BATTLE FIELD OF RAVEN
第17話 奇襲−next generation−
「よく戦車なんて視界の悪い物に乗っていられるな、怖くないのか?」
「視界の良い戦車なんて怖くて乗ってられるか」
狙撃兵アダム・ギッテルマンと戦車兵エイドリアン・ホープ
「ホーセス17よりホーセスネスト、機体トラブル発生、そちらに帰投する」
『了解ホーセス17、第六滑走路に消防部隊を配備する、そちらに降りろ』
「了解、ホーセスネスト」
ホーセス17の搭乗員達は、ある意味で幸福で、そしてある意味で最悪の運勢を持っていた。
南平基地の索敵班は、通信終了とほぼ同時に地上を駆ける数機の機体を捕らえた。
「おい、今パトロールに出てる奴らは居ないよな?」
「ああ、居ないはずだぜ? そもそも今はかなりの部隊が出撃中なんだから、そんな余裕はあるはずないだろ」
「じゃあ敵じゃねーか! 警報慣らせ! 総員出撃、基地の防衛設備にも電気いれろ! 副司令!」
「許可する! 警報! 司令も呼べ!」
基地全てに警報が鳴り、迎撃態勢を取るように指示が飛んだ。
「連鎖地雷起動、地雷は用意しているな?」
「クラスターで設置中です、とりあえず、レーダーで捕らえたのは北からとのことですから、迂回されない限りは」
平常、基地の周辺に地雷の設置などしない、が、地雷は防御兵器としては極めて優秀なために、準備はされている。
クラスター弾の要領で大量に地面にばらまく通常地雷。
あらかじめ設置しておき、一つの地雷が爆発した瞬間起動して連鎖的に爆発させる連鎖地雷。
兵士が肉薄するように砲に装填して発射し、磁力でもって相手の兵器に吸着させる吸着地雷。
「よし、北エリアの索敵班を脱出させろ、無駄死にさせるな、可能ならば詳細な報告を出すようにとも送れ」
「了解、送ります……副司令、南部監視塔、及び索敵班から異常なしの報告、及び東エリアの監視塔より火線確認の報告です」
「索敵班から、現在情報照合中との報告、それから第2偵察隊から画像が幾つか届いています」
「よし、第二モニターに映せ、10枚以上ならメインモニタの使用を許可する」
「8枚です、第二モニターに映します」
映された画像は鮮明ではなかったが、大まかな所は理解出来た。
「装備の違う白い奴が最低4種……1機は戦術偵察型か? 武装が見あたらないな……よし、画像の解析を急げ」
4種の白い機体、この機体はサイレントラインで幾度も目撃されている大型タイプに違いなかった。
「この程度の戦力ならば、負けはしないと思うが……危険かも知れないな」
なにしろこの基地は通常の基地施設とは保有する戦力レベルが違う。
大規模展開可能な陸上防衛部隊、常に半径数十キロの制空権を維持し続ける航空隊や、それを維持する補給部隊や整備部隊も保有する。
このような白い機体に襲撃される事も一度や二度ではなく、それを毎回撃退していたという自負は兵士の士気を高めている。
このクラスの基地を保有しているのは、レイヤード共同統治機構のノボシビルスク基地以外には、
1ランク落ちてラサシティー・ヴァーノア財団主導のダマスカス基地しかない。
他は防衛施設と言うよりは監視施設と言っても良いレベルであり、先日も漢城基地が壊滅されているが、その際の被害は極めて少ない。
だが今は戦力の多くを臨川のサイレントライン施設へ突入させており、戦力は低下している。
それでも通常の基地の主力を数倍したような戦力を保有してはいるが、戦力の低下は如何ともしがたい状況だった。
だが、現在の彼等に撤退するという選択は難しい状況だった。
それは臨川地区の遊軍を裏切るという事であり、恨みに感じたレイヴンの襲撃を受ける可能性を示唆していた。
投入されたレイヴンの半分が行動を起こせばこの基地の戦力でも危険だった。
「防衛部隊から連絡、現在順次展開中」
