HK電車でGO!

★.:*: ☆.:*: その7:2002年のヴァレンタイン・ディ :*:.★ :*:.☆
     

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 §教室に元気に入ってきたフリーベ。
「おはよう!
 ねぇねぇ、これ見て!!」
サファイアとヘケートに鞄から取り出した本を見せます。

「…手作りチョコレート。。。?」
思い切り不審そうな二人に得々と話すフリーベ。
「もうすぐヴァレンタインディでしょう!
 ここで'あなたのために頑張ったの!'って健気なアタシを見せれば
 ケン一も'僕のために!?'ってきっと感激してくれると思うんだ〜♪
 これでケン一のハートをGET!ってわけ〜。きゃ〜♪♪♪」
「偉いね、フリーベ。頑張ってね」
サファイアの励まし。ヘケートもうんうんと頷きます。

「そおじゃないでしょお!!
 どーしてそう冷たいかなぁ。
 一緒にやろーよぉ」
はあ!?と吃驚目の二人。
「一緒にやるって?チョコレート作り?」
まさか冗談でしょ?!と言いかけるサファイアを制したフリーベ。
「あの超モテモテのフランツ・チャーミングにあげるんでしょう。
 毎年山ほどのチョコレートが集まるって言うじゃない。
 少しでも目立つ方が絶対良いって!
 'これ、わたしが作ったの。。。'って言ったらフランツだって
 メロメロだよ、きっと♪」
う。。。と言葉に詰まるサファイア。フリーベの言うことにも一理あるかもと
ちょっと押され気味です。

「ね。だ・か・ら。一緒にがんばろーね♪」
ガシっとサファイアの手を握るフリーベ。今度はヘケートに向かいます。
「ヘケートもね、いくらカレシだっていつどうなるかわかんないんだから
 この機会にちゃ〜んとしといたほうが良いって」
「え?え?私も!?
 私セーター編んでるから良いわよ」
「冷たいなぁ、ヘケート。三人でやろうよぉ」
「で、でもね」
逃れようとするヘケートにサファイアも
「おともだちでしょぉ。一緒にやろーよぉ」
なんて言います。

「ず、ずるい。サファイアまで何言ってるの!」」
「...だってフリーベと二人だけで…なんて想像するだけで怖いってば。
 きっとお台所がめちゃめちゃになって、チョコは出来ずに終わっちゃう気がする」
「あははは。サファイアわかってる。
そうなの、最初から当てにしてたんだ。
 ヘケート先生、よろしくね♪」
「よろしくね♪♪♪」
二人に手を取られ観念したヘケート。
「…わかったわ。。。その本貸してみて」


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 「どんなチョコが欲しい?今日ね、買いに行くの♪」
お昼休み、フランツは女の子たちに囲まれてます。
「私のは手作り。買ったのなんかと違うんだから」
「不細工なのより綺麗な方が良いわよね」
「失礼ね、ちゃんと作るわよ!」
「愛がこもってればどっちだって良いわよね?」
女の子たちが口々に言うのをフランツはにこにこと聞いてます。

「あーやって油断してると今年も失敗するんじゃないの?」
ケン一の言葉にピクっと反応するフランツ。
耳を澄ますとブラッドの声が。
「…まあなぁ。可能性は高いだろうな」
「15日の昼飯賭けるか?」
「俺、貰えないほうな」
「…それじゃ賭けにならないよ」
笑いあう二人を眺めてフランツは考え込みました。

 −−−−−−−−*−−−−−−−−

「昼休みのアレ、どーいうことだよ」
放課後。
フランツは不穏な空気を漂わせつつブラッドとケン一に問いかけます。
何が?と不審げな二人。

「何が?じゃない!今年も失敗するとか言ってただろ!聞こえてたぞ!!」
フランツの剣幕に'単なる冗談だろ'と宥めるブラッド。
でもケン一は、実は…と切り出しました。
「フリーベがいろいろ言うんだよ。
 女の子と一緒のフランツを見たけど、あれって付き合ってるの?とか
 昨日電車で女の子連れのフランツをサファイアが見たって言うんだけど
 何か知ってる?とか」
「何で!?いつ!?
 別に付き合ってるわけじゃないぞ!」
「…知ってる。ただの友だちだって答えておいたけど」
複雑な表情のケン一。一瞬躊躇ったあと更に
「フリーベの話だぞ。本当のことは知らない。
 サファイア、結構傷ついてるって言×□*△」
言いかけましたが、フランツに胸倉を掴まれ最後まで言えませんでした。
「嘘だろ!そんなこと彼女は一言も言ってないぞ!」
「痛!放せよ!!…だから…フリーベの話だって言ってるだろ!!」

「ケン一を責めても仕方が無いだろ」
喧嘩になりそうな二人の間に割ってはいるブラッド。
「それよりケン一、いつの間にフリーベと付き合い始めたんだ?」
「誰が付き合ってるって!?馬鹿言うなよ!!ブラッド!!」
「いろいろ相談されてるんだろーが?」
「勝手にくっついてきて勝手に喋り捲るだけだよ!!
 付き合ってるなんて冗談じゃない!」

