ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN



第61話   一企業反乱戦争―chaos―
 「全く・・・これで帰りは歩きだな・・・」  彼専用のMT『エモリカ』の中で彼は呟いていた。  レーダーに僅かな反応。  「おっと、あそこの塹壕の中に伏兵・・・こいつはMTだな・・・ステルスを取り付けているようだが・・・甘かったな」  そう言って彼はMTを少しだけ後退させ、MTの背中に取り付けた砲を上方に放つ。  上空で弾が裂け、爆発する。  その破片はそのまま塹壕に突っ込んでいく。  塹壕と言っても、それは急機動の可能なMT用の物で、上空から見ればタダの落とし穴と相違ない。  その上空から拡散弾が降り注ぐのだ、タダで済むはずがない。  「よしっ」  予想通り塹壕に隠れていたMT数機が吹き飛んだ。  だが数機、まだ稼働しているMTが確認できる。  それでも敵が慌てて出てくる様子がない。  「無人機・・・か?」  結論付け、今度は上空へ飛び上がり稼働していた残りのMTを直上から撃ち抜く。  隠れていた無人機部隊はあっさり全滅した。  「さて・・・と」  ラグは防護服に身を包み、MTから降りると、一機一機調査を始めた。  「嘘でしょ?何よあの数・・・」  彼女が見たのはヘタをすれば3桁に登りかねない数のMT。  レーダーに写っていた最初の数−正面から現れた大型輸送機、そして目の前にいるのは彼女のAC一機−から見て、  彼女が囮―と言っても防御がおざなりになれば直接攻撃をしかけるという作戦だが―だと言うことは分かっているはずである。  この事から判断して総力は−予備兵力も考えれば−5桁以上の数があると言う可能性もあった。  「全く・・・本物の物量作戦ね・・・一対多でもこれはやり過ぎよぉ・・・」  ふと考えつく、この状況を少しだけでもいい方向に持っていく手段を。  「そうよ・・・ここはまだ相手より上の位置じゃない、だったらまだ逆転の手段があるわ」  そう言うと直上ミサイルを一撃撃って、彼女は再び山頂へと登っていった。  「上方に向かった有人機21より報告、敵は後退したとのことです」  「追え」  社長は迷わず言った。  「了解」  「追え、だそうです」  「了解、無人機を前進させる」  隊長がそう言うと、その声に反応して何十機ものMTが前進していく。  先程の急迫した状況からは考えられないほどに余裕に満ちていた。  「分散して追ってきたわね・・・素人かしら?それとも・・・熟慮あっての事かしら?」  そう言うとミューアはある場所にACで蹴りを入れた。  「それともタダの無人機だからかな?」  途端に彼女の足下、MT部隊から見て直上の崖が崩れた。  もっとも、熟慮あっての行動だった場合、地理の差がある以上、彼女の苦戦は必死なのだが。  「さて、次は・・・これね」  出っ張った崖の岩をブレードで切り裂き、直下に叩き落とす。  「平地戦ならともかく山岳戦で数が多いだけのMTが私に勝てると思ってるの?」  そう言って彼女は笑う。  「『ゲリラ発祥の地』を・・・甘く見ないで!」  「隊長!上から攻撃です!」  「なんだと?寝ぼけるな!直上からACが攻撃など出来るはずが・・・」  無い、と言う言葉は死んでしまった。  彼の目の前に巨大な岩が落ちてきたのだ。  「落石?いや・・・この人工的な切断面から見・・・」  「隊長!次弾が直上より落下してきます!」  次々に岩が落ちてくる、兵士の指揮は一気にガタガタになった。  「て、撤退だ、撤退しろ!」  「しかし!前後が岩で囲まれてMTでは走破できません!」  「だったら照準を真上に向けろ!落下してくる岩を砕いてやれ!」  そう言った時、もう一つ岩が落ちてきた。  「岩が来たぞ!総員攻撃開始だ!」  次々に命中する弾丸を面白そうに眺める者がいた。  「楽しそうね・・・一緒にダンスを踊らない?」  オープン回線で流れる歌声があった。  大音量でハードロックが響く。  「何?」  地面に小さくなった岩が落ちる。  その上から、太陽から落ちてくるように。  「Let's dancing!」  歌詞に合わせて赤い機体が地面に降り立つ。  ブレードを華麗に振りながら。  「なっ・・・」  岩と同時に『降ってきた』ACはまるでダンスを踊るようにMTを破壊していく。  「こちら第4中隊、残機あと30程度しかない、救援を頼む、きゅうえ・・・」  「おっそいのよ・・・『兵は神速を貴ぶ』の、分かる?」  そんなことをいう間にはもう既にそのMTから離れ、次の目標に移っている。  「そして・・・兵力は集中して扱うのが常道よ・・・だから一人で戦う私は山岳戦が得意なの」  そう、山地では、それもこのように狭い切り立った崖では兵力を集中、つまりチームで動くことは困難だった。  チームで戦えなければここの技量がダイレクトに現れる、だから彼女は山岳戦が得意だった。  そうして分散して行動していたMT部隊は各個に撃破される。  その間、時計の針は一回りもしていなかった。  ―――発射まであと262時間。
第61話 完

第62話へ 第60話へ 戻る
さて、久しぶりに更新の61話です。 chaos、混沌ですね。 状況から見れば、ってか状況みれませんね・・・ 陽動作戦に向かったミューア、それにラグのお話しです。 戦況は混沌としてきてます。 相手となってる企業は嫌になるほど無人機を投入してますから。 では、次はジオ達の活躍を書く予定ですので、はい、62話に期待して下さい、いやマジで。