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 テキスト:『スカイラー通り19番地』 (金原瑞人訳 / 岩波書店 / 2004. 11. 25)
英語版:"The Outcasts of 19 Schuyler Place"(2004. 2. 10) ペーパーバック版 (05.12)
エリコの丘から』(金原瑞人・小島希里 共訳 / 岩波書店 / 2004. 11. 16)
英語版 :"Up from Jericho Tel " ('86年作品)Aladdin Paperbacks



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ビタースイート・クリスマス
Bittersweet Christmas
2004. 12. 19 (12/24 補筆)

カニグズバーグ -- 『スカイラー通り19番地』

スカイラー通り19番地』 (金原瑞人訳)
原書 ペーパーバック版

 * 11月25日、カニグズバーグの最新作、『スカイラー通り19番地』が発売になりました。

  「よかった. . . 」
  読み終わって、長いため息。
  こんなに、ほっとしたのは、久しぶり . . . のような。 ^^
 
  みずみずしい翻訳です。
  主人公のマーガレットをはじめ、登場人物一人一人の魅力も、ストーリーも、わかりやすいです。レイアウトや表紙の絵も、原書の雰囲気そのままでとてもきれい. . . 。
  原書を読んで、私は、マーガレットに、冬の雑木林の中を歩くみたい ― パシパシと音がしそうな12歳、というイメージを持っていたのですが、邦訳からも、よく似た女の子の姿が浮かんできました。
  『スカイラー通り19番地』 ── 翻訳作品としての"完成度" は、高いと思います。〈注1
  カニグズバーグの物語の機微や、深さ、あたたかみも、伝わってきて. . . 。
  それで、私としては、キラキラの星を五つ。 (5/5)






改版  『エリコの丘から』

『エリコの丘から』 (金原瑞人・小島希里 訳)(共訳)


* 『エリコの丘から』の改版第一刷も、やはり11月に刊行になりました。

  先週(12/11)、アマゾンに注文しておいたものが手元に届いたのですが、その読後感をどう言ったらいいのか. . .  迷っています。

  誤訳やキャラクターの読み違いは、このコーナーで例にあげた以外の箇所も、ほとんど直されているようです。また、不自然だった言葉づかい、読みにくかった文章も、大幅に修正されています。
  莫連女みたいだと言われしまっていたタルーラは、気品と美しさをそなえたスター女優として、よみがえりました。
  物語全体も、つじつまの合わないところはなくなったし. . . 。
  ほんとうに、改訂前とは比較できないくらいに、ずっと、ずっと素敵な本になっています。

  けれど、私は、半分しか喜べずにいます。
  『エリコの丘から』には、『スカイラー通り19番地』にある、日本語としてのおもしろさや、心地よいリズムが、不足しているような気がします。
  たぶん、新しく修正した部分も、もとの文章のトーンに合わせているせいで. . . 。


  それにしても、これまでの文庫や作品集第6巻を持っている人たちは、本を買い直してまで、改版を読んでくれるでしょうか。全国の図書館や小・中学校の図書室の司書さん、また家庭文庫の主宰者の皆さんは、改版のことをご存じでしょうか。作品集のほうは、いつ直されるのでしょう ?  ― 気掛かりが、いっぱいです。


  気になることを、もう一つ。
  改版 『エリコの丘から』からは、旧版や佑学社版〈*〉にあった「クローン」という言葉が、一つ残らず消えていて、「グループ大好き生徒」とか「リネットの仲間」などの言葉に置き換えられていました。
  どうして ?
  私は、主人公ジーンマリーの使う "クローン"という言葉は、この物語の大事なキーワードの一つだと思っているので、とても残念です。


*  11月13日に届いた、岩波書店からのお知らせには、

「このかん、私どもでは、カニグズバーグの三作につき、新たに金原瑞人氏の協力を得て、テキストをすべて見直し、改訳作業を進めてまいりました。
今月、ようやく岩波少年文庫『エリコの丘から』の改版が、金原瑞人・小島希里訳として、刊行の運びとなりましたので、ここにお知らせ申し上げる次第です。
また、『ティーパーティーの謎』『800番への旅』の岩波少年文庫につきましては、現在作業中で、来春をめざして同じように改版を刊行するべく準備を進めております。」 〈注2
  と、ありました。
 「同じように」という表現からすると、あとの文庫二作品にも、金原瑞人さんが「修正」を加えるということのようですが、金原さんには(編集の皆さんにも)、これまでの訳文に囚われずに、原文の香りのただようような翻訳を. . . とお願いしたい気持ちでいっぱいです。


―2004年 12月19日  やみぃ







* 注 2  引用は、2004年11月13日、岩波書店児童書編集部より届いた書状から抜粋したものです。


* 注 1 星 5つについて. . . 。

  これは、『スカイラー通り19番地』の金原瑞人さんの訳文に、「うーん?」と思うことが、まったくないという意味ではありません。

  たとえば、" no more (もう二度とない、終わった)" という言葉が7回出てくるところで、ぜんぶの "no more" が
◆ 「バイバイ」、「バイバイ」「バイバイ」 …… (P. 73)

  になっているのなど、私は好きではなく. . .
  次のような箇所でも、
◆ その粉は「ファリーネ」(イタリア語で「小麦粉」のこと)と書かれた缶に入っていたけれど、私には小麦粉に見えた。 (P. 184)

  このカッコ内注釈は、ページの終わりか、章の終わりに置いてほしかったなぁ. . . と感じました。
  あと、原文の楽しい部分(「アン・ブリンは首がない」etc.) が、なくなっていたりするのも、とても残念. . . 。

  でも、上の例などは、個人的好みの問題か、些細なことの範疇に入るんだろうと思います。──物語の流れを壊すほどのことじゃないし、読者の作品理解を大きく妨げるものでもありません。
  そうしたことと、翻訳作品としての「完成度」の問題とは分けて考えたいし、また、その姿勢や基準は、すべてのカニグズバーグ邦訳 ──松永訳、岡本訳、小島訳、清水訳、金原訳── に対して一定であるべきだと考えています。どうぞご理解ください。


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『スカイラー通り19番地』 原書

I thought about Joan of Arc (but not her fate) and Anne Frank (but not her fate either).
As soon as I had a plan, I was ready to change history.  

"The Outcasts of 19 Schuyler Place" (P. 164)
ペーパーバック版は、アマゾンで、2005年12月末に発売予定。


メリー・クリスマス & ハッピー・ハヌカー!

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