今日は詩紋が買い物につき合ってくれって言うんで、俺は詩紋と二人街中に出てきていた。
…それにしても、暑っち〜;;;
気温は真夏日の上、湿度も高いときて、
俺の不快指数もかなり高めだ。
詩紋も俺と同じく暑さに参っているらしく、
このままじゃ煮えちまうってことで、俺達は何か冷たい物でも飲もうと
何処か入れる場所を探した。
そして近くのファミレスを見つけ…、
その店のガラス越しに知ってる奴の顔を見つけた。
…頼久だ。
……かなり、浮いてんな(苦笑)
しかし、なんでよりによってこんなにファミレスに似合わない奴がこんなところに居るんだ?
俺と詩紋は店に入り、窓際の席に座っていた頼久へ
「おい頼久、お前がこんなとこに居るなんて珍しいこともあるもんだな」と声をかけると…、
「お前達か…」と返す頼久の顔色は、なんだか少し悪い。
俺はなるほど…と、
「さすがのお前もこのうだる暑さには参って、仕方なくここに入ったって訳か」
と言えば、
「お前と一緒にするな。これくらいの暑さ修行と思えば何ともない。心頭滅却すれば火もまた涼し、だ」
って反論するが…
「じゃ、何でお前みたいな奴がひとりでファミレスなんかに居るんだよ」
「ひとりではない」
そこへ、背後から予期しなかった声が聞こえた。
「なんだ、天真と詩紋も来たのか」と。
なんで泰明が!?
…って!!
頼久の奴、なに抜け駆けして泰明を連れ出してんだよっ…!!
新たな伏兵の出現で、それまで八割五分だった俺の不快指数はそのことで一気にMAXに達し、
俺は頼久に詰め寄ろうとしたんだが、
その時、不意に俺の視界にあるものがよぎった。
それは泰明が手にした、なにやら不気味な色の液体が入ったグラスで…
そして泰明は、なんとも形容し難く濁ったそれを、
「頼久、お前のためにもう一杯作ってきたのだ」と頼久に差し出した。
あとで訊けば、
この店のドリンクバーと書いてあるのぼりを泰明が見つけ、それが何か気になり店に入ったらしいんだが…
…で、
笑顔でそう言われた頼久は、
「あ…有り難う御座います、泰明殿。
貴方が私の為にと作って下さったのです、この頼久、喜んで頂戴致します…!
た、たとえこの身がどうなろうとも…!!」と言い切り、
どう見てもそれはヤバイだろう…っていう色をした、かつては飲み物だっただろう液体に
頼久は迷わず口を付け、途中えずきそうになりながらも一気に飲み干した。
ドリンクディスペンサーが置いてある所の壁には、
「あなたのお好みでオリジナルドリンクを作ってみませんか?」と謳い、
設置してあるソフトドリンクを使って、割合など、色々な調合を一例として紹介してある手書きのポスターが貼られていた。
その試みは来店客を愉しませるための店側のサービスの一環なのか、
はたまた長時間だべり、うるさく騒ぐガキどもへ対してのささやかな制裁なのか、もはやよくわからない感じではあるが…
どうやら、それは泰明の心をひどく擽ってしまったらしい…(苦笑)
敵ながら見事な奴、と頼久の勇者ぶりに感服するのも束の間、
……次に泰明は、俺に声を掛けてきた。
「天真はどうする?」
そう、何か俺に飲み物を作ってきたいという期待を込めた瞳で訊いてくる泰明に、
思わず「じゃ、頼む」って口にしそうになる…… けど…
「天真先輩…、ここは先輩も頼久さんに負けず、男として泰明さんのお手製ドリンクを飲まなきゃ…」なんて…、
このあと己の身にも迫り来るだろう危険を察知したのか、
いち早く冷たい飲み物のいらないフラッペを注文すると告げ、泰明の罪なき好意を回避していた詩紋は、
かなり無責任な事を耳打ちして来るが…、だがそれは自殺行為だ;;;
頼久のあの顔色を見れば一目瞭然じゃねーかよ…;;;;;
泰明に気づかれないように装ってはいるが、既に顔は土気色だ…(苦笑)
俺は心を決め、
「わり…俺さっき冷たいもん外で飲んできたばっかっで、…折角お前がそう言ってくれてるのにすまないな」と、
「先輩の意気地なし…」という詩紋の頭を拳固でグリグリしながらそう言って、
なるべく泰明の機嫌を損ねないように注意しながら、泰明の申し出を丁重にかわした。
泰明は「そうか…それでは仕方がない」と、少し残念がってはいたが、素直に納得してくれたようだった。
泰明ゴメンな、
折角お前と会えたのに、何もしないうちにここで再起不能になる訳にはいかないからな…。
…そして、
その生真面目さゆえに上手くかわすことの出来なかった頼久の不憫さに、
なんかもうさっきまでの怒りの矛先を見失っちまっていた俺だったが、
(というか、もう充分泰明を無断で連れ出したその報復を自ら受けているって感じだしな…;;;)
その時、脳裏にある考えが浮かんだ。
俺は泰明に
「そのかわりといっちゃなんだが、特別に俺のスペシャルブレンドを教えてやるよ」
「すぺ…さる…?」
「そ。コレを友雅を連れてきて、お前のために心を込めて作ったんだって飲ませてやったら、絶対喜ぶと思うぜ!」
って、俺はとっておきのレシピを泰明に授けてやった。
いつもアイツには辛酸を舐めさせられてるんだ、
これで少しは憂さ晴らしさせてもらわなきゃ、礼を欠くってもんだよな…!(堪笑)
そのあと、天晴れな飲みっぷりで見事討ち死にした頼久を詩紋に頼み、
俺は泰明を送り届けてやったんだ。