバーグをめぐる冒険」のもっとも大切な要素だと判断したからです。

  私の手紙には、メリーランド州に住む親友の Beth Baruch Joselow が、手を入れました。私は英語があまりうまくないのです。(謙遜家でもありません。^^) 外国人ですし、英語を勉強中の生徒ですから、上手じゃなくて構わないと思っています。 それに、あなたが、私の言葉の間違いなどは大めに見て、言わんとすることを理解してくださることは、知っていました。英語圏の友人たちが皆そうしてくれるように. . . 。 けれど、手紙はいずれ公開されることになるかもしれないと考え、ベスに添削を依頼しました。(注2
  同様の理由から、私の文章の中のすべての試訳は、やはり良い友人である原信田実さんにチェックをしてもらいました。

  ほんとうに、友人たちのほとんどが私のことを支えてくれています。
  彼らの助けによって、「カニグズバーグの物語には良質の日本語がふさわしい」という私の訴えは、説得力を持つことができました。


* * *



  そして今では、これまで面識のなかった多くの人たちも、この冒険を応援してくれています。(もちろん中には、私のことを "生意気なやつ" と見なす人もいますが。^^)

  皆さんからの言葉は. . . たとえば、
* やみぃさん、もし署名を集めるのなら、絶対にサインするからね!
* あなたの勇気に感動しています。がんばって. . . 。
* ときに人は、本当に大切なものを守るために、闘わなければならないのですね。あなたが日本語を大事にされていること、よく解ります。
* 世界を変えることは簡単じゃないけれど、続けてください。子どもたちのために。
* カニグズバーグって知らなかったけど、好きになっちゃった。めっちゃ応援してる〜!
* やみぃさんの試みは、ロビン・ギルの「誤訳天国」を彷彿とさせます。
* 非常に鋭い批評眼を持っていらっしゃる。これはまさに一つの快挙です。
  (ミセス・カニグズバーグ、あなたの作品にまつわることは、ありとあらゆる種類の反応を引き出しています。私の不注意による誤字・脱字の指摘から、それぞれの淋しい子ども時代の物語まで. . . 。 いったい何が、それほどに人々の心を動かすのでしょう?  不思議です。)


  皆さんの意見や感想を聞けることを、ほんとうに嬉しく思います。でも同時に、あまりに多くのコメントを受け取ることで、私はひどく混乱しました。それぞれの関心に対してどうお返事していいのか分からなかったのです。. . .  けれど、次の二通のメールを受け取ったとき、私は自分が望んでいることを思い出しました。

* 英和辞典を道連れに、"Journey to an 800 Number" (邦題:『800番への旅』)の世界を旅してきました。良かった。実に心温まる物語ですね。ラストシーンでは不覚にも泣けました。・・・ あなたとこの作者は似ているような気がします。二人のあいだには何か共鳴しあうものがあるのでしょう。形容しがたいのですが、優しく、誠実で、誇り高い。あとは遊び心、それとも茶目っ気とでも? そうしたものが混じり合った心性とでも呼ぶべきものが通じ合っているように思うのです。
  カニグズバーグ氏は、子どもだったことを忘れないのですね。そしてまたあなたも。


* 昨夜、"T-Backs, T-Shirts, Coat and Suit"(『Tバック戦争』)を読み終えました。 クロエ!  なんと愛らしいお話でしょう! 大切なことを思い出させてくれました。ほんとうに素敵でした。・・・ そして、なぜやみぃさんがバーナデット(彼女って作者自身ですよね)のことをお好きなのか、なぜ私が、病気でもないのにあなたの「がんの戸棚」が大好きなのかわかりました。どちらの文章も愛に満ちているし、根底に普遍的な真実のようなものが流れているんです。
  どこの国で生まれようと、共通の「心の言語」で話せる人っているんですね。
  E.L.カニグズバーグは、私にとってもかけがえのない作家になりました。繊細で行き届いた翻訳が必要ですね。できる限りお手伝いしたいと思います。

  ミセス・カニグズバーグ、私はもう、たった一人の反乱者ではないみたい、です。
  あなたの本をめぐって始まったこの冒険は、すでにたくさんの素晴らしいものを与えてくれました。あなたと、あなたの物語の主人公たちに重ねて感謝します。

  来年2月にアメリカで発売される最新作を楽しみにしています。 "The Outcasts of 19 Schuyler Place"(邦題未定)、素敵なタイトルですね。Outcasts(見捨てられた人々、追放人)という言葉にとても惹かれます. . . 。
  どうか、日本でも、あなたの新作が、限りなく美しい本として出版されますように、そして、すでに出版された日本語版のうちの何冊かは改訂がなされますように、願っています。

