ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第51話 イレギュラー消去計画―偽りの依頼―
それは地上のとある廃墟。
今では見る影もないがそこは高層ビルが建ち並び、
かつて―大破壊、国という区切りが存在した時代―ある国の首都であり、多くの人が住んでいたであろう場所・・・
そこに一人のACが所在なげに佇んでいた。
パイロットは無言のまま、スーツの機密状態を確認し、外に出る。
この区画は未だ浄化の手が伸びてはおらず―計画さえも存在してはいないのだが―
生身で外にでればたちまちのうちにヴイルスに犯され死んでしまうのだ。
「ここがかつて一国の首都だったなんてな・・・」
水に沈んだ地上、そこに突き出すように残っている高層ビルの一角に、青年は降り立った。
かなり昔に建てられたであろうビルは脆くなってはいたが、AC程度ならば楽に支えられるようだった。
そこにもう一機のACがさらに降り立つ。
そしてパイロットが降りてきた。
「やっぱり、ここだったのね・・・兄さん」
「カリンか・・・」
青年は8年前に別れ、そして再び再会した妹、カリナに話しかけた。
「カリン、信じられるか?ここは昔、一国の首都だったところだ、なんてさ」
「いまいち信じられないわ・・・ここで兄さんと再会した、なんて事もね」
「・・・そう、だな」
そう、それは3年前のこと。
都市連合の議会の席上。
そこにいる殆どの人間が、かつてレイヴンズネストの洗礼を受けた者達であった。
「諸君たちの正直なところを聞きたい、都市間の交流、それもまあいいだろう、だがいくつかの都市でそれを犯そうとしている者たちがいる」
「・・・いったい誰でしょうか?」
ラサシティー代表にしてヴァーノア財団代表クレス・ヴァーノアは言った。
「その最たる例は貴都市のレイヴン、ジオ・・・いえ、本名『ジークフリード・ノイエ』とでもお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ふむ・・・確かにそのようなレイヴンは都市に存在していますが」
この言葉には間違いが含まれる、ジオの本名はジオ・ハーディーである。
だが彼のマネージャー、ラグが彼の事情を考慮し、架空の戸籍を作成してくれたのだ。
最高機密さえ扱うこの議会において本名が間違えられること、その一時で、彼の優秀さが伺える。
「その他にも数人おりますな、そこで先ほど配信した情報を見ていただきたい」
「確かにそうですが・・・彼達ははそれほど危険かね?」
「ええ、当然でしょう、特にこの8人です、今のところは大した問題はありませんが
僅か数年でランカーレイヴンと互角以上の戦績を残しています。
しかも資料によるとまだこの人間達は20歳程度、まだ成長の可能性があります。
他の4人については諸氏もご存じかと思いますが・・・」
「排除せねばならないと言うことか・・・」
ラサシティー代表、クレス・ヴァーノアは冷静ではいられなかったであろう。
行方不明だった彼の子供2人、その2人をこの様なところ、都市の総意によって排除されるべき人間として見つけようとは・・・
「諸君達2人に依頼したい、以前から我々にテロ活動を行っていたテロ部隊の本拠地が判明した。
場所はこの都市連合とアイザックシティーとを隔てる海の一つ、オルコット海近郊の廃墟都市だ。
その地域は以前から問題視されていたが、今まで放置されていた。
だがここに大規模テロ部隊の本拠地があるとすれば一掃する理由としては十分だ。
ACは現在6機確認されている、恐らくその中のどれかが隊長機だろう、それを破壊してほしい。
MTは放置しておいてもかまわないが、倒してくれれば多少の追加報酬をだそう。ではよろしく頼む。」
彼達、ジオとノアが受け取った依頼はこうだった。
テロリスト、それも海の近くへ赴けなどという依頼は受けたことがない。
それに正直なところ、海は特殊加工をしていかなければACに有害(装甲が錆びる)からだ。
そして少なくとも彼等2人と同時に戦い、互角に渡り合えた存在は今のところない。
それを呼ぶことから推測してテロ部隊は相当な精強揃いだ、と言うことを彼等は分析した。
「君たち2人に依頼したい、以前アイザックシティーで確認された生物兵器だが、また再び出現したようだ。
出現区域は既に廃墟と化した大破壊以前の旧都市群だ。
場所が場所だけに大した問題視はされていないがもしこれらがシェルター都市に移動すれば被害は相当な物になる。
そこで君達に生物兵器の破壊を依頼したい。
確認されたのは大型の生物兵器が2体の他に小型の生物兵器も多数確認されている。
大型の生物兵器が繁殖力を持つタイプだとしたらもっと増えている可能性もあるだろう、注意してほしい、
念のために我々のMTも支援部隊として貸与する、ただし破壊された場合は報酬より引かせてもらう、以上だ」
彼女達、カリナとミリアムが受け取った依頼はこうだった。
アイザックシティーに出現した生物兵器。
それらの改造版と思われる生物兵器と彼女達は戦ったことがあった。
それ故にその強さも熟知している。
それが事情も知らないシェルター都市群に侵入されたら被害は大きくなる、彼女達はそれを知った。
そして、この値に集められし他の4名にも依頼文書が送られた。
出会いと別れは突然だという。
突然の別れ、既に彼等はそれを経験していた。
出会い、再会も突然に起ころうとしている。
だが、敵同士という形で兄弟が再会するとは何という皮肉だろう。
時に地球歴163年。
ネスト崩壊より7年後の地球で、彼等は再会を未だ知らずにいた・・・
第51話 完
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後書き代わりの座談会
今回はジオとミリアムでお届け。
ジオ「新章突入の51話、完成」
ミリアム「やけにあっさりした物言いね、いつもならもっとはしゃぐのに・・・」
ジオ「ちょっと渋めのヴォイスで・・・って感じだったんだが」
ミリアム「全然渋くないわよ?」
ジオ「はう・・・」
ミリアム「ところで、ラグって優秀すぎない?」
ジオ「どうしたんだ?急に」
ミリアム「だって、最高機密を扱う会議で偽名が正式名称にされちゃうなんて無理じゃないの?」
ジオ「そうでもないだろ?他に資料がなければそれが本物になっちゃうし」
ミリアム「それに、私とカリンの過去を知ってて生物兵器ってやった訳なんでしょ?これも凄すぎるわ」
ジオ「いや、その会議では二人の過去を知っててやった訳じゃない」
ミリアム「じゃあどうして?」
ジオ「レイヴンズネストの在籍者だった、ってあるだろ?生物兵器ってのはその当時のものだ、つまりネオ・バグじゃない」
ミリアム「じゃあ偶然生物兵器の名前を使って呼び出されたわけ?」
ジオ「そういうこと、ああ、勿論だけど生物兵器のことは登場した当時、世界中にその噂が広まっているよ」
ミリアム「どうして?ネストが崩壊してほとんどの情報網が絶えちゃったんじゃないの?」
ジオ「全部じゃないし、それに当時の目撃者だっているからね、小さなラインでも広がることには広がるし、
だから呼び出す材料として使われているんだけどね」
ミリアム「へえ・・・そうなんだ」