BATTLE FIELD OF RAVEN



第21話 サユース前哨戦−欧州戦、皇帝一派と烏二羽−
Not to worry, our aces are faster than they are. You are all cleared to engage! 『ACE COMBAT 04 shattered skies』
ブリーフィングルームに入った時、彼等五人を迎え入れたのは一人の女性。 「ようこそ、ジュピターの皆さん……久しぶりね、ミリィ、カリン」 雪村楓、ミリアムとカリナにとってかつての同士である。 「ああ……やっぱりカエデ、と言う事は、ゼンも?」 「ええ、勿論、今はいないけど、作戦中だから……ね」 「カエデ、指令というのはなんだ?」 「私たちSAC-Pは先程の宣言と同時に解散、実戦部隊指揮官として本格的に組み込まれます」 「だろうね……俺達が全員呼ばれたのも何か関係があるんだろう?」 「ええ、貴方達五名は再度SAC-Pに編入、そのまま実戦に向かって貰います」 「……なるほどそう来たか、カリン、お前が言ってた『雪村さん』と比べて随分人使いが厳しそうじゃないか?」 「所変われば人も変わりますよ……話を続けます。  ゼンの部隊は現在西へ向かい南平基地を再度攻撃する作戦に出向き、そのまま福州を占領する作戦です。  一方欧州圏にはテオとヨーゼフのコンビを超音速輸送機スーパーソニックトランスポーターで向かわせ、現地部隊と合流に成功しました」 「なるほど、まずは手近なアジア圏を平定する予定だな、場合によっては欧州は一時的に明け渡すつもりか……」 ノアが作戦図を見ながら呟く。 「勿論それも計画ですが、こちらとしても欧州の橋頭堡を失うつもりはありません、そのために現地の皇帝を雇い入れました」 「……アンプルールか?」 「そうです、アンプルールと愛弟子のトゥールビヨンとアリュマージュ、この三名とあの二人を軸に戦うように命じてあります」 ジオは少しだけ血が滾るのを感じた。 アンプルール達、通称『皇帝一派』は欧州圏におけるビッグネームだ。 一度は戦ってみたいと思っていた事もあり、それは恐ろしくも楽しみである事だった。 「そして貴方達の任務は、アジア圏平定任務に関する物です」 画面が切り替わる。 「中東にほど近い旧アフガニスタン領内にあるグルジェフ社を攻撃して頂きます。  同社はミサイル技術に関して世界最高峰の技術と弾数を保有しており、また政府宣言に対し敵対することを宣言しました。  政府宣言から中距離弾道弾が旧インド領内北部……ラサ連合都市の領域に頻繁に飛来しているとの事です。  現在は迎撃システムが稼働しているとの事ですが、飛来数の数からして半日も保たないとの事で、救援要請が出ています」 ノアが手を挙げた。 「サイレントラインの……あー、政府の領域を守っていたあの衛星は使えないのか?  あれだけの威力があればミサイルサイロの十や二十どころか百や二百は軽くいけそうだが」 「それも考えましたが、大破壊以降大規模なデブリ帯が中東上空、静止衛星高度にあり、近づけない状態です。  あの衛星は地上攻撃が目的で、宇宙空間への攻撃は小規模な防御用のみですから……  さらに言えば、下手に手を出せばケスラーシンドロームを引き起こします」 「なるほど、だからあんなに活動範囲が限定的だったのか、デブリで宇宙への軌道が潰されないようにするためと隠匿の為か」 「その通りです、任務をご理解頂けましたか?」 「理解したけど、機体はどうするの? 実験部隊という事だから、当然機体は実戦レベルにあるとしても実験機でしょう?」 ミリアムが手を挙げた。 「ああ、その件に関しては大丈夫です、今エラン博士の選定した機体を選別して整備中です。  運輸についても件の超音速輸送機がありますので、一時間もせずに作戦領域に到着できるでしょう」 「わかったわ、とにかく時間がない事もね」 ヨーロッパ・旧ドイツ領内、サユース前哨基地 「まさか皇帝一派とチームを組む事になるとは思わなかったな、テオ」 「まさしくな」 『意外と言えばこちらも意外だよ、まさかあの機械烏と破壊烏がタッグを組んでいるとは思わなかった』 トーゥルビヨンがクー・ド・ヴァンの外部マイクで応える、どうやらこちらの会話を聞いていたらしい。 