愛を込めて  
やみぃ  

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Yummy's Attic
* * *

 注1:

  2003年 10月1日、岩波書店の編集部から一通のメールが届きました。
  私が 8月7日に「愛読者の窓」から 児童書編集部へ送った短いメール(注3)に対してのもので、

お返事申し上げるのが大変遅くなり、申し訳ございません。
ホームページも、拝見いたしました。
具体的なお返事については、もうしばらくお時間いただきたく存じます。

  という内容でした。

  岩波書店宛てのメール(8/7)や手紙(8/13)には、名前と住所・メールアドレスだけで、サイトのURLは載せませんでした。(まだ、このコーナーは無かったですし。^^)
  だのに、編集部の方がここのURLをご存知だということは、やはりカニグズバーグご本人から連絡が入ったからかな?   それとも、皆さんの中のどなたかが、ご連絡くださったのかも♪ (感謝です。)



 おまけ: 岩波書店への返信メール(10/2) より

Sent: Thursday, October 02, 2003 8:42 AM

・・・ 岩波書店の児童書からも、どれほど夢を与えてもらったことでしょう。一冊一冊の「本」が届けてくれる夢や知恵やあたたかさが、私の現実の世界をも大きく広げてくれたと思っています。
・・・ カニグズバーグ作品に限らず、皆さんが素敵な本を作り続けてくださることへの期待と願いなのだと受けとめていただけたら. . . と、祈るような気持ちでいます。

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 注2:

  文中にあるとおり、カニグズバーグへの手紙は、友人のベスに直してもらいました。
  でも、添削後の英文も、英語らしい英語ではありません。英語を母語としている人々には不自然に感じられる表現がたくさんあるのだそうです。

  ベスいわく:

少し単語やフレーズを変えただけだけど、私が手を抜いたなんて思わないでね。十分に伝わる、というよりも、そのままの方がいいと思う。ノンネイティヴにしか出せない異国情緒と、あなた独自の感じ方が混じったものが、やみぃの英語のよさだから。きっとカニグズバーグさんも、この手紙の中からあなたの魅力を見出して、楽しむことでしょう。

 
  ですから、私の手紙は、正しい英文のお手本には絶対になりません!!  
  だけど、ペッタッピな英語でも、通じる人には通じるということの、また、ヘタッピなところがいいと思ってくれる人がいるということの例にはなるかな?   それにしても異国情緒だなんて. . . 。(笑)

  はじめに ハート*  ありき、みたい. . . です。


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* * *

8月7日に岩波書店あてに送ったメールは、以下のようなものです。

----- Original Message -----
From: "Yummy" <yuyujp@park.zero.ad.jp>
To: <voice@iwanami.co.jp>
Sent: Thursday, August 07, 2003 4:58 PM
Subject: IwanamiReadersVoice (児童書編集部様)

岩波書店、児童書編集部の皆様へ

はじめまして。渋谷と申します。
カニグズバーグ作品集 別巻 トーク・トーク (第2刷)を拝読しました。
   (E.L. カニグズバーグ著  清水真砂子訳 ISBN4-00-115600-8 C8398)

訂正のお願い。

本文の273ページ
・・・ それは私が伝えていきたい文化にとって、どうやって自分が胸をつくるかと同じくらい、大切な、なくてはならないものなのです。
の原文は、
. . . It is as integral to the culture I want to pass down as how I make my brisket. ("TalkTalk"-P.167) です。

「どうやって自分が胸をつくるかと同じくらい」というフレーズは意味がわかりません。
ここでのbrisketは、肉料理のことです。米国の人々はバーベキューの時にbrisket(牛の胸肉)を使いますが、特に、ユダヤの人々にとっては、代々伝わる家庭料理、祝祭料理として大きな意味を持ったお料理です。ですから、ここの訳は、「私のブリスケット(肉料理)の作り方のように、大切. . . 」などにし、註釈をつける等、ぜひ、ユダヤの伝統料理だということが伝わるようにしてください。

また、同じカニグズバーグの、『800番への旅』(岩波少年文庫)も拝読しました。

こちらにも直していただきたい箇所がいくつかあるのですが、かなり長い文章になると思います。Eメールでお送りしてもよいか、それともお手紙で差し上げた方がよろしいか、ご都合をお知らせください。
とても素敵な作品ですので、ぜひ、未来の子どもたちにもずっと読み継がれる図書にしていただきたく、どうかよろしくお願いします。

渋谷 由美
住所、Emailアドレス。

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