ＡＲＭＯＲＥＤ ＣＯＲＥ BATTLE FIELD OF RAVEN
第２２話 繋がる心と赤い瞳―見つめるは未来―
気が付くとミリアムはカリナの治療室―集中治療病棟から一般病棟に移っていた―に来ていた。
そこには分かっているとおり、カリナが横たわっている。
「・・・お前の昔の話を聞いた」
聞いているはずのない、聞こえるはずのな相手に話しかける、いつもの彼女なら下らないことと冷笑するだろう。
だが今日は違った、感情が一気に、まるで失った分を取り戻すように戻ってきていた。
「お嬢さんのきれい事と罵られても、お前は何も知らずに耐えていたな・・・」
悔しさから、拳に力が入る、壁に何もなければ思い切り、壁が、拳が血まみれになるまで殴っていただろう。
「お前の過去を知らずに、お前を罵ってきた私は、お前の眼にはさぞかし哀れに見えただろうさ」
自分を嘲るように冷笑する。
「そうなんだろう？何も知らずにお前を責め立てる私は、さぞかし滑稽に映ったのだろう？」
そして自分を陥れることを知っていて、あえてそれをする。
「確かにお前はエライんだろうさ！強いんだろうさ！
その事を知らずにお前のことを罵っているときの私は・・・
さぞかし滑稽に思えただろうさ！」
そこで言葉を切る。
そして最大の疑問を、ゆっくりと紡ぎ出す。
「・・・何故、私を助けた」
「誰かを大切に思うことは、いけないことなのかな？」
聞こえるはずのない声は、確かに目の前から聞こえた。
「その大切なものを守ろうとすることはいけないのかな？」
そしてそれはゆっくりと目を開ける、そしてミリアムは幻聴を聞いたのではない事を、ゆっくりと認識する。
「そして大切だと思うことに理由はいるのかな？」
認識しても、それが現実だと理解することは時間がかかった。
「あの時、自分の気持ちを示すためには、ああするしかないと思ったの・・・
そんな思いは・・・迷惑かな？」
ミリアムは、カリナから眼を背けて話し出した。
「昔・・・私にもごく普通の家庭があった・・・
両親がいて、兄がいて、そして私がいた」
その一言一言に昔を思う心があることにカリナは気付いた。
「でも、私には見えてしまったんだ。
父が愛人を家の外に作り、私達への気持ちが薄れ、消えてゆくのを・・・」
声に悲しさが含まれてゆく。
「この瞳のせいで分かってしまったんだ、分かってはいけないことを・・・」
自らの赤い瞳・・・生まれ持った忌まわしき力。
それが全てを壊すなどと誰が考えるだろう。
「それが偽りの絆でも、それは掛け替えのない大事なものだったんだ、この私には・・・」
声に自虐的なものが含まれてゆく。
「でも幼く、分別のなかった私は、その事を両親に告げてしまった・・・」
後悔と懺悔、幾らしても足りないもの・・・
「そしてその偽りの絆は瞬時に分解した・・・
当然だ、私に対する憎悪、恐怖は飽和状態で吹き出す寸前だったんだからな」
ゆっくりと拳から血が流れてゆく、強く拳を握りすぎたためだろう。
「父はその後すぐに家をでて、母は徐々に精神崩壊を起こしだしていた・・・
それも当然だ、四六時中頭の中を読む私といたんだから。
それに、最愛の夫とも引き離される原因にもなったんだからな」
ゆっくりと昔のことが鮮明に映し出される。
「ママ、泣かないで心の中が悲しみにでいっぱいで私も・・・」
凄まじい力で突き飛ばされる。
全てが鮮明すぎて、まるであの時に戻ったかのようだ・・・
「触るな！化け物！お前のせいだよ！お前がその瞳で頭の中を駆けめぐるから！
お前の瞳は真っ赤に血塗られた夕焼けの色だよ！
アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ！！！」
「・・・そして私は両親を失った・・・
それでも兄さんは、兄さんだけは側にいてくれた、
でも・・・その兄さんももういない・・・」
