§お昼休み
お弁当を食べながらフランツは独り言のように呟きます。
「今朝さ、サファイア何だか甘い匂いがしてさ」
「香水かなんかだろ」
事も無げに言うブラッド。
「そんなんじゃないよ。お菓子みたいなんだ。
もうヴァレンタイン・ディの準備してるのかなぁ。
いや、あれはチョコの匂いじゃない」
ぶつぶつ言うフランツを
「思わず齧りたくなっちゃったか〜?(笑)」
ブラッドがからかいます。
「うるさいなぁ!黙れ!」
「本気で殴るなよ」
と拳でじゃれあってる2人にケン一の声が。
「それ、多分リップクリームだよ」
女の子の持ち物になんてまるっきり興味無さげなケン一が答えたので
え?!と見返す2人。
マジマジと見つめられ、ケン一は口ごもりながらも続けます。
「…フリーベが言ってたんだよ。
カスタードクリームの匂いのリップ、皆で買ったって」
更に‘このぐらい近づけば香りするでしょ?’って迫られたことは内緒です。
「リップクリームか〜!!あれは罪だろ!
あんな旨そうな匂いさせながら
‘フリーベが作るって言うから今年はチョコケーキなの。それで好い?’だと〜!!
君が欲しいって素直に言って良いのか!!言っちゃうぞ!」
フランツの惚気だか愚痴だかわからない叫びに
やれやれと顔を見合わせるブラッドとケン一でした。
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§帰り道
時間を合わせてサファイアと同じ電車に乗ったフランツ。
いつも通り凛と立つ姿へいそいそと近付きました。
車内は空いていて座れるくらい。
でも立ってる方が近くに寄れるし…とサファイアをさりげなく扉脇に追い詰めちゃいます。
そんな邪な思惑には気付かず、にこにこと‘今日ね…’なんて話し始める唇から目が離せません。
…やっぱり美味しそうだよな〜。リップクリームねぇ。。。
「?なあに?どうしたの?」
視線が気になって問いかけるサファイアに
「最近甘い匂いするなと思ってたんだけどリップなんだって?」
ストレートな質問返しが。
な、なんかとっても接近してる気がする〜。どうして?いつの間に???
フランツの熱っぽい視線から逃げたくて慌てて鞄の中を探ります。
「これなの」
出てきたのは絵の付いたちっちゃな円筒形のプラスチック。
差し出したのを手に取るわけでもなく、フランツが見つめたままなので引っ込めることも出来ません。
そんなに匂いキツイかな。つけるのやめようかな。。。
「味はするの?」
耳元でいきなり声がしたかと思うと一瞬唇を掠めるものが。
「!!」
手から滑り落ちたリップクリームがコツっと音を立てました。
ゆっくりと拾い上げたフランツが顔を上げると、サファイアは鞄を抱え込んで俯いています。
柔らかそうな髪の隙間から覗く顔や耳朶がほんのりと染まっているのがとても可愛くて構わずにはいられません。
「…しないんだね」
囁くとピクンっと反応して、ますます赤くなります。フランツはなんでもないように
「甘かったらキスするのも楽しいのにね」
なんて言うのです。
「知らない!」
丁度電車が駅に着き、傍らの扉が開きました。
「サファイア!!」
止められるのを無視して電車から飛び降りたサファイア、柱の影に駆け込みます。
あんなこと、電車の中で…。誰か見てたかも。
きょろきょろと辺りを見回して知らん顔で通り過ぎる人々に安堵の溜息。
遠ざかって行く電車を睨みつつ‘フランツのばか’と呟きます。
「馬鹿はないだろ?」
後ろから囁く声に振り返ると、そこにはフランツが。
「お、降りちゃったの?」
二、三歩後ずさりしつつ問いかけると
そんなに警戒しなくてもいいのに…フランツは苦笑しながらリップクリームを
‘忘れ物’と差し出しました。
またまたカーッと顔が赤くなっちゃうサファイア。
「い、いいの。要らない。捨てちゃって」
駄目、もう絶対使えないよぉ。見るだけでさっきのこと思い出しちゃう。
思いっきり首を横に振られ行き場のなくなったリップクリームはさりげなくフランツの胸ポケットへ。
「…そんなに厭だった?」
「だって…だって電車の中で…あんなことしちゃ駄目に決まってるもの。
誰かに見られたらどうするの?」
小さな声で、でもきっぱりと抗議するサファイアに、何故か笑顔のフランツ。
「良かった。僕とキスするのが厭なのかと」
「だから!そんなこと言っちゃ嫌だってば!キライ!!」
「しーっ!声、大きいよ」
サファイアは窘められて口を噤んだものの、周囲の視線が集まっているようで落ち着きません。
丁度到着した電車に二人並んで乗り込みますが、腰を下ろしたのはフランツからかなり離れた場所。
「半径1メートル以内に近づいちゃ駄目なんだから!」
口を尖らせるサファイアにフランツはとりあえず全面降伏の態度。
チョコケーキが来るのは間違いないし、ポケットのリップクリームは彼女が腕の中にいるかのように
甘い香りを漂わせているので、今日のところは譲ってあげよう♪なんて思ってるのは秘密です。
ヴァレンタインディは目前ですからね!
<2004年のヴァレンタイン・ディ前 おしまい♪> |
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<<独り言>> |
今回はフランツが妙に強気なんですよねぇ。ちょっと暴走気味。。。
つやつやの唇に理性が吹き飛んだらしいです。まだまだだのう、フランツ(笑)
サファイアは誘惑しちゃってるんですけど、無意識だから徒に身の危険が!
相変わらずなんだかすれちがってるなぁ。。。(^^;)
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