ARMORED CORE BATTLE FIELD OF RAVEN


第16話   出会い―6年前―




 私がこのような恐怖を味わうのはこれで二度目になる。
 あれは4年ほど前にどこかの企業が作り上げた馬鹿げた大きさの蟻を見たとき以来だろうか・・・
 今回はそれに輪を掛けて大きな蟻である。
 それを追う酔狂な兵士達もいたようだった、
 果たして彼等の何人ほどが生き延びることになるだろうと、その時は考えていた――――
「ヨーゼフ・エルンストの手記」より

 ―――――今までの認識が謝っていたようだ、あの生体兵器は正体不明のヴイルスを持っている。
 しかも100%の感染率を誇り、感染者の半数が死に、半数は生体兵器となる。
 それを知らされたとき私は対策を練らねばならなかったのだ。
 最初期の研究において一万度以上の蒸気を直接噴霧する事で消毒が可能なことを発見する。
 だが、人体にこれを行えば死んでしまう、そのためもう一度研究を進める事になった。
 そしてこのヴイルスは空気感染せず、接触感染、血液感染が主な感染経路だと分かる。
 そして、このヴイルスによる混乱を減少させるため、
 感染者はほぼ100%死亡する都市外部からのヴイルス、と説明されていることも知った。
 さらに数ヶ月後、奇跡的だがそれに対する抗体を持つ人間を発見したのだった。
 だが、それはさらなる悲劇を生むことになるとは、その時の私は想像もしなかった。
「ある研究者の手記 エンジェル研究の報告、第一編」より

 「まったく、引っ越しはいいけど共用の荷物の片づけぐらい手伝えっての」
 ジオがぶつぶつと言いながら書庫の整理を一人でやっている。
 言葉からして後の連中はどこかに出かけたらしい。
 「まったく、こりゃあ今日一日暇になることはないかな」
 上の方に適当に本をしまい込みながら下に置いてある残った本の総量を見て呟く。
 あと2000冊以上はあるだろう。
 本を持って、ハシゴに登り、上に並べて、降りる。
 本を持って、ハシゴに登り、上に並べて、降りる。
 本を持って、ハシゴに登り、上に並べ・・・
 「どわああああああああああぁぁぁぁ!」
 バランスが崩れて階段から転げ落ちる。
 本がクッションになったので全然怪我はない。
 「いてて・・・ん?」
 ふと一緒に転げ落ちて右腕に持ったままだった本に目をやる。
 何かの本らしい、何かが挟んである・・・
 写真だった。
 「・・・これはカリナとミリアムか」
 日付からして6年前のものらしい、写真に写っている他の連中は当時の仲間だろうか?
 ・・・ん?写真のミリアム、妙に眼が冷たくないか?
 そういえば俺が行方不明になる前もそうだったような気がする。
 しかもその時よりも深く沈んでいる。
 あれは何が原因だっけ?

 彼は深く考え込んでしまった。



 「ただいま〜」
 ミリアムだ。
 「おかえり」
 「何それ?」
 ミリアムが手に持っていた写真を見つける。
 「ああ、これ、お前のだろ?」
 写真を見せながら言う。
 「あらら、これ私達がレイヴンになる前の写真じゃないの、よくみつけたわね」
 「ああ、それでな・・・」
 ミリアムにさっき気付いた今との違いについてミリアムに聞いてみることにした。
 「それは・・・」
 ふいにミリアムの声が沈む。
 「あ、話したくなきゃ話さなくてもいいんだぜ」
 「いいわ、そのうち話そうかと思ってたし、ちょうどいいわ」
 そう言って本棚に寄り掛かる。
 「あれは、そう、6年前の事よ・・・」



 数十の高機動型MT「飛燕」と二機の高機動AC「疾風」と「彗星」が部隊となり、巨大な蟻を追う。
 数十メートルのACやMTが生身の人間で、蟻がトラックのように見えた。
 人間達は弾幕を絶やさず、そのトラックを追いつめていく。