「うむ、二人はいつか戦場でぶつかると思っていた」 とは皇帝・アンプルールだ。 「ああ、エンペラー・アンプルール、あなた方と敵にならずに幸運です」 ヨーゼフが軽く会釈する。 「それはこちらこそ、だ、一対一ならともかく、あなた方二人を相手にすれば私とて一分と保たないでしょう」 「ならば3機ならば?」 テオが挑発するように問う。 「そうですな……私がどちらかを足止めして、あの二人で残った方を叩くでしょうな、それならばほぼ確実に勝てるでしょう」 彼はあくまで冷静に笑顔で応える。 「ミッションが終わったら一辺戦ってみたいね、プライベートで」 アリュマージュが会話に参加する、機体の整備は完了したらしい。 「アリュー、そう言う事は言う物ではありませんよ、戦うべき時には戦うのですからね」 「そうそう、戦いたくなくても戦う時は戦う、それが俺達、だろ?」 警報が鳴った。 『敵部隊接近、総員戦闘配備につけ、繰り返す……』 「っとぉ……ふざけてる場合じゃ無さそうですね……行きましょう」 「ええ、行きましょう」 皇帝とヨーゼフが握手する。 両方の目には絶対の自信が浮かんでいた。 機体に搭乗、システム起動。 通信回線、レイヴン間の回線確保、司令部への通信に直結。 「司令部、こちらヨーゼフ、敵部隊の規模、戦力を」 『現在判明しているのは北部よりACらしき高速機が8機、接近中、その後方にはその他通常戦力が多数、詳細不明。  他西部からは通常戦力が接近している、こっちはこっちの戦力で対処するしかない、とにかくACを頼む』 「了解、ACを撃破する、基地戦力は西の通常兵器を止めてください。  それから、基地の放棄も併せて進めてください……スーデントール基地に戦力を集中させるための遅滞戦闘だと忘れぬように」 『ああ、わかってる、敵ACの割り出しも並行して進める、放棄完了までやられないでくれよ』 「了解……聞いていましたね? 動きの早いACの撃破を最優先、あとは追加報酬だと考えてください」 「アリュマージュ了解、さてさて、敵はどんだけの手練れかなっと……」 『ACの割り出し中、全機ランカーAC……ACチーム『フォーゲル』5機を確認……連中は全機出撃の様子だぜ』 「残りは? 分かりませんか?」 「慌てるな……残ってる2足機体は……ディザスターとアンファングだ、残り一機の逆間接は……ブロックバスターだ!」 『なるほど、チーム部隊でACを止め、バランスの良いトップクラス二機で通常兵器を蹂躙、  オマケにあの破壊魔か……こりゃすげぇや』 トゥールビヨンの口走った内容はまさにヨーゼフの考えた内容とまったく同じだった。 「……皇帝方、あなた方は敵のチーム部隊を止めてください、俺達が破壊魔とあの二機を止めて見せます」 『わかった、信じよう、だが急げよ、基地が破壊されたら後方へ撤退も何もないのだからな』 「それはこちらこそ、だ、あんたらとは戦ってみたいんだから、死ぬんじゃないぜ?」 テオは笑っている。 弾倉の確認が完了したようだ。 『それこそこっちのセリフだよ、あんたらも途中でおっこちるんじゃないぜ?』 「上等ッ!」 5機は散開した。 『こちらヴュルガー2番機及びメーヴェ4番機、基地確認、敵ACを3機確認』 『シュペヒト3番機及びシュバルベ5番機、こっちは2機だ、発砲炎確認』 『アードラー隊長機より全機、一時後退、30秒後に再突入、目標は3機のAC、2機の敵は後続機に任せる』 見事な機動でターンをこなし、急速に後退する。 「さすがにこの距離では無理か……」 テオが狙撃体勢を解き、立ち上がる。 「当然だ、連中だってランカーだぞ、しかもこういう作戦の先陣を切る精鋭だ」 狙撃用のスコープを外し、さらにトリガ上部のボタンに手を掛ける。 長い狙撃用の銃身がフリーになり、そこを折りたたむ。 「へぇ、お前が支給されたのはこういう武器か、便利だな」 「実は俺も驚いてる」 折りたたんだ銃身を確認し、もう一度ボタンを押し込むと、長い銃身は固定され、スコープ状になる。 