「索敵部隊から詳細な報告が届きました、失礼ながら司令は?」
「今向かっている、司令到着までは報告は私に」
副司令が報告を受ける。
「ふむ、念のためだ、補給ライン防衛部隊を増援戦力としてこちらに回せ、食料弾薬は十分、補給停止、増援を要請しろ」
この時代、補給護衛に部隊を割くのは常識である。
通常大部隊をもって護衛を行う、余裕がない場合はレイヴンなどを雇う場合もあるが、
その場合、襲撃部隊からすると格好の的であり、襲撃を受ける可能性が多く、通常では使われない。
「了解、三明基地を放棄させます、航空隊より発進要請が出ていますが?」
「レーダーに航空機の反応はないな、離陸を許可する、装備はASMになっているな?」
「制空部隊は現在装備を換装中、対地部隊を先行して離陸させます」
「陸上部隊から連絡、北エリアに展開完了、自動対地兵装が発砲開始、基地から約15キロの距離まで接近中の模様」
言うのとほぼ同時に光点が一つ消える。
「対地兵装反応消失」
「早いな、発砲開始から二秒、アレが不運だったのか、敵が幸運だったのか、あるいは、強敵か」
そう考え出すのとほぼ同時、司令官がようやく到着する。
敬礼を返そうとするよりも早く手でそれを制す。
「状況を」
「敵は『白』が5ないし6、現在15キロ地点まで接近、地雷撒布及び部隊を順次展開中、航空部隊は離陸しました」
「増援は?」
「三明基地を放棄させ、また補給ライン防衛部隊を回しました」
「合格だ、機甲部隊へ装備の指示は出したか?」
「いえ、大部分は通常の対甲装備です、劣化ウラン弾は第一小隊に配備された分で補給が尽きました」
「そうか、そう言った武器はさすがに不足するな」
「仕方がないでしょう、臨川派遣部隊への補給が最優先という命令を受けているのですし、
福州原発での劣化ウランの生成量には限度がありますし、なにより廃棄物とはいえ資源を無駄には出来ませんから」
「分かっている、部隊に伝達、滑走路と管制塔を最優先で護れ、やるべき事は行った、後は不測の事態に備えるのみだ」
そこでふと思いつくように言った。
「副長、君は万一の場合に備え司令部ではなく管制塔に行きたまえ、ここがやられたら君が指揮を執るんだ」
「分かりました、どうかご無事で」
敬礼をして走り去った。
「無人機が5……いや6機か、正念場だな……全機、射程内に捕捉次第報告、一機でかからず集団で仕留めよ! 一斉砲撃!」
『スカウトより全機、前方の空間に地雷撒布を確認、連鎖地雷の可能性も併せて確認、迂回を』
最前列を走っていた機体がここに来てようやく言葉を発した。
そう、彼等は無人機ではなく、有人機であった。
『アサルト3了解、右へ回る』
『アサルト1、了解』
『アサルト2、了解』
アサルト1、2は左へ回った。
『アサルト4、了解』
一拍遅れてもう一機が返答する。
そして進路を変更せずそのまま地雷原へ向かう。
『エンジニアより、地雷原を排除する』
集団で異常進化した林の中を駆け抜けるその白い6機は外見こそ殆ど同じであったが、武装が違っていた。
アサルトの四機は、それぞれに違う武装、大砲、大型ライフル、MP、そして両手装備の小銃。
エンジニアの機隊は、戦闘支援の装備が多く組み込まれていた。
対人兵装の9ミリ機銃や黄燐発煙弾、機体の肩部に装備される小型ハンガーでは搭載しにくい補給用弾薬。
更には地雷原突破用の爆導索が搭載されたロケット砲も装備されていた。
通信が終わると同時に地雷原へロケットを発射し
そしてスカウトの機体は南平基地の司令が考えたとおりの戦術偵察機であった。
腕部に固定され装備しているカメラ、肩に装備された電子武装、頭部に増設された通信装置、偵察型としては有り触れている。
だがその機体は単座であった。
通常偵察機は単座で運用される事はない。
まして電子線の装備さえ行われている機体ではどうしても機体そのものの運用が難しくなる。
