ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第19話   邪眼の少女と笑顔の少女




 「飛燕各班!目標への弾幕射撃停止!後方へ!」
 ユキムラの指示が飛ぶ。
 「よし!カリナ!止めを頼むぜ!」
 トガワから激励が飛ぶ。
 その直後上空からグレネードの三連斉射が敵を襲う。
 「やあああああああ!」
 新作の急速降下ブーストと重力を利用し、上から緑色の機体、『屠龍』が舞い降りる。
 そしてブレードに落下速度を加えて突き刺し、跳び下がる。
 そのままの体勢でグレーネードを三斉射を浴びせる。
 その光景を上から見守るミリアムとユキムラ。
 そして動かなくなったネオ・バグ。
 「作業班、前へ、強制殺菌開始せよ!」
 作業班がバグに対し、数万度の蒸気を浴びせる。

 「ガアアアアアアアアアア!」
 突如バグが動き出した、まだ死んでいなかったのだ。
 「あのバグ、まだ生きて・・・」
 ユキムラが認識するよりも早く、大口径のメガビームライフルを構えるミリアム。
 「だめですよ!まだ作業班の退避が!」
 抗議するより早く、狙点を定め、発射する。
 一瞬だった。


 「貴様!味方ごと撃つとはどういうことだ!」
 パイロットがミリアムに掴みかかる。
 「それでも人間か?同じ血が通ってんのか!?」
 怒りを露わに抗議する。
 しかし、ミリアムは冷静だった、もしくは冷酷だった。
 「人間?」
 ふっと冷酷に笑う。
 「お前達にとって、私はガンナードール、邪眼の悪魔じゃ無かったのか?」
 「こ・・・この野郎!」
 パイロットの放ったパンチをあっさり避けるミリアム。
 場が一気に緊迫する。

 だが・・・

 「ミリィ〜!」
 カリナが駆け寄ってくるのが見えた。
 「さっきは危ないところをありがとう!」
 両手でミリアムの腕をつかんで礼を述べる。
 「でも悔しいよね〜絶対倒したと思ったのに〜!」
 パイロットに向き直り、笑いかける。
 「今度は絶対、私達前衛だけで倒そうね」
 「・・・お、おう」
 緊迫していた場を一気に緩和する。
 そしてミリアムの胸ぐらを掴んでいた手を離し、ミリアムから離れる。

 明るい気質とまっすぐな感情か・・・
 結構なことだ、このまま飛燕小隊との緩衝役をつとめてもらおうか・・・
 「こちら紫電、目標の消去完了、洗浄作業終了後に帰投する」
 その声に、一切の人間らしさは存在しなかった。



 「パパ・・・行かないで」
 誰かの声が聞こえる・・・
 しばらくしてそれが自分の声だと気付く。

 「じゃあ行って来るよミリィ、いい子にしてるんだよ」
 パパが私の頭に手をあて、優しい声で話してくれる・・・
 でも・・・それが偽りであることが『少女』には分かった。
 「あなた、行ってらっしゃい」
 後ろでママが笑いかけている。
 「パパ・・・」
 「どうしたんだい?」
 「また私やママやお兄ちゃんの知らない女の人のところに行くの?」
 「な、何を行ってるんだい?パパは仕事に行くんだよ?」
 パパがうろたえているのがよく分かった。
 「あなた?」
 「嘘だよ、だって『見える』もん、パパの心の中はその人のことで一杯だもん」
 「あなた、いったい何のことなんです?」
 「お願い、パパ、私やママやお兄ちゃんと一緒にいて」
 ズボンの裾を掴んで涙ながらに訴える私。
 「いい加減にしろ!」
 パパは力一杯私を殴った。
 「あなた、やめてください!」
 私を庇いながらママはパパに殴られていた。
 「いつもいつも!人の心の中を覗きおって!なんて気味の悪い子供なんだろう!」


