ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第21話   強き笑顔―赤の瞳―




 『彼女』・・・ミリアムへの衝撃は全くなかった。
 ACのコックピットに衝撃が走り、
 そしてコックピットがひしゃげて中の『彼女』は死ぬはずだったのに・・・
 それが不思議で、もう二度と開くはずのないその瞳を再び開く。


 「えへへ・・・捕まえた・・・」
 目の前にいたのは『カリナ』のAC・・・
 『彼女』の予想通り、『彼女』のコックピットがひしゃげている。
 「ええええええええええええええい!」
 そして3門のグレネードを超至近距離で発射する。

 バグに突き刺して発射した腕のグレネードは腕ごと吹き飛び・・・
 両肩のグレネードの発射の爆風はACの肩から上を丸ごと吹き飛ばす。

 「ヴァーノア?・・・」
 彼女、ミリアムはその光景を何も出来ずに見ていた。
 「良かった・・・『ミリィ』が無事で・・・」
 久しぶりに聞いたその言葉が心に響く。
 そこで通信が途切れ、バグと共にその場に崩れ落ちる。
 「カ、カリナ・・・?」
 訳が分からなかった。
 でも、彼女はその名前を弱々しく呼ぶことしか出来なかった・・・



 隊長室の側のソファー、そこに座り・・・ただ、何もせず座っているミリアム。
 ・・・もうそこに何時間いるのか、そんな感覚さえ無くなってきた頃。
 「アイツ、峠は越えたそうだぜ」
 トガワだった。
 合流し、カリナを治療室に運んだ頃よりも明らかに落ち着いている。
 それは安心感か、それとも時間の経過によるものなのかは分からなかった。
 「別に・・・そんなことは聞いてないさ」
 冷たく、だが虚勢を張っているように聞こえた。
 「そもそも、私の命令を無視した上の重傷だ、
  今後の作戦行動・・・バグの殲滅にしばらく影響がでてしまう」
 「そういう言い方は無いだろう?アイツはお前が心配で・・・」
 乱暴に立ち上がる。
 「それこそ、『余計なお世話』だ」
 そのまま立ち去る。
 だからその後の彼の言葉を彼女は聞いていない。
 「そんな風に心配されたのは初めてじゃないのか?」
 という言葉を。


 だがこの発言は正しくはなかった。

 彼女には一人の兄がいた。
 兄だけが、彼女を理解し、両親達の迫害から守ってくれていたのだった。
 そして兄が目の前から消えたとき。
 それが全てを遮るモノ―ココロの壁―を生んだのだった。


 無人のはずのミーティングルームに入ろうとしたとき、中から声が聞こえた。
 「そうか・・・ミリアム・ハーディーは無事だったか・・・」
 「ええ、でも何故あんな事をしたのでしょうか?
  いつもなら、怖いくらいの冷静な判断を下す彼女が・・・」
 「仕方ないだろうな、人間、ときには心が平衡感覚を失うこともある、
  いくら過酷な任務を実行する能力を持っていたとしても、
  君達GOADは大人ではない、子供の集団なのだからな」
 そこからは会長、そしてユキムラの声が聞こえた。
 その声に、部屋に入ることを躊躇させる。
 「私、思うんです・・・彼女のあの無邪気な笑顔、暖かな両親からのココロを享受してきた、
  何も知らない笑顔を受け止めることが・・・」
 ゆっくりと椅子に座るユキムラ。
 「そう、私達の知らないあの両親からの慈しみを受けるような気がしたから、
  それが怖かったからじゃないでしょうか?」
 あいつ!一体何を言ってやがる!
 部屋に入って文句の一つも言ってやろうとドアロックに手をかける。

 ―それが感情的な行動だということに気付かずに―

 だが入ることはできなかった。
 「本当に、そう思うのかね?」
 会長のその言葉に・・・
 「これは私の端末だ、私の仕事の一つにGOADの管理も含まれている。
  その関係で各員の個人データに触れることもある・・・」
 カタカタという音と共に一つのデータが呼び出される。
 「見たまえ、これが彼女のデータだ」
 それを見たユキムラの表情が凍り付く。
 「このデータ・・・本物なのですか?」
 「そうだ・・・彼女、カリナ・ヴァーノアは・・・
  2歳の時、両親から捨てられた子供なのだよ」
 その言葉を壁越しに聞いていたミリアムの表情も凍り付く。
 だって・・・あいつは・・・


 『実家からね、お菓子がさっき届いたの』

 あの時の言葉が聞こえてくる、脳裏に焼き付いて離れないあの言葉が。


 「君達GOADはその特殊能力から人々から、そう、世間から浮き上がり、・・・そして時に恐怖を与える」
 淡々とした会長の声が、ミリアムの、ユキムラの耳に響く。  「彼女の両親はそれに耐えきれず、彼女を置いてどこかに失踪した・・・」
 「そんな・・・」
 「そしてどこかを彷徨っているところを保護された・・・
  だがそこでもその特殊能力故に疎まれ、蔑まれ、再度脱走。
  そしてまた保護される・・・その繰り返しだったらしい」


 『昔登り棒をグニャリと曲げてパワフルカリンなんて呼ばれてた時期もあったけど』

 また、あの時の言葉が聞こえてくる。


 彼女はドアロックを握った手を離し、その場に膝をつく。
 「今のご両親・・・養父母に会うまでは本当にひどい生活だったようだよ・・・」
 ユキムラもショックは大きく、隠しきれなかったのか、片手で顔を覆っている。
 「君やミリアム君やトガワ君はまだいいのさ・・・
  どんなに辛い思い出があっても、両親の顔を覚えていられるほどの時間があったのだからな」
 全てが暗転していた、ココロも、体さえも。
 「そしてその家でも、2人の兄が突如失踪、それが自分の罪だとも言っていたよ・・・」

 自分の罪、そう言って全てを受け止めてきたカリナ。
 それに対して、いつも彼女に辛く当たってきたミリアム。
 その事実に直面した彼女は、何を想い何を考えたのか?

 「そう、彼女の笑顔、明るい表情は何も知らぬ故ではない・・・
  全ての悲しさを知った上でも笑っていられる・・・
  本当に強い笑顔なのだよ・・・」
 気が付いたとき・・・彼女は立ち上がっていた。
 「あの笑顔の下には、どれだけの苦しさ、悲しさがあるのだろうな・・・」
 そして走り出した。
 殺したはずの心から、涙を流しながら・・・
第21話 完


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後書き代わりの座談会

今回はAA発売と重なったので誰も来ません
てことでgeoの後書きです

前回後半の彼女、と言う表現は伏線でした、外からの視点ではなくてあれをごまかすためだったんです。

それと、ついにカリナの過去をミリアムが知る。
これ程皮肉なことはないでしょうね。

自分より不幸な人間が目の前で幸せそうに笑っている・・・

さて、それでは後書きを書いたらAC2AA買ってきてやります。


失ったはずの心、そこから涙を流しながらミリアムは懺悔する。
信じてもいない神に、そして目の前で眠る少女に。

その中で彼女は何を見るのだろうか?


次回22話『未来を見つめし赤の瞳』お楽しみに。