だがその機体は単座なのだ。
『電子攻撃開始、各機周波数を6バンド確保』
「司令! 反応増大、全周から敵多数反応です!」
「なんだと? 偵察班は何をしていた! 偵察班、再度敵を確認しろ!」
「了解、偵察部隊を呼び出します……南部偵察班からの報告では敵の報告はないと言っていました」
「言っていたとはどういう事だ、対ジャミングの中継塔は準備してあるだろう?」
「それを無効化する程強力なジャミング装置を搭載している物と思われます」
「いかん! 北方展開中の部隊を呼び出せ、連中だってレーダーの異常反応位は分かっているはずだ、北方に集中するように伝えろ!」
「分かりました、私が伝令に走ります、司令は通信の回復を試みてください!」
そう言ったと同時、司令部が吹き飛ばされた。
「アサルト4より、敵司令部と思しき敵施設を破壊」
アサルト4が司令部をライフルで的確に撃破した。
そのライフル弾は実体弾ではなく、レーザー砲とでも言うようなライフルだった。
未だ地雷原にすら到達する前だというのに、トン級爆弾の直撃にさえ耐えうるはずの司令部を吹き飛ばしていた。
『こちらアサルト2、発進中の敵機確認、撃破する』
空中で弾倉を一瞬だけ確認し、離陸寸前の機体から優先して攻撃していく。
第二次大戦に於いて塹壕戦における近接戦から発生したMPは拳銃弾をフルオートで連射する武装だ。
航空機の機関銃と比べればACの拳銃弾は火力が違う。
航空機の装甲は容易く貫かれ、滑走路上を火球が滑走する。
だがそれでも弾倉一つでは全滅させる事は出来ない、火球が舞う中、数機が滑走路から離陸する。
『アサルト1は援護に回る、スカウト、電子戦の戦果はどうか?』
『スカウトより、電子戦により地上の敵は混乱中、アサルト3!』
『聞こえてるよ! もらったぁ!』
アサルト3が混乱中の部隊へバズーカを撃ち込む、直撃はさせず、狙ったのは後方の燃料倉庫。
直撃と同時に誘爆を起こし、周辺の機体を巻き込んで吹き飛ばす。
「指揮官戦死、以後の指揮は私が行う、各隊、当基地放棄! 後方の部隊と合流! 損害を防ぎつつ後退せよ!」
「了解……副司令、指令は伝えましたが……良いのですか? この基地は華連公司とレイヴンの」
「分かっている、だがこれは適切な判断だと思う、多少不満でも従って貰う」
「分かりました、上空の部隊は近隣の基地に降ろします」
「不満そうだがな、連中に陸戦部隊は居ないんだろう、あの6機さえ撃破すれば問題ない、そして後方にはそれに足る部隊もある」
そして場合によっては臨川より帰投した部隊も予備戦力として投入する包囲作戦の指示を話す。
最も、この指示は電波妨害で伝わらなかったのだが。
「なるほど、そう言う事ですか、後方の部隊には別の場所で合流するよう指示します」
「頼む、それから念のためだ、データの持ち出しと破棄も、可能なら行ってくれ」
「了解……司令、遅れていた自走砲隊が後方の山岳地帯に展開を完了したと報告が来ていますが」
「そいつは僥倖、自走砲隊の指揮官はリィだな?」
「はい、リィ・ガーレン大尉です」
「よし、部隊の後退を支援させろ、奴ならやってくれるはずだ」
苦々しく眺めるモニタでは、両手に拳銃を持った機体が映し出されていた。
ション・シュン伍長は、この戦車の非力な火力ではACの装甲を貫くなど不可能だと分かっていた。
そんな事は地球歴80年代、AC技術発展目覚ましき頃からの常識であるし、それは戦車兵養成所でもさんざん言われた事だ。
だが、それでも脆い部分さえ狙えば戦力の喪失を狙えるはずだと理解していた。
だからこそ、単独運用が可能に回収されているとはいえ黒雲十八型などという150年以上昔の戦車が第一線に投入されているのだ。
狙うのは後背のブースター・ユニット、ないし前面のメインモニタ。
