森村天真の日記<泰明餌付けの記録?>
※ 現代編 ※

注1:これは、天真くんの泰明さんゲットをかけての飽くなき挑戦の記録である。
注2:友雅さんに『勝てはしないが負けてはいない』天真くんがコンセプト(笑)

      
記録の5

 
    

夕方近く… あかねにいきなり呼び出され、
俺は…どう考えても場違いな処へ連れて来られていた。
  

……俺の目の前に広がるのは、
広大な日本庭園を持つ、超高級そうな料亭…。

その佇まいは、俺や、ここへ連れ出したあかねをも
まるでお呼びではないと、……明らかにそう言っている;(苦笑) 
 

俺はあかねに、「…おい、こんなトコ連れて来てどうするつもりだ?」と訊くと、
さすがのあかねも己の不相応さに気が付いたのか、苦笑混じりにこう答えた。

「ここでね…お料理をご馳走になろうと…思ってるんだけど」と。

…は?

俺はあかねのとんでもない発言に一瞬言葉を失いつつも、
「は…、お前正気かっ?! 俺がこんな超高そうな処でおごってやれるとでも思ってんのか?」と
引き攣りを抑えきれずそう言えば…

「天真くんにじゃないよ」と、あかねは大きく瞬きをしながら言った。

じゃ…誰にご馳走して貰うというんだと訊き返そうとした時、
背後から「私がお招きしたのだよ」と声が聞こえてきた。

………この声は…(攣笑)

振り向くと、
立派な門扉の内側から、案の定、あの野郎が姿を現した。
 

……聞けば、
前にあかねの奴が一度でいいから料亭の料理を食べてみたいと口にした事が切っ掛けで、
それを聞いていた友雅が「では、今度連れて行ってあげようか」と約束していたらしい。

そして…

「ちゃんと天真も連れて来てくれたみたいだね」

…と、
二人の会話をしばらく黙って聞いてりゃ、アイツの口からなぜか俺の名前が出てきて!

「俺も一緒に連れて来させて、…どういう了見だよ?」と友雅を睨めば、

「いや… ふふ、いつも君には泰明が随分お世話になっているようだからね。
だからそのお礼といってはなんだか…神子殿と一緒におもてなしさせて頂こうと思ってね」なんて言いやがる…!

俺は冗談じゃないと、
透かさず「結構だ!」と言い放ち、立ち去ろうとした。

大体、なんで友雅のヤロウから<泰明のお礼>をされなきゃなんねぇんだ…っ!
ああッ…気に食わねぇ!!

後ろからあかねが「天真くん何処行くの…っ!?」って慌てて声を掛けてくるが、
「帰るに決まってんだろッ! お前だけそいつにせいぜいご馳走になって帰れよな!!」と突っ撥ねて…

だが、それでもあかねは

「天真くん、待ってよッ…! ねぇ!!」

「もうっ、待ってたらっ… 折角…っ」

…って、しつこく言い続けるから、
俺はもう一度「待たねぇ!」とキッパリ言い切るため振り返った… が…;;
 

俺の目に飛び込んできたのは、

「天真…どうしても帰ってしまうというのか?」

そう言って俺を見つめる泰明だった…!
 

なッ、泰明ッッ!!?
なんでお前が??!
  

泰明の登場に面喰らう俺へ、「私が、神子殿と天真と四人で一緒に食事でもどうかと持ちかけたら
…泰明も快く賛成してくれてね」…と、

友雅のヤロウ、ちゃっかり先に泰明を連れて来てやがったんだ!

そんで泰明は、座敷で待つよう言われたらしいが…
俺達を外まで迎えに出ていった友雅がなかなか戻ってこないのが気になって
自分もここまで出てきちまったらしい。

 

ああ…、泰明が俺を見つめている…;
あの瞳に…俺は、めっぽう弱い……;;

 

……俺は、

「ほら、このように泰明も楽しみにしていたのだよ。
そう言わず…泰明の為に、もてなしを受けてくれまいか?」

友雅のそんな胡散臭い台詞なんかではなく、

そのあと泰明が言った「天真、どうかまだ帰らないで欲しい」という真摯な言葉を、
無下にするなんてことは到底出来る筈もなく… ……俺は、素直に従う事にした。

 

……しかし
友雅の奴、何を企んでんだ…?

