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ムーンレディの記憶 E.L. カニグズバーグ 著 金原 瑞人 訳 岩波書店 2008.10.17 |
『ムーンレディの記憶』
「よかった. . . 」
2008年 10月
E. L. カニグズバーグの最新刊 "The Mysterious Edge ……" の日本語版が発売になりました。
タイトルは、『ムーンレディの記憶』
前作にひき続き、金原瑞人さんの翻訳です。
きびきびしていて. . . 深くて、せつなくて、ユーモラスで. . .
胸が苦しくなるほど、すてき。
本の帯に、
"この『ムーンレディの記憶』はひとつの銀河系のように大きく、時間と空間を超えて広がっている"
という訳者あとがきの抜粋がありますが、そのとおりだと思いました。
読み終わって、長いため息。
こんなに、ほっとしたのは、久しぶり . . . のような。 ^^
これは、前作の邦訳 『スカイラー通り19番地』の読後感ですが、こんども、まったく同じ. . . 。
主人公・アメデオ(アメディオ)のちょっと "頭でっかち" な可愛らしさや、ウィリアムの "小さなエルヴィス(プレスリー)" みたいな感じも、すうっと伝わってきます。
日本では馴染みのない事柄がベースになった言葉遊びやジョークの置き換えも、自然で絶妙。
装丁も、おしゃれです。かつ、パワフル。帯のコピーは、
「その絵はひとりの命を奪い、そしてひとりの命を救った」
その帯とカバーを外すと、もう一度しみじみしちゃう仕掛けだったり. . . ♪
小さい人たちにはもちろん、大人のかたにも、「カニグズバーグって何 ? 誰 ?」というかたにも、おすすめしたい一冊です。
オリジナルを何度も読んでいるので、邦訳に「あれ ?」と感じた箇所は、もちろんいくつかあります。けれど、原書で泣いちゃうのと同じところで涙があふれてくることが、わたしには何よりもうれしいし、一番大切なこと。 なので、こまごまとした疑問は、いずれ単語集の余白にでも。
というわけで、このページには、小さな「あれ ?」を一つだけ。
『ムーンレディの記憶』の訳者あとがきには、次のように書かれています。
――この密度と迫力は、いままでのカニグズバーグにはなかった。…(中略)…そろそろ八十歳になろうというカニグズバーグが、それまでの枠を大きく破って、これほど新鮮で力強く、読みごたえのある作品を書いてくれるとは、いったいだれが予想しただろう。心からの拍手を送りたい。――
「新鮮で力強く、読みごたえのある作品」には大賛成。
でも、「いままでのカニグズバーグにはなかった」「それまでの枠を大きく破って」というところには、(そうかなぁ… ? )なのでした。
最新作をつねに最高作、と思わせるカニグズバーグのちからには、わたしも毎回驚かされます。(ほんとうに、いつもビックリ!)
ですから、わたしも " The Mysterious Edge of the Heroic World " をカニグズバーグの最高傑作と呼びたい。けれど、そのすばらしさは、「それまでの枠を大きく破って」というよりは、原書の感想でもふれたように、やはりカニグズバーグが「満を持して」作りあげた世界だと思います。
最新作が、"密度と迫力" に満ちていて、"ひとつの銀河系のように大きく、時間と空間を超えて広がっている" のは、まごうことのない事実。
でも、その作品が、これまでの作品群と、輪のように重なりつながって、銀河系をも内包する、大きな大きなひとつの宇宙を作っていることも、感じないではいられません。
たとえば、大好きなクローディアやジェニファーが、いつも心の中にいるような読者には、その宇宙が、きっと見えているだろうと思います。
そう. . . 短編集『影−小さな5つの話』も、"ほんとうはひとつの話" だと感じとった人たち、『スカイラー通り19番地』で、塔のことばを外国語のように聴いた人たちにも、きっと宇宙は見えるはず。
そして、『ムーンレディの記憶』を読んで、ジェイクという名前にちょっぴり胸が痛み、マーガレットは元気だろうか、と思うような人たちにも……。
原書のペーパーバック(廉価版 約¥764 )の刊行が、2009年3月に決まりました。英語でも読んでみようかなとお考えで、まだお求めでないかたは、ぜひ。
それまでには、遅れてばかりの単語集も、最終章までたどりつけるようにしたいと思っています。
これからもときどき、お遊びにいらしてください。
"人の90パーセントは目に見えない。
人間というものはもっと見えているつもりかもしれないけれど、
10パーセントしか見えていないの。"
" Ninety percent of who you are is invisible."
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