ブラッドとケン一のやり取りは延々続きそうでしたが
「傷つけてるなんて…知らなかった」
フランツが呟いたので、顔を見合わせ同時に口を開きました。
「だから失敗するんじゃないかって言ってるんだよ」
「何故そう鈍いんだ?当たり前だろ」
言葉が重複ってしまい、ケン一が言い直し。

「逆を考えてみろよ。
 彼女が他の男と会ってたら、どうだ…?」
逡巡しながらも'仕方が無い'と答えたフランツにケン一が食って掛かります。
「何故だ!?自分の彼女が他の男と会っていても平気なのか!」
「…'彼女'じゃない」
「付き合ってるくせに!!」
「…誘って向こうに時間があるときには会ったりするけど、
 別に付き合ってるわけじゃない。
 だいたい僕を好きだなんてあの子の口から聞いたこと無いぞ!!」
「それ、間違ってる!!」
言いかけたケン一をブラッドが止めました。そしてフランツに
「よく考えないと本当に今年も失敗するからな」
とだけ言い席を立ちます。ケン一も
「自業自得だからな。僕はちゃんと忠告したぞ!」
言い残してブラッドの後を追いました。


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 「おはようフランツ♪」
覇気の無いフランツに笑顔で挨拶するサファイア。
どうしちゃったのかな?と思いながらも'今日も寒いね'と
当り障りの無い話を始めました。

こんな風に笑顔で話し掛けてくるんだから、嫌われてはいないよなぁ。
フランツ、思案中。ふと上を向くと目に入ったのはチョコレートの広告。
「ヴァレンタイン・ディって明日か…」
呟くと、'え?'とサファイアがまん丸の眼で自分を見返しているのです。
サファイアにしてみれば、今まで全然違う話をしていたし
それまでヴァレンタイン・ディの話なんて一度も出なかった
のに突然言われ単に吃驚しただけなのですが。
「あ。いや。あのポスターが目に入って…
 あれ、綺麗で美味しそうだね。。。」
フランツ慌てて取り繕います。

とてもゴージャス且つ美味しそうな写真に'買ったほうが良いのかな?'
サファイアは素直に受け止め考えてしまいます。
その間を勘違いしたフランツ。
「…別に催促してるわけじゃないよ。
 気にしないで良いからさ、うん」
脳裏には昨日のブラッドやケン一の'傷ついてる'発言が過ぎっていました。
せめて困らせるのは止めよう、と思いやったつもりだったのです。ところが
「いらないの?」
今日の放課後みんなで手作りしようって思ってたのに…。
そうなの…。私のチョコは要らないんだ。。。しょんぼりとしたサファイアの姿に
'何か間違っていたらしい!'と気付いた時は既に遅し。
下車駅が迫っておりました。

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馬鹿じゃないか!」
「彼女、気の毒になぁ」
教室で今朝の出来事を話したフランツ。
ブラッド&ケン一の言葉に溜息をつきます。
「…昨日お前たちがサファイアが傷ついてるとか、
よく考えろ、とか言うから」
「それで?考えた結果がそれかよ!?
 …もう、話にならないな!!」
ケン一の非難に反論も出来ず、机にうつ伏したままです。
「良いんだよ。どうせもともと貰えなかったんだよ!」
呻き混じりに言うのを'仕方が無い奴だ'と思いながら
「放課後、謝っておけよ」
言葉少なに励ますブラッドでした。

    −−−−−−−−*−−−−−−−−

その頃のサファイアはと言うと。。。

「放課後うちに来てね!
 遅くなっても大丈夫。兄に帰り送ってもらえるように頼んであるから」
フリーベ、やる気十分でサファイアとヘケートを誘います。
本当は断るつもりだったサファイア、せっかく盛り上がってるのだから
とチョコレートを作ることにしました。

ただし、最初の計画とは、ほんの少し違うものになりましたが。    
 
−−−−−−−−*−−−−−−−−

その日の放課後。
フランツは駅でサファイアを待っていました。
謝って、それから。
君からのチョコレートが欲しいって
言うつもりでした。
が。
いつまでたってもサファイアは現れなかったのです。

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ヴァレンタイン・デイ 当日。
去年と同様朝から女の子たちに囲まれてしまったフランツ。
それでも必死に車内のサファイアを見つけようとしましたが
「フランツ、これ、貰って」
「私のも!」
山のようにいる女の子とどんどん増えてくる荷物に阻まれ
身動きが取れません。
そうこうしているうちに電車は駅に着いてしまいました。

「フランツ、おい!降りるぞ!!!」
人混みの渦を掻き分けるブラッドの声.
「え〜!?待って!まだ渡してないのに〜!」
「フランツ!待って!!」
悲鳴のような声を上げる女の子たちに'ごめん'と謝って
無理矢理下車しました。

