ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第47話   小さな奇跡―再開―




 「はっ!」
 黒い軽量級の機体が動く。
 「むっ・・・」
 それに対応する形で白い重量級の機体が動いた。

 それは親友同士の、お互いがお互いと知らない故の死闘だった。


 「ふふふ・・・殺し合え、華麗に殺し合え、もうすぐ死ぬのだ、華麗な最期の姿を見せておくれ・・・」
 笑っている男が1人。
 醜き策略を張り巡らせる男が1人。
 そして2人の運命を偶然という名でつなげる男が1人。
 企業の証拠隠滅の全権を持つ男が1人、その戦場の近くに居た。
 その男はある会社の専属レイヴンだった。

 「何だと?」
 それはどこかの大型基地。
 「それで、どうなっている?」
 「はい、先程から基地にクラッキングを仕掛けて居る人物が居るようです」
 「対処できているか?」
 仕掛けているのは戦場の近くで笑っている男。
 「いえ、出来ていません、現在基地の機能を40%以上奪われています」
 「で、そいつの目的は何だ?」
 「恐らく・・・基地に存在する大量のミサイルサイロの機能・・・」
 「!発射する気が?どこかへ」
 ミサイル発射まで、あと数分。


 両者とも、無言のまま、多くの思考を張り巡らせつつ、激しい攻防を繰り広げている。
 一方は接近戦型、一方は射撃戦型。
 アセンブルのコンセプトが違っていても、技術は拮抗していた。
 だからこそ両者とも決定打を出せずにいた。
 「こいつ・・・強い」
 それが両者共通の考え。
 今までに自分より強い人物には出会ったこともあり、当然弱い人物にも出会ったことがある。
 だがここまで拮抗した人物に会ったことはなかった。

 転機は突然訪れた。

 爆音が轟いた。
 大量の爆炎は、光を生んだ。
 もし今が夜ならば、さぞかし綺麗に映った事だろう。
 だが、その炎は何人もの命と引き替えに生まれた悲劇の炎だった。
 そしてその炎は一瞬で消え、また別の炎が生まれる。
 それを生命の対価とするのならば、人の命とは、何と儚いことだろう。


 「これは・・・」
 ノアは全く知らないことだった。
 「まさか・・・」
 ジオは一瞬だけ考え、あえて頭にしまっておいた最悪の想像を取り出した。

 「どうやら、2人ともはめられたようだな」
 オープン通信で、ジオは目の前の機体に話しかけた。
 「・・・よく言うぜ」
 爆音で互いの声は掠れて聞こえた。
 「その事はあとで聞く、機体の損傷はどの程度だ?」
 「・・・どうやらさっきのミサイルで足がやられたらしい、殆ど動かない」
 「こっちはブースターがやられてるな・・・一つ提案があるが聞いてくれるか?」
 「何だ?」



 「全弾発射が完了ですねぇ・・・美しかったよ、散り逝く者へ・・・鎮魂歌でも捧げてやりたいくらいに・・・ね」
 丘の上で、彼は目の前で燃えてゆくACを、MTを、散り逝く命を見ていた。
 それを楽しむように・・・
 「さて、そろそろ・・・生き残った者のトドメにいきますか・・・」


 彼は真横から飛んでくる、白と黒の閃光が見えていなかった。

 「予想通り・・・だな」
 「おいおい、マジでやるのか?」

 今、この2機は同化していた。
 同化、というのは正しい表現ではないのかもしれない。
 足を半壊させた黒い軽量機、ライトキラーは下にブースターを全壊させた重量機、デスハウンドをぶら下げていた。


 ――どうやらこの作戦に参加した全ての兵士の抹殺、それが企業の本位らしい。
 ならばそれを指揮する人間は何処にいるか?
 この戦場がよく見える丘の上である。
 足の壊れた機体が飛び、下にブースターの壊れた機体がぶら下がり、丘の上に逃げる。
 そうすれば少なくとも生き残れる、上手くすればその指揮した人物を始末でき、
 誰が逃げたかを分からなくさせられる。
 そうなれば報酬はないが自分の命が保証されるだろう。
 以上が彼、ジオの提案であり、予想である。


 何故それを行えば分からなくなるか。
 それはこの作戦そのものにある。
 大規模、とは言っても、いや、だからこそ誰がどこに配備され、誰が生き残るか、それは最後まで分からない。
 だからこそ、今ここで指揮している人物を倒せば全てが闇の中に葬られる。
 依頼によっては前金等の収入もあるがそれは例外で、通常は成功報酬のみである。
 その成功報酬が手に入らないのは惜しいが今は命が優先、それが両者の結論だった。