 「・・・どうにかうまくいきそうですね」
 「そろそろ部隊に連絡を入れておこうか」
 「そうですね、こちら疾風、そろそろ目標地点です、飛燕各員は撤収準備してください」
 その瞬間、その通信波以上の強化電波が入った。
 「こちら紫電、射戦軸上に目標、ネオ・バグ確認、射撃開始する」
 「なんだと!?こちら彗星!俺達の撤収は終わって無いんだぞ!ちょっと待ってくれ!」
 「全力で回避行動に移れ、以上だ」
 通信は一方的に切られた。
 「皆さん!物陰に伏せてください!急いで!」
 その言葉から一瞬間が空き、辺りに爆風を吹き上げた。

 一瞬で瓦礫の作られたその区画から二機のAC、そしてさっきより数の減ったMTが這い出てくる。
 「ちっくしょう、いつもながら無茶してくれるぜ!」
 「いたた・・・そうだ、負傷者の救出、急いでください!」
 「あの野郎!」
 彗星のパイロット、トガワは先程の爆風の作り手がいるはずのビルの屋上を睨み上げた。
 そこには一機の軽量級ACが、重量級でも扱いきれるか不安なほど巨大な砲を握ったまま下方を見つめている。
 「逃走中のネオ・バグを本日19時43分を持って完全に消去、これより本部に帰投する」



 同日、パイロット用食堂にて
 「聞いたか?第3小隊のこと」
 「ああ聞いたぜ、なんでも負傷者が多くてしばらくは作戦行動が不可能らしいな」
 「マジかよ?化け物は化け物同志だけで戦えってんだよなぁ」
 「まったくだぜ、シャレになってねえんだよな」
 「あの、いいですか?僕、いえ自分には分からないんですが、彼等はいったい何者なんですか?」
 若きパイロットが上官のパイロットに尋ねた。
 「ああ、そうだな、お前はまだ今月配属されたばかりだったんだったな、説明してやろう」
 「あ、どうも」
 「奴らはな、言ってみれば強化人間の集団だ」
 「え?」
 「ゴースト・オーガ・アタック・ドール、通称GOAD・・・何らかの特殊能力を開花させた連中の集まりだ」
 「居るはずのない鬼を攻撃する、人形・・・」
 若いパイロットは、母国の言葉に直し、さらに戦慄する。
 「奴らの能力は化け物じみてる・・・」
 そこに一人の少女、ミリアムが入ってくる。
 「ふん、ガンナー・ドール、邪眼の少女様のお出ましかよ」
 「はい?」
 「ああ、今言った連中の中でも最も訳の話からねぇ奴だよ、今度の事だって奴の独断が原因だって・・・」
 足を止め、話をしているパイロットの方に視線を向けるミリアム、一瞬だけ空気が凍り付く。
 「なんだよ、文句があるなら相手になってやろうじゃ・・・」
 立ち上がり、巨大な何かにぶつかる、先程の彗星のパイロット、トガワだった。
 「あらら、すいませんねぇ」
 悠然たる態度を崩さず、180以上ある威丈夫達の間から頭二つ分抜きんでた巨大な体をそのままに話した。
 「いやー、私達もね、感謝してるんですよ、飛燕分隊あっての我々だってね」
 威丈夫なな男達がたじろぐほどの巨躯が上からニヤリと笑う。
 「御不満な点があったらいつでも言ってくださいね、精一杯頑張って直しますから」
 「・・・そ、そうか、いい心がけだ」
 男達は精一杯と言った感じに声を出し、すごすごと退散する。
 「全く、大人気のねぇ連中だぜ」
 男達が出ていくと今までの態度は何処へやら、悠然とミリアムの隣に座る。
 「まぁあいつらの言うこともわからんでもないな・・・」
 トガワが一口サンドイッチにかぶりつく。
 「何が?」
 無表情に夕食を食べながらミリアムが聞き返す。
 「俺達のことだよ、訳の話からねぇ連中だって、お前も少しは気を付けた方がいいんじゃねぇの?
  これ以上仲間の中に敵を作るもんじゃねぇだろ?」
 「・・・話はそれだけか?」
 食べ終わり、トレイを戻しに行こうとするミリアム。
 「ああ、そうそう、会長がお呼びだぜ、飯食ったら来いってな」
 「・・・そうか、分かった」
 振り返らずにそのままゴミを捨て、ミリアムは食堂を出ていった。