「これ、おまえにって」
歩きながらブラッドが手に持っていた赤いリボンの包みの一つを差し出します。
「…珍しいな。そーいうの嫌がるくせに」
受け取りながら首を傾げるフランツ。
「お姫様に頼まれちゃ仕方が無いだろ」
「誰だって!?」
「サファイアからって言っただろ」
フランツ、一瞬喜んだもののブラッドの手にあるそっくりなものに
気付き'それは何だ?'と問い掛けました。
「…俺の分だと。いつもいろいろ有難うってさ。三人で作ったって」
「ちょっと待て!!」
フランツ、ブラッドのチョコを取り上げます。
自分の分と寸分違わないようで、しげしげと見比べます。
「…あの小学生にも渡してたぞ。
 まあ、もらえてよかったよな。手作りだし」
「そうじゃないだろー!!!
 これって…これって義理チョコだろ!!
 あ〜。もう!!何故だ!?わけわかんない!!!」

頭を抱えるフランツに'本人に直接聞け'とブラッドは
アドバイスしながら、自分の分を取り返しました。
フランツはとても不満そうでしたが。

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フランツ、どうしてるかな。。。
帰宅途中の電車でぼんやりと考えるサファイア。
もしかして受け取ってくれてないかも…。
いらないって言われたのに、ブラッドに頼んじゃったんだもんね。
…どうしてあんなこと言ったのかな。去年の事まだ怒ってる?
それとも。
頭の中がグルグルしてしまい本日113回目の溜息をつきました。
 
−−−−−−−−*−−−−−−−−

116回目の溜息をつきながらホームに降りたサファイア。
「サファイア!」
呼ばれて顔を上げると階段の陰にフランツが立っていました。

「フランツ!こんなところでどうしたの?
 誰かと待ち合わせ???」
胸がチクっと痛みましたがあえて笑顔で訊くサファイア。
フランツは無言でその手を取ってずんずんと引っ張って行きます。
「な?なに?どこへ行くの?」
ホームの端の人影の無いベンチにどかっと座りました。
躊躇っていたサファイアも腕を引かれ、隣にちょこんと腰掛けます。

何度か口を開きかけて止めるを繰り返したフランツ、
ポケットから取り出したチョコレートの包みを弄りながら話し始めました。
「あのさ…。これ、ブラッドから受け取った。
 …その、ありがとう」
言いたいこと訊きたいことは山ほどあるものの、どう切り出して良いかわからず
言葉が途切れてしまいます。
「ごめんね。いらないって言ってたのに、ブラッドにお願いしちゃって」
サファイアもフランツの重い口調に気圧され気味です。勇気を出して言いかけますが
「でも、どうしても今年は渡したかったの。去年あんなことになっちゃったから。
ごめんなさい。いらなかったんでしょう?邪魔なら捨てて…」
語尾は消えるようになってしまいました。その言葉に慌てたフランツ
「捨てるわけ無いだろ!
 好きな子から貰う初めてのチョコなんだぞ!」
思わず大声をだしてしまいました。
サファイア、大きな瞳でまじまじとフランツを見ます。
'好きな子から貰う初めての……好きな子…'
言葉の意味がやっと頭に届いて、カーッと耳まで赤くなりました。
「あ…あの。私…」
「サファイア。僕も君からのチョコレートが欲しかったんだ」
ブラッドやチンクと同じものだということがチラっと頭の隅を掠めますが
サファイアの上気した顔の前には全て吹き飛びました。
更に理性まで吹き飛んだようでサファイアの肩に手を伸ばします。
ぎゅっと抱き寄せて、そのまま唇を落とそうとしたそのときです。

「1番線に電車が到着いたします」
アナウンスが響き、は!と我に返ったサファイアに阻まれてしまいました。
「…だめ!」
「サ、サファイア〜」
自分でも情けない声だと思いつつフランツは訴え口調です。
「昼間だし駅だし制服だし…誰かに見られたら困るもん!」
サファイアは俯きながらも言い訳。
えいっ!と立ち上がると電車がホームに滑り込んで来ました。
「これに乗るんでしょ。乗って良いから!
 また明日ね!!」
口早に言って駆け出しました。
「待って!送るよ!」
後姿に声を掛けると、くるっと振り返ったサファイアはまだまだ真っ赤な顔で
「一人で大丈夫!!!」
手を振って一目散に階段を目指して行きました。

び、吃驚した!でもでも……
好きな子だって!!明日どんな顔で会ったら良いのかな?
なんて思うサファイアの鼓動が早いのは階段の所為ではないはずです。

ぽつんとホームに残されたフランツ。
「あーあ。逃げられちゃった。
 また、明日…か」
チョコレートを胸ポケットに滑らせて、くすっと微笑いました。

一応おしまい。

<2002年のヴァレンタイン・ディ おしまい♪>




<<独り言>>
フランツの情けなさ加減がかわい〜とshanzは思ったんですけど、
もう少ししゃきっとしろ!という意見もあるでしょうね(^^;)
最後の暴走振りも、おいおい!!っていうのとGO、GO!っていうのと
両方あったりします。



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