森村天真の日記<泰明餌付けの記録?>
※ 現代編 ※

注1:これは、天真くんの泰明さんゲットをかけての飽くなき挑戦の記録である。
注2:友雅さんに『勝てはしないが負けてはいない』天真くんがコンセプト(笑)

      

記録の7

  

 

今日の俺もツイてた!

……と思っていた、昼下がり…。

 
俺は、泰明と束の間のデートを楽しめたんだ。

 
まあ、泰明がいつも行く図書館前で、
もしかしたらと思い、時間を見越して、張ってたんだが。

 
……で、俺の予想は見事当たった。

 

 
図書館から出てきた泰明は……、
背表紙からして難しそうな学術書を数冊抱えていた。 

その上、…かなり重そうだ。
 

 

「貸せよ」
 

俺は小走りに泰明の傍へ駆け寄り、
泰明が俺の名を呼ぶのと同時に、それらの抱えている本を…
泰明の性格を考え、その腕に一冊だけを残し、取り上げた。

 
…お、予想以上にずっしりくるな…5kgくらいはあるか。

 
その外見に反して意外と力がある泰明だ。

だから周りが思っている程には苦に感じてはないんだろうが……

でもどうしても、
そんな細腕にゴツい本を抱えている姿を目にしちまうと、
堪らず…手助けしたくなる衝動に駆られる。

 
そう思うのはやはり俺だけではなく、
貸し出しカウンターで手続きした図書館の職員が
自動ドアの外まで心配して見送りに出てきちまう程だ。

 
だがそんな事を言っても、泰明は素直に納得はしない。

 
…だから、

 
「そんなの持ってお前が隣を歩いてると、
俺が周りの奴らの目に立つんだよ。だから気にすんな」

 
「…そうなのか?」

 
そう言って俺が歩き出すと、
泰明は少し首を傾げつつも、素直に俺の後をついて来た。

 

 

 

 
 
街路樹として大通りの両サイドに植えられているハナミズキは
満開となって…

交互に植えられたその…白やピンク、それよりやや濃いピンクの花の色が、
泰明との時間に彩りを添えるようだ。

 
ハナミズキを見上げてはふわりと表情を和ます泰明に、
道行く奴らは悉く息を呑み、引き込まれるように見惚れては
俺達の後を目で追ってくるのがわかる。

 
それは隣を歩く俺もまた、例外ではなくて…。

 
普段から口数の少ない泰明だから、
並んで歩いている間も会話は少ないが…

 
時折、隣を歩く泰明の髪が風に靡き、俺の腕に触れる。

そんな些細な事さえも、俺には十分過ぎる刺激となる…。

 

 
そして暫く歩いた後、…俺は切り出した。

 

 
「なぁ泰明、今日これからどうすんだ?」

 
「戻って、借りたそれらの本を読もうかと思っているが…」

 
「だったら、このままもうちょっとだけ…俺につき合えよ」

 

 

俺は、この前見つけたオープンカフェに泰明を連れて行こうと考えた。 

そこの隠れ家的なカフェの落ち着いた雰囲気は、きっと泰明も気に入るはずだ。

 
何だったら、ただ…そこで泰明が静かに読書する姿を眺めて
穏やかな時間を過ごすってのも悪くない。

 
ここからなら…歩いて十分もあれば行ける。

 

 

 

 

 
その道すがら、通り沿いのゲーセンの前に知ってる奴らの姿を見つけた。

 
イノリと詩紋だ。

恐らく、イノリが詩紋を引っ張ってきたクチだろう。

 
あいつらの方もすぐに俺達に気づき、声を掛けてきた。

 
「天真、泰明〜! どうしたんだ、二人一緒に。
てか…そうだ、天真! 新しい対戦ゲームが入ってんだけど、詩紋が弱過ぎるんだよ。
お前さ、ちょっと相手になってくれよ、な?」

 
「駄目だよ、イノリくん。 先輩、今、大事なトコなんだから…」

 
 
まあ…
イノリの事はさておき、

どうやら詩紋の方は状況を察して、気を利かせてくれるらしい。

 
…で、肝心の泰明はというと、

俺の隣を離れ、入口の横んトコまで移動していて…
そこに在る、あるものに目を留めていた。

 
「どうした、泰明?」

 
「これは何の機械だ?」

 
「あ、…なんか占いのマシーンみたいだぜ」

 
「ほう、このようなもので占うことが出来るのか」

 

