ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN
第40話 陥落―叛乱の終焉―
これは・・・夢だ。
でも、どうしてこんなに鮮明なのだろう?
「・・・!」
「お兄ちゃん!」
・・・どうして自分は妹の名を呼べないのだろう?
僕はこんなに叫んでいるのに。
誰かに連れ去られた自分の妹。
無力な自分。
どうして僕はここにいるの?
何故?妹のトコロに走って行けないの?
何故?
僕は戦っているの?
夢を見ていたようだった。
ゆっくりと目を開ける。
遠くで光が見えた。
紅い光。
思考が急速に進んでゆく。
そうだ・・・戦争、だ。
奇襲。
「どうやら始まったみたいだぜ」
横を見れば、一週間前に話した青年。
「・・・お前が手引きしたんだな」
ここは要塞、ステルスもない敵ACがレーダー警報にかからないのはおかしい、
ならば内部に協力者がいるとしか考えられない。
遠くからでも肩装備がステルスでない、見覚えのない機体、敵の機体が見えたからだ。
「へぇ・・・どうしてそう思うんだい?」
対して青年は平然としている。
「お前は以前この部隊を『反乱軍』と呼んだ、つまりはそう言うことだろう?」
「そこからばれたか」
青年は肩で笑った。
「どうするんだい?ここで俺を殺すかい?」
それに答えず、無言でACに向かって歩き出す。
「おい、恐らく叛乱の首謀者だっていつまでもここにゃあ留まってないぜ、留まってたら俺の仕事が1つ増えるだけだがな」
「どういうことだ?」
少年は初めて問い返す。
「ま、イイか、ばらしちゃって、俺はここの首謀者の護衛を頼まれたわけ。
つまり要塞なんてどうだってよかったのさ、だったら少しは頭使って報酬増やすだろ?」
つまり、青年は要塞陥落の手伝いと、要塞に立て籠もる首謀者の護衛の、一見相反する依頼を同時にこなしたのだ。
「ホントは主義に反するけど、ま、こりゃあアルバイトさ」
青年は護衛任務を引き受ける事にこだわりを持っていた。
「で、どうするんだ?逃げるんだろ?」
青年は本気の言葉を、冗談のオブラートで包んで言った。
「・・・以前も言ったはずだ、俺に大義や勝敗なんて関係ない・・・生き死にさえもな」
不意に。
「馬鹿言うなよ・・・」
その声には今まで聞いたこともないほど真剣だった。
「馬鹿言ってんじゃないぜ」
その声に思わず少年は振り返る。
「お前みたいに強い奴が・・・そう言う生き方をされると困るんだよな・・・」
少年は黙って青年の話を聞いていた。
「本当に強い奴ってのは、その才能の使い方に責任があるんじゃないのか?
いつか・・・それこそいつになるか分からないが、その才能全部使わなきゃいけないときが来るぜ・・・
その時まで・・・生き残らなきゃいけないと思うんだけどな」
少年は青年に答えることが出来なかった。
だがACに乗り込み戦う、それだけが自分の価値・・・
そう思っていた自分に、妹を捜すことさえ見失いそうな自分に、違和感を感じたのも事実だった。
「さて・・・こっちもお仕事を始めますか・・・」
そして、己に迷ったまま、ACに向かって走り去る。
青年、リック・ハウアーの名を知らぬまま・・・
「こちら78小隊、こちらの敵は沈黙しました」
「78小隊、63小隊のバックアップについて、押し返されてるらしいわ」
78小隊が63小隊共々壊滅したのはそれから6分後のことである。
「掃討は終わったか?」
ノアは部下に問う。
「まだですね、先程突入した63、78の両小隊が全滅したというのを聞きました」
「おいおい、まだそんな戦力が残ってたのかよ?」
「戦力、ではないそうです、たった一機のステルス装備のA」
報告していたMTが突如撃ち抜かれて倒れた。
「あいつか?」
動揺せず、回避行動をとり、撃ってきた方向を見定める。
一瞬だけ見えた、黒いAC。
