笑顔
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■I never forget your smiling.
 「あなたの笑顔は忘れない」
 とベトナム[Vietnam]のある土産物屋の娘に言われた。どうやら商売上のお世辞ではないらしい。コージくん曰く、
 「良かったね、安住の地見つかったじゃん」
 でも残念ながらボクのタイプではなかったのだ。もう少しベトナム美人ぽかったらその場に住みつき、この文章を書いていることもなかったのだが(当初の予定は安住の地を探しに行くというモノだった)。
 子供の頃からボクは面と向かって会話するのが苦手なコトもあり、その場をつくろいとりあえず悪意がないことを示すために常に笑ってきたつもりだ。要するに主張できない自分をごまかすための手段でしかない。
 高校のサッカー部では、
 「ヘラヘラしてんなよ」「いつも笑ってて何考えてるかわかんない」
 と言われ少なからずショックを受けたコトもあった。自分では『ニコニコ』のつもりであったのだが他人からはしまりのない顔に見えるのだろう。
 タイ[Thailand]のチェンコン[Chiang Kong]の宿で会ったひろ子さんにも
 「入った時から笑ってるんだもん。この人イっちゃってるのかな? 危ない人って思った」
 などと言われる始末だ(チェンコン[Chieng kong]はラオス[Laos]国境に近い町、ガンジャ天国からやってきたボクがそう思われるのも無理はない)。
 それでもボクは笑顔を続けた。ぶあいそうな顔をしているよりも笑顔の方が現地の人たちや同じ旅行者と仲良く交流もできるだろうと考えたからだ。しかしその笑顔も、旅行が長くなるにつれ次第に曇るようになった。うるさくしつこく、ぼったくるインドネシア[Indonesia]人におびえ、どちらかというと目を合わせずそらし、交流もしなくなった。ココは観光地だから人が悪いんだ、もっと田舎へ行けば、と旅行者など誰も来ないような陸の孤島ともいえる町まで行ったがダメだった。それが一般的インドネシア[Indonesia]人の性質なのだ。うんざりだ、2度と来るか、早く日本に帰りたい。そう思いはじめていた。
 
■Keep Smiling.
 ベトナム[Vietnam]のフエ[Hue]で会ったちかちゃんは中国[China]と日本のハーフで、両国語ともペラペラである。英語は旅行中に勉強したとのことであるがこちらもナカナカのものだ。日本の大学では野球部に入りセカンドを守っていたというからアクティブな女性でもある。ビンジュオンホテル[Binh Duong Hotel]は日本人宿ではあるが危険がないとはいえない。男女混合8人部屋ドミトリーに平気で眠っているくらいだから度胸もある。
 4日間の滞在のあと、別れぎわに抱擁をして(さすがにキスはないが)
 「Keep Smiling」
 と言ってくれた。自分の笑顔に少しは自信を持てた。抱き合いながらボクはこの両腕をどこに持っていけばいいのだろう?と悩んだ。InternationalなGirlは違うなぁとドギマギしてしまった。ちかちゃんにとってはごく普通のあいさつなのだろうけど。
 
■ルートはなりゆき任せ
 楽しければ自然と笑える。フエ[Hue]で温泉ツアーをともにした二人組の大阪女性とホイアン[Hoi An]で再会し夕食を一緒にとった。しかし彼女たちはビザが切れていて翌朝早く延長手続のため去っていってしまった。
 その時、頭をよぎった。たとえルートを決めていようと、いつだって自由に変えるべきなのだ。せっかくお金と時間を費やして旅行へ来たのだから、楽しい方へ行くのが正しい。一緒について行けば良かった、彼女たちに。一人は寂しい。別れたらおしまい。その後フエ[Hue]の温泉ツアー以上に楽しい出来事など何もない1年間だった。
 ベトナム[Vietnam]からカンボジア[Cambodia]へと、同じルートをたどるならまた会えるはずだとシェムリアプ[Siem Reap]で1週間滞在しながら待ってみたが現れることはなかった。もちろんお互い連絡先など交換していない。縁があれば生きてるうちに会えるのかもしれない。
 東南アジア各地で会った日本人旅行者たちは口々に「旅行が楽しくて仕方ない」という。本当に楽しそうで顔を見ればよくわかる。ボクはもっと若い時、10年前10代の頃に旅に出ていたら何か違うものが見えたのかもしれない。感性がすれて価値観が固まった今となっては驚きも喜びも少ない旅行だった。
 たびそらの写真にうつる少女たちの笑顔に比べ、ロンボク島[Pulau Lombok]で会った中村さんに送ってもらった写真のボクはしまりなくヘラヘラと笑っていた。
 
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