ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第38話   内紛―死神と呼ばれた少年―




 夜の闇の中、ステルスを付けた20機ほどのACが前進してゆく。
 「DOUBLE、そっちはどうだ?」
 「異常なし、警戒センサの反応もありません」
 DOUBLEと呼ばれたACは部隊の左前方を移動していた。
 「よし・・・ガンドルフ、そっちは?」
 「異常なしでぇす」
 「・・・まぁ、趣味はそれぞれだから文句はないが・・・せめて・・・
  その女声と異常に目立つピンクのカラーはどうにかならんか?」
 「いいじゃなぁい」
 「30過ぎのオヤジのくせに・・・」
 指示を出していた隊長は今すぐこの目障りなACをぶち殺してしまいたくなった。


 フィルゼリア社・・・中規模企業の内紛。
 この時代にはよくあることだ。
 今回の場合、前社長が死に、後継ぎを誰とするか、で意見が分かれ、済し崩しに内紛となったのであった。
 候補者は2名、1人はよくある社長の長男「フィトルス」、この時代に血筋はまったく関係は無いのだが、
 この人物を傀儡として自らが主導権を握ろうとする人物は多い。
 もう一人はこの会社の立て役者であり、社長の末弟である専務「シュテイト」、
 こちらは完全実力主義の中を勝ち抜いていたので能力は高い。
 しかし、その辛辣極まりない方法はよく反感を抱かせた。


 この結果がそれを招いたのかは不明だが、戦いは末弟の方が優勢に立った。
 開戦から一月もすると、社長、「フィトルフ」サイドは1つの拠点―ヴァリオネラ要塞―を残して孤立した。
 そして「シュテイト」サイドはさらに兵力を増強し、その要塞に向かっていた。


 「敵部隊の進行確認、D3ポイントから侵入する模様、これを殲滅する」
 そう本部に通信すると、1機のACが飛び出した。
 ほぼ同時に3機からの通信が途絶えた。
 「な、なんだ?」
 隊長がうろたえた、これが部隊全ての混乱を招いた。
 「あれが隊長機か?」
 『少年』―――ルシードはピンク色に塗装された目立つ色のACを発見した。
 「隊長機を発見、破壊する」
 混乱した状況下で狼狽した機体を仕留めることはある程度の腕前があればそれほど難しいことではない。
 直後、隊長機と『誤認された』機体が炎上する。

 混乱が治まらぬうちに、第3部隊こと「ステルス」攻撃部隊は全滅した。
 「損害、損傷0、これより帰投する」



 「ええい!あの程度の要塞に何を戸惑っている!さっさと次の戦力を投入しないか!」
 作戦司令部の中で、男が怒鳴っていた。
 末弟の腹心、実は傀儡にするべく動いている男。

 その人物の一存で再出撃が決定した。


 だがその戦いにおいても勝利したのは「フィトルフ」サイドだった。

 撤退の理由は単純、隊長機が破壊されて死亡したから。
 シュテイトサイドにおいて、現地指揮官が死亡した場合は撤退する。
 これは「成功する」ことよりも「失敗しない」事が重視されるからだ。



 シュテイト軍の撤退後、フィトルフ軍のヴィリオネラ要塞。
 生き残った兵士達が自分たちを連れて行き忘れた死神を罵りながら笑っていた。

 「ああ、アレはやばかったな」
 乗機を破壊された兵士はそう言って胸をなで下ろしていた。
 「だいたい兵士の数が少なすぎると思わないか?」
 言っても解決しようのない事を別の兵士は言った。
 「しょうがないだろう?俺達はもう孤立してるんだし、乗機の生産、補給施設があるだけマシだと思えよ」
 宮仕えの身を呪いつつ、この会社に入ったことを後悔しつつ兵士は言った。
 「だからさぁ・・・」
 裏切ってやろう、と言いかけた兵士は口をつぐんだ。
 少女のような顔立ちの男―まだ少年だが―が通ったからだ。

