ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第57話 崩壊するかつての首都―永遠の休息は―
「2機残りましたね、会長、ご指示を」
「うむ・・・そうだな、ダイン侯爵、君と・・・そうだな、第4と第6が残った敵を攻撃、
残りは私について来い、それだけあれば戦力は足りるだろう?」
「了解、第4は右、第6は左から攻撃、私は正面から行く」
「なるほど・・・そう来たか」
「どうします?フリッツ?」
「そうだな、君はあの正面のを倒したら急速離脱して通り抜けたあの子達を支援するんだ、
それで左右から来る連中は私が片づける、異論はないな?」
「・・・了解」
異論はあった、でもそれは口にしない。
これが最後の戦いになる、そう考えていたから。
「兄さん、みんな、後ろから追撃してくる部隊があるみたい」
彼女、ミリアムはあっさりと言った。
「シャレにならないな・・・」
彼女の兄、ジオは言った。
「仕方ないな・・・ジオ、足止めするぞ、2人は早く行ってダム壊してこい」
その親友、ノアは言った。
「ちょっと待ってよ、壊しに行くなら機動力の高い機体がいいでしょ?兄さんとミリィが行った方がいいわ」
さらにその妹、カリナが答える。
「・・・まあそうだな、急造のチームワークでどこまでいけるか不安だが多分大丈夫だ、行って来な」
あっさりと作戦が決まる。
だが1つだけ言わなければならなかった。
「壊すときは何か通信で言えよ、俺達までやられたらシャレにならないんだからな」
「わかったわ、兄さん」
これで、2人のチームが3つ出来た。
一瞬で、左から回り込んでいた第6小隊は倒された。
油断もあったが、彼等が甘かった、のではなく、彼が辛かったからだろう。
「不意さえつかれなければ・・・この程度の敵には!」
全身に走る痛み―身体を酷使したときに出てくる、古傷である―を押さえながら、老将は叫んでいた。
左手前の崩れかけたビルを見つけるとすぐにそこにロケットを打ち込み、倒壊させ、その煙に隠れる。
その直後、崩れてきた破片で動きを止めた機体の足を一瞬で切り裂くと、蒼い機体は予定通り、支援に向かった。
「出来るだけ連中の注意を逸らす、俺たちが不意をついて攻撃したと思わせれば多分大丈夫だろう」
「わかったわ」
そう言って一気に後方に下がり、ビルの影に潜み、レーダーに映らないように最低限の動力しか働かせていない。
カリナはそれに10秒間ほど遅れてついてくる。
「どうした?ちょっと遅れたが」
「気にしないで、もうちょっとすれば分かるわ」
「そうか・・・来たな」
ジオの顔が緊張に支配される。
慎重に、先頭を走る機体に狙いを定める。
だが先に攻撃したのはカリナの方だった。
ほとんど無照準の攻撃は先頭を走る機体の足下に着弾した。
直後に着弾箇所直上のACが炎上し、同時に巨大な爆発が起こる。
それはFCSの距離外にいたカリナの機体さえも空中に持ち上げるほど強力な爆発だった。
「くっ・・・なんだこの爆発は」
「これがさっき言っていた『もうちょっとすれば分かる』事よ」
装甲が傷ついた様子もなく、空中からカリナが通信を入れてきた。
「ふうぅ・・・ん」
ジオはカリナの機体に興味を持った。
ちらりとしか見えなかったが爆弾等を設置していた様子はなかった。
つまり『見えない罠』が使用可能な特殊機体だろうと考察した。
「さて、アレなら1、2分は時間を稼げるだろう、とりあえずあいつらと合流しようか」
「わかったわ、そうしましょう」
混乱、恐怖、それらの戦いを妨げる感情と戦っている間に、彼等は撤退していた。
「フリッツ、無事ですか?」
「ジェニス?どうしたのですか?支援に向かわなければいけないはずでしょう?」
「大丈夫です、遠目に見ても敵部隊は混乱していました、アレなら支援は必要ありませんよ、
それよりも、爆弾の爆発まであと3分もありません、急いで脱出しましょう」
「そうか、分かった、急ごう」
白い機体と蒼い機体も戦場を離脱していった。
「予定時間まであと・・・3秒・・・」
ノアとミリアムはACのブレードを振り上げる。
それを見たジオとカリナの2人はブースターで飛び上がる。
「2・・・1・・・」
「GO!」
