ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第56話   脱出―主義に殉ずる者―




 「駆け抜けろ!」
 部隊の先頭を往く白い機体―フリッツの機体―が叫んだ。
 そのすぐ後ろには高機動型のACが3機、蒼い機体が2つ、そして黒い機体が1つ。
 最後尾には前を往く機体を援護するかのように白と緑の重装機体がそれぞれ1つずつ。



 話は10分ほど前にさかのぼる。


 「で、脱出作戦の詳細、というわけではないが一案作ってみた」
 そう言って、ノアが説明を始める。
 「まあさっきこの地下を調べてみて分かったんだけど、ここって大破壊以前は一国の首都だったんだ」
 だからどうしたというように一様に無言だった。
 「ただし、治安は死ぬほど悪かったらしい、そうすると必然的にテロが起こるだろ?」
 「・・・それで?」
 ジオがようやく口を開く、だからどうしたと冷たくあしらわないあたりでそれなりの友情といえるだろう。
 「で、さっき見つけたのがこれだ」
 そう言ってノアが棒のような物を取り出す。
 「それは何?」
 今度口を開いたのはカリナ、彼の妹である。
 「これは爆弾という物だ」
 沈黙が訪れた。


 「それでどうしろと?」
 フリッツが沈黙を破って口を開いた。
 「こいつはただの爆弾じゃない、いわゆる周波爆弾という奴だ。
  これ一本じゃ到底無理だろうがそこの箱に大量に置いてある。
  こいつを地下一杯にしかけてこの地面を崩壊させる、もちろん時限装置でな」
 そう言うと爆弾の雷管を取り出した。
 「で、そのタイミングと同時に都市の上方の泉に設置されてるダム。
  これは上空から見た限り水が大量に残っている、
  このダムを破壊するとき都市に無人機を使って敵を引きつけておけばほぼ完璧に追撃は振り切れるはずだが・・・どうする?」

 ちなみに無人機は地下で大量に発見されたMTである。
 大破壊末期に熟練パイロットの居なくなったこの国家が発明した兵器である。

 それぞれ道を行く中で大量に見かけたのでどうするといった説明はない。
 「・・・一番の問題はタイミングだな、遅くても早くても作戦は失敗するぞ」
 ジェニスが口を開く。
 「確かに・・・こいつはタイミングがかなり微妙だ」
 フリッツも同様に、必ずしも賛成でないことを口にする。
 「しかし・・・他に代案がないことも事実だな」
 ジオが一言。
 「そうだ、ねえノアさん、その爆弾、タイミングを2つ作ることは出来ますか?」
 ミリアムも口を開く。
 「そりゃあ出来るが・・・って、そう言うことか!」
 「どういうこと?」
 「つまりな・・・」



 「へっ・・・核で吹き飛ばされたACの調査か・・・面倒だな」
 「無駄口叩くな、もし生き残っていたらどうする?」
 「はいはい、対核使用のACなんて聞いたこともないがね」
 「それにだ、核を使った後は暫くレーダーが効かないんだからモニターから目を離すな」
 「へいへい・・・」
 核を使った場合、粉塵が舞い上がり、電波が攪乱され、その他諸々の機能も停止する。
 つまり目視だけに頼ることになるのだ。

 一機始末した。
 次の一機を倒すまでに少しだけ手間取ったが、倒す。


 「ACの爆発光確認、どうやら敵は生きていたようです」
 「全く・・・核を食らっても生きているとはどんな奴だ?」
 「恐らく対核使用のACですね」
 「まあいい、待機している30機を発進させる、我々も出撃するぞ、他の偵察部隊にも位置を教えてやれ」
 「しかし、通信は効きませんよ」
 「閃光弾で位置を発信するんだよ、さっさとやれ!」
 「りょ、了解」



 「敵は順調に罠にはまっているようだぞ」
 蒼い機体はスコープをしまいながら言った。
 「ノア、タイミング1は?」
 「大丈夫だ、あと30秒・・・」
 敵部隊の目標地点から僅か500mの地点のビルの影で彼等は待機していた。


 「ちっ・・・2機とも完全に不意をつかれる形でやられているな」
 先程屠った2機は、後ろからブレードを突き刺される形で倒れていた。
 「おい、信号弾を、メッセージは『03偵察隊全滅を確認』だ」
 「了解、あ、でも本隊が来たよ」
 「そうだな、直接報告しようか」
 「隊長、03偵察部隊の・・・」


 刹那、爆炎が周辺を包む。


 「爆発を確認したぞ、無人機発進させたら俺達も撤退だな」
 「無人機発進、で、俺達はダムを目指すぞ」
 そう言って、にわかづくりの6人組はダムへと向かった。

 「隊長、MTを確認しました、伏兵です!」
 「MTは各個撃破、散開しろ!ACは?」
 「MTが多くて確認されていません!」
 隊長の頭に1つの考えが浮かんだ。
 「副長、ここは任せた、残存する偵察隊を率いてこいつらを掃討しろ、攻撃隊は俺に付いてこい!」
 「りょ、了解」
 だが、この答えを聞く前に隊長のACは走りだしていた。
 「ダムを落とされたら、シャレにならん」
 ダムを落とすという構想は、隊長の思いつき、だが、有効な手段であった。


 「おい、後方から急接近してくる機体がある、それも少なくとも20以上」
 ジオが前を行く機体に叫んだ。
 「・・・分かった、私が食い止める、お前達は行け」
 フリッツが立ち止まる。
 「しかし・・・」
 「さっさといかんか!俺が道を譲ってるんだ!行かなきゃ・・・俺に失礼だろう?」
 「わ、分かった」
 そう言ってジオ達4機はダムへと向かった。


 「さて・・・予定よりも長く生きていたんだ・・・そろそろ・・・いいな」
 白い機体に乗る老将は、小さく呟く。
 「水くさいですね、そう言う意味だったら私も同じですよ」
 蒼い機体がそこに残っていた。
 「ジェニス・・・命は粗末にする物じゃない、今なら・・・まだ間に合うぞ」
 「はっはっは、フリッツ・・・いえ、フリッツ元帥、1つだけ、若造の意見を言わせてもらいますよ。
 『人は何かのためにその命を大事にしておく、そしてその何かのために命を投げ出す』
  昔の偉人の受け売りですけどね・・・」
 「それが・・・今ということか、あの少年達を助けることが、何かと言うことか・・・」
 「そう言うことですよ・・・ほら・・・来ましたよ」
 そう言って白と青の機体は身構えた。
第56話 完


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後書きは本編と特に関係がないので打ち切ります。
設定とかで分からないことがあったら言って下さい。
ここに書き足しますので。