現行のレーザー測距儀は、完全に目標を捕らえた事を伝えた。
だが、まだ早いと思った。
この120ミリ鉄鋼弾の砲弾初速は1.8キロ毎秒、発射から命中まではおよそ1秒。
もう少し引きつける……もう少し……
「食らえ!」
轟音と共に鉄鋼弾が撃ち出される。
確実に撃ち抜いたと思われた一撃は、障害物に当たって弾かれた。
拳銃の銃身。
そうとしか見えない物は、120ミリの徹鋼弾を弾いていた。
「狙いすぎだ」
混乱と同時、声が聞こえた気がした。
全速で後退し、同時に緊急脱出用のレバーを引いた。
「作動し
思考すら追い付かず火炎に包まれた。
ジャン・ライアン中尉はモニタの端、レーダーを見た、もうこれで五度目だ。
戦闘中にそれ以外の事に気をとられるのはどうかしているとは思うが、生来の心配性がここに来て再発したらしい。
北に存在する6機以外は偽情報であるという伝令を受け、北にのみ火力を向けている。
だが、レーダーに映るのは5機でしかない。
その五機だけで敵の戦闘力は天井知らずだったが、最後の一機がどうしても気になってしまった。
だが部下にこのことを通信で話すわけにはいかない、彼は小隊長とはいえ指揮官である、不安や不満を外に漏らしてはならない。
それは、彼が小隊長となった時の誓いであり、士官になった時目指した事である。
そしてそれは実を結び、少々厳しい小隊長という、満足のいく評価を得ている。
今はただ、小隊長という与えられた役目を果たすだけだ。
「ホアン、リンチェイ、右に回れ! あとは俺に続け、あのサブマシンガンの敵を屠る! 残弾確認怠るな!」
『了解、一斉攻撃支障なし』
果たして最後の一機は後方にいた。
コードネームエンジニア、それがこの作戦に際し、彼に与えられた名前。
「情報通りか、後方の洞窟内部に自走砲確認、撃破する」
ただの工兵だろうと、自衛程度の武装は備えている。
そして、サイレントラインという封鎖領域内で自衛しようとするならば、極めて強力な兵器が必要であった。
80ミリの機関砲弾は、自走砲をあっさりと撃ち抜く。
即応して自走砲が洞窟内に後退する。
だがそれでも前線への支援砲撃と、エンジニアへの釘付射撃は続けられた。
その砲撃を回避しながら地形を確認し続ける。
「錬度は高く、士気も十分……残念だ、これほどの部隊を屠らねばならないとは」
機関砲弾が単射され、自走砲が撃ち抜かれる。
洞窟内部の構造こそ分からなかったが、表層地形は完全に把握した。
あとは洞窟が全て繋がっていると仮定して、最も攻撃効率の良い地点を攻撃し続ければ良い。
果たして洞窟内部はほぼ全てが繋がっていたのか、全ての砲弾が無駄なく撃ち込まれる。
「砲撃回数が減少した……十分か?」
そう考えた瞬間、動きが鈍った。
『もらった! 発射!』
ユアン・ハーク中尉が思わず叫ぶ。
ガーレン大尉の言ったとおりの地点、予め潜んでおいた地点が最高の射撃地点となった。
無防備に曝された背面装甲。
彼の弟で、砲手のアラン・ハーク少尉は可能な限り冷静に砲弾を発射し、その一撃はロック地点よりやや上に命中する。
爆炎で視界が歪んだ。
だがそれは命中した証。
巡洋艦の装甲すら貫くホロチャージ弾。
それが通常弾ですら装甲を撃ち抜くサイズと貫通力を持つ自走砲から撃ち出されたのだ。
生き残っているはずがない。
「よし、ブン伍長、他の残存車両を呼び出せ、撃破したと伝えろ」
「了解です、これで大分楽になりますね、中尉」
「気を抜くな、まだ敵は5機もいるんだぞ? ガーレン大尉の自走砲は生きているな?」
生き残っているはずもない物が動いていた。
頭部は既に無かったが、胴体下部に取り付けられたサブセンサは生存しているらしく、それを頼りにややぎこちなく動いていた。
「馬鹿な……、おいアラン、装填しろ、急げ!」
「あ、あああ」
自動装填装置は動いていたが、それでも手動で動かしてやった方が装填はずっと早い。
