論理哲学論考 1-7 5.1-5.6 5.51-5.55
      
5.53 対象の同一性を私は記号の同一性によって表現する。等号なるものの援けにはよらない。対象間の相違は記号間の相違によって。
〔5.530 という番号をもつ文は存在しない。〕
5.5301 同一性が対象間の関係ではないことは明らかだ。それは、ひとが例えば文「(x ) : fx .. x = a 」を考察すれば顕著になる。この文が述べているのは、a だけが関数 f を充たすということに過ぎず、a に対して或る関係をもつようなものだけが関数 f を充たすということではない。
ひとは、もちろん、ここで、まさに a だけa に対してこの関係をもつ、と言い得るだろうが、しかし、それを表現するためには、我々は等号そのものを必要とする。
5.5302 ラッセルの「=」の定義は十分ではない。ひとは、それに随えば、ふたつの対象が総ての属性を共有すると言うことができないのだから。(決して正しくはないにしても、やはりこの文は意味をもつ。)
5.5303 大雑把に言えば、ふたつのものについてそれらが同一だと言うことはナンセンス〔ein Unsinn〕というものであり、ひとつのものについてそれがそれ自体と同一だと言うことは全く何も述べていない。