 この少年を知らない者はフィトルフ軍には皆無であり、シュテイト軍首脳部も彼をチェックするようになっていた。
 この少年はルシードと名乗り、当然のように戦場を駆けた。
 敵と味方、多くの人物の死を目の当たりにしながら。

 一発の銃弾が少年の目の前を通り、その先の壁に当たる。
 「へへへ・・・悪いな、手がすべっちまったぜ・・・」
 30メートルほどの距離から嫌な笑いを男は浮かべた。
 「ホントはてめぇの頭を撃ち抜くつもりだったんだがな」
 そういって笑おうとした男の顔は凍り付いた。
 一瞬にして距離を詰めた少年のナイフが首に当たったからだ。
 そのまま10秒ほどのにらみ合い―と言っても少年が一方的に睨んでいただけだが―の後、
 ナイフをしまい込み、少年は立ち去った。
 「へっ、薄ッ気味の悪ぃガキだぜ・・・」
 しっかり、立ち去ったのを確認した後、男はそう言った。
 「でもあのガキやたらと強いんだよな」
 「そうそう、さっきの小競り合いだって1人で中央突破しやがったからな」
 「あ、俺もそれ、見たぜ」
 言葉に出して、兵士達はその常識外の強さを再認識した。


 「・・・あのガキの部隊、前にいた戦地で文字通りの全滅くらってるんだとよ」

 通常、全滅とは5割程度が破壊された時点のことをいう。
 その時既に部隊としての機能が失われるからだ。

 「いや、激戦区に投入されたらしいからそれ自体はおかしくない」
 反論する、ある1つのことを見逃して。
 「だがよ・・・どうしてそんな状況下であいつだけ生き残ってるんだ?」
 しん、となる、一時的な沈黙。
 「信用ならねぇ・・・」
 「・・・あいつ、もしかすると死神かもしれねぇ・・・」


 前線にいるものほど信心深くなる、という話がある。
 しかしそれ人を助けるために舞い降りる神ではない。
 それは・・・『死神信仰』
 戦場では技量の無いものではなく、死神に好かれた者から死んでいく、というものだ。


 「まさか・・・」
 「いや・・・わからねぇぞ・・・」
 ここで話は一端途切れる、そして数秒の後。
 「まったく・・・戦局も大詰め、しかもこっちは負ける寸前ときてる。
  上層部(うえ)の連中も何考えてんだか・・・」

 この会話を、聞こえる程度に遠くから、眼を閉じて聞いていた青年が鋭く兵士達を射抜いたのだが・・・

 それに気付いた兵士はいなかった。
第38話 完


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後書き代わりの座談会

ジオ「第38話でしたっ」
カリナ「絶対ルシード強すぎだと思うのは私だけ?」
ミリアム「でもネストを滅ぼしたのはルシードだし・・・」
ジオ「そう言うこと、あっさり倒してたナインボールだってトップランカーだったんだから」
ノア「それを考えれば問題ないのか?」
ジオ「ん?なんで?」
ルシード「相手は一個隊だぞ?」
ジオ「忘れてるかもしれないけどナインボール8機と戦って6機は潰したぞ?」
ノア「あ」
カリナ「それはそうと死神信仰、なんてあるの?」
ジオ「それは知らない、でもあってもおかしくないと思うが」
ルシード「確かに」
ミリアム「それはそうと・・・この時ってまだルシードって・・・」
ジオ「え〜っと・・・11歳か?」
ノア「若っ」







ジオ、座談会の後で

え〜、とりあえず本編にゲストキャラ出しました。
実は2人居るんですけど、名前出したのは1人だけです。

相互リンクさせていただいてるストラグルの「tomokane」さんより
「ガンドルフ」です。


速攻で死なせてしまいましたが(^^)





次回予告
戦いは膠着状態に陥る。
その中で行われた首脳部交替。

終戦は、近くに迫っていた。



次回39話『戦場』お楽しみに