ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第48話   輸送作戦―罠の予感―




 今日は宴会だった。
 ミリアムと、その部下―彼女は独立した1人のレイヴンなのだが―が酒を酌み交わしている。
 当然ながら、ミリアムと同居している4人も例外なく共に騒いでいた。



 「ふぅ・・・だいぶ酔っちゃったわ・・・」
 ベランダで、赤い顔をしたミリアムが涼んでいた。
 「俺もだ・・・」
 ミリアムの兄、ジオもベランダに出てくる。
 「ここは夜風が気持ちいいな」
 「うん、そうね・・・」
 「これで隣にいるのがノアだったらロマンチック・・・なんて考えてるだろ」
 「な・・・何言ってるの、そんなのじゃないわよ!」
 酒で赤かった顔がより赤くなる、我が妹ながら可愛いもんだ、ジオはそう感じていた。
 「そういえば・・・これだけ騒いでて今さらだが・・・あの連中・・・空中騎士団だっけ?
  あいつらお前を姉御姉御呼んでるが一体何したんだ?」
 部屋の中ではお祭り騒ぎも佳境に入ろうとしているようだ。
 「聞きたい?」
 「できれば」
 「う〜ん、酔った勢いで話すから、ちょっと曖昧だけど・・・それでいいなら」
 「ああ、分かった」



 思えば相当怪しい依頼だった。
 レイヴンに依頼しているのにも関わらず、ACは使用させず、輸送艇内に待機していろ、と言うのだから。

 「それを受けた私も私ね・・・」
 一人ミリアムは自嘲した。
 「こんなことならカリンの仕事でも手伝うんだったわ・・・」
 「レイヴン、私は別に構わないが・・・他のクライアントの前でそんなに愚痴ると報酬に響くのではないかね?
  まぁ依頼主でもある副社長の私が言うのも何だがね」
 奇妙と言えばこれも奇妙である。
 通常クライアントはどこかのオフィスかどこかにいて報告を待つのが普通である。
 トコロが今回はクライアントが目の前にいる。
 それどころかそのクライアントは副社長だという。
 社運を左右する場合ならともかく、その物資輸送を担当する部長、課長を軽く飛び越し、副社長である。
 何とも中途半端だとミリアムは考えていた。
 「別にいいのよ、今回は」
 「そうか、それなら別にいいのだが」
 もしかしたらクライアントは依頼にかこつけて話し相手でも探しているのかもしれないと勘繰ろうかとしたところ。
 「レイヴン、到着だ」
 そんな声が響いた。


 グロスシュタット社・アントワープ補給基地。
 それが今回の作戦領域である。
 「ところで、何故レイヴンに依頼しておいてACの使用を禁止したの?」
 「ああ、今回は対AC用の警備は完璧だ、それよりも生身で進入してくる・・・特殊部隊の存在を」
 その言葉は言い終わる前に途切れた。

 「な、何?」
 『アントワープ補給基地に告ぐ!我々は空中騎士団!この基地は我々が占拠する!』
 それを聞いたクライアントが走り出す。
 「警備室!どうした!警備は完璧だと聞いたぞ!」
 「は、そ、それが予想外の速度と戦力で・・・」
 「言い訳はしなくていい!ACやMTの部隊はどうした!?」
 「そ、それが・・・一瞬で・・・」
 「な、何ということだ・・・」
 がっくりと膝をつき、通信機を取り落とす。

 はぁ・・・
 ミリアムはたった一度だけため息を吐いた。
 その一時で全てを諦めた。
 今手元には愛機がない、しかも敵は基地が予想していた兵力よりも多いという。
 一瞬で開き直った、死ぬも生きるもどうでもいい、と。


 「社長」
 「む?どうした?」
 「アントワープ補給基地が・・・占拠されたそうです」
 「・・・そうか、その占拠した連中と話はできるか?」
 「ええ、向こうから通信してきたので・・・」