80ミリ機関砲がこちらを向いた。
少尉は指示されるまでもなく装填と同時の無照準発射を行うと決めていたが、間に合うかは五分だった。
「逃げろ! ブン!」
ブン・ラム伍長を思い切り突き飛ばす。
鍵の開いていた自走砲のドアは簡単に吹き飛び、一緒に伍長も外へ吹き飛ばされた。
目を開けた瞬間、伍長は見た。
空中で停止した機関砲を、そして見た、自走砲の砲台から砲弾が撃ち出されるのを。
最後に伍長は見た。
こちらを向いて笑うハーク兄弟を。
そこから先は、まるで遅れた認識を取り戻すかのように素早く動いた。
機関砲を装備した左腕が吹き飛び、自走砲が吹き飛ばされた。
破片が体に突き刺さるような激痛と共に、ブン伍長は気絶した。
『エンジニア被弾、戦闘能力減少』
可能な限り冷静に報告したつもりだったが、動揺が声に現れていた。
『アサルト1、2、救助に向かう』
『了解、援護する』
言うより早くほぼ非武装のスカウトが突如として飛び出す。
白い機体のパイロット達ですら驚愕する行動に、南平基地の兵士達は思考が停止する。
だが、戦いとは武器を使うだけではない。
武器になる物を使うのが戦いなのだ。
両手を構えるガン・カメラを棍棒のように振り回して基地兵達を張り倒す。
倒れ、衝撃で動けなくなった機体からセミオートライフルを奪う。
用済みとなったガン・カメラを今度は砲丸のように振りかぶって投げ飛ばす。
装甲盾を構えて銃を連射する殲六型が吹き飛ぶ。
盾を構えていようと、重量を防ぐ事は不可能だった。
体勢を崩した所にさらに体当たりをさらに当て、パイロットを気絶させる。
巨大なガン・カメラを捨てた白い機体は極めて軽快に機動する。
奪ったライフルを乱射しながら格闘戦を仕掛けていく。
機体を撃破する事は出来ないが、パイロットを気絶させて無力化させる事は可能だった。
それでも動き出す機体には戦場に残るアサルトの二機によって撃破される。
戦闘は終息しつつあった。
エンジニア、クリフ・ベレンジャーは痛みを堪え、気絶を堪えていた。
背後からの一撃で既にコクピット内は赤くなっている。
一歩間違えればこの警報の赤は彼の赤で染まっていたに違いない。
否、もし直撃していたならばいかにこの白い機体の装甲でも貫徹し、彼は『本当に』死んでいたに違いない。
事実、直撃を受けた頭部は全壊し、メインモニタは勿論、センサー関係は全滅していた。
その直撃に伴う衝撃と爆風、破片によるダメージは頭部に繋がるコア部にも深刻な被害を与えていた。
右腕の喪失とメイン動力パイプの露出、補給用弾薬の喪失である。
最も、通常の機体ならばそれを心配する事はなかった。
頭部だろうとどこだろうと、直撃を受ければその爆風で機体全てが吹き飛ぶからだ。
故に、危険を知らせる赤い光とやかましい程の警告音、
そして脱出時の安全を確保するためにコクピット正面に装備されたサブモニタの画像だけのコクピットも奇跡であった。
パイロットの生存と、確実な帰投が求められるこの機体ならではの結果といえよう。
気絶する前に行わなければならない事。
それは攻撃を行った自走砲の破壊と自己の安全確保。
彼は帰投せねばならない。
この機体は次世代機開発のためのテストヘッダであり、白い無人機『ネームレス・ワン』とは違うのだ。
今回の実戦によって、この機体の有効性はそれなりに証明でき、耐弾性能も十分という事も己の体で理解した。
故に、生き延びなければならない、『足つき幽霊』は生き延びなければならないのだ。
警告音を全て無視し、機体を立ち上がらせる。
余程設計が巧みなのか、脚部や背面のブースターも問題なく動かせるらしい。
『こちらエンジニア、離脱する』
壊れた通信機に思わず話しかけた。
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