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いぬいとみこさん と 松永ふみ子さんのこと

『ムーシカ文庫の伝言板 』
いぬいとみこ文庫活動の記録
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2004. 4. 19


*  四月. . .  花束のような「本」が届きました。〈 *1
  お贈りくださった「ムーシカ文庫」の皆さん、そして、いぬいとみこさんと お親しかったすべての方に、ありがとう。



Mixed-Up Notes of Yummy


*  「いぬいとみこ」というお名前から、真っ先に思い浮かべたのは、白い世界でした。
  きっと、『北極のムーシカミーシカ』や『ながいながいペンギンの話』の情景が心に残っていたから。
  双子のこぐまや、トビウオの坊や、小人たちのことは覚えていて、戦争はすごく嫌だと感じたことも覚えていて、けれど、その物語の作者のことを、私は何も知りませんでした。

  乾富子さん(1924−2002)は、1950年に岩波書店に入社し、石井桃子さんたちと共に、岩波少年文庫を編集しました。その仕事の傍ら、あの物語の数々を創作し続け、そして、地域の子どもたちのために、文庫(図書室)を開いていたのだそうです。

  『ムーシカ文庫の伝言板』は、1965年、乾さんが、近所の幼稚園の一室を借りて始めた「ムーシカ文庫」の、22年にも及ぶ活動の歴史(作家・いぬいとみこの "大人に向けた" 文章の数々も圧巻)です。
  それは同時に、「ムーシカ文庫」で、お話を聴くことや、本のページをめくる楽しさを知った、多くの子どもたちの成長の記録でもあり、大きくなった子どもたちから、天国の"いぬい先生"への最高の贈り物. . . 。


  「こんなに豊かで素敵な人たちが、子どもと本とを繋いでくれていたんだ. . . 」

  乾さんが、出版社から印税を前借りして蔵書を揃えたり、立ち退きを命ぜられ、新しい「ムーシカ文庫」のために資金繰りに奔走したくだり、また、病床でなおいっそう物語の大切さに気づいたと書かれているところなど、何度も、胸がキュンとなりました。

  いぬいとみこさんは、こぐまのムーシカにそっくり。そして、「慈愛」という言葉がめちゃくちゃ似合います。



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* 文庫の移転を余儀なくされたとき、本と子どもたちのために、乾さんと一緒に駆け回った人がいました。岩波カニグズバーグの前の翻訳者、松永ふみ子 さんです。
  二人は、預金通帳と自宅を抵当に入れて、一千万円の借金をし、オオカミ原っぱに「ムーシカ文庫」の小さいお家を建てたのだそうです。

  松永ふみ子さん(1924−1987)のことも、私は知りませんでした。

  大学卒業後英文科の先生をしていたこと。結婚して子育てをしながら、また大学へ通い、図書館学やストーリーテリングを勉強したこと。文庫の子どもたちにずっと、読み聞かせ(読み語り)を続けていたこと。そして、いつも朗らかで優しく、妙に照れ屋だったことも. . . 。

  昨年、私は、松永さんのカニグズバーグ作品もすべて読み返しました。
  だから、その日本語のみずみずしさや、松永さんの持つ厳しさや遊び心も、理解していたつもりでした。
  けれど、『ムーシカ文庫の伝言板 』には、私の直感などが追いつけないほど美しい、翻訳家の日常が描かれていました。

  松永さんが亡くなった二年後、乾さんは書いています。

*  松永ふみ子さんは、「子どもの本」もふつうの本も、純粋にたのしみ、愛したひとだった。作品を、その作家の生涯のエピソードや思想そのものと直結させてあげつらうことを、身ぶるいするほど嫌悪したひとだった。 ・・・ (P. 247)

  涙があふれて、止まらなくなりました。
  今では、よく解ります。
  初めて『魔女ジェニファとわたし』を読んだときに感じた「心強さ」は、松永さんの翻訳の力によるものでした。
  その本には、子どもの気持ちを知っている人だけが持つ匂いのようなものがあって、きっと、幼い私はどこかでそれを嗅いでいたのです。
  何かを純粋に愛し、別の何かを体が震えるほど嫌う. . .  私は、松永さんのそうした感じが、カニグズバーグと同じくらいに好きだったのだと思います。そう、ずっと昔から. . . 。


  松永ふみ子さん、クローディアやジェニファを、ほんとうにありがとう。



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* 付記: No more and no less.


1.  『ムーシカ文庫の伝言板―いぬいとみこ文庫活動の記録 』 ―  卒業生の掲示板は木かげの家こちら
  心地よい重さの「本」でした。手にとるだけで、いぬいとみこさんのことを語り継ごうと決めた人たちの、深い想いが伝わってきます。詳しく教えてくださった小松原宏子さん、ありがとう。
  木下惇子さんの「ほんとうはひとつの話」、津田櫓冬さんの「いぬいさんから受けとったもの」をはじめ、心に染み入る追悼文ばかり. . . 。
  ムーシカ文庫の皆さんの温かさが、多くの人たちに届きますように. . . 。

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2.  『ムーシカ文庫の伝言板 』を読んでいて、松永ふみ子さんのご子息が、翻訳家の松永太郎さんだとわかり、私は、またしても椅子から落ちそうになりました。
  松永太郎さん訳の、ケン・ウィルバーの『進化の構造 1. 2』と、ドン・ミゲル・ルイスの『四つの約束』、二年前に友人が薦めてくれて以来、大切にしてきた本だったのです。とても嬉しい偶然. . . 。


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Be impeccable with your words.
Don't take anything personally.
Don't make assumptions.
Always do your best. . . No more and no less.

from "The Four Agreements"
by Don Miguel Ruiz

Yummy's Attic
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