Tallulah says, "If you must complain in public, either be amusing or outrageous."
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6. 蓼食う虫も. . . だけど


* 流行り言葉


* .「うまかったのか?」とお父さんがきいた。
      「ちょーうまかったですよ。でも、なんで?」 (P.24)

"How was the food?" Father asked.
"Excellent," I answered. "Why?" (P.16)

  エクセレントが「ちょーうまかったですよ」だなんて! (泣)
  マックスは上流を気取っている子だし、この場面ではふさわしいとは思えません。── 原文が流行り言葉だったならまだしも。
 そういえば、ほかの作品(『エリコの丘から』や『Tバック戦争』)も、「ムカツク」のオンパレードだったりしてます。

  私は、「イケテル」も「うざい」も「ダサッ」も使います。そんな言葉がぴったりな瞬間があると思うから。同世代の友人には「バイビー」や「ゲロゲロ」だって懐かしさをこめて言ったりもします。でも、未来の子どもたちに手紙を書くとしたら、そうした言葉は使わないでしょう。流行り言葉のほとんどは、すぐに変化するか、いずれ廃れてしまうもの、数年後には笑いの対象にしかならないものだから。
  流行って、「時期や匙加減を間違えたら、ただみっともないだけ」というリスクを承知の上で、"今"の気分を楽しむために取り入れるもの。
  時が経過しても価値の変わりにくい"本" というものの中で、将来の読者のことも考えず、何の必然性もなく流行り言葉を使うのは、どうかと思います。

  ついでに。
  サブリナがマックスに宛てたメモ、 " I like your camel. Sincerely, Sabrina." (P.31) は、 
*「おたくのラクダ、気に入りました。早々、サブリナより」 (P.47)
  になっています。
  10歳の女の子に「おたくのラクダ」と書かせるのには、きっとそれなりの理由があるのでしょう。でも、サブリナも語感やバランス感覚のいい子だから、ちょっとなぁ。マックスは、このメモを見つけて、嬉しそうにポケットにしまうのですし. . . 。



* なんだか恩着せがましいみたい


* ぼくは・・・ずっと忙しくしていた。びんをお父さんに持っていて、膀胱を空にしてあげたり、缶入りのチキンスープをのませてあげたり、頭をささえてあげてコークや水をのませてあげたり。(P.112)

  ご覧のとおり、「あげた」が大活躍. . . 。
  この部分に限らず、単純な「〜した」という動詞に、「あげた」「くれた」という言葉があてられている場面が多く、その印象は、少し恩着せがましいか、お説教くさいかのどちらかです。
  あまり多用すると、「〜してあげる」や「〜してくれる」と表現する以外にない美しい行いが、目立たなくなってしまいます。

  マックスは言っています。 (原文P.68)

〜 ぼくは、ほんとうにありがとう、とロジータに言った。でも、もう一段深い意味のことが言いたいと思った。感謝されて当然なのに、それを求めようともしない、そのことに対する、なにか特別の言葉があったらいいのに. . . 〜




* なぜ謙遜するの?

* 「その学校に行くには、かなり才能がないとだめなんです。」(P.42)

"You have to be very talented just to be allowed to go to school there." (P.28)

  Very talented は、「すごく才能がないと. . . 」の方が自然ですよね。これは、リリーが他人のことを一般論として話している部分です。もちろん、身内のことを話しているとしても、very がついていたら、「ほんとうに才能があるんですの。」でいいと思うけれど。^^


* トリーナはぼくの顔をじっとながめると、またひきよせた。「かなりいい男ね、ウッディー。それに、すっごくまともな感じだし。ゆうれいサリーは、自分がついてるってことわかってないんだろうねえ。」(P.166)

She studied my face, and then she pulled me to her again. "He's right handsom, Woody," she said. "And he looks bloody normal, too. God, that Sally Ghost doesn't know how lucky she is." (P.109)

  何のために、right handsom を「かなりいい男」ってぼやかすのでしょう。right という副詞は、米口語、英俗語で、very と同意です。トリーナはマックスの顔を見つめて、ほんとにハンサムね、とても整った顔だちをしてる、と言っています。


* 「サブリナがぼくにしゃべったわけじゃないんです。ぼくがかってに推理したんですよ。ぼくは、かなり理詰めでものを考える方ですから。サブリナをプールに来させてください、お願いですから。・・・」(P.195)

"・・・ Sabrina did not tell me what was going on. I guessed. I have a very logical mind. Please let her come to the pool. " (P.128)

  ここの very も、かなり。 おまけに ' ホウ' までついている. . . 。 マックスは、何事も率直に言いすぎることが欠点でもとりえでもあるような少年で、その彼が、よりによって、サブリナに会わせてもらえるよう懇願する時に、謙遜するなんて考えられません。

  「サブリナが言ったんじゃないよ。ぼくが、かってに推理したんだ。なんでも論理的に考えちゃうから。 お願い、サブリナをプールに来させて。」 という感じかな?  とにかく、思わず「マックス、がんばれ!」と応援したくなるほど、必死な様子が伝わってくる場面です。




  それにしても、なぜ " very " や" right" が、「かなり」なのでしょう。 もしも、「とても」や「すごく」がうるさいと感じるのなら、何もつけず、「いい男ね」「理詰めでものを考えるから」の方がずっといいと思うのですが. . . 。

  I have a very logical mind.
  英語圏の人たちは、何でも大袈裟に言うから、自己アピールが強烈だから、少し割り引かなければとの配慮でしょうか。
  だとしたら、違うと、私は思います。彼らだって控えめにするし謙遜もします。カニグズバーグは作品の中で、様々な人物の性格や話し方をきちんと描き分けています。上にあげた箇所では、作者が very や right をつけることを選んでいるのです。
  それとも、日本語の文化圏では、こうしたストレートな物言いは読者の共感を得にくい、という考えなのかな。でも、マックスのような子(まだ爪の隠し方を知らない能ある鷹)は、日本にもたくさんいます。親友の子どもの顔を見つめて、「すっごくかわいい」 「めちゃくちゃハンサムね」という女性も、たくさんいます. . . 。


  私は、ファンタジーや外国の物語だからこそ、軽やかにできる仕事があると思っています。
  子どもたちに、「こんなことありっこない」と思わせることなく、世界中の不思議、いろんな人やものの存在や、様々な価値観、そして、普遍や真実を、届けること。それは、海外児童文学の翻訳・出版がになうべき大切な仕事の一つだと. . . 。




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