カタカナ
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■彼方のラジオ局
 東ティモール[East Timor]の東部ロスパロス[Los Paros]の町に着いた。宿は8$と10$がある。がしかし東南アジアの相場3〜5$を考えれば倍は高すぎる。とりたてて観光資源があるというわけでもないのに、だ。
 交渉を試みたがドミトリーが7$になる程度。あきらめて町中をさまよい、とりあえずの食料と水を買い、屋根のある野宿できそうな場所を探すことにした(一般に野宿は危険。寝袋はバンコク[Bangkok]で売ったのでこの時所持せず)。おにぎり大のパン1個5¢、水50¢(2002年5月20日に独立した東ティモール[East Timor]では暫定通過としてUS$が通用している)。
 夕方になり公園ともいえない小さなスペースでぼーっとしていたボクに声がかかった。
 「どこから来たんだ?」
 「日本」
 「どこに泊まってるんだ?」
 「決まってない」
 「ラジオ局やってるんだけど、ちょっと見に来ないか?」
 こんな所にラジオ局? 首都ディリ[Dili]ですら紛争の爪あとが残りところどころは廃墟ともいえる街並みだ。この何もない町ロスパロス[Los Paros]に放送局など存在するのだろうか? いぶかしく思いながら連れられて行くと、そこにはPCやミキサー、マイク、テープ、MDまで置いてある部屋があった。今は放送していないみたいだが。
 コーヒーをもらいながら、日本語を教えてくれという話になった。一番簡単なカタカナの五十音図を書いてあげることにした。
 
 
 
  
   
 
 あと『N』は1文字で『ン』だ。
 これを見ながら彼らは自分の名前や知っている日本人・会社名をカタカナで紙に書き、大喜びだ。
 NAKATA=ナカタ、YAMAHA=ヤマハ。など
 しかし問題がある。この表だけでは埋まらない部分があるのだ。小さい『ャュョ』や『ッ』などである。重要なのが両国の国名である。苦し紛れにJのジャ行を追加することで、
 JAPAN=ジャパンとできるが、TIMOR=チモルとなってしまう。正確には『ティモール』と教えてあげたいのだが、それを説明するのはかなり難しそうだと判断してやめた。
 日本式の50音順ではなく以下のようなアルファベット順にした方が彼らにとってわかりやすかったのかな? CQVXあたりは難しいけど。
 
 
 
ディドゥ
ファフィフェフォ
ヒュ
ジャジュジェジョ
ティトゥ
ヴァヴィヴェヴォ
   
イェ 
ズィ
 
 その後、夜になり彼らのアジト!へ連れて行ってもらった。コンクリートの床ではあるが布団と毛布もある。赤道直下とはいえ山の上は朝晩冷えるのだ。そのアジトではリーダーの、東ティモール[East Timor]独立までの活動を撮った写真があった。ヨーコさんという日本人もリーダーに共感し迷彩服を着、銃を持ち、共に戦っていたことがあるという。独立の前後にリーダーは日本を訪問もし、東ティモール[East Timor]の現状を訴え、日本には東ティモール[East Timor]の独立を支援する団体もあったという。
 北海道の雪祭りを訪れた写真などいろいろ見せてもらったが、そこに写る日本語は漢字とひらがなばかりで、せっかく書いた表が役に立たず残念であった。
 ちなみにボクがこの国を知ったのは『地球の歩き方』東南アジア編を読んでからで、もちろん独立のことなで全く無関心でその事実すら知らない有様であった。
 
■学ぶ意欲
 ビケケ[Viqueque]へ行っても、カタカナは教育に飢えている子供たちをおおいに満足させた。五十音表はひっぱりだこになり、同じモノを2枚書くはめにもなった。
 彼らは自分の腕や建物の白壁に覚えたての自分の名前をカタカナで書きまくった。乱舞という言葉に近い状態だ。すごい熱意だと思った。
 日本の子供があることを教えられたとして、これほどまでに歓喜するだろうか。日本は情報が多すぎるのだ。覚えなければいけないコトと捨てるべきモノを分けなければいけない。
 この国では学校が機能していない。ボクの見る限り教会で神父がお祈りの歌を教えている程度だ。学ぶことに飢えているのだろう。聡明なリーダー格の少年はすぐにカタカナ50文字など覚えてしまうだろう、スポンジのように。
 それに比べてボクはどうだ? 1年の旅行でやっぱり英語は身につかないし人の名前すら覚えられない。高校3年生のピークを境に記憶力・判断力・集中力・持続力の全てが衰える一方だ。
 この国に必要なのは電気水道道路といったインフラだけど、この子供たちのためにも学校を早く再開してほしい。
 そして彼らが大人になった時にボクはもう一度この国この町を訪れたい(現在の本音:誰がいくもんか)。それは何年後何十年後のことになるかわからないけど。さらに言うならばこの国自体なくなっている可能性もあるのだけど。
 
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