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小枝

アルコール依存症のこと、少し Vol. 7
Vol. 6 *  Vol. 8

アビー・ロックハート(Maura Tierney)

 アビーへの手紙 2小さな祈り」  ── ── 2007. 6. 22


 2005年の秋. . . 。
 海外ドラマ『ER』のアビー・ロックハートのおかげで、「アルコール依存症になったらAA(アルコホーリクス・アノニマス)へ」ということは知っていた。──そう、AAは、アル症患者のための自助グループの一つ。
 でも、それが、どんな組織で、日本にもあるのか、「断酒会」と呼ばれるものとはどう違うのか. . . 先に精神科へ行ったほうがいいのか. . . わたしは実際には何も知らなかった。
 それでグーグルで、AAや断酒会について調べてみた。そのとき、見つけたのが次のお祈りだ。

God, grant me the serenity
to accept the things I cannot change,
the caurage to change the things I can,
and the wisdom to know the difference. 

神さま、私にお与えください
自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを
変えられるものは変えていく勇気を
そして、二つのものを見分けるかしこさを (訳者不詳)


「わぁ、なんて素敵. . . 」

 "The serenity prayer"。
 AAのミーティングでかならず唱和されることば。日本では、「小さな祈り」「平安の祈り」と呼ばれているらしい。

(もう、AAに決めちゃお! )
 けれど、精神科のクリニックでは、AAや断酒会には直接関わらないほうがいい、と言われた。がんや白血病の友人たちといることが、わたしの「アル症」のおもな原因だと、ドクターは踏んだようだった。わたしはアドバイスに従った。一理はあると思ったから。
 
 でも、AAにはコンタクトしてみたかった。一人きりで断酒を続けるなんて、わたしには到底無理だと思っていたし、なんだか「お祈り」が気に入っちゃったのだ。〃⌒―⌒〃ゞ

 ちょうどそのころ、友人のKさんから「mixi の招待状」が届いていた。

(そんな会員制クラブみたいなのに入るの、いやだなぁ. . . )
 でも、Kさんが作ったコミュニティとかいうものに、参加者が三人はいないとダメなのらしい。そもそも、彼のことが大好きだから断りたくない。それで、いいわけを考えだした。

(もしかしたら、mixi のなかでもAAの人たちと会えるかも. . . )


 God is good... 
 わたしがmixi に参加して、最初に入れてもらったコミュニティは、AA(アルコホーリクス・アノニマス)。いまも、そこで知りあった人たちは、わたしの大きな支えだ。




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 「小さな祈り」の原作者は、アメリカの神学者、ラインホールド・ニーバー(1892-1971)、というのが現在の定説らしい。──1943年の夏、マサチューセッツ州西部の山村の小さな教会でのお説教がもとになっているそう。
 が、AAをはじめ、いろんな場所で、いろんな形で引用されたために、作者については、長く論争の的になってきた。
 ニーバー自身、そのことばが、誰にどんなふうに引用され、言い換えられてもかまわない、という姿勢だったのだとか。

(なんて雅量のある牧師さんでしょ! )
 と思って、すこし調べてみたら、あちゃ . . . 高名な人だった。

 労働者や移民の人々が置かれた厳しい状況や人種差別に真っ向から反対し、「宗教家にあるまじき、強い社会性・政治性」と、非難も受けたそう。
 第二次世界大戦のときには、ナチスの台頭に "NO ! " と言い続け、祖国の友人、ディートリッヒ・ボンヘッファー(1945年4月、ヒットラーの暗殺を企てたかどで処刑された)の米国亡命の手助けも計画していたのだとか。
 ニーバーは、かのキング牧師や、ケネディ大統領にも、大きな影響を与えた人なのだった。
 

 彼の没後、妻や娘は、「ニーバーの祈り」としては、できれば次のものを、と言っているのだそう. . .

God, give us grace
To accept with serenity
The things that cannot be changed,
Courage to change the things
Which should be changed,
And the Wisdom to distinguish
The one from the other.

神よ、変えることのできない事柄については冷静に受け入れる恵みを、
変えるべき事柄については変える勇気を、
そして、それら二つを見分ける知恵をわれらに与えたまえ。(梶原寿訳)



 AAのお祈りとの大きな違いは……、
 me(私に)の箇所が us(私たちに)なのと、Grace(神の恩寵)の一語があること。そして to change the things I can (変えられるもの)が、things …should be changed (変えるべき…)だということだろうか。
 
 ニーバーの "God, Give us Grace"からは、世の中の不正や不公平をみんなで解決していこうとする、闘う牧師のすがたが見えてくるようだ。

 同時に、「AA」というアル症患者のグループに「小さな祈り」を持ち込んだ創設者たちの英知にも感じ入る。
 ニーバーのことばから、キリスト教色や社会運動的な感じをできるかぎり減らして、多くの人々に──ユダヤやイスラムの信者にも、「神も仏もあるものか」と思っている人たちにさえ──受け入れやすい、簡潔で"個人的な" お祈りにしている気がする。
 だからこそ、それは世界中にひろがり、いまや、ほんとうに多くの、アルコール依存症患者や、その家族や友人(Al Anon:アラノン)を、そして、NA(ナルコティックス・アノニマス:薬物依存症者の会)や、GA(ギャンブラーズ・アノニマス:ギャンブル依存症者の会)の人たちを励ましたり、なぐさめたりしてくれている、と……。


 「ニーバーの祈り」には、いくつか長いバージョンもあるけれど、いずれも、あとで誰かがつけ加えたものらしい。
 ちからのある言葉は、人にイマジネーションを与えるんだなぁ . . 。
 さまざまに変奏されながら、コアの部分はきっと受け継がれていく。


 昨秋(2006年11月)、ニーバーのお祈りをのせて、カードを作った。
秋に寄せて」*1 http://orange.zero.jp/yuyujp.park/autumn02.htm


 冬になり、春が来て、夏が来て. . . もうすっかり季節はずれだけれど、わたしは今もときどき、このカードを眺めてみる。

God, give us grace. . .
変えることのできないものを、受け入れる、静かな気持ち。
変えるべきことは、毅然として変えていく勇気. . .
そして、ネガティヴを抱きとめるちから. . . ♪





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* 注1  「秋に寄せて
 「神さま」という言いかたが苦手なかたは、神々、観世音、おてんとうさま、宇宙の真理. . . ぜひお好きな何か(誰か)を想像しながら、読んで(聴いて)みてください♪




Vol. 6 *  Vol. 8
Pay it forward. . .

Maybe. . . Abby says, "Pay it forward. . ."

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Life isn't a support-system for art. It's the other way around.  
〜Stephen King 〜


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