ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN



第65話   一企業反乱戦争―Breakthrough―
 「予定より遅れているようね」  ラグの後ろにいたのはミューアだった。  「ああ・・・」  やはり振り返ることなく答えるラグ。  「その機体は隊長機なの?」  「そうだが・・・それがどうした?」  「無人機の動きを止めればいいのよね」  「だが停止コードで止めることは出来なかった」  「・・・無人機同士の通信暗号とかは解析してあるの?」  「・・・一応な」  「だったらいい方法があるじゃない」  その言葉にラグは振り返った。  「無人機をいくら倒したところで無駄だ」  その言葉と同時に後ろへ下がるルシード。  その言葉を裏付けるように、後方からも、地面からも、それこそ数え切れないほどのMTが攻撃してくる。  「ちっ!」  言葉と同時に距離を詰めるノア。  「それが甘い!」  再び砂の中から無人機が出現した。  どうやら彼の予想通り一部の土の下には本陣からのMT輸送通路があるようだ。  「それはどうかな!」  だがそれは戦闘中に予想の付いていたことだった。  慌てることなく、ブースターの出力を再び上げる。  ノアのACは現れた一機のMTの頭を踏み潰し、前方へ―ルシードの下がった方向へ―跳んだ。  そのまま勢いを殺さず、さらに加速するノア。  両者の距離が0になった。  ブレードとブレードがぶつかり合う。  「やるな・・・」  ルシードは感嘆の声を上げた。  「そいつはスナイパー機で俺と互角の接近戦してるお前に言うセリフだぜ」  「フッ、そうかもしれん、だが・・・」  MTが反転してノアに照準を定める。  「少々甘かったようだな」  「それは、どうかな!」  MTがマシンガンを乱射する。  そのタイミングでブレードを解除し、ルシードのACの肩を掴み、その勢いで前方へ跳んだ。  そしてルシードと背中合わせになると、ブーストを噴かした。  正面には核配備の基地。  「待て!」  ルシードのACも反転する。  途中で数発のマシンガンの弾を受けたが致命傷には程遠い。  照準を定めて発射する。  直撃の瞬間。  ノアのACが再び消える。  「何っ!」  「まだまだ!」  ノアのACは真上にいた。  重力に従って落下していくノア。  その先にはルシードの黒いAC。  「くっ・・・」  ブレードとブレードが激しくぶつかり合う。  「そうか・・・ダミー装置か」  「ああ・・・ばれたか、やっぱり」  ノアはやれやれと言った調子で答える。
ダミー装置 急速に膨らませたダミーバルーンを指定した速度で射出する装置。 攻撃を食らえば破壊されるが、破裂時間は一瞬のため、まるで消えたように錯覚させられる。 また、その原型はかなり昔から考えられてきたためか、制作者は不明。
 「だが、やはり無人機のことは頭に入っていないようだな」  「いや・・・どうかな?」  ノアのその言葉は自信に満ちていた。  「まず一機・・・」  すれ違いざまに一機破壊した。  「行け!ミリィ!核を潰してこい!」  「分かったわ!気を付けてね!」  妹の機体が飛び上がり、ACの群れを抜けた。  「気を付けるも何も・・・」  襲ってきたACの攻撃を避ける。  「今は戦闘中だ!」  そのACを叩き伏せながら言った。  「こ、こいつ、手強いぞ」  「ああ、俺はランカーACのジオだ」  こう言う時、時間稼ぎが最も有効な手段であることは彼も分かった。  妹を危険に晒さず尚かつ時間稼ぎをするには出来るだけ恫喝とはったりを使う事が有効だ。  彼はそう考えた、勿論、できれば自分も安全に、と言うことも考えてのことだ。  「怪我したくなければ・・・いや、死にたくなければさっさとお家に帰んな」  「て、てめえ!」  一機だけ突入してくる。  