ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第53話 イレギュラー消去計画―消去者とイレギュラーと―
「議長・・・ホントに我々が全員必要なんですか?今回の作戦・・・」
「うるさい、必要かどうかは私が判断することだろう?」
「ま、まぁそりゃそうですけど、二桁にも満たないACを相手にするのにディクセンシティー・・・
うちの精鋭戦力全てを投入する必要なんてあるんですか?」
ここでディクセンシティーの説明をしておいて方がいいだろう。
この都市、ディクセンシティーは大破壊後としては特殊な政治形態を敷いていることで知られている。
一見して民主主義、だが、その席次や優先順位その他はレイヴンによって決まる。
シティーの議員はそれぞれ最低1人のレイヴンを雇わねばならない。
そのレイヴンの実力、それによって自らの地位が決まる。
また、同時に議員本人がレイヴンである場合もある。
その場合はレイヴンを雇わなくてもよい。
だから、最強のレイヴンを雇った者、もしくは最強のレイヴンとなった者、
それがシティーを支配するのである。
「かつて、とある国では、人事が停滞し、政治は滞り、大混乱が起こったと伝え聞いている。
それを防ぐのに、最も有効な手段だと思わんか?」
「まあ・・・そうですね」
「だからこそ、外部からの混乱、それを起こす可能性のある存在はさっさと消去させておくべきなのだよ」
「では、戦場へ向かうぞ、総員出撃する」
「作戦領域への到達を確認、AC投下願います」
「了解、デスハウンド、及びライトキラー投下します」
「ノア、予定通り一度敵を攪乱させるぞ、敵だって馬鹿じゃない、輸送機の接近で気付かれたはずだ」
「了解了解、じゃ、2分後に、打ち合わせた場所で」
「了解」
「作戦領域へ到達、AC投下します」
「準備完了、そちらはどう?ミリィ」
「こっちも準備完了よ、カリン」
「それでは、屠龍刃、及びエアマスター投下します」
「まずは敵の発見をしなきゃね、油断しないでカリン、物陰に隠れて例の場所へ接近するわ、
地理的にあの場所に生物兵器生産工場がある確率が高いわ」
「さて、作戦領域だな・・・」
赤い機体のパイロットは呟く。
「そうだね、敵はどこにいると思う?」
蒼い機体のパイロットも呟いた。
「まぁ地理的にあの場所だろう、他にあるとするならあまりにも不便だ」
白い機体のパイロットは結論を出し、歩き出す。
それに続いて黒い機体もついていく。
「あ、おい待てよ」
2人がそれに続いた。
人はそれを偶然と呼ぶのだろうか?
それとも奇跡というのだろうか?
二組の兄と妹がいること。
そして兄と妹がそれぞれ別の道を歩み、そして同じ場所に行き着いたこと。
そして、それぞれ等しく排除されようとしていたこと。
これがなければ会うことはなかったであろう兄と妹。
その2人が再会しようとしている。
ただし、敵同士として。
「会長、例の3組がそろそろ接触する模様です」
「うむ、そうか、ところでだな・・・」
「分かってます、自分だって一応議員レイヴンなんですからね」
「狙うのは誰だ?」
「例の奴です、あれはどうしても目立ちますからね、狙いは付けやすいかと」
「なるほど、ではこちらも攻撃用意をしておこうぞ」
「了解」
「ノア、こちらジオ、敵らしきACと遭遇した、攪乱作戦を中止して援護頼む!」
指定電波通信で通信がノアに届く。
「了解した、位置と数は?」
「指定した場所から北へ約20、数2!」
「了解、後方から攻撃を仕掛ける、30秒だけ待ってろ!」
「護衛のAC?」
「見つかっていたの?」
「そんなはずはないわ、このステルスマントは、試作品とはいえ使用に問題はないはずよ」
「試作品でしょ、仕方ないわね、マントは捨てるわ、戦闘に邪魔だもの」
「・・・その方がいいみたいね」
「爆発?戦闘か?」