そんな感じで、泰明に教えてやってると…

詩紋が俺の隣へやって来て、

 
「先輩。ねえ、やってみたら? あれ、相性占いが出来るみたいだよ」

 
そう、俺の腕を肘で軽く突っついてきた。

 

 
「こんなの所詮、子供騙しだろ? 俺、あんまりそういうの興味ねぇんだよ。
星座占いとか、血液型占いとかは」

 
「でも… 泰明さん、なんかやってみたそうだよ?」

 

「ほら…」と、
詩紋が示した先の泰明は、興味深そうに説明文に目を通している。

 

だが一方、

 
気の短いイノリは、渋る俺の様子を見て取ると、見切りを付けたように… 

 

「天真はなんかノリ気じゃないみたいだし…、じゃ、他に誕生日とか知ってるヤツの…
そうだ!お前、結構友雅と一緒にいることが多いし、友雅の入れてみたらいいんじゃねえの?」

 
あろう事か、有り得ねー発言を繰り出しやがった…ッ! 

 

 
「そうだな、では友雅と…」

 
「やっぱ…っ、やってみっかな、占いっ…!」

 

透かさず俺は、
泰明のそれ以上の言葉を遮り、そう叫ぶ!


アイツの名前なんか入れさせてたまるかよ!
たとえそれが遊びだとしても、だ!

 

 
それからすぐさま、

この場からヤツの忌々しい名前を一刻も早く消し去るように
速攻コインをぶち込み、
二人の名前と誕生日、血液型諸々を打ち込んで…

 

 

 
結果は、相性92%!!

 

これって…かなりいいんじゃね!?

 

占いなんて信じちゃいないが…

だが…、この結果だけはマジ信じたい。

てか、信じても…いいよな!!

 

 

その時、

それに併せ、突如まるで俺の気持ちを汲み取ったかのような
祝福の歓声が沸き上がった!

 

 

 
……なんて、訳はなく…(苦笑)

 

それは大通りを挟んだ、斜め先の店からのものだった。

 

 

そっちへ目を遣ると
店の前には、結構な人集りが出来ている。

 

 
「あ〜、今日もすごい人だな」

 
そう詩紋が呟き、

訊けば、
あれは今話題の洋菓子店で、三つ星パティシエが作る一日限定何個とかの
超人気ケーキを買い求める為、客が群がっているらしい。

 

 

……でも何で、そんな人集りから歓声なんかが上がるんだ?

 

 

すると、
さらに女どものキャーキャー言う黄色い声が沸き上がり

その人垣を掻き分けて、
…店の中から見覚えのあるヤロウが出てきた。

 
それをイノリが見遣り、俺が止める間もなく大声で呼びかける。

 
「お〜い、友雅〜!!」

 
イノリの奴、…余計なことを!

 

 
当然イノリのでっかい声はヤツの耳に届き、 

取り巻きのように騒ぐ女どもを馴れた様子であしらいながら、
こっちへとやって来る。

 

お前は芸能人か…っての(苦笑)

 

 

 

「おや…奇遇だね」

 
「友雅、どうしたのだ、このような所で…?」

 
そしてヤツは泰明の傍まで歩み寄ると、泰明に包みを差し出して見せた。

 

「ほら…先日、食べてみたいと言っていただろう?」

 
「もしかして…友雅さん、並んでたんですか?」

 
「どうしても姫君のご所望の品を手に入れたくてね。
あまり私はこういうことはしないのだが、…だけど、
ちゃんと並んで、公平に手に入れたものでなければ、泰明が喜ばないだろうからね」

 

よくもまあ…いけしゃあしゃあ、と(苦笑)

 

だが…、
そんな事を言ってやがる友雅のヤツに、
泰明は心做しか目を輝かせ…

 
「あの、雑誌で取り上げられていたやつか?」

 
「そうだよ。気に入って貰えると嬉しいのだが」

 
「有り難う…友雅。……嬉しい」

 
…って、とびきりの笑顔で微笑んじまって…ッ!

