*ほわいとでー小話08*
(黎深・絳攸)
【3】
「黎深様、どうもありがとうございました!」
絳攸は決裁の終わった書翰を腕に抱えて頭を下げた。なぜだかやたらと時間は掛かった気がしたが、まさか本当に黎深に仕事をしてもらえるとは思っていなかったのだ。これで今日は部下たちもそれぞれの邸で眠れるだろう。
「では、失礼致します」
「…………ああ」
絳攸が尚書室を出ると、ちょうどよく部下の姿が見えた。呼びとめて仕事を頼む。
「ああ碧珀明、ちょっと頼まれてくれないか」
「! はいっ、絳攸様!!!」
何なりとお命じください!とばかりに駆け寄ってきた部下に、絳攸は微笑んだ。新人で自分より年下、頼み事をしても嫌な顔ひとつせず引き受けてくれる素直な彼は、やはり絳攸にとって可愛い部下だった。
「すまないが、この書翰を各部署に届けるのを手伝ってはくれないか」
「はい、よろこんで!!!」
絳攸が抱えていた書翰を半分手渡された珀明は、渡された瞬間にあれ、と小首を傾げた。
「どうした、珀明」
「え、…………いいえ、なんでもありません、絳攸様……」
生粋の貴族である珀明は、すぐに気付いた。今日の絳攸様は鬼尚書と同じ香りがする、と。
数刻の間、尚書室に篭りきりだった絳攸は、黎深の思惑通り、髪や衣にたっぷりと香が染み込んでいたのだ。
しかも絳攸はにこやかな笑顔で珀明にこう言ったのだ。
「ああ珀明、きっと今日はお前も邸に帰れるぞ。紅尚書が珍しく仕事をしてくださったからな」
「そ…、う……、ですか……」
あの万年ぐうたらな鬼尚書を"やる気"にさせるなんて、絳攸様は一体どんな手段を使ったのだろう。その身から尚書と同じ香りがするくらい、長い間すぐ近くでその"輔佐"をしたのだろうか。いやいやまさか憧れの絳攸様が!
そんなことを考えてふるふると頭を振った珀明は、渡された書翰を腕に抱えなおすとキッと絳攸を見上げた。
「絳攸様!」
「な、なんだ!?」
「僕っ、負けませんから!!! それでは失礼しますっ!」
それだけ言って走っていってしまった珀明を見送って、今度は絳攸が首を傾げる番だった。
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【珀明+絳攸】 【楸瑛+絳攸】
結局黎深様の思うツボです(苦笑)

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