「まさか?だってこれはテロ撃滅の秘匿作戦で他には依頼文書は打ってないと聞いたぞ?」
「仲間割れ?」
初めて黒い機体のパイロットが喋った。
「知るか!とにかく言ってみるしかない!バーティアとフリッツは予定ポイントに向かって攻撃を掛けろ!」
「俺とジェニスであの場所に向かう、それでいいか?」
「了解」
4元帥は戦力を2つにわけた、
それは、後々の後悔―僅かな時間だけの―となるが、それはまだこの時には知らないこと。
「くっ、かなりやるな」
ビルの影に隠れてグレネード弾の攻撃をやり過ごしながら、ジオは呟いた。
「このままだと、連中の増援が来るだろうし・・・そうだ、ノア聞こえるか?」
指定電波を入力し、ノアに通信を入れた。
「今敵さんのお相手中!支援は無理無理!」
紫色の、空が晴れていれば空色に見えるであろう機体を相手にしながらノアは返信する。
「そうじゃねえ、攪乱兵器はいくつ置いた?」
「くっ・・・とりあえず、3つほど、残し、て全部、おいたぜ」
攻撃をかわすたび、言葉が途切れる。
話しながらACを操る、戦闘中に置いてそれをこなすことは技術的に円熟している証拠だ。
「それだけあれば足りるな、ノア、今すぐそれを投棄しろ、右約30度の角度だ」
「・・・了解!」
ジオの意図を瞬時に判断して、一撃、ブレードを、ブレードで弾いて、指定した方向へ投げつけた。
敵が、黒に限りなく近い灰色の機体が、何かを投げた。
「カリナ、そっちに何かが行ったわ!気をつけて!」
「えっ?」
慌てて振り向く、確かに何かが飛んできていた。
思わずそれを撃ち抜こうと狙いを定めた。
その瞬間、ジオが飛び出し、KARASAWAが火を噴いた。
緊急回避。
「くっ・・・かなりやるわね」
一瞬、回避した瞬間に、さっきまでいたところを火線が通り過ぎる。
「互いに支援は不可能、こうなったら・・・何っ・・・敵反応?新手か!」
レーダーには2機の反応。
「敵の増援?」
4人が4人とも、全く同じ考えだった。
そして、次にとった行動も。
互いに、脚部を狙った一点射撃。
それさえも互いに回避し、物陰に隠れた。
「チィ・・・物陰に隠れやがったな」
彼等の機体はレーダーを装備していない。
彼等は有視界戦闘を得意としていたからである。
事に彼の搭乗する、蒼い機体『ブルースター』は有視界戦闘だけでなく、
ロックも自分で行う、いわゆる『ノンロック機体』だからである。
「気にするな、いつものようにやるぞ、アレを」
「オッケー」
『FCSエラー』
『レーダーに異常発生』
『頭部コンピューターにエラー発生、稼働率約15%低下』
『状況不明』
『妨害波の発生を確認』
「なっ・・・」
4人が4人とも動きを止める。
ブースターを停止し、状況を伺う。
「停止音確認、とりあえず左14度の方向の敵が一番近い、足音からして恐らく軽量機だ」
「了解した」
有視界戦闘に特化した機体。
それは必然だった。
通常の機体はレーダーに頼っているから。
そしてレーダーその他のロック兵器を丸ごと無力化できる装備をしていたから。
敵の音を聞いて位置を確認するから。
その戦いは、まるでレーダーのない時代に逆行したかのようだった。
ただし、ACという科学の粋を凝らした機体が存在することを除けばの話だが・・・
第53話 完
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後書き
本日の座談会は無しです。
さて、今度の相手は最初の方にでてきた連合都市の一つ、ディクセンシティーです
コレは言ってみれば以前言っていた国の高官は公の精神を発揮し国を守るべきだ、
という発想の元生まれた戦闘集団です。
高官は殆ど全員レイヴン、なんてある意味飛び抜けた発想ですな。
さて、魔術師の生み出した元帥と、ジオ達と、ディクセンシティーの戦闘集団とのそれぞれの戦い、その行く末にご期待ください。