 

それから俺達は、
門扉の内側に控えていた店の人に連れられ、
門から続く庭園の竹林の、白い玉砂利を敷き詰めた小径を奥へ奥へと進み……

それにしても… いつ玄関に着くんだ?(苦笑)
どこまで広いんだ、ここの敷地は…

ホントもう…ヤバイくらい敷居が高いっていうか…;;;

そんな感じで、落ち着かなくて思わずキョロキョロしちまっている俺に

「どうしたのだい、天真。 なにらや緊張でもしているようだが(クス)」

って…!
余裕綽々に問いかけてきやがる…!! 

俺は沸々と涌き上がる怒りを、泰明のためだと、何とか抑え込んで…忍耐の限りを尽くした(…くッ!)

 
 

それから、

何とかの間とかいう部屋に通された俺達のところへ
暫くして運ばれてきたのは、
鱧や鮎、鴨に、生湯葉や京の夏野菜をはじめ、なんか高級食材をふんだんに使った料理の品々で…
見るも涼しげな…、懐も涼しくなりそうなものだった…;;
  

「こう毎日暑いと、こういうさっぱりと上品な口当たりのものが良いだろう?」とかなんとか言いながら
冷酒を口にしている友雅なんか尻目に

俺は……

上品に箸を使い、料理を少しずつ口に運んでいる泰明に、思わず見惚れる…/////
俺と一緒にファーストフードなんかを頬張る姿も抱き締めたくなるほど可愛くていいが、
こういうのも…なかなか泰明に似合ってて…かなり、いい////

あ…、なんか嬉しそうに食べてんな、それ…
そっか…、美味いか…////

だが、俺がそんな泰明の表情に目を奪われちまってるのに目聡く気付いたのか、
友雅が口を挟んできた。 …チッ。

「ああ…、泰明はここの汲み上げ湯葉をとても気に入ってくれていてね。
いつもここへ訪れる時には必ず用意してもらっているのだよ」

…ってッ!!

しょっちゅう連れて来てんのかよ、オイッ!!(くあッ…!!)

ちくしょうッッ…(ぐむむ…)

  

そんで、ひと通り料理を食べ終えると、
あかねのヤツ、折角だから庭も見て回りたいなんて言い出して…

で、それにあわせて泰明も「では、供をする」と言うんで
「じゃ、俺も一緒についてくぜ」って言おうとしたら、友雅のヤツが…

「二人でゆっくり見ておいで、神子殿。
泰明は何度も来ているから、いろいろ案内してくれると思うよ。
私と天真は、その間ゆっくり話でもしながら待っておくから」

って口を挟み、俺の言葉を遮りやがったんだ!

はァ!?

なに突拍子もない事を、と睨みつけるが、友雅は「いいだろう?」と応え…

そう言うヤツの目には「逃げるなよ」という無言の挑発が込められてるのを見て取った俺は、
不本意ながらも友雅と部屋に残ることにした。

 

あかねと泰明が部屋を出ていくのを見送ると、
おもむろに、友雅は俺にこう切り出してきた。

「そうそう…天真。 先日は泰明に何とも素敵な、飲み物の作り方を教えてくれたそうだね。
例の店に連れて行かれ、泰明が私のためにと…早速作ってくれたよ」
   

…あ。 あの時の殺人ドリンクバーの時のことか…!
そっか…泰明の奴、素直に俺の言うことをきいたのか。

「…飲んだのか?」

「ああ。泰明が心を込めて作ってくれたのだからね、…飲まない訳には行かないだろう」

の…、飲みやがった!!
あの頼久をも瀕死に追いやったドリンクの、さらに上を行くだろう死のドリンクを!(笑)

解ったぞ、俺を連れてこさせた魂胆が…
そん時の文句を言う為だったのか!
  

「旨かっただろ…っ?」と、
泰明の前で悶絶し、キザも何もあったもんじゃない恥ずかしい姿を晒す友雅を思い浮かべながら
俺は笑いを抑えきれないまま、友雅に訊いた。
  

「だが、「…私には少し強すぎるようだ。折角なのに困ったね…、少し悪酔いしてしまったかも知れない」と言えば、泰明は一晩中付きっきりで私の介抱をしてくれてねぇ…ふふ」
 

Σなァ…ッッ!!

そして続けざまにこう言いやがったんだ…!

「天真のおかげだ、またいつもと違った趣で…泰明と一夜を過ごすことが出来たよ(クス)」って!!!

Σなッ… なアァ…ッッ!!!!
コ…コイツ…ッッ!!!