攻撃を交わし、足を引っ掛けてバランスを崩し、掉尾にブレードを突き立て、制御システムを破壊する。  「さあ、次は?」  「い・・・一斉攻撃だ!」  それは彼が一番困る攻撃方法だった。  「敵は兄さんが引きつけてくれる・・・急がなきゃ!」  近距離警戒用火器が火を噴く。  「この・・・邪魔しないで!」  マシンガンが火を噴き、幾つかの砲台が沈黙する。  その瞬間にブースターを噴かしてダッシュする。  「えっ!?」  一瞬、悪寒が身体を走る。  ブースターとバランサーを切り、その場にACごと前のめりに倒れこむ。  先程まで立っていた場所を二本のビームが抜けていった。  「なかなか、いや、かなりやるな・・・」  「誰?」  「ふふふっ・・・誰だろうね・・・」  目の前にはMT、機体表面には歴戦の証であろう、撃墜数を表すような星のマークが無数についている。  「なるほど・・・MT乗りのレイヴン、『ヴイントシュートス』ね」  彼女は彼に覚えがあった。  強力な腕武器ビームを装備したMTを駆り、何機ものレイヴンを葬ってきた凄腕のMT乗り。  それが彼である。  「そう言うことだよ、血の気の多い連中は君のことを無視していたが、真のレイヴンと呼ばれる者は・・・」  敵が眼前に迫っていた。  「戦闘中に自己陶酔しないことが最低条件よ」  ミリアムは冷めた口調で言った。  そのままMTの脚部を切り裂く。  「どんな武器だって、当たらなきゃ意味がないわよ、そして、どんな機動力も、足が死んだら生かせないのよ!」  固定砲台となったMTを振り返ることもなく、彼女は要塞に侵入した。  「無人機が多すぎるわね」  狭い通路を利用して一機ずつ破壊していくカリナ。  「邪魔しないでよ!」  数の多さにいい加減腹が立ち、グレネードを撃ち放つ、爆発したところでさらに切り倒してゆく。  そこにはただの作業と言う感覚しかない。  「いい加減にして欲しいわ」  もううんざりだった。  すると突然、無人機の動きが止まった。  全ての場所で。  「何が起こったのだ?」  「分かりません、しかし、無人機の動きが止まりました!事故ではありません、   どこからか命令が出ていたものかと」  乾いた銃声が響いた。  先程のオペレーターが倒れる。  「無能者め・・・こうなれば・・・少々早いが・・・核を、発射する!」  その目には一点の曇り無く、核で崩壊した街が映っていた。  「一時間だ、それで核は発射される」  そう言って赤いボタンを押した。  「なぁ、ミューア」  「どうしたの?」  「どうやって無人機を止めたんだ?」  「簡単よ、この無人機が全ての無人機の隊長だと思わせたの」  「それで?」  「指令可能な全無人機に通達したの、全作戦中止、以降は別命あるまで待機って」  「なるほど、な」  停止コードを使うことなく無人機を止めた方法にラグは感心していた。  正直、そう言う方法は全然考えていなかった。  「さて、思ったより時間が掛かったが制限時間まであと12時間ある、   それだけあればいくら連中がヘボでも勝てる」  「あらあら、ヘボとはよく言うわね、あいつらが有能だからマネージメントしてるんだって言ってたのは誰だったかしら?」  「さてね、じゃ、ミューア、俺は新しい輸送機の手配に行くから一応援護に行ってくれ」  「はいはい・・・必要ないと思うけどね」  一時間後に核が発射されるとはこの時知る者はいない。
第65話 完

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はい、65話です。 サブタイトル、『Breakthrough』、意味は『突破』、まんまですね。 あと制限時間が長すぎるという大人の事情(^^)を狂人の焦りという非理性的手段で解決しまして。 あと1時間です。 激化するノア対ルシード。 追いつめられるジオ。 発射停止を目指す女性陣。 さて、どうなるかご期待下さい。