アルコール依存症のこと、少し Vol. 8
〈 アビーへの手紙 3 〉 ─2007. 9. 04
アル症 映画 ベスト10
アルコール依存症と映画
この夏は、アルコール依存症にまつわる映画を、ビデオやDVDで少しずつ観ていた。
お酒のボトルやグラスが大映しになるシーンも、ひと頃よりずいぶん怖くなくなった。お酒、イコール「すぐ飲みたい、すごく飲みたい」ではなくなってきているみたいだ。
でも、それ以上に、Tさんに "スポンサー" になっていただけたことが大きいな。
このスポンサーというのは、アルコール依存症者の自助グループ「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」で、新米の相談にのってくれる上級生のような人のこと。──名づけ親や保証人的な存在とも言えるかもしれない。飲まない一日を重ねていくための心のよりどころだ。
(もしものときは、Tさんにメールさせてもらおう. . )
そう思うだけで、ホッとして心が凪いでくる。もちろん、いままでだって、「危なくなったらいつでも電話して!」と言ってくれる友人たちに、わたしはずっと甘えてきたのだけれど. . . スポンサーとの関係は、そうした友情に、なにか「契約」のようなものを足したみたいな感じだ。
あるテーマに沿って映画を観るのは、生まれて初めてのことで、とてもおもしろい♪
でも、ときどき、映画としての好き嫌いと、アル症の当事者としてどうとらえるかのあいだで、気持ちが揺れる。依存症の定義についても. . . 。
アメリカやイギリスでは、たまの飲酒で酩酊して、暴力的になったり、人にからんだり、セクハラしたり、記憶をなくしたりする人も、いまやAlcoholic、Alcohol Abuser と呼ばれている。たしかにそうなんだけど、酔っぱらって騒いだり、ちょっと羽目をはずしたりするのとの線引き. . . 難しいなぁ。
日本の人が書いた映画評や解説で、元アルコール依存、元アル中という表現を見かけるたびに、「主人公は何年かやめてるだけで、"元" じゃないんだけど」と思ったり. . .
――いろいろけっこう忙しかった。(笑)
いま一番のお気に入りは、サンドラ・ブロック主演の「28 DAYS」。
あと、「チェンジング・レーン」もいいな。
どちらでも、AAの "小さな祈り" や One day at a time (一日ずついきましょう)といった言葉がナチュラルに使われていて…… 観るたびに、誰かに肩をそっと抱かれているような気がする。お酒じたいを悪者にしてないところもいい。
というわけで、以下、アル症映画. . . 勝手にベストテン♪
(自助グループが出てくる作品には、〈AA〉と記します。)
Yummy's Movie Review as an Alcoholic
どの映画にも、飲酒や喫煙のシーンがたくさん出てきます。
お酒やたばこをやめられたばかりのかたはご注意ください。
28 DAYS
◇ 「28 DAYS(デイズ)」★★★★★〈AA〉 00年(米)/ ベティ・トーマス監督
アルコール(+鎮痛剤)依存症のグウェン(サンドラ・ブロック)が、リハビリ施設に4週間、収監(? )されてしまう、ちょっと妙で、すごく愉快であったかな映画。離脱のときの、サンドラの手の震えが上手(=わたしのとそっくり)で、びっくり。
よく考えるとせつない場面も多いのに、コメディー仕立てで、終始笑えちゃうのがうれしい。
グウェンの姉役のエリザベス・パーキンスをはじめ、スティーヴ・ブシェミ、ヴィゴ・モーテンセン. . . 出てくる人出てくる人、もう全員が素敵! セリフもお洒落で、スザンナ・グラント(*1)の脚本は、最高にチャーミングだ。
こんなにいい映画が、なぜ日本では劇場未公開だったんだろう? サンドラ・ブロックの映画では、「あなたが寝てる間に」(*2)と並ぶぐらいの傑作だと思うのに. . . 。
とにかく、わたしの"見て見て病" 全開の一編です♪
* 「28 DAYS」の中のステキな言葉は、次のページでどうぞ。→ 28 Days More.