 『なんて気味の悪い子供なんだろう』


 ずっと、ずっと頭から離れないあの言葉。
 「ミ・・・」
 それは永遠に続くんだろうか?
 「・・・リィ」
 でもそれでいい・・・私は・・・

 「ミリィ?」
 ハッとなって目を開ける。
 どうやら寝ていたらしい、ということを彼女は自覚した。
 同時に嫌なところを見られた、とも考えていた。
 「・・・どうした?・・・」
 あることに気が付く。
 「確か、今日は非番だろう?」
 「えへへ、実家からね、お菓子がさっき届いたの、折角だし、みんなで食べようと思って、はい一個」
 後ろ手に持って隠していたバスケットを開ける、中には大量のお菓子が入っていた。
 「へぇ・・・」
 なるほど、いかにも娘好きの母親が送ってきそうな代物だ・・・
 ミリアムはそう考えて一つ受け取る。
 「それと・・・話があって・・・」
 カリナはいつになく真剣にミリアムを見つめる。
 「話?」
 「・・・うん、飛燕分隊のことで・・・」
 ピクッとミリアムが反応する、既に先程までの眠気はまったく無くなっていた。
 「あの人達って、私達と違って、感染したら死んじゃうでしょ?
  それで・・・出来るだけ私達が前面にでて、分隊をサポートに回せないかな?」
 「・・・生憎だが、あいつらは何人負傷しようが死のうが補充は幾らでも出来る、
  だが私達エンジェルは死んだ場合の補充は極めて難しい」
 この時のミリアムは『呼吸するコンピュータ』と言えるほど、冷静で冷酷だ。
 「でも、でもあの人達にだって家族があるんだよ?生きてるんだよ?」
 「残念だが・・・私に要求されたことは、いかに効率よく、確実に奴らを消去することだ、
  そのためには攻撃効率以外のこと、特に人情だの人の命の重さなんて事を考えるなんてまっぴら御免だね」
 冷酷に突き離す。
 「奴らは、そう、私達を守るための捨てゴマなんだよ」
 だからそんなことは考えるな、と言外に語る。
 「でも!ミリィが傷ついたら私は悲しいよ!コマなんて言い方、良くないよ!」
 その意図を察したのか、既にカリナは泣きそうだった。
 「コマさ」
 それでも口調が変わらず、冷徹に言葉を浴びせる
 「コマなんだよ、奴らも、当然私達もな・・・
  私達は数百万人に一人、そういう特殊性がある、ただそれだけだ。
  コマだという事実には変わらない」
 ソファーから立ち上がり、事務用のイスに座る。
 「だからこそ、奴らが死のうと私は何とも思わないし・・・
  私自身コマだから死のうとだれも悲しまない・・・」
 もう既に、カリナは動けない、放心状態に近い状態なのだろうか?
 「いや・・・むしろ私が死ねば奴らは喜ぶかもな?
  私もネオ・バグと同様に化け物の部類に属するらしいからな・・・」
 自嘲的な笑みと共に事務作業を進める。
 「そんなこと無いよ、誉めるのが照れくさいだけだよ」
 それ以外にないといった自信ありげな声で答えても、
 ミリアムの声は変わらず、むしろ次第に冷たさを帯びてゆく。
 「残念だが・・・『見える』んだよ、私には」
 自嘲的な声も混じってゆく。
 「お前が綺麗だと言った・・・この瞳には人の放出する気を感じる事が出来る・・・
  異名通りの化け物じみた瞳なのさ・・・」
 そう言って正面を見ることを拒否するほど長く延ばした前髪を掻き上げ、軽く赤き瞳を見せる。
 「そして・・・この瞳には奴らの気が、憎悪が、悪意が嫌と言うほど見えるんだよ」
 「でも、でも・・・」
 カリナはまだ食い下がらない。
 「きっと・・・」
 ぽつりと言葉を吐き出す。
 「ミリィの両親だって・・・悲しむのに・・・」

 その瞬間、昔のこと、辛かったことが頭をよぎる。
 その言葉によって、ミリアムの何かが切れた。

 それは隊長としての責任感かもしれない。
 それは隠し続けた感情だったのかもしれない。

 「いかにも・・・」
 「?」
 「いかにも苦労知らずのお嬢さんが考えそうなことだな」
 「ミリィ?」
 「ミリィか・・・」
 そこには憎悪という形でだが彼女の隠していた『感情』が一瞬だけだが現れた。
 「お前に私のことをニックネームで呼ぶ気安さを許したのも・・・
  我々エンジェル同士、最終的には飛燕分隊との関係をこれ以上硬化させないためだ」
 立ち上がり、呆然と佇むカリナの肩をつかみ、壁に押しつけ、髪を掻き上げ、嫌と言うほど自分の赤い眼を見せてやる。
 「お前にも私と同じ眼があったらな・・・
  お前にも見せてやったのに・・・
  私が、今日までどれほどお前に対して虫酸の走る思いをしていたかをな・・・」
 肩から手を離し、窓の外の偽りの夕焼けに視線を送る。
 「分かったか?私はこういう人間なんだ・・・
  分かったら二度とこういう意見はしないことだ」
 恐らくミリアムは気付いていないだろう。
 偽りの夕焼けに見惚れている自分に。
 そして隠していた感情をさらけ出してしまったことに。
 「これからは飛燕分隊と同様に好きなだけ私を憎むといいさ・・・
  それとも・・・いつもの笑顔で取り繕うのかい?」
 一言も言わず、ドアノブに手をかけドアを開けるカリナ・・・
 「ミリアム・・・」
 ニックネームでは呼ばなかった。
 「今の私・・・ミリアムにはどう映っているのかな?」
 冷えた声だった、それこそミリアムと同等に・・・

 そしてミリアムも気付いた、カリナの出す気の事を・・・
 だがそれを確かめようとしたとき、既に彼女の姿は部屋から消えていた・・・
第19話 完


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後書き代わりの座談会

geoです、今日は寒いので座談会は中止となりました。

て、ことで個人的設定バラシ。
大口径メガビームライフル・・・AC2のカラサワみたいな物です、形はEスナと同じ。


いかん、これくらいしか話すことがないぞ。



では次回予告でも・・・

『感情的にもつれたミリアムとカリナ、その状況下にバグ出現の一報が入る。
 そのバグはかつてない強さを誇り、次々と味方がやられてゆく・・・
 弾薬も尽き、撤退の進言される中、ミリアムは1人残り、バグと相対し、そして・・・』

次回、第20話『生と死の境界線(はざま)で』お楽しみに。