Tallulah says, "If you must complain in public, either be amusing or outrageous."
HOME > ELK をめぐる冒険 > No.800-もくじ > その5 > Next


5. ああ、神さま!


*BLOODY = くそったれ?

  'Bloody' は、イギリスやオーストラリアの人たちが、くだけた会話の中でよく使う強調語です。カニグズバーグは、この言葉をトリーナの口癖にすることで、彼女の英国人らしさと、豪快で愉快で、気のおけない大歌手、という雰囲気を伝えています。たしかに 'bloody' は上品な言葉ではありません。けれど、いちいち 「くそったれ」や「しみったれ」と訳出するような言葉でもないと思います。
  だいいち、

* 「アーメッドのくそったれなんかよりもずっとかわいがったってことよ。」(P.206)
"Much more than bloody Ahmed." (P.135)

  これでは、どれくらい可愛がったのか判りません。「くそったれ」よりも大事にされなかったら、それこそ最低です。

  日本語では、I にも You にも多くの言葉があてられるし、語尾にも多様な変化がつけられます。その訛りや個性を表現するために、作中人物に「くそったれ」と言わせる必要は滅多に生じないと思います。

  もしも、汚い言葉を使いたいのだったら、次のような箇所ならOKかも。

1. "No pit stops or shit stops, eh?" (P.42)  や
2. "Manuelo just said that you're a asshole..." (P.77) の

'shit stops' や 'asshole' を、「トイレ休憩」や「こん畜生」にせず、「クソ休憩」や「くそったれ」にしたら、原文の強い語気にもぴったりだと思います。^^

  ちなみに、2 の 'asshole'の方の訳は、
  * 「マヌエーロはさあ、あんたのこと、こん畜生だって、言ってたよ」(P.119)
だけど、離れた所でなされた会話の引用なので、「あん畜生」が正解じゃないかしら?    でも、畜生という言葉は動物たちに失礼な気がして好きじゃないので、*「お兄ちゃんは、あんたのこと、ただ、クソ野郎って言ってたよ」 って感じかな?

  とにかく、「くそったれ」も「しみったれ」も、ふさわしい場所で。



*OLD


* 「おまえのおやじさんは、なかなかいいやつだよ。あのおいぼれじいさんをよく世話してやるんだよ、いいかい?」(P.121)
That's some nice guy you have for a daddy. You take good care of that old man now, hear? (P.78)

  お、お、老いぼれ?
  ウッディが病気になった時に、彼を見舞いに訪れた友人たちが、マックスにかけた言葉です。
  なので、このold man は、ご亭主、おやじ、親方、大将、船長など、男性に対する敬称・呼び掛けで、「大将の面倒をみてやっとくれ」とか「おやじさんのこと、よろしく頼むよ」という感じ. . . 。

  典型的な悪役(奴隷商人、悪代官、盗賊、守銭奴など)以外には、初対面の子どもに、その父親のことを「老いぼれ」と言う人など、まずいないと思います。たとえ父親が実際に「老齢」だったとしても。 ましてやウッディの気のいい仲間たちです。 「老いぼれ」はありえません。

  こうした野卑な言葉づかいから、その中にあるいたわりを感じ取れと言うのは、幼い読者には酷なことではないかと思いますが。




* 「ウッドロー・スタッブス、ずいぶん老けこんだじゃないの。」(P.165)
"Woodrow Stubbs, you bloody old fart," she said. (P.108)

  あがー!
  トリーナが、親友のウッディに久しぶりに再会し、最初にかけた言葉です。
  このオールドも、懐かしさや、親愛の情が込められたものでしょう。英国人の友人によれば、old fart は、呼び掛けのold fellowやold chap (やぁ、よう)のくだけた形で、ごく親しい間柄で使われるそうです。「わあ、懐かしい大好きなやつ」という感じでしょうか。

  これも、英語がどうの日本語がどうのではなく、「常識」の問題だと思います。
  それにしても、どうしてウッディのことを、こんなに年寄り扱いしたいのかな?  どう計算しても、まだ40代後半くらい。男盛りなのにぃ. . . 。



*LOVE

  物語の佳境で、トリーナがマックスを呼ぶときの "Love" が、「おぼっちゃん」と訳されています。そのために愛あふれる場面が台無し. . . 。心底、失望しました。

* 「なんのことだい? おぼっちゃん。」
* 「今回、知ったってことなの? おぼっちゃん。」
* 「ウッディーからきいてなかったのかい、おぼっちゃんは。」
* 「ねえ、知らなかったの? おぼっちゃん。」

  深刻な話をしているんです。たとえば、甥っ子に、彼の両親の離婚について話すとき、いったいどこの誰が「おぼっちゃん」なんて呼びかけるでしょう!?


" こんなのって、哀しいね、Love?"

Next


やみぃの屋根裏部屋
Yummy's Attic


HOME > KLK をめぐる冒険 > No.800-もくじ > その5 > Next