ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN



第33話   沈み往く彼の地―赤と黒の天使―




 『力を持ちすぎた者』
 ただ、無心に。
 『秩序を破壊する者』
 ただ、破壊するために。
 『プログラムには、不要だ』
 ただ、戦うために。


 少年はそこにいた。


 2機同時に、ナインボールが迫る。
 手に持つパルスライフルを標的、少年に向けながら。
 「人形が・・・」
 その全てを紙一重で、無駄な動き1つなく、避ける。
 「邪魔を、するな」
 冷淡な笑い声が、僅かに少年の口から漏れる。
 最奥部への到達。
 それが今回のミッションで自分に掛けられた目標。
 まだ奥に扉がある。
 そして確実に最奥部には何かがある。
 それを直感によって察知し、敵を排除するべく動く。

 パルスライフルの回避を確認した2機のナインボールはミサイルに武装を切り替え、攻撃してくる。
 迎撃用バルカンを手動に切り替え、撃墜する。
 この程度の広さでは、ステルスとスナイパーライフルの利点は生かせない。
 確かに狭くはないが、この程度の広さでは相手のFCSに補足され続けるためだ。

 それに対してミサイルとパルスライフルはこのような地形に向いていた。
 それでも少年は攻撃を回避して、チャンスを窺っている。


 そしてその瞬間が来た。
 左右からの挟撃。
 通常ならピンチとして離脱をはかるだろう。
 だが少年は通常ではなかった。

 左腕に内蔵されたfingerを撃ち、左から接近するナインボールを足止めする。
 そして右を振り向く勢いそのままにブレードを一閃する。
 第一次装甲版を右から切り裂き、その返す一撃で同じ部位を切り裂き、両断する。


 通常動いている敵を一撃し、同じ位置を攻撃するのは不可能ではないにせよ難しい。
 それを少年はいともあっさりとやってのけた。
 それもほぼ一瞬で。


 破片が装甲版を叩く。
 それに構わず遅れていた、残った一機に再びfingerを放ち動きを止める。
 その直後にもう一機は頭部から一刀両断される。

 『私は守るために生み出された』
 再び通信が入る。
 『私の使命を守り、この世界を守る』
 その通信の後、扉が開く。
 入ってきた扉は固く閉ざされているようだった。
 「逃げる気はないがな・・・」
 そう言って少年は奥に向かう。



 エレベータで下へ下へと向かう少年の機体。
 『修正プログラム、最終レベル』
 その先にいる一機の緋い機体、ナインボールとは違う機体。
 『全システムチェック終了』
 CMT−XXX09‐seraph、ナインボールセラフ、それがこの機体の名。
 『戦闘モード、起動』
 修正を行う最後の機体。
 少年の足場、エレベータが崩れ落ちる。
 『ターゲット確認、排除開始』
 少年と天使の正対。
 次の瞬間、両方の機体が消えた。

 否、超高速移動を開始した。
 互いに殆ど一撃も当たっていない。
 あまりの速度に互いのFCSと武器がついていけないのだ。
 互いに砲火を交わしていても状況は手詰まりであった。


 業を煮やしたかのように、ナインボールセラフが先に動いた。

 翼を広げ、速度を増す。
 超高速の二次元起動から超高速の三次元起動への急激な変化。
 その瞬間、少年は負ける覚悟―すなわち死ぬ覚悟―を決めた。
 近距離でのfingerでも当たらず逆に被弾率が高くなってゆく。


 脚部に被弾し、動きが鈍くなる。
 頭部に被弾し、思い通りに動かせなくなる。
 肩部に被弾し、ステルスが吹き飛ぶ。


 ついに少年のACは膝をつく。
 とどめを刺すべく、ブレードを構え、空中から緋い天使が迫る。
 少年は賭けた、自分の命を。
 少年は必死だった、自分の使命を果たすために。
 「あああああああああああああああああ!」
 急激に黒い、膝をついていたACが動いた。
 凄まじいブースター熱量が地面を焼く。
 そして飛び上がる、緋い天使に向かって。

 その姿は黒い堕天使のようだった。

 ACは驚くほど敏感に少年の操作に反応した。
 まるで、少年の意志がこもったかのように。


 接触の瞬間、右腕部をコックピットに、左腕部をセラフの首部に突き刺す。
 その直後、少年の機体の両腕が爆発した。
 「相討ち・・・自爆でも・・・こいつだけは・・・」


強制武器排出装置
重量を軽くし、速度を稼ぐことが主目的で開発された試作装置。
火薬によって目的の部位(及び武器)を強制的に排除することでこの名がつけられた。
だが、排除する部分に弾薬の類が残っている場合、誘爆するため生産は見送られた。
試作品の制作者はエラン・キュービス。



 爆発の直後、巻き込まれることを避けるため、セラフのボディーを蹴り、距離を取った。

 「潰れろぉ!」
 冷淡に笑っていた少年は、叫んでいた。
 両腕を失ったACに唯一残された火力、ミサイル迎撃用のバルカンを撃ち続ける。
 ボロボロになっていたセラフの装甲は、最早それすらも防ぐ力を失っていた。

 『システムダウン、自己修復システム作動、2分間行動不能』
 突然コックピットにメッセージが入り込んでくる。
 「行動、不能?」

 それとほぼ同じ瞬間、セラフは、紅い天使は地面に膝をつく。
 その直後、紅い機体は炎上し、バチッというオーバーロードの音がその空間全てに響いた。
 両腕を失った黒いACはその光景を見つめていた。
                                 第33話 完



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後書き代わりの座談会

すっかり呼び出すのを忘れてたので今日は1人です。

ナインボールセラフとの決戦ですね。
あの高速性能についていこうと考えたらこんな感じになりました。

ギリギリの勝利、これがボス戦にはふさわしいでしょう


それに個人的にお気に入りなオリジナルパーツ「武器強制排出装置」
最初ギャグパーツにでも使おうかと考えたのですが相討ちのようにすれば格好いいじゃないかと結論しまして、めでたく使用されました。

自己修復システム、これも必要だと思うのです。
超強化ジャマーみたいなのを食らったらシステムがいかれますからね。
それで急なシステム崩壊を防ぐためにつけられていてもいいかと思いました。


さて、次はMOA編最終回です。


AC編へと続く物語『沈み往く彼の地―レイヴンズ・ネスト―』、お楽しみに。