Changing Lanes
◇ 「チェンジング・レーン」★★★★☆〈AA〉 02年(米)/ ロジャー・ミッチェル監督
うわわわ。息もつけないサスペンス。派手じゃないのにハラハラしどうし。アル症の保険屋ドイルに、サミュエル・L・ジャクソン、対立する若手弁護士にベン・アフレック。女優陣もゴージャス。そして、ドイルのAAの"スポンサー" に、ウィリアム・ハート♪ 三度きり出てこないけれど、彼はドイルにとっても、この映画にとっても、とても大きな存在だ。
最後に、「やっぱり人間っていいな. . . 」と、深呼吸♪
◇ 「失われた週末」★★★☆ 45年(米)/ ビリー・ワイルダー監督 The Lost Weekend
60年以上昔、初めてアルコホリズムを真摯に取りあげた、勇敢な金字塔的作品。a drinker(飲む人)とa drunk(飲まれる人)の違いがよくわかる。いま観ると、ラストが楽天的にすぎる気はするけれど、演出はさすがはワイルダー監督、小道具の使い方一つからして. . みごと。
◇ 「酒とバラの日々」★★★★★〈AA〉 62年(米)/ ブレイク・エドワーズ監督
あまりにも有名な、美しい不朽の名作。(詳しくは、昨年の感想(Vol.3)をご覧ください)
When A Man Loves A Woman
◇ 「男が女を愛する時」★★★〈AA〉 94年(米)/ ルイス・マンドーキ監督
この手のメロドラマ風味. . . どうにも照れてしまう。でも、アル症の妻(メグ・ライアン)が、お酒を飲まないと不安でしかたなくなっていくさまや、彼女のAAで知りあった友人に、夫(アンディ・ガルシア)が嫉妬してしまう様子. . .そして、アル症に限らないけれど、病者に寄りそう家族にもサポートが必要だということなど、とても丁寧に描かれていて、感謝!
◇ 「アンジェラの灰」★★★★☆ 99年(アイルランド・米)/ アラン・パーカー監督 Angela's Ashes
大恐慌の1930年代。アイルランドの貧しい家庭で育つ少年フランクの物語。
プライドばかり高くて、どうしようもない人だけれど、どこかほっておけない感じの、魅力的な "アル中" とうちゃんをロバート・カーライルが好演。「反則じゃん!」とふくれつつ、見とれてしまう。^^
雨のシーンと、子どもたちのたくましさ、したたかさに、胸がキュン♪
Leaving Las Vegas
◇ 「リービング・ラスベガス」★★★★ 95年(米・英)/ マイク・フィギス監督
"死ぬために" ひたすら飲み続けるベン(ニコラス・ケイジ)と、寄る辺なき娼婦サラ(エリザベス・シュー)のはかない恋。――エロティックで、わたし好み。だけれど、末期的アルコホーリクは絶望に淫し死さえも抱きしめてしまう. . という救いのないお話ゆえ「誰にでもおすすめ」はできない。
原作者のジョン・オブライエン自身もアル症で、この作品の映画化が決定した二週間後(94年4月)、短銃で自殺。33歳だった。そのため小説『リービング・ラスベガス』は、彼のsuicide note (遺書)とも言われている。妹の作家、エリン・オブライエンによれば、ジョンは何度も、お酒をやめて生き直そうとしていたのだそうで. . . いっそう哀しい。
◇ 「ニル・バイ・マウス」★★★★ 97年(英)/ ゲイリー・オールドマン監督 Nil by Mouth
――愛された記憶のない男は、愛し方を知らない。
ゲイリー・オールドマンが父親の"思い出"に捧げた、自伝的・初監督作品。音楽はエリック・クラプトン。
南ロンドンの下町で酒とドラッグに明け暮れる人々の暮らしが非情なほどリアルに描かれている。DV(アル症の夫が妻に暴行を加える)等、陰惨なシーンが延々と続く。でも、ラストシーンはちょっぴり微笑ましく. . . 監督オールドマンの「祈り」そのものに感じられる。
ちなみに、オールドマン、クラプトンともにアル症で、AAメンバー。(*3)
◇ 「砂と霧の家」★★★★ 03年(米)/ ヴァディム・パールマン監督 Home of Sand and Fog