「テメェ…ッ 本当は一口も飲んじゃいなかったんだろッ!
それでもって泰明に…ッ…」

俺はそう激しく追及するが、奴はッ……

「おや、心外だな。 君の思惑通り、ちゃんと口にしたよ。…舐めた程度だがね。
それにしても酷いものだ…あの後、胃が焼けつくようだったよ。
…まあ、それも泰明が手ずから薬を飲ませてくれて…すぐに癒してもらえたが。ああ…もちろん口移しでね」

いけしゃあしゃあと抜かしやがって…ッッッ!!!

もう我慢なんねェ!と、
友雅の胸ぐらに掴み掛かろうとした、刹那…
そこへ予想外にも早く、泰明達は戻ってきちまって…

そして、
「迎えの車が来ているそうだ」と、
さっき店の人から告げられたと泰明は言ってきたんだ。  

どうやらそれは友雅のヤツが勝手に手配していたらしいが…(苦笑)

泰明は、

「もう遅い。早く神子を帰した方がよい」

「天真、何をしている。急げ」

と、俺を急き立て…

…そうして、
ケンカの腰を折られちまった俺は、泰明に促され…、
治まりきらぬ気持ちのまま渋々帰り支度を始めた(苦笑)

 

 

門の前には、黒塗りのタクシーが俺達を待っていて…

あかねに続き、俺が車内に乗り込もうと身を屈めると
…背後から友雅の声がした。

「ではね、神子殿。それに天真」

……って、何かその言い方に違和感を覚え
後ろへ振り向けば…

泰明とアイツは門前で立ち止まったまま乗り込む気配はな…い?

何だ…、そのまるでお見送り体勢は…ッッ!!?

すると友雅は、
あろうことか俺に見せつけるように泰明の背に手を回し、引き寄せながら

「言い忘れていたが、此処は料亭としている棟の隣に、宿も兼備えていてね…。
私たちは今夜は此処へ泊まる事にしてあるから、
…天真、君は私たちの代わりに、神子殿を無事家まで送り届けてあげておくれ」

Σはあァ…ッッッ??!!
なんだとぉぉぉ!!!!!!

それに、泰明さえも「うむ」と納得したように頷き、それならばと

「天真が送るのであれば、問題ない。天真、神子を頼む」

なんて言ってくるッ…!

お前まで何言ってんだよ、泰明…ッッ!!?(大焦ッ…)

俺は憮然としつつ、咄嗟に…っ
「まてっ…、何言って…ッ だったら俺は帰る訳には…ッッ」と口にした…! …だが…ッ!!

「ほ〜お、それは構わないが…
さて…天真の懐で賄いきれるかな。…此処は一晩かなりするよ?
まあ、一見の君が泊めて貰えれば…だが(クス)」

と耳打ちし、
最後に不敵な笑みを浮かべ

「私はね、容赦はしない男なのだよ…天真」 

そう言い、「遣ってくれ」という合図とともに友雅はタクシーのドアを閉めやがった…ッッ!!!

 

……タクシーは、
「今日のところは天真くんの完敗…だね;;」と言われながらあかねに押さえ付けられる俺を乗せ、
そのまま否応なしに走り出した……;;;;;;

 

やっぱアイツだけは絶対許さねぇ…ッッッ!!!

   

       


記録の6

 


ああ… マジやべェ…;;;;;

リビングに泰明を残し、俺はキッチンの流し台の前で頭を抱えた。


事の始まりは、今から二時間程前…。

蘭の、「お兄ちゃん、図書館の本、代わりに返しておいて」という
ケータイからの、なかば強制的なお願いの為、俺は市立図書館へと出かけた。

当の本人は、朝早くから女友達と買い物に出かけているらしく、
出かけに本を返して…のつもりだったらしいが、急いでいたため玄関先に置いたまま忘れちまったらしい。

…まあ、天気もよく、
これといって用事があるわけでもなかったから、
俺は昼前に図書館へと出かけた。

俺は、早々とカウンターへ返却し終え…
そう… ふと、ガラス張りの館内から見えた桜がなぜか気になり、
そこへ立ち寄ってみることにしたんだ。

桜は、図書館の横に併設してある公園のもので、
その園内へ続く路の両脇に植えられ、
ちょっとした桜並木になっていた。

 

そこで、俺は泰明にばったり会ったんだ。

 

そういえば、…よくここの図書館へは足を運んでいるって
前に泰明言ってたっけ。

 