さらに弾倉を交換、モードを単射からフルオートに切り替える。 「狙撃ライフルと短距離制圧火器の複合か、扱いが面倒だが便利だな、複数の火器を持ち歩く手間も無くなるから動きが軽くなる」 「だがコイツを壊されたら火器が全部使えなくなるのは勘弁して欲しいからな、一応ハンドガンは持ち歩いてる」 「それで正解だよ、テオ、はてさて、俺に支給された武器は使えるものかね……っと、戦いながら確かめるしかないか」 そう言ってヨーゼフが取り出したのは、サブマシンガンの類のようだが、異様なまでにゴテゴテと突き出たデザインをしていた。 「随分とイカレたデザインだな、こういうデザインをするのはやっぱり?」 「ああ、キュービス博士じゃない、ルッカー博士だよ」 「やっぱね、あの人はどこかおかしいと思ってたんだ」 「ま、普通じゃどこまで行っても面白くないって意見にはちょっと位同意するけどな」 二人の軽口は止まらずそのまま、視認した3機へと銃口を向けた。 「情報と違って敵ACは確認された限りで5機、恐らくこれで全部だ」 「その三機はお前達に任せる、こっちは二機を倒せばいい、あとは任せるぜ? 破壊魔さんよ」 「任せな、ただ壊せばいいんなら簡単だ」 そういいながら縦列前進する二機の最後尾左につけるその判断と動きは淀みがない、やはり一流の人間だった。 左に突いたのを見てとり、パンドラボックスとエーアストの二人はテオとヨーゼフの機をやや右に捉える。 鎧袖一触ならばそれでよし、仮に拮抗されたとしてもその瞬間後ろのダイナマイトブルの機体は通過する。 だがその動きを読んでからの動きは素早い、二機が両手に持つ火器を乱射しながら一気に後退する。 三機共に被害は無いが、ただ訝しんだ。 「……どうする?」 「一気に距離を詰める、企みを実行させるな」 「OK、一気に距離を詰める」 二機は通常の歩行速度からブースターを発動させ、弾幕をはりつつ二機との距離を一気に詰めた。 「さすがは一流、判断が速いな、しかも有人機相手なら正しい選択だ」 ヨーゼフが呟く、その間にマガジンを一つ捨て、別のマガジンを装填し始める。 だが装填完了よりも早く別のマガジンが弾丸を吐き出し始める。 これが彼に支給された試作火器8マガジン同時装填型マシンピストルである。 無人機相手ならばこの判断を誘い自爆という手段も多く採られる。 「だが、それを期待していた俺達が言うかね、それを」 テオは手持ちの武器をヨーゼフに向かって放る。 それを受け取る前にヨーゼフも放った。 弾幕の途切れた2秒の間に武器が交換される。 「頼むぜヨーゼフ」 「ああ、一分以内で頼む」 弾幕の途切れを見て、二機−ディザスターとアンファング−は銃器を降ろし、数秒の間だけ前進だけを考えて進んだ。 距離は既に白兵距離。 「白兵に銃器は必要ない」 エーアストが呟く。 そう思った時には、機械烏、ヨーゼフの機体『フォーティチュード』が逆に前進してきた。 互いに考えていた事は同じだったのか。 互いの銃器を全力でもって真正面に投げつける。 銃器は互いにぶつかり合って地面に落ちた。 それを予想していたのか、パンドラボックスが飛翔し、破壊烏、テオの機体『スカイ』へと襲いかかる。 だがそれを見越していたのか、複数箇所から煙幕が上がり、屈むように移動していたスカイを完全に覆い尽くす。 同時にECMが作動し、FCSも妨害された。 「あの途切れ……このためか!」 マイクを切ったままとはいえ、苛立ちを隠さず呟く。 そう気付いた時にはまだ、ダイナマイトブルは二機の後方にいた。 気付いたのは偶然。 投げつけた銃器と、展開しきらない煙幕の間。 いつの間に前進していたのか、アンファングへ向けスカイが突進してきた。 咄嗟に跳び上がり、テオの旋風脚を回避する。 「しまった……!」 スカイが旋風脚の回転の一瞬でアンファングを追い越し、同時にまだ空中にある銃器を掴み、前方−目標近くの地面へ投げつける。 そしてダイナマイトブルが煙幕と、近くに投げつけられた銃器に躊躇して動きを止めた瞬間を見定め、襲いかかる。 