自分で自分を消してしまえればどんなに楽だったのだろう？
そう考えたこともあった。
でも、死ぬ勇気が彼女にはなかった。
自らの瞳に手を当てる。
「そうさ、この瞳は私そのものなんだ、周りの人間全てを不幸にするしかない、この私のな・・・」
「・・・そんなこと、ないよ」
瞳に当てられた手をそっと掴む。
「ミリィの瞳はね、私と最初に会ったときから、
ずっと綺麗な朝焼けの、そう、とても澄んだ色だよ」
そしてその瞳に穏やかなココロが宿ったことに、彼女達はいつ気が付いたのだろうか。
「だから、もうやめようよ、過去を見てそこに留まるのは。
悲しい記憶だけを見続けて、自分を責め続けるのは」
ココロが壁を作るのなら、今、ココロは壁を壊しているのだろうか。
「どんなに今が辛くても、自分で全てを閉ざさなければ、きっと今を変えてくれる人に出会えるよ。
だって、私もそうだったから、そうやって、今の両親に出会えたんだから」
穏やかなココロは瞳から全身を駆けめぐる・・・
「だから、ミリィも諦めないで・・・私も、手伝うから」
「信じ・・・ない、信じたく・・・ない」
ココロの壁を覆うものと壊すものとの戦い、それは僅かな抵抗で、ココロの壁を壊した。
ゆっくりと穏やかな赤と青から涙が流れてくる。
―また・・あの時と同じ気が流れてくる―
『今の私・・・ミリアムにはどう映っているのかな？』
―何の打算もなく、ただただ自分を癒してくれる真っ直ぐな癒しの感情―
「大丈夫、世間は辛いことばかりじゃないよ、だから・・・
２人で、みんなで一緒に未来へ進もう、ね」
まるで知ることのなかった母のぬくもり、それを感じながら、ミリアムはカリナの胸の中で泣いた。
まるで子供のように・・・
それから３日後、カリナは退院、その一週間後、ネオ・バグ発生。
整備場にて・・・
「これよりＧＯＡＤ各員は現場へ突入する、飛燕各班は後方より援護を頼む！各員搭乗せよ」
この声には飛燕の各員も驚いた。
「ようよう、俺達を気遣ったフォーメーションに変わったじゃねえか、
一体どういう風の吹き回しだい？ガンナードール？」
「世の中が、そう捨てたモノじゃないと気付いたのさ」
笑顔のミリアム、そこには今までのココロの壁は存在していなかった。
「おいおい、何赤くなってんだよ」
後ろからお調子者の飛燕隊員がからかう。
「な、何言ってやがる！いくぞおら！」
軽く頭を殴って飛燕に搭乗する隊員。
その光景がおかしくて、つい笑ってしまった。
「さあ、出撃だ！」
「りょーかーい」
元気な声と元気な声が若い子供達を見送った・・・
「・・・そんな事があったのか・・・」
「うん、今となってはイイ思い出ってところかな？」
「でも・・・何で今はここにいるんだ？」
話からすると今でもそこにいたはずだから、それを不思議に思いその事に触れる兄。
辛い思い出に触れる兄・・・
「実は・・・この話には続きがあるの・・・」
そう言って彼女は再び語り出す・・・
第２３話 完
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後書き代わりの座談会
風が強いため今日は座談会なし。
て、ことで最近素で出ることが多いｇｅｏです。
今回のテーマは「過去と向き合う事」この一事です。
ミリアムが嫌がってた赤い色で、朝焼けよりも夕焼けの色が好きって人、ごめんなさい。
ついでに推測できると思いますが部隊から離れなきゃならない事情なんて物を経験すればまた自閉症に戻るんじゃいか、
とか言う質問は無しでお願いします。
精神力でカバーってことで。
で、恒例の次回予告をします。
ＧＯＡＤがＧＯＡＤである理由、ネオ・バグ。
その研究所、発生原因を遂に突き止める。
その正体はかつてレイヴンズネスト崩壊の時代、その残滓であった。
ネストの残滓、それは彼女たちに何を見せ、何を語り、何を与えるのだろうか？
次回２３話『最後の仕事』お楽しみに。