それが件のステルスACだと直感する。
目視だけで、夜間に黒いACを追う、それが出来るだけでも凄いことである。
まして、交戦状態に入るのは正気の沙汰ではない。
「お前か・・・腕の立つ傭兵ってのは」
一瞬だけ睨み合う。
直後、ブレードとブレードが交錯する。
「なにっ・・・」
ノアは驚いていた。
目の前のACは明らかなスナイパータイプのACだったから。
自分のACがクロスレンジ戦闘を重視したファイタータイプだったから。
そのガンナーが、自分のブレードを受け止めたから。
「こいつ、強い・・・」
そう考えた瞬間、わざとバランスを崩す黒いAC『ブラックナイト』
ブレード攻撃をいなし、超短距離からスナイパーライフルを放とうとする。
それを見て取って、前にバランスを崩されたのを利用し、相手のACの肩を握り前に向かって飛ぶ。
一瞬の差でEスナイパーライフルを回避するAC『ライトキラー』
「なにっ!」
ライトキラーが後ろを取った瞬間、FCSの援護無しにライフルが飛んできた。
回避しきれず、マシンガンが吹き飛んだ。
「ちっ・・・」
直後、突っ込もうとしたノアは動きを止めた、回避しようとしたあの一瞬で既に振り返っていたのだ。
「常識外だな・・・ランカーACクラス・・・いや、それ以上かも・・・」
その直後、無粋な通信が入る、広域通信で、両軍に対して。
『奇襲は成功、この要塞は我が軍が占拠しました。
叛乱の首謀者は逃亡しましたが、これでこの叛乱は終結です』
「・・・聞いたとおりだ、これで俺達が戦う理由は無くなったな・・・」
戦闘システムを解除する両者。
「水、さされちまったな・・・」
それには答えず、ゆっくりとACを要塞外部へ向かわせるルシード。
「俺はノア、ノア・ヴァーノア、お前の名前は?」
「・・・ルシード、俺はルシードだ」
少年には姓が無かった、だからそうとしか答えられなかった。
「ルシードか・・・いい名前だ、また会おうぜ・・・必ずな」
両者とも、気付いていた。
何となくだが、2年前に会ったことのある奴だと。
だが、あえて確認はしなかった、これから先、また戦うかもしれなかったから。
共に会う時がきたら、ゆっくりと話そう、そう思いながら。
そして再び出会うのは、これから3年後。
再び、敵同士として・・・
第40話 完
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後書き代わりの座談会
本日、女性陣は欠席。
ジオ「祝40話、同時にルシード編完結!」
ノア「完結、じゃないだろうが」
後ろからチョップが入る。
ジオ「いきなり何をする・・・」
ノア「決着もついてないし仲間にもなってないだろうが」
ルシード「確かに・・・」
ジオ「安心しろ、ルシードがメインの話が終わった、と言うだけなんだから」
ルシード「終わり?」
ジオ「そう、次はノア、お前がメインだ」
ノア「俺か」
ジオ「そ、これは下書きだけど・・・短いぞ」
ノア「うわ・・・」
ルシード「じゃあ、この話の主旨は何だったんだ?」
ジオ「簡単簡単、ノアとルシードの出会いだよ」
ルシード「それだけ?」
ジオ「一応重要なファクターも存在する事は存在する」
ノア「何それ?」
ジオ「・・・ノアがネストを崩壊させるような奴(ルシード)と互角に戦えたってことだよ」
ノア「そう言えば確かに・・・」
ジオ「まあ一応これも伏線って事で・・・」
ノア「終了だな」
ジオ「ま、そうだな」
話題の端にも登りませんでしたが
投稿キャラが存在します。
HP『リード財団』の『雑魚骨』さんより、「リック・ハウアー」です。
今後のルシードの人生に少なからず影響を与えたって事で結構重要人物でした。
名前を隠していたのは名のる隙がなかったからだということもあるのですがまあ演出上の都合と言うことです
次回からはノア編です。