旋風脚での回転の勢いを殺さず、両腕に装備された殴打武器で殴りかかる。 大砲による破壊行動も特筆するべきではあるが、格闘戦の激しさこそがテオドール・ベルナー、破壊烏の真骨頂である。 武器腕というパーツの特性上、近接戦闘は不可能と言っても良いが、その攻撃をかろうじてであれ受け止めるのは一流故だ。 だがそれを貫通せんと回転の勢いが止まらぬようにブースターを発動させ続けながら、さらに上下動を加えた回転格闘攻撃。 その為にチューニングされたスカイは、遂に両の武器腕を削りきった。 「ぐうっ……う……」 ダイナマイトブルが歯軋りを鳴らす。 援護の二機はどうしたというのか。 攻撃を仕掛けるのはテオのスカイ一機。 ならば解答は一つだ。 ヨーゼフ・エルンスト、機械烏の異名を持つ男に足止めされていたのだ、それも一流の彼等が援護が出来ない程に。 テオが激流の激しさでもって相手を打ち砕くとするならば、ヨーゼフの動きは清流だ。 同じ水であってもそれは対照的だ、あくまで自然の挙措でもって、彼は一流の二機を足止めしていた。 空中へと跳び上がったパンドラボックスと、正面で対峙するエーアストの両方を思界に入れた。 そしてさらに入れるべきは戦友とそのターゲット、それから撤退を続けつつ戦闘を続ける基地。 現状認識、開始。 均衡を崩さず、現状を維持すべし。 その均衡を崩すのは戦友からである事が望ましい。 基地へ敵を向かわせてはならない。 故に、正面と上空の二機を足止めせねばならない。 その際可能ならば撃破する事が望ましいが、不可能な場合深追いは避け、撤退させるべし。 前進する。 正面に立つのはエーアスト、装備は大型弾倉のマシンガンにブレード、肩部大口径グレネードにマルチミサイル。 この至近距離での肩装備の展開は不可能、注意を向けるべきは腕武器と、そして全体の動きのみ。 上空のパンドラボックスが地面に降り立つまで数秒。 煙幕に視界を遮られFCSはダウン、ならば近接戦闘のみ。 そして近接戦闘に於いて、ディザスターの長砲身ライフルは邪魔以外の何者でもない。 だがそれとて無視できる物ではない、敵は一流。 何かを発見すればそちらにライフルを向けるだろう。 故にけして挟撃されてはならない。 そこまで思界を巡らし、そこでようやく現実が動き出す。 既に双方の距離は数歩の距離まで縮まっている。 この距離ならば視界はクリア。 FCSの作動せぬこの状況下であれ、この距離ならば外さない。 エーアストがその銃口を、下げた状態から真正面に移動させ、引き金に力をこめた瞬間、フォーティチュードをしゃがみ込ませる。 僅かなベクトルのズレ。 目視で照準を定める前に、既にその先に機体はない。 角度にして僅か数度のズレ。 それを修正する前に、フォーティチュードが2歩を踏み込む。 この地点まで踏み込まれてしまえば、ブレードすらも使い辛い。 銃口を円の動きで外側へ弾き飛ばす。 近接線における互いの装備はほぼ同一。 右腕に銃、左腕にブレード。 だが互いにブレードは噴出しない。 その理由はプロ故にだった。 平常時ならば気になる物ではないが、ブレード噴出の瞬間は動きが鈍る。 だがこれほどの距離になれば、その瞬間だけでも鈍るのは危険行為だ。 故に左腕装備は素手による格闘戦と同一。 故に両者の行動も同一。 敵の銃を左腕で弾き、右腕の銃で敵を狙う。 例え危険域へ銃口の侵入を許しても銃口から弾丸が放たれるよりも早く危険域から弾き飛ばす。 片方が右足を踏み出せばもう片方も右足を踏み出す。 間合いを決して外さず、両者は演武を続ける。 そしてディザスターは着陸し、音響センサを起動させる。 視界は悪く、電子兵装も沈黙。 それはフォーティチュードが砲とミサイルの代わりに搭載していた電子兵装によるものだったが、彼女にはそんな事には頓着しない。 与えられた条件下で最良の結果を出す。 それが彼女の信条であったし、レイヴンに期待される事は即ちそう言う事だ。 「いた……」 ヘッドパーツに標準装備された音響センサは真実気休め程度の性能しか搭載されていない。 