ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第49話 プライド―策謀巡る地球で―
「お嬢さん、ちょっといいかね?」
とある男が話しかけてきた、先程の交渉でテオと呼ばれた男だ。
「何かしら?」
身構えるミリアム。
「おっと・・・私はレイヴンよ、気をつけることね」
「・・・若いな、あの人以来か、こんなに若いのは」
「誰よ?」
「ま、それはこっちの話だ、隣、いいかね?」
これ程不思議で滑稽な発言もないだろう。
今現在この基地を占拠し、それを指揮する(少なくとも表面上はそう見える)ような人物が、
そこにいた捕虜に許可を求める、それはあまりに滑稽な光景に映ることだろう。
その言葉と光景に、しばし呆気にとられるミリアム。
「・・・ここを占拠してるのはあなた達でしょう?お好きにどうぞ」
「じゃあ失礼しますよ」
どっかと座る男。
何を話すわけでも、ちょっかいを出すわけでもない。
何も分からなかった、彼女の赤い瞳を持ってしても。
「不思議な連中だよ、あの連中も」
彼女にすれば隣に座るこの男も充分に不思議な人物なのだが。
「何が?」
彼女も少しだけ興味を持った。
「今回の仕事、俺が頼んでもいないのに引き受けてくれた、しかも無報酬でいいと言ったのだ、あの連中は」
彼女は言葉を失った。
彼女の常識からは考えられない人達であった。
「あの連中はな、この時代の、報われない全ての人々を救うと言っている、
先程の攻撃にしても誰1人死んではいないよ、気絶くらいはしてるかもしれないが」
「・・・」
ミリアムは何も答えない、何を言うべきか分からないから。
「こんな時代だ、世の中には気の毒な人間など幾らでもいる、それら全てを救うと言ったんだよ、あいつらは・・・」
「何故・・・そんなことを?」
「さぁな、しかしあいつ、隊長さんは『プライド』のためだと言っていた」
「プライド?」
「どんな命であれ、この世界に生を受けた以上精一杯誇れる生き方をする、それが奴等の生き方だそうだ」
「・・・彼等は皆戦災孤児なんでしょうか?」
「そうだろうな、だからこそ、誰よりも純粋で優しいのさ」
そこで『テオ』はミリアムを指さした。
「ちょうど、お前のようにな」
そんな言葉を残してテオは行ってしまった。
彼女は、自分が本当に純粋で優しいのかどうか、そんなことを考えていた。
やがて「何か手伝おう」そう考えて、立ち上がっていた。
見張りもいない、皆で協力して荷物を積んでいる。
彼女だけなら逃げることも出来ただろう、だが、そんな考えは全く沸き起こってこなかった。
そして近くにいた1人に近づく。
「こちらプラットホーム8、現在の状況を送信する」
「来た来た・・・ククク、これは、私が副社長となるいい機会だ」
「しかし専務、無理に攻撃すれば逆に我々の立場が」
「そんなことはないさ、基地はテロリスト共に完全に破壊されるのだからな」
「どういう、ことでしょうか?」
「まだわからんかね?我々は奇襲を警戒しつつゆっくりと基地を目指した。
トコロが到いてみたらテロリストは内部分裂で崩壊、基地は完全に破壊され副社長は死亡していたのだよ。
我が社の公式記録にはそう記されるさ」
「な、なるほど」
「さあ、分かったら部隊の進軍の用意をさせろ!急速発進!」
「ティアット隊長!急速接近してくる部隊があります!」
「な・・・早すぎる!くそ!急げ!あとは輸送リグの発進用意だ!」
「1人、欠員が出ましたよ」
冷静なミリアムの声が響く。
そこには1人のぐったりして縛られた隊員。
「彼がこれを・・・」
そういってティアットに通信機を差し出す。
それだけでティアットは、否、全ての隊員が理解した。
「て、てめぇ!俺達を誰かに売りやがったな!」
「へっ!俺だって生きるだけで精一杯なんだよ!もうあんたらにつき合うのはまっぴらだ!」
「このっ!」
1人の隊員が殴りかかる。
それを手で制すティアット。
「やめておけ、こんな奴もう俺達の仲間じゃない、それよりリグの発進用意を・・・」
「危ない!」
瞬間だった、縛られた隊員が縄を解き、銃をティアットに向けて、発射した。
それをミリアムがティアットを押し倒す形で回避させる。
急所は外れたモノの、胸に銃弾が突き刺さり、庇ったミリアムも肩に傷を負った。
「このやろう!」
他の隊員達が一斉に裏切った隊員に集中砲火を浴びせる。
「ぐ・・・馬鹿野郎が」
それが裏切り者の、最後の言葉だった。
「投降せよ!そうすれば安全を保証する」
その言葉が仮に本当であっても彼等は投降するつもりはない。
そう、彼等のプライドにかけて・・・
第49話 完
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後書き代わりの座談会
本日はジオとミリアムの二人でお送りします。
ジオ「ミリアム編第2回、49話です」
ミリアム「陰謀だらけね・・・それにしても・・・」
ジオ「ま、これも現実って奴だろうな、自分で書いてて鬱になりかけたけどな」
ミリアム「そうなんだ」
ジオ「でも出世欲だけじゃなくて救いたい、という願望もあるんだよ」
ミリアム「でも・・・それは犠牲を伴う物でしょう?」
ジオ「死んでないってば、説明があったろ?」
ミリアム「それはそうだけど・・・でも犠牲がゼロなんて事もなかったでしょうって事」
ジオ「まあそうだな、結果はどうあれ、やってることは企業に対するテロ行為だ、
どっちにも死者が出たろうな・・・」
ミリアム「でしょう?」
ジオ「それ以上に救われた人がいる、と考えれば彼らにとっては本望だろう」
ミリアム「じゃあ企業の人にとっては?」
ジオ「それは勿論、死にたくはないだろうが・・・そう言う仕事である以上死ぬことは覚悟済みだろう?」
ミリアム「そう言う物なのかな?」
ジオ「多分、な・・・でも詳しくは分からないよ、殺し合いなんてしたことはないしな・・・」
何か今回はちょっとしんみりしてしまいましたね。
次回をお楽しみにしてください。