ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第50話   誇りと呼ぶモノ―生きるための希望―




 「投降する様子はありませんな」
 「まあ当然だろうな、少なくとも私なら絶対に投降しようとせず逃げるだろうがね」
 「全くですな」
 作戦参謀同士の会話。
 楽観視しているのがよくわかる。


 「・・・バカ野郎、俺はいい・・・さっさと戦闘の用意を、リグが脱出するまでの時間稼ぎを・・・」
 「わ、わかった」



 「そろそろ攻撃開始させます、よろしいですか?」
 「ああ、分かった、好きにしてくれ」

 「よーし!リグの発進用意はあと幾つだ!」  「後1つです!」
 「敵、行動を開始!」
 「エアファイターを全部出せ!時間を稼がせろ!」

 「待って!」
 出撃しようとしたエアファイターの前に立ちはだかる少女、ミリアムが居た。
 「私も戦いたいんだ!あなた達と!」
 「どけ!ガキが!ACに踏みつぶされたいか!」
 「私が奴をちゃんと縛っておかなかったのが悪いんだ!」
 「何言ってやがる!あれは・・・ええい!いいからどけ!」

 彼女、ミリアムは恥じていた。
 すぐに全てを諦めてしまった自分を。
 そして気付いた、帰る場所は、他人から与えられるだけではなく、自分から探し、手に入れるものだと。
 そして、目の前には自らの義―プライド―で動く人物達が居た。
 自分を恥じ、目の前の人達を尊敬し、彼女は居ても立っても居られなくなった。
 何か、行動を起こしたかった。

 「私も戦いたいんだ!貴方達と!私だって、自分にだってプライドがあるんだと言うことを証明したいんだ!」
 「どけ!」
 目の前のACは動き出した。
 「待て!そいつは本気だ」
 後ろから声が響く、先程の隊長、ティアットだ。
 「お前・・・操縦は出来るのか?」
 「任せて!」
 そこだけは自信満々にミリアムは言った。
 彼女はレイヴンなのだ、それも一流と呼ばれるほどの。

 「どうします、隊長?」
 ここで常識的に考えれば対応は3つ。
 1つ目は隊長機に乗せること。
 2つ目は裏切り者の機体に乗せること。
 3つ目は乗せないこと
 だが隊長は迷うことなく選択した。
 「お前のおかげで急所が外れたんだ・・・」
 そう言って腕に巻いていた銀色のブレスレットを渡す。

 それは隊長の証だった。

 「隊長機に乗れ!」
 それが先程の隊員の答えだった。


 戦況は不利だった。
 「行くぞ!」
 隊長代理を務める男は不安だった。
 いつもならばこのような状況下でも
 「おお!」
 「任せろ!」
 のような陽気な返答が帰ってくる、だが今回は違った。
 「出来るのか?向こうはこっちより明らかに多いぜ!」
 のような陰気に属する返答が帰ってくる始末だった。


 「こっちは全部で60機!向こうは150機!1人3機墜とせばオツリが来らぁ!行くぞ!」
 そうは言ってもやはり士気は低いままだ。
 しかも最も頼りとなる隊長は負傷し、出撃していない。
 「くそっ・・・こういうときこそ隊長が必要なのに・・・」
 そう思っていると
 「これから増援が出る、それもとびっきりのな」
 隊長からの通信が入る。

 隊長機だった。
 「隊長?」
 「・・・ただの代理人よ」
 ミリアムからの通信だった。
 「ふん・・・ガキ・・・無理はするなよ」
 隊長の代理から隊長の代理への通信。
 「今の私に、そんな忠告は無意味よ!」
 言うより早く、展開している部隊に、ミリアムは単独で飛び込んでいった。
 そして彼女は暴れ狂う暴風となった。


 隊長の戦いぶりで隊の士気は変わる、彼女の戦いぶりで隊は勇猛果敢な部隊となった。
 ミリアムの乗る隊長機、エアマスターは次々と被弾しながらもそれとほぼ同等の速度で敵を倒してゆく。
 「やるな・・・あいつ」
 隊員の1人がそう言った。
 「ああ、しかも肩を怪我しているんだよな、隊長を庇って」
 「間違いねえぜ、ありゃ本物だ、本物の戦士だ」


 既に戦況は完全にミリアム側に傾いている。
 エアファイターは中波した者もあったが死者は1人として出ていない。
 それに比べ、企業側武力は既に大半を損失しており、戦闘可能な状態な物は既にミリアム側よりも少ない。
 「最後のリグが安全領域まで脱出した、お前らも脱出しろ!」
 「了解!それじゃあ中波した機体から脱出して、それから他の機体も各々脱出して、私が最後まで残って敵を引き付けるわ!」
 「な・・・なんて無茶をいいやがる!まだ敵は20機以上残ってるんだぞ!」
 「いいから・・・貴方達は私にプライドを教えてくれたわ・・・だからこれは恩返しよ、私も・・・プライドで返すわ!」
 そう言って、単独で敵陣に飛び込んでいった。

 「し・・・死ぬなよ!」
 仲間―出会ってすぐでも背中を預けられるような―からの言葉。
 「ええ、もし生きていたら・・・会いましょう!私の名前はミリアム!ミリアム・ハーディー!」
 「俺達は空中騎士団だ!お互い生きて会おうぜ!」



 それはこれから数十分後のこと。
 「俺らが無事に都市に帰れるとしたらそれはあのお方の御陰だ」
 「あのお方?」
 「あのガキのことですか?」
 「あのお方は我ら空中騎士団の大恩人だ!」
 隊長、ティアットは1つだけ、これだけはどうしても徹底させたかったのだ。
 「もし再び出会うことがあるのなら、あのお方のことは姉御と呼べ!これは命令だぞ!」
 ある意味でこれは理不尽と呼ぶべきだろう。
 「そんなこと命令されるまでもねぇぜ!」
 「俺達全員、あのお方に、いや、姉御に惚れた!」
 言われるまでもなく、全員がそう言おうとしていたのだから。



 これから数日後、家に帰還した彼女は、彼等空中騎士団が同じ都市にいることを知る。
 幾つもの仕事を引き受けるプライド高き新進気鋭のチーム。
 それが彼女の以前からの同居人、カリナの見つけた情報だった。
 それから、ミリアムは不思議とこの機体に愛着がわき、今まで使っていた機体はサブ機とし、この機体をメインに使うようになる。


 「・・・と言うわけよ」
 彼女が隣を見ると、兄は既に眠っていた。
 酔いつぶれてしまったようだ。
 「全く・・・しょうがないわね・・・」
 ミリアムはそっと、起こさぬようにそっと、毛布を掛けてあげた。


 翌朝、お祭り騒ぎが収まったあと、彼は目覚めた。
 そして彼等の一日が、再び始まった。
第50話 完


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後書き代わりの座談会

ジオ「ミリアム編終了、50話」
ノア「一つ聞いて良いかな?」
ジオ「何かあったか?」
ノア「いや、そうじゃない、そうじゃなくて」
ミリアム「一部一部ごとに話数が減ってるんじゃないかって」
ジオ「あっさり言うな・・・事実だけど」
ルシード「次から一話で一部が終了、なんて事にはならないよな?」
ジオ「それは大丈夫だ、次は割と長めだ」
カリナ「どのくらい?」
ジオ「7〜8話かな」
ミリアム「どっちにしろ最初よりも短いじゃないの」
ジオ「しょうがないだろうが、考えてた話を実際アイデアにしてみると少なかったってオチなんだから」
カリナ「ダメじゃないの、思い切り」
ジオ「その言葉はちょっと傷つくぞ・・・」