故に整備さえも疎かにされがちだったが、彼女はその部分もきっちりも整備を行い、音響センサは正常作動している。 長砲身のライフルを構える。 拡大照準機を取りだし、覗き込む。 煙の彼方、それでも実際の距離は数百メートルでしかないであろうその場所に二機の影が浮かび上がる。 構えを解かず、摺り足で微かに見える両者の影を睨み付ける。 音響センサが不明機の反応を捉えた。 「来たか……」 ヨーゼフがコクピット内で微かに声を漏らす。 二機の同時攻撃を受ければ己の機体などすぐに破壊されるだろう。 自分自身の技量は理解している。 この二機に勝つ事は難しい、目の前のアンファング一機ですらどうにか凌いでいるという現状だ。 故に同時に攻撃されない事が最も重要な事、可能ならば敵の戦意を喪失させる事。 幸いな事に風は微風、既に展開した煙幕が散る心配はない。 「小細工、させて貰うか」 アンファングからの左拳での一撃。 その一撃を弾くのではなく、受け流す。 右肩を落としつつ右足で一歩下がり、同時に左足を突き出して膝関節を狙う。 回避しようと命中しようと体勢が崩れる一撃。 突き出され、戻り始めてすらいない左腕に抱きつき、そのまま捻り込む。 一本背負いに似た技で互いが転倒する。 この結果を予期した者としていない者の差は数秒。 その数秒でも、時間稼ぎには十分だし、何より上級者同士での戦いでは致命的だ。 だが、この勝負は命を賭けるのではなく、時間を賭ける戦いだ。 故に狙うのは更なる混乱。 倒れ込みながらあらぬ方向へ火器を投げ捨てる。 視線は共に倒れ込む機体、どうせもう一機は視認不能だ。 視線はアンファングへ。 アンファングの肩部兵装へ。 「しまった……!」 エーアストが呟く。 彼が狙いが判明したのは投げられた直後。 こちらに向きつつも少しずれた敵機のカメラ・アイ。 それが肩部兵装に向けられたと気付いた瞬間だ。 「パージ……ッ!」 廃棄用の安全装置を解除、そして廃棄用のボタンを押そうとしたところで地面に激突する。 激突の衝撃でまるでバネに飛び込んだように両方の機体が跳ね上がる。 その衝撃で彼の思考が飛んだ。 思考が戻るまでは5秒程度。 だがその5秒でヨーゼフは作業を終えていた。 上になったヨーゼフへの衝撃は比較的少ない。 狙っていた腕が少しブレたがそれは1秒で補正した。 狙いは肩に装備されたミサイルの発射装置。 コア内部からの命令系統が破損した際に使われる緊急用の発射系統。 それに手を伸ばす。 跳ね飛んだ機体に掛かる重量は殆どゼロだ。 大まかに補正し、発射装置に手を掛け、全弾を一斉に発射した。 急激な変化は煙の向こう。 共に倒れ込んだ事と、どちらかの機体が火器を手放した事が見えた。 拡大照準機を戻し、構えを解き、同時に距離を詰めるべく走り出す。 その距離は短く、恐らく走れば数秒。 それだけの短距離故に、一斉発射されたミサイルの回避は不可能だった。 『敵部隊を確認しました、間違いありません、皇帝一派です』 「そいつは一大事」 言葉とは裏腹に、隊長、アドラーは普段通りの表情で考え込む。 「よし、ヴュルガー、メーヴェ2番4番、お前らで一機を抑えろ」 『了解、足止めに徹します』 「シュヴァルベ5番、皇帝を抑えろ」 『了解、攻撃します』 「そして俺とシュペヒト3番で隙の出来た機体に攻撃する。  今回の戦いはACを抑えりゃ良いんだ、皇帝一派だからって無理は勿論気負いもするなよ、いいな?  それからガチガチに考えると自滅する、戦闘ってのは柔軟にやるんだ、分かってるな!」 『全機了解、戦闘開始!』 「アリュー、トゥール、敵はこちらを各個に分断する作戦のようです、こちらは散開せずに突入、分断までの時間を稼ぎます。  その後の戦闘も遅滞戦を中心に、徹底的に時間を稼ぎます、とにかく付かず離れず、着実に行きますよ」 『了解』 三人は必ずしも天才ではない。 彼等は天賦の才を持たない人間であった。 だが、凡人に近い故に己を磨き続け、結果として、欧州の頂点に己を輝かせた人間だ。 故に地味であれ着実、全ての動きに淀みがない。 考え得る全ての結果から最良の結果を選び取り、最悪の中からでも生存の一手を選び取る。 