桜並木の下のベンチに座っている泰明は、
読みかけの本を開いたまま膝に置き、花の隙間から差し込む陽射しに少し目を細めながら
頭上からひらひらと舞い落ちる花弁を眺めている。

しばらくその、絵から抜け出てきちまったかのような、息を呑む眺めに見惚れ、
すぐに声をかけられずに立ち尽くしていると、
そんな俺に気づいた泰明の方から、声を掛けてきた。


「天真…」

泰明の俺の名を呼ぶ声に、束の間の束縛は解かれ、
ようやく俺は言葉を返した。


「ひ…ひとりかよ」


そして、まだ泰明の姿に目を奪われたまま捕らわれちまってる周りの奴らを尻目に、
俺は泰明の右隣に腰掛けた。

「先程まで神子と居たが、神子は急用が入ったと言って、今し方別れたのだ」

そう答えた泰明は、
どうやらあかねに図書館までつき合って欲しいと頼まれ、呼び出されたらしい。

丁度その時、
園内の時計の正午を告げる鐘の音が聞こえてきた。

季節柄か、その鐘は「さくらさくら」の曲となっている。


「ああ、もう昼だな」


俺がそう口にすると、
泰明は何かを思い出したかのように、唇を開いた。

「そう言えば、友雅が、読書が一段落したら連絡をすると良い…と言っていた。
何処でも私の望む国の料理の店に連れて行くからと言っていたが…」

…ッて!!
また、アイツかよ…ッ!

認めたくないが、俺が…傍惚れしちまってるのは解っている…。

けど…折角の、折角のこの時をアイツに奪われるのだけは、
どうしても…我慢なんねェんだ!

次の瞬間、俺は泰明の片手をグッと掴んで…

「じゃ…俺が、アイツがまだお前に食わせたことのない国の料理を食わせてやるよ!」

とは…勢いで言ってはみたが……

既にバイト代は、この前バイクの修理代にまるまる注ぎ込んじまってるし、
そんな…泰明を喜ばせられるような店に、今すぐ連れて行ってやることなど出来はしないってのが現状だ…;;;;

しかし…、
一度そう言っちまった以上、
泰明をこのままがっかりさせちまうのだけは、出来れば…避けたい!

……なんて、

そんな事を悶々と考えているうちに、
気づけば俺は泰明を家まで連れてきちまってた…;;;;

ああっ…! こうなりゃ、もうっ…

「泰明っ、…チベット料理…ッ、だ!」

俺はそう言って泰明の前にその皿を差し出した。


「ほら…あれだ、炒飯にカレーをかけて…
中国とインドの中間に位置する…ってことで、チベット風…なんつって…な;;;」


泰明は静かにそれを見つめると、俺の顔を見上げ…、
そして首を傾げた。

「……やっぱ、……だよな;;;(苦笑)」


俺は、泰明のその率直な反応に
これ以上の苦し紛れの悪足掻きは無駄だと観念し…

素直に「すまない」と詫びようとした……が、
先に泰明から声が掛かった。 

「何故、お前が私をもてなすのだ?」

「……へ?」

なんか…思いも寄らない泰明の台詞に、今度は俺が豆鉄砲を食らう。

「何故お前の方が、このように私をもてなすのかと訊いている」


すると泰明はリビングのある一方を指差し、

「今日は、お前の誕生日ではないのか?」

……そう言った。

泰明の差した先には壁に掛けられたカレンダーがあり、
その4月2日のところへ”天真お兄ちゃんの誕生日♪”と、
昨夜までは書かれてなかったマジック書きがあった。

「あ…そっか、今日は俺の…。すっかり忘れてた」


そう言った俺に泰明は呆れたようにひとつ溜息をつくと、
……花が綻ぶようにこう言った。


「おめでとう、天真。
お前のお祝いとして、私がお前にしてやれることはあるか?」

他の誰でもなく、一番にお前からおめでとうを言ってもらえただけでも、
俺にとっちゃ、かなりのプレゼントだと泰明に言ってやりたいが…

だけど…お前がそう言ってくれるのなら

今日は…特別、もう少しだけ先を、期待してもいいんだよ…な?

だから俺は、思い切って、

「…ある、ぜ。……お前が、目を閉じてくれれば、それでいい」


そして俺は……

そっと、白皙の貌の、
桜色に色づいた唇に…接吻けたんだ。



   

       



    
   
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