ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第25話   誰が為の過去(きのう)―さらなる絶望―




 気がついた時、彼女はACのコックピットではなく、床に横たえられていた。
 その横には、気を失う寸前に目の前に迫っていた巨大なAC、その残骸が転がっていた。
 「・・・これは、誰が?」
 彼女は当然の疑問を口にする。
 あの時、気を失う寸前、戦闘可能なのは彼女の青いACのみだった。
 そして彼女には巨大な敵を倒した記憶がない。


 その隣では小さな、この時代ではとても小さな悲劇があった。
 「死なないで!」
 女が泣いていた、血にまみれた男の側で・・・
 カリナと・・・そして共に巨大なACと戦った飛燕のパイロットの一人だ。
 それは彼女と、そしてもう一人の女しか知らない彼女の素顔。
 それが露わになっていた。
 「泣くなよ・・・」
 その死にかけた男が側で泣く女の頭に手を当てる。
 「いい女が泣くのは卑怯だぜ・・・」
 笑っている・・・
 自分に死が迫っているのを知っていて・・・
 それでも尚かつ笑っていた・・・
 絶望故の笑い、そうとも見える笑い。
 「どう・・・して・・・」
 何故笑っていられるの?
 そう聞きたかったのかもしれない、それに男は答えなかった。
 「口説きたくなるだろ・・・」
 そう言って力無く笑う。
 「なぁ・・・一つだけ・・・ワガママを聞いてくれよ・・・
  死ぬなよ・・・後追いなんて俺のガラじゃねえから・・・」
 この時代、死ぬ気が無くても死ぬことはある、しかもそれは自分で死ぬよりずっと多い。
 それでも彼女のことを心配していた、もしかしたら彼は彼女の素顔を知っていたのかもしれない・・・
 「生きて・・・生き抜いてくれよな・・・」
 「・・・うん、名前・・・」
 「ん?どうした?}
 「名前・・・教えて・・・」
 「俺の名前か?・・・俺は・・・」



 「ミリアムさん!無事ですか?」
 奥の方からユキムラの声がした。
 それに続いて奥へと向かった部隊が戻ってきた。
 「ああ、どうにか・・・」
 痛みを堪えつつ、立ち上がるミリアム。
 その眼は不思議そうに巨大なACの残骸を見据えていた。
 「無事・・・だけど機体はほぼ壊滅状態ね」
 「そう、ですか・・・こっちもです、思っていたよりも敵は精強で」
 「そう・・・こっちは・・・通信機が生きている程度でほとんど機能しないわ」
 「・・・それなら本部に連絡を入れておいた方がいいのでは?」
 通信機は当然のように全ての機体にセットされている。
 だが元々その通信波の力は強力ではなく、距離が遠ければ通信も出来ないのだ。
 この作戦用に通信機が強化されたのはミリアムの機体だけなのだ。

 波長を合わせて通信を入れる。
 「会長?聞こえますか?こちらGOAD、こちらGOAD」
 数秒の間が空き、会長とミリアムとで通信が繋がる。
 画像の受信状況も悪くない。
 「GOAD隊・・・作戦は成功したのかね?」
 会長の顔は疲れ切って、さらに顔に血がこびり付いている。
 後ろからは銃声と爆音・・・
 通常のオフィスには決してない音と気配、戦場の物だ。
 「会長・・・なにがあったのですか?」
 「ああ、クーデターだよ」
 簡素な返答、そして驚愕の事実。
 「その、理由は?」
 冷静に、そのつもりでも、声が震えている。
 「特殊部隊GOAD・・・その存在そのものが理由だ」
 「どういう・・・事ですか?」
 「副会長を知っているね?」
 「ええ・・・」
 「異能者、つまりはエンジェルプラスの事だがね、
  それがあればこの都市の秩序を乱すに充分・・・
  そして副会長の指揮の元に新たな部隊の設立、言ってみれば子飼いの連中だな。
  秩序を守るのはまともな人間が行う、だから特殊能力の持ち主は不要であり、有害ですらある。
  ・・・それがクーデターの理由だ」
 何も言うことが出来ないミリアム、そして自分が一般にどれほど理解されないのかを知った瞬間だった。
 「・・・GOADの個人データは首脳部にも公開されていない。
  だから君達のデータを消去すればこちらに君達のことを詳しく知る人間は私以外にはいない」
 自分の無力さ、そして何も出来ない不甲斐なさを噛みしめる。
 「だから、私が死ねば、君達は安全だ」
 「!そんな・・・」
 「ついでにだ、私の個人資産、主に電子マネーだが、その全てを君達に譲ろう。
  生き残るための活動資金に、山分けでもいい、してくれればもう言う事は無い・・・」
 「会長・・・」
 恐ろしい速度で自分のACに電子マネーが送り込まれてくる。
 その間に、画像の後ろで爆炎が轟く。
 「それでは・・・さらばだ」
 画像がふっつりと切れる。
 それと同時に電子マネーの送信が終了する。
 その後にはどの周波数を入れても反応がない。
 恐らく向こうの通信端末が物理的に破壊されたのだろう。
 「・・・」
 何も言えなかった。
 そして何も考えられなかった。

 時間が経って、心が落ち着き、思考が安定してくる。

 もう何処にも帰るトコロがない。
 どれほど血にまみれ、血を流すトコロでも、
 そこは確実に帰るトコロだった。
 でも、もうそれもない・・・

 彼女は途方に暮れていた。

 「どうしたんですか?」
 時間が妙に長いことで少し不安に思ったユキムラがコックピットに顔を覗かせる。
 「・・・クーデター」
 それしか言えないミリアム。
 それに対してまともに顔色を変えるユキムラ。
 「そんな・・・」
 その一言で全てを察したのかユキムラも顔色を変える。
 「『いつかは起こるとは思っていた』けどこんなに早く・・・」
 その声で、ミリアムは顔色をもう一度変えた・・・
第25話 完


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後書き代わりの座談会

ジオ「はい、25話ですな」
ノア「おいおい、名もない一般兵が格好良すぎだろ今回」
カリナ「でも名前が出てないし・・・考えてないでしょ?」
ジオ「うん、その通り」
ミリアム「じゃあこの後の伏線は?」
ジオ「微妙にある」
ルシード「クーデターの顛末は?」
ジオ「考えてあるけど・・・本筋には関係ないし」
ルシード「じゃあ言え」
ノア「どんなのだ?」
ジオ「おいおい、まだこの部、と言うかクーデター後の話が終結してないだろうが」
カリナ「終わったら話すって事?」
ジオ「まぁこの部は次が最終回だし、次回の座談会にでも話すよ」
ミリアム「ところで電子マネーってハックされないの?」
カリナ「あ、そういえば」
ジオ「・・・それは俺も気になるけど」
ミリアム「考えてなかったの?」
ジオ「その通り」
ノア「・・・考えとけって」
ルシード「あのさ・・・段々説明とか設定が適当になってきてないか?」
ジオ「まあ言われてみればそんな気もするけどさ・・・ええい!終了だ終了!」

座談会は終了しました、この後のシーンはカットされています、皆さんで勝手に何が起こったか想像してください。