それもある意味で天才のなせる技であり、天才と違う所は、それが直感からか、経験からかの違いだけだ。 つまりある意味で、彼等は天才であったと言う事でもある。 「コンビュスシオン、交戦engage」 アリュマージュの機体をトップに置いたアローフォーメーションで突撃する。 「クー・ド・ヴァン、交戦engage」 「エクレール、交戦engage」 決して散開はしないが、それでも瞬時にトップを切り替えられる位置につけた。 それは瞬時の判断だったが、僅かに開いた隙間を攻撃の点と見誤れば。 5番機、天才と呼び声高いシュヴァルベはそれを見抜き、敢えてアリュマージュを無視し、トゥールビヨンに白兵を仕掛ける。 だがその一撃を受け止めたのはエクレール。 最初の目論見が失敗したと認識した直後にシュヴァルベは離脱、零距離でロックされたミサイルをロックオンの段階で回避する。 それと入れ替わるようにミサイルマウントで死角になった左側からシュペヒトが特攻を仕掛ける。 数発を被弾しながらも右腕のサブマシンガンで反撃し、互いに1マガジン25発を撃ち尽くす。 フルオートの再装填は完了までに僅か2秒。 攻撃が止まったその2秒を見越し、トゥールビヨンがバズーカをシュペヒトに放った。 「ちっ!」 彼の回避の遅れを補ったのは装填中だった大型のマシンガンだった。 武装一つを犠牲にし機体そのものは無傷。 即座にハンガーに装備されたハンドガンを取り出し、乱射しつつ後退、入れ替わるようにヴュルガー、メーヴェが前進する。 その突撃を止めたのはアリュマージュと、残されていた基地の防衛機構だ。 脆弱な火力であったが、それは回避行動を誘発し、機体機動を制限し、そこをアリュマージュがレーザーライフルを放った。 その一撃までは回避した物の、直後のメーヴェは全くの無防備。 「クッ……さすがに皇帝、強い」 「くおっ!」 直後に接近したアリュマージュの一撃はアドラーが止め、アリュマージュの側背を狙ったのはシュヴァルベだった。 「何やってやがる! レイヴンが相手を止めてる間にやっちまうんだ、急げ!」 シーバ・ラミーノ副司令は目の前で行われる高レベルの乱戦に釘付けになりそうな味方の視線を戻すべく作業現場で味方を叱責する。 「第三戦車部隊、燃料弾薬を再度確認したらスーデントールへの血路を開け! モタモタしてるとクチが閉じるかもしれん」 『航空隊、戦力の10%を損失、敵の航空部隊は精強です』 「暇してる南部防衛の部隊から対空部隊を引き抜け、航空隊は戦域を4キロ後退、そうすりゃ対空部隊から援護が入れられる」 アーガス・ラウ司令は各戦区からの報告に矢継ぎ早に指示を出していく。 「レイヴンの援護を出す、基地中枢防御部隊は現時刻をもって任務を解き、変わって基地北部防衛の任を出す。  同時に基地機能を残存するAPCとリグに移す、移動準備は終わっているな?」 「終わっています、リグからのスイッチで残存する弾薬と燃料が誘爆する手はずになってます」 「よし、残ってる南部防衛部隊は北部、西部の援護へ、遅滞戦闘しながら基地を迂回して後退、司令部以下総員移動開始」 「なんだって? もう移動だと? ……了解した、残ってる弾薬200キロは放棄、誘爆の燃料にする、トラックへ乗り込め!」 作業員はエンジンが掛けたままになっていた、荷物満載した荷台へ分乗する。 シーバはトラックの運転席へ乗り込み、全作業員が分乗した事を確認すると、アクセルを思い切り踏み込んだ。 乱戦を生き残るのは、乱戦の中にあって敵と味方の位置を見失わない一流である。 そう言った意味で、乱戦を戦う8機は皆一流である。 優れた技量も、優れた火力も、乱戦の中にあっては有効利用しなければまるで意味が無いどころが害悪だ。 味方に当たる可能性もゼロではなく、むしろ高い。 だが、その乱戦の中にあって、皇帝一派の三名は一つの共通した不安材料を持っていた。 敵が戦術眼を高く持っているならば最初から、膠着状態になればより高い確率での不安。 自軍の三機を皇帝以下三機に充て、残りの二機で前哨基地サユースへ侵攻する事である。 