 
その上友雅のヤロウ、しれっと…

 
「じゃあ戻って、二人でお茶にしようか。
昨日、時間が作れなかった埋め合わせをさせておくれ」

 
なんて、引き寄せた泰明の手指に接吻け、そのまま連れ去ろうとしやがる…!

 

 

「って、おいッ…待てよッ!」

 
俺が呼び止めると、

さも、それまではまるで俺の事なんて眼中に無かったかのように、
こっちへ振り返り…

 
「ああ…、そうだった。
天真、泰明の本を持ってもらってすまなかったね」

  
そう言って俺から本を奪い取って、

 
「遠慮せず、こっちは君たちで食べるといいよ」

  
代わりに、泰明に見せたやつとは別に、
もう幾つか提げていたケーキの紙袋を俺に押し付けてきた!

 

 
「あのなぁ…ッ お前ッ…!」


食って掛かろうとした俺と…ヤツの間へ、
不意に、本と本との間に挟んでいた紙切れが、弧を描いて落ちた。

 

 
「おや、…何か落ちたが。……占い診断書?」

 

 
すると、その問いには泰明が答えた。


「そうだ。私と天真の相性をそこの機械で占ってみたのだ。
結果、私は天真とは相性が良いと出た。 まだお前とは占ってないのだが…」

 
「構わないよ。
そのようなものに頼らなくとも、私と泰明の相性は良いに決まっているからね」

 

 
……なに?!

 
俺は、そんな友雅の台詞から勝機を見出した!

 

そして次の瞬間、
ケーキの袋すべて詩紋たちに押し付けると、俺は威勢良く言い放つ。

 
「なんだよ、占ってみなきゃ判かんねーだろ。それとも…自信ねえのか?」


素早く拾い上げたその切り札を、
ヤツの視界いっぱいに、よお〜く見せつけながら、だ!

 

 

ザマー見ろ!

俺は、今日の勝利を確信した。

 

 

 

…しかし、

友雅は目を細め、それをちらりと見ると

………ヤツは、ぐうの音も出ず、苦笑いを余儀なくされるどころか

 

「判るよ」

「だって…、私と泰明の肌の相性は頗る良いのだから。ね…泰明」
 

泰明の肩を引き寄せ、翡翠色の髪が掛かるこめかみに接吻けながら
そうぬかしやがった…ッ!

 
そして、

 
「友雅っ…」


明らかに否定ではなく、やや困ったようにそう応える泰明の様子が
さらに追い打ちをかける…!;;;;

 

 

さっきまでの優位から一転…

徹底的に…打ちのめされた……;;;;

 

 

けど…ッ
このまま黙って打ち拉がれる訳にはいかねぇ…ッ!

 

 

「そッ…そんなことッッ、俺だってやってみなきゃ判かんっ…」

 
「させる訳ないだろう」

 
一瞬鋭く目つきが変わり、低く言い放つと
…ヤツは、口元に意味深な笑みを滲ませた。

 

「"君には十分過ぎる贈り物"、だけでは飽きたらず…
よもや、ゆめゆめその様な事をしようなどと思っているのでは、ないだろうね?」

 

 
こいつ、知ってやがる…!;;;

 

はッ…!;;;

…気付けば、
既に友雅は泰明にケーキの包みを持たせ、停めてある車へと向かわせていて、
もうここに泰明の姿はない……!;;;

 


「そうそう、この前…誕生日だったそうだね、天真。
遅くなったが私からもお祝いを言わせてもらうよ。
だけどまさか…、ベッドの中、私の腕の中にいる泰明からその話題を聞くとは思わなかったが」

 

 

 

俺は、容赦なく畳み掛けられ

………撃沈した;;;;;

 

 

 

 

 

 

そして…、
この場をあとにする、ヤツの後ろ姿を見送る詩紋とイノリの声が

成す術なく泰明をかっ攫われた俺の耳に、ぽつりと…届いた。

 

「………あれ? でもなんで友雅さん、こんなにもケーキ買ってたんだろう?」

 
「なんか、店から出でくる時、
周りに沢山いたネエちゃん達に良かったらどうぞ…って、渡されてたぞ?」

 

 

       



    
   
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