 「少々やりすぎではないか?先程の戦闘結果を見せてもらったよ、
  飛燕第3戦隊は幸い死者こそ出ていないものの人員、MTともに大きな損害を受けた。
  君たちが主力とはいえ、今のところあれだけの少人数であのバグを消去する手段はないのだぞ」
 「お言葉ですが・・・私は任務、ネオバグの消去を目的として行動し、
  敵が射戦軸上に現れた一瞬を逃さず確実に仕留めたまでです。
  私の指揮に問題があるのならあなたが直接指揮を執るか、もしくは代案の提示をお願いします。
  まあもっとも、我々を都市防衛機構からの独立運動を議会内部に展開している会長に、その時間がおありになれば、ですが」
 会長と呼ばれた男は、一言も言い返せなかった。
 「お話がそれだけならば失礼させてもらいます、ACの整備をしなければならないので」
 それだけ言って彼女、ミリアムは後ろを向いて歩き出した。
 「今日付けで君達『GOAD』に新人が配備されることになった」
 年代を感じさせるドアノブに手を掛けたところで会長が声を掛ける。
 「新人、ですか?」
 「ああそうだ、もう既に『エンジェル』は完了している、後は実地訓練を残すのみだ。
  配置は恐らくトガワ君と同じフロントファイターとなるだろう、その子を宜しく頼む」
 「・・・了解しました、我々は数百万人に一人しかいない貴重なユニットですからね」
 隊長はそれに沈黙で答える。
 「特に最前線で危険にさらされるフロントファイターは貴重な消耗品・・・
  スペアがいることに越したことはありませんからね、失礼します」

エンジェルプラス・・・
ネオ・バグの持つヴイルスに抗体を持つ人間の呼称。
同時に、強化人間のような能力を何かのはずみで発動する。
また、大破壊以前の技術である特殊なパルス波を照射し、
イメージ・トレーニングを行うことにより、
その力を自らの意志で発動することが可能。
通常のプラスとの相違点は精神に異常をきたす事が無く。
また、それが可能な人間は限られていること。

 彼女たち専用のミーティング・ルームに入ると、見慣れた二人、トガワとユキムラの他に、
 見たことのない少女が談笑していた。
 「あ、ミリアムさん、彼女が新人の方です、じゃあ、自己紹介を」
 「あ、はい、今日付けでこの部隊に配備されることになった、カリナ・ヴァーノアです」
 にこにこと微笑み、優しい笑顔を振りまきながら、自己紹介を始める。
 「宜しくお願いしまーす」
 そして自己紹介が終わる。

 それが彼女達、ミリアムとカリナの出会いだった。
第16話 完


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後書き代わりの座談会

ジオ「はい、第2部、ミリアム編、カリナとの出会いで〜す」
ノア「割とあっさり風味に始まるね」
ルシード「最初から濃かったらきついだろ・・・」
カリナ「えっとさ・・・私達も半分は強化人間って事?」
ジオ「当然」
ノア「お前・・・対戦であれだけばかすか空中からグレネードうっといて真人間か?おい」
ミリアム「ところでネオ・バグってACに出てきたアレの進化形態?」
ジオ「そんな感じだ、ヴイルス持ちってのはオリジナルだが・・・
   あれだけデカイとヴイルスでもぶち込んで大きくなったと考えた方がいいかなって思ってな」
カリナ「放射能じゃあるまいし・・・大きくはならないでしょう」
ジオ「いや、わからんぞ、未知のヴイルスってのも発見されてるし、そう言うのがあってもおかしくはないだろ」
ミリアム「そういう物かな?」
ジオ「てかこの設定考えたのお前らだろ・・・」
カリナ「あれ?そうだっけ?」
ジオ「まぁもとの形に即死性を持たせたのは俺だが」
ルシード「ああ、そうなんだ」
ジオ「・・・他に話すこともないし・・・終了しよっか」
ルシード「そう、だなぁ・・・」
全員「第2部もよろしく!」