これに対しては有効な手段は存在しない。 如何に彼等に与えられた任務が足止めであったとしても、本隊への援護が悪い理由はない。 この作戦により充てられた三機の危険は増すが、突破の確率は飛躍的に向上する。 皇帝一派政府部隊が対応を誤れば殲滅する事も不可能ではない。 そもそも下手に回り込もうとすればその時点で挟撃される。 この乱戦下で背後に回り込む事は不可能としても、一旦距離を離せばそれは容易な事だ。 故に、彼等はその戦術に気付かせてはならない。 「ハッ! もう時間が無さそうだな!」 アリュマージュがその意図に気付いたのか、相手を挑発しながらさらに接近する。 アドラーを狙った白兵の一撃はシュペヒトが受け止める。 アドラーが瞬時に意図を察知し、銃弾を乱射する。 コンビュスシオン頭部に命中した三発の銃弾がレーダー機能を破壊し、サーマルセンサも機能を低下させた。 だが乱戦下にあって、スキャンにインターバルの存在する頭部レーダーの意味は薄く、 最も重要なモニタリング機能、そして瞬間的な位置を探るソナーセンサは正常に機能していた。 「時間がないのはどっちだ! 通常部隊到着まであと2分、それまでに退避できるかやってみるか!」 シュペヒトが叫び返す、だが効果の高い突破戦術に気付いた様子はない。 トゥールビヨン、クー・ド・ヴァンがヴュルガーとメーヴェの攻撃を、屈んで回避する。 屈んだ膝の姿勢を利用して後退、バズーカを反転させ、アドラーの側面から鎌のように振り落とす。 咄嗟の事に対応しきれず、強かに頭部パーツに衝撃が入り、蹌踉めいた。 モニタリング機能低下、暗視装置使用不能、その他幾つかの機能が低下する。 追撃を仕掛ける二機の銃撃は、アドラーの壁に隠れ、回避する。 クー・ド・ヴァンへの追撃はコンビュスシオンからの攻撃で中断される。 熟練の皇帝と年若き天才が対峙する。 「あちらはまるでウロボロスのように戦っていますね、参加しなくて良いのですか?」 「参加したらあんたと一対一で戦えない、どうせやるなら強い奴と、って事さ」 「戦争行為をスポーツ競技と一緒にして頂きたくないですね、負けたら死ぬかも知れませんよ?」 「ああ、あんたは再び負けて、今度は死ぬさ、新人の頃と違ってな」 「そうですか、それは世代交代を象徴する物となるでしょう、それがもし実現されるのならば」 互いの武装が、正面の敵へと向けられた。 「老害は排除され淘汰され、才在る者は、次なる戦いへ漕ぎ出していく、それはレイヴンの宿命だ」 「老獪なる武芸者に、年若き武者が敗れ散る、それも宿命か」 合図。 6機の戦いの流れ弾が両者の間に着弾した。 直後、致命的なまでに接近する。 シュヴァルベのブレードが迫る。 エクレールのブレードが、明らかに遅れて迫る。 天才は勝利を確信し、直後にその愚を思い知らされた。 注目していた方向と逆からの一撃。 マシンガンの銃身による殴打。 浴びせるように返す一撃も銃身で行われた。 「くっ……てめぇ!」 「どうされた? ここはアリーナではない、多少のラフプレイは当然でしょう」 倒れ込みつつも、追撃から逃れるためにブーストで間合いから脱出する。 再び対峙する。 「レスリング競技でも、数秒の反則は認められている、仮に競技でも一撃程度、何の問題もないでしょう?」 皇帝は笑う。 その言葉が終わった直後。 『レイヴン、基地の放棄が完了、スーデントールからの出迎え部隊と合流した、撤退せよ』 「なるほど、決着はまだ遠くか、覚えておけ皇帝よ、俺はお前を倒し、皇帝の座を奪う」 「好きになさい、私はいつかはこの地位からは去らねばならぬのだ、早い方が良いだろう」 そう言うと自嘲気味に笑う。 「いや、この表現は可笑しかったかな、元より私の皇帝という異名に座など無く、いつしか呼ばれただけなのだからな」 皇帝は笑い、そして弟子と共に、天才の前から去っていった。 サユース基地が吹き飛ぶ爆炎を眺めながら、天才は歯噛みした。
第21話 完

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