 「グロスシュタット社の社長殿でいらっしゃいますか?」
 「そうだ」
 「私は占拠したテログループの長を勤めているティアットと言います、
  我々は副社長殿以下数十名を人質に取らせて頂いてます」
 「・・・わかった、そこで取引だ、その補給基地にある物は全て自由にしていただいて結構だ」
 「・・・代わりとして人員を引き渡せ、と?」
 「そうだ」
 一度モニターから外すティアット。

 「と、いうことだが、どうする?テオさん」
 モニターから声が漏れてくるのが聞こえた。
 「それでいい、元々はそれが目的だ」
 「だ、そうだからOKだ、我々が撤退するまで手を出さなければ我々は人質に一切手荒な真似はしない」
 「それなら、いい」
 「では、失敬」
 通信は途切れた。


 その光景を遠くからミリアムは見つめていた、人質とはいっても武器を取り上げられただけで縛られているわけではない。
 彼女に『そういった』趣味はないが奇妙といえば奇妙である。
 だがその事を指摘してそういうことならと縛られてはたまった物ではないので敢えて黙っておいた。


 「急げ!所詮口約束なんだからな!連中の部隊が来るまでにここを引き上げるぞ!」
 そんな言葉に触発されたか、作業効率が上がる。
 どうやら補給物資を大型のリグに運び込んでいるらしい。
 武器弾薬に食料にデータディスク、それに何故かぬいぐるみ。
 その瞬間だけ思わずミリアムは笑ってしまった。
 その他にもよく分からない装甲版やエンジンもあったがそれを細かく書くとキリがないので割愛しよう。

 ミリアムはふと横を見た。
 クライアントが沈んだ表情で下を見つめている。
 「ねぇ、ひとつ聞いていいかしら?」
 「・・・何かね?」
 「何故レイヴンを雇ったの?まぁこんな警備兵を一瞬で倒すような連中の存在を予測していなかったにしろ
  レイヴンはACに乗って戦ってこそでしょう?」
 「・・・さぁ、私も所詮社長の使い走りに過ぎないのでね」
 嘘が見え見えなのだが黙っておいた。


 これが彼女と空中騎士団の出会い。
 初対面での印象は『最悪』だろう。
第48話 完


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後書き代わりの座談会

今回はゲストとして爆発物処理班(以下「爆発」)を呼び出しました。

ジオ「48話、ついにミリアム編開始!!」
爆発「で、どうして俺なんだ?」
ジオ「細かいことは気にするな、でどうだ?今回の話」
爆発「まあいいんだけど・・・レイヴンに生身での護衛を務めさせる・・・できるのか?」
ジオ「できるだろう、と言うよりもいつも最前線の物を護衛するだけじゃ広がりがないだろ?」
爆発「まあ確かにそうだな」
ジオ「だから実際テロ対策のSPみたいな感じで護衛を任せることもある、と解釈してるのだがだめかな?」
爆発「解釈はそれぞれだし、それに・・・」
ジオ「それに、なんだ?」
爆発「そっちの方がAC込みで雇うよりもやすく済みそうだし」
ジオ「・・・そういえばそうだな、それは気づかなかった」




爆発「ついでに聞いておきたいことがあるのだが」
ジオ「何?」
爆発「防衛戦力だよ、完璧云々言ってただろ?」
ジオ「ああ、あれな、警備部隊長の見栄だ」
爆発「見栄?」
ジオ「そ、副社長が『警備はどうか?』って聞いたら『完璧です!』って答えちゃったわけ」
爆発「実際の戦力は?」
ジオ「AC40機の一斉攻撃にも耐えられない程度、しかもレーダーも貧弱、というか壊れてた」
爆発「副社長も気の毒に・・・」
ジオ「ま、大体数字にすればAC3〜5、MTが10〜15、あとは固定砲台とかが幾つか、ってところか」
爆発「普通に倒せそうだな・・・」
ジオ「まあそうだな、それが原因で空中騎士団の作戦はあっさり成功したわけだけど」




で、終了。
次回、ご期待下さい。