*ほわいとでー小話08*
(珀明・絳攸)


こんこん、と控えめに扉を叩く音のあとに入室を尋ねる声が聞こえて、室主である李絳攸はそれに即座に許可を出した。
入室を尋ねた人物は絳攸の部下である吏部官であったし、彼に対する個人的な心証も悪くなかった(むしろかなり良かった)からだ。
若くして吏部侍郎という立場にいる絳攸の周囲は「自分よりも年長の部下」というのがほとんどで、絳攸より年少であり、なおかつ自分を慕ってくれているらしい彼の存在はとても新鮮だった。彩七家出身でありながらそれにおごることなく、勤勉に職務に励んでいるまじめな態度も気に入っている。
「珀明か? 入れ」
「はっ、はいっ! 失礼します!!」
そう言って入ってきた部下はしかし、仕事を持ってきたわけではなさそうだった。彼は書翰ではなく、包装された小さな箱らしきものを抱えていた。
処理中の書翰から視線を上げた絳攸は、首を傾げつつ部下に声を掛ける。
「どうした珀明? 仕事……、ではなさそうだな?」
憧れの上司の室を訪ねるだけでも十分緊張していた碧珀明は、自分が切り出す前に声を掛けられてしまいアタフタとした。
「えっ、あっ、は、はいっ、あの……っ!!」
頬を染め、持っていた包みを取り落としそうなくらい慌てた珀明に、絳攸は苦笑する。
「落ち着け、珀明」
「はっ、はいっ……」
上司にくすくすと笑われてしまい珀明はさらに赤面したが、意を決したのか、彼は持っていた包みをズイと絳攸に差し出した。
「あっ、あの、絳攸様! これを、受け取ってください!!!」
「え? あ、ああ……?」
部下の勢いにいささか気圧されつつ、絳攸はおとなしく包みを受け取る。綺麗な紙に包まれたそれは、大きさの割にはふんわりと軽かった。
「…………なんだ?」
「ば、ばれんたいんのお返しです!!」
力一杯そう叫んだ部下を前に、中身を尋ねたつもりだった絳攸は少々面食らいながらも、そうか、と答えた。
「…………もうそんな時期なのか……」
続いて、もうあれから1か月も経つんだな……、と絳攸は感慨深げに洩らす。年がら年中慌ただしい吏部だったが、冬から初夏頃にかけてが特に忙しく、中でも春の除目を控えたこの時期のめまぐるしさといったら尋常ではなかった。今日が一体いつなのか、絳攸は数値として頭では理解していたが、いまいち実感がなかったのだ。
そんな仕事中毒な上司に、珀明はおずおずと告げる。
「あ、あの、僕が目にする絳攸様はいつもお忙しそうにされていて……。実際とてもお忙しいのでしょうけれど、これで、少しでも休息を取っていただければと思いまして……」
少しでも休憩を入れると違いますよ、と言った部下の言葉に耳を傾けつつ、絳攸はもらった包みを開く。
「珀明、これは……」
包みの中を見て呟いた上司に対し、珀明は意を決して、事前に考えていた言葉を一気に吐き出した。
「心を安らげる作用のあるお茶です。あの、絳攸様がお忙しい時は、僕が淹れに参りますから、いつでもお呼び下さい! 絳攸様のためなら、いつでもすぐ参りますっ! ではっ!!」
そう言いきった珀明は、頬だけでなく耳まで真っ赤に染めて、勢いよく一礼すると吏部侍郎室を後にした。
「え、あ、おい珀明……!」
止める間もなく室を出ていってしまった部下に、絳攸はやれやれと息をつくと、手元に残った包みに視線を落として微笑む。
その視線の先には、数種の茶葉と菓子が詰め合わされた小箱が残されていた。

END.
【楸瑛+絳攸】 【黎深+絳攸】
珀くんは贈り物のセンスも良さそうですが、絳攸はそんなこと深く考えずに「美味いな」とか思いそうですね(笑)

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