飛び上がった2人を確認したと同時にブレードを振り下ろし、ダムの壁の両端に亀裂を入れた。
その直後、大破壊以前から存在し、水の重量を支え、老朽化していたダムの壁は決壊した。
「とりあえず次の爆発を警戒するのは良いとして、ですが、いつまでこうしているのです?これでは逃げられるのでは?」
「そう、だな、よし、それじゃあ部隊を2つに分けよう、まず・・・」
刹那、爆音。
彼等の足下の地面が崩れた。
「な、なんだ?」
「わ、わかりません、うわっ、ビルが崩れてきますよ!」
「くそっ、発砲を許可する!倒れるまでに破壊しろ!」
「了解!」
無駄だった、破壊されたビルの破片はACの装甲を砕くに十分だった。
その上、崩れた所にダムの水、そして地面が『沈んだ』ことでさらに海水が流れ込んできたのだ。
これによって、この廃墟と化した都市はその大部分を海中に没し、崩壊した。
「・・・どうやら、終わったみたいよ」
「そう、なのか?そりゃぁ、良かった」
その言葉と共に、四人から溜息が漏れた。
同時に脱力する。
それから2分ほど経ってから。
「ねぇ、ミリィ、あの2人、どうなったか分かる?」
「ん〜、ちょっと待って・・・」
時は5分ほどさかのぼる。
黒い機体が立っていた、AC8機の残骸をオブジェにしたような丘の上で。
1つとして弾痕のない、ブレードだけを装備した、純黒の機体が
そこに白い機体と蒼い機体が近づいてくる。
「レイ?」
「バーティア・・・生きていたのか!」
白い機体が駆け出す。
もう会えないと思っていた戦友に。
蒼い機体は、知る・・・しかし『理解する』事が出来なかった。
何故黒い機体は目の前の白い機体を『切り裂いた』のだろう?
「バーティア?」
「・・・何だ?」
前に聞いた時と同じ声。
モニターの端に映る顔も彼の物だ。
それなら何故仲間を殺したのだろう?
次の光景が信じられなかった。
目の前にいたACが消えたのだ。
だが、それも一瞬でしかなかった。
気付くことなく、蒼い機体の主は死んでいた。
2つに切り裂かれて。
「こちらナンバー8、現在位置を送信、回収を」
「こちらナンバー7、了解した、回収艇をそちらに回す」
この日、あるランカーチームが消滅した。
それと同時に、50機ものディクセンシティー精鋭部隊も、全て消滅した。
交戦状態になったという話は、すぐに消え、
後、数年間ディクセンシティーは主要議員が消滅した状態で政治を運営。
経済状態の悪化が起こり、現在もそれから立ち直っていない。
「・・・反応はないわ」
「そう・・・やっぱり一緒に・・・」
「そうかもな・・・」
「でもさ」
ノアが言う。
努めて明るく。
「彼等のおかげで俺達は生き残った、だったら・・・生きて生きて生き抜いて・・・そうしてやるのが礼儀じゃないか?」
「・・・そうだな」
ジオもその事を悟り、明るく言う。
「そうよね、思い切り生きるのが、礼儀よね」
ミリアムが言った。
「そうだ、ねぇ、一緒にチームを作らない?」
「チーム?」
「兄さん達も2人でチームでしょ?私達もそうなの、だから、一緒にならない?」
「・・・いいんじゃないか」
「そうだな、生き残るにしても、全員がいいし」
「あははっ、じゃあ決まりね」
「それだったら一緒に暮らさない?」
「ばーか、一緒のチームだったら当然だろ?」
「ばーかはないでしょ、兄さん?」
「話は決まりだ、とりあえず帰ろうぜ」
「そうね、よし、決まり〜っ!」
報告書
本日ポイント52において、『エンジェル』4体と『アウトナンバー』4体を確認。
『ノーマル』50体と交戦、『エンジェル』の全生存を確認した。
また、生存した『アウトナンバー』の一人は特殊任務中の『エンジェル』であった可能性が高い。
次回報告時に詳細を送る予定である。
「そうそう、そうだったな・・・」
「だから、でしょ?ここにいたのって」
「・・・そう言うつもりは無かったけど・・・そう言う事にしておいてくれ」
かつて学者になるのもイイかもな〜、と軽く考えていた青年はそう言った。
「もう戻ろ?ここにいたってしょうがないでしょ?」
「・・・そうだな、じゃあ帰るか」
ACに乗り込み、彼等は去っていった。
第57話 完
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