アル症の"美女"と、イラクからの移民家族が織りなす人間模様。一軒の家をめぐって引き起こされる悲劇。ジェニファー・コネリー演じる孤独なヒロインは、鬱傾向の強い人+アルコールの一つの典型だと思う。
苦しくてやりきれないエンディング。だのに、なぜだろう? 透明な、しみじみとした感慨が心に残る。
My Name is JOE
◇ 「マイ・ネーム・イズ・ジョー」★★★★〈AA〉 98年(英)/ ケン・ローチ監督
AAのミーティングの自己紹介で始まる映画。ろくでなしのジョー(ピーター・マラン)は断酒して10ヶ月、失業中の若者を集め、サッカーのコーチなんかしている。ようやく立ち直りかけて、優しい恋人もできた矢先、またしてもトラブルを起こしてしまう。
My name is Joe. . . という冒頭のミーティングシーンに、何度でも戻っていきそうな映画。「もうやだ、ジョーの馬鹿〜!」とひどく腹を立てながらも、ジョーを嫌いにはなれない。わたしの気持ちも行ったり来たり. . . 。
もしや、このエンドレスな感じがケン・ローチのねらいなのかもしれない。
「人生は、映画みたいに二時間じゃ終わらないのさ. . . 」とか!?
Anyway. . . One day at a time. . .
こうした映画の中の誰かが、また別の誰かのアビー・ロックハートになってくれたらいいな. . .
夏の終わりに、心から願う。
*:;;;:*゜。+☆+。゜+*:;;;:*:;;;:*゜。+☆+。゜+*:;;;:*:;;;:*゜。+☆+。゜+*:;
注
*1 スザンナ・グラント
――「エリン・ブロコビッチ」や「イン・ハー・シューズ」の脚本も手がけています。どの作品にも、がんばって覚えちゃいたいぐらい、ごきげんなセリフがいっぱい。
とくに「イン・ハー・シューズ」では、妹のマギー(キャメロン・ディアス)の抱える学習障害が、ディスレクシアや計算LDで. . . わたしのとよく似ているので、めっちゃ親近感♪ ――繰り返し観たくて、「28DAYS」と一緒に今回DVDを買いました。 *5
*2 「あなたが寝てる間に…」
――サンドラ・ブロックの95年のクリスマス・ラブ・コメディ。共演は、ビル・プルマン、ピーター・ギャラガーetc.
こちらの写真は、先日、ビデオの棚の奥から出てきた10年前のノートの切れはし。「あなたが寝てる間に…」のタイトルロールの文字があんまり綺麗だったので、真似して書いたもの。
なんだか懐かしくて、ついでの "見て見て病" です。(*⌒―⌒*)♪
*3 エリック・クラプトン
――自らの経験をもとに、98年、カリブのアンティグアに「クロスロード・センター」(アルコール・薬物etc.依存のリハビリ施設)を設立。
http://crossroadsantigua.org/website/index.html
ここを退所できるまでに回復できた患者さんには、AAなどの自助グループ "12-step recovery groups" で、続けていくことを勧めるそうです。「28 DAYS」で、サンドラ・ブロックが行くのも、こんな自然がいっぱいの施設でした。
*4 上記の映画には、アルコール依存症からの回復がテーマのもの、アル症者を描くことで現代社会の病理を浮き彫りにしているものなど、いろいろです。たとえば、「砂と霧の家」などは、アル症がどうこうというよりは、9.11 以後の暗く、よりどころのない気分がテーマかと。実際に、悲劇を誘発するためには、美貌のヒロインにイノセントな魔性と錯乱が必要で、だから彼女に再びお酒を飲ませました、みたいに見えなくもない。でも、その描き方が上手なので、リアリティがあって、ほんとうに鳥肌がたってしまいます。
*5 「28 DAYS」の中の素敵なセリフは、次のページで → 28 Days More.
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Maybe. . . Abby says, "Pay it forward. . ."
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