 「分離まで・・・3,2,1,0!」
 黒い機体が、白い機体を掴んでいた手を離した。

 「ハッ!」
 レーダーに映った光を、男は見つけた。
 「し、しまった!」
 気付いたときには遅かった。

 男が最後に見たのは、青く輝くブレードの光・・・


 ブレードがコックピットを横から貫き、そのACは動きを止めた。
 白いACはその場に立ち上がる。
 黒いACはその近くに不時着する。

 「・・・これで、報酬は手に入らないが、この企業につけねらわれることはないな」
 「それで、どうするんだ?このままじゃどうにも動きが取れないだろう」
 確かにそうだった、黒い軽量級ACは足が壊れ、歩けない。
 白い重量級ACはブースターが壊れ、素早く動けず、しかもここは都市からは程遠い位置にいる。
 「安心してくれ」
 ジオはそう言った。

 「ラグ、聞こえるか?応答してくれ」
 「ど・・・した?何かあったか?」
 最初は電波が乱れていたが、それを補正し、次の瞬間にははっきりと聞こえた。
 「作戦は終わった、リグを持ってきてくれ、それとACは荷台にもう一つACは入れられるか?」
 「・・・そのくらいならどうとでもなるが、どうした?」
 「乗客が増えたんだ」
 その通信を聞いていたノアは少々自分の耳を疑った。
 「助けて・・・くれるのか?」
 「当然だろう、お前がいなければ正直あのミサイルで殺されるところだった、
  俺は命の恩人を見捨てるような人間じゃない」
 「・・・そうか」

 実際はただの気紛れだった。
 そして助けた人物が昔の親友だった。
 ただそれだけの、小さな奇跡。

 2時間後、輸送用大型リグ内部。
 「さて、じゃあコックピットから出てきてもらおうか」
 多少の警戒をしながらジオはACのコックピットから出た。
 「安心しろ、こっちは危害を加えるつもりはない」
 ノアも警戒心を殺さぬまま、同様にACのコックピットから出る。

 しばしの間・・・

 「ノア・・・ノア・ヴァーノア?」
 「ジオ・・・ハーディー?」
 どことなく昔の親友に似ていると思った。
 そしてそれを口に出した。
 それも偶然なのだろうか?


 目の前にいる親友は、既に死んでいてもおかしくはなく、死んでいて当然の人物のはずだった。
 目の前にいる親友は、自分のことなど死んでいると思い、家で優雅に生きていると思っていた。



 誰かが言った、奇跡は起こらないからこその奇跡なのだと。
 それでも2人は再開した。
 それも気紛れと偶然が引き起こした、小さな『奇跡』のために・・・
第47話 完


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後書き代わりの座談会

ジオ「第2章第1部、無事終了〜!」
ノア「短いなぁ・・・」
ジオ「それを言うな、あんまり長いのもどうかと思ったし」
ルシード「確かに・・・普通の量の小説なら1話の半分以下の量か?これは」
ジオ「それが俺の限界なの」
カリナ「随分と低い限界ね」
ジオ「カリナ笑いすぎ」
ミリアム「でもさぁ・・・最初の方に比べると随分と一部ごとの量が少なくなってない?」
ジオ「確かにそうだが・・・あれはかなり前からおまえ達の考えた原案があったわけだし」
カリナ「そんな物なの?」
ジオ「そんな物だ」




ルシード「ところでこの話の時代は?」
ジオ「よくぞ聞いてくれた、ネスト崩壊から7年後、まあつまり(第1章第1部から見て)3年前だな」
ノア「え〜っと、つまりこの小説の中心はネスト崩壊の10年後って事か」
ジオ「そういうことになる、ちなみに番外編も含めれば130年くらいか」
ミリアム「全然関係ないお話でしょ・・・」
ジオ「実は全てが一本の糸に・・・ってな事にはならないけどね」
カリナ「幾つかはあるの?」
ジオ「一本の糸はないけどな、歴史という観点から見れば同じだな」
ノア「過去から現在、未来に至るまで、って奴だな」
ルシード「そんなこと言ったらどこから始めるんだよ」





後書き

実は二段構成です(^^)

この次のお話は、名前だけ最初の方にでてきた空中騎士団とミリアムの出会いです。
ああ、そうそう、今までずっと宙ぶらりんだった隊長の名前が決定しました。
ZEROXさんのメール投稿より「ティアット」です。
まあその他の隊員は・・・マグワナック隊みたいな感じで未定って事で(^^)
でも募集があれば登場させるつもりです。
どんな経緯で一人のレイヴンが部隊の隊長になったのか。
どうして一人のレイヴンを隊長に迎えたのか、そのあたりが上手く書ければ良いのですが・・・



ともあれ次回をお楽しみに。