BATTLE FIELD OF RAVEN
第15話 SPARK PLUG another T−旧基幹要塞制圧−
「先行した機体の突入は失敗の模様」
「稼働砲台の有効射程外より退避し機体投下、機動戦開始」
「了解、投下を開始する」
「指揮機より第一陣輸送機隊、展開して機体を投下!」
「ホーセス6了解、ハッチ開放! 搭載各機、順次降下せよ! 回避行動は継続するから当たるなよ!」
『こちら搭載機、降下高度と速度は維持してくれ! 降下用のパラシュートは装備されてないんだからな!』
「了解、バーブドワイヤー、ハッチ解放終了、降下どうぞ!」
「ダイナミックトラップ、先行して降下を開始する」
空へと機体が墜ちていく。
対空砲が空を抉る、有効射程外であろうとも、近接信管の砲弾が容赦なく降下する機体を襲う。
「うわっ! こちらマスターピース! どこが有効射程外だ! ダメージ甚大!」
殆ど自由落下に任せた降下を自動砲台のFCSは見逃さない。
数機が吹き飛ばされ、それでも尚砲撃は止まらない。
「降下に成功した全機へ、対空砲台を優先して潰してくれ! 輸送機は無事でも載せてきた奴らが全滅なら無意味なんだぞ!」
「ドラゴンキラー了解、対空砲座へ攻撃を掛ける!」
「こちらファイヤーバード、ドラゴンキラー援護してくれ」
88ミリの対空機銃が撃ち抜かれる。
「こちらブラックナイト、対空機銃を破壊、施設左翼対空網沈黙」
ビッグ・ガーランドのマガジンを入れ替えながらルシードが報告する。
「よくやったブラックナイト! ザカートは左翼より前進する!」
「マリスより全機、中央の対空陣地は沈黙、しかし、施設からの砲撃熾烈! 援護を!」
「こちらチャリオット、目標施設から敵機確認だ、この戦力は要塞級だぜ!」
「実際要塞なんだよ、チャリオット! エフェメラティは突入する、援護してくれ!」
装甲と汎用性を削ったであろう高速の機体がバズーカを放ちながら突入していく。
「ヴィジランティ了解だ! 援護するから砲台を潰してくれ!」
「こちらアーベントレーテ、右翼砲撃陣地制圧はほぼ完了、施設への突入は可能か?」
『こちら司令のウナス・カーンだ、アーベントレーテ以下全機へ、第二陣の降下を開始させる、それまで突入は待て!』
「了解、施設周辺の制圧を続行する」
そして大爆発が起きた。
「おい、目の前の奴らが吹き飛んだぞ! 何だ今のは!」
「戦艦主砲のようだったが、誰か何か見えたか?」
陸上の戦力にとって戦艦主砲は時代を問わず危険度は最高である。
航空機ならばいくらでも回避出来るであろうその砲撃は、直撃にならずともその衝撃波だけで機体は損傷を受ける。
生身の人間ならば衝撃波だけでも戦闘続行は不可能になり、破片でも飛んでくればそれだけで致命傷だ。
地面にしても核シェルターでもなければあっさりと大穴が空くだろう、当然通常の陣地など防御の役には立たない。
故に彼等の反応は当然であった。
「右翼陣地の方から飛んできたぞ! 誰か確認しろ!」
「急げ! 俺達が吹き飛ぶ前に! 次弾が飛んでくる前に!」
大きく企業のロゴが入った試作品の追加ブースト、それが取り付けられた機体が空へと跳び上がる。
それは見事に空中で静止して見せた、性能は良好らしく、生き残った者の中にはこれを正式に発注する物も出てくるだろう。
ともかくその機体は作戦区域右側、方角で言う北を向き、カメラアイをズームさせる。
「……馬鹿にしやがって、列車砲だ!」
「いや、アレは自走砲か地上戦艦だ、どっちにしろデカイ!」
戦車にとっての落とし穴となるであろうAC用の塹壕からそれとは別の機体が叫んだ。
『右翼制圧部隊は退避! 中央の部隊と連携、散開して包囲攻撃!』
即座に指令が伝わる、だがそれでも遅きに失した。
ほぼ同時に着弾、機動歩兵が木の葉のように宙を舞い、右翼制圧部隊は壊滅した。
地上に退避していたはずの機体は衝撃波で大きく上に吹き飛んだ。
パイロットに意識があれば何とかなっただろうが、失神したのか、そのまま地面へ叩き付けられた。
『第二陣、直ちに降下、第三陣、降下予定時刻変更!』
低い発射音が連続して響く。
「こちらブラックナイト、あの巨体はライフルでの撃破は不可能と判断、火力支援及び部隊支援を要請」
言うが早いがルシードは左方向へ迂回をしながら接近を始める。
それに呼応してノアも右方向から接近を試みる。
『施設への攻撃は李に一任、第二陣は敵機動砲台の制圧に向かう』
『こちら李、了解、部隊の再編を提案するが、どうか?』
『こちらウナス、了解、第一陣、及び第二陣から残存部隊の3割までを突入部隊に編成することを許可する』
『第一陣より、カロンブライブ、ポーキュパイン、イディオット、ファルコンを先行部隊とする、突入せよ!』
「了解した、他の三機も聞いたな? これより施設に突入する、援護せよ!」
真っ先に飛び込んだのはカロンブライブだった。
『続いて残弾を喪失したカラミティメイカー、TYPE99は2キロ後方に補給車が降下している、補給完了次第突入せよ』
「了解、一時後退する」
既に後退を始めていたTYPE99が応える。
『残りの部隊は第二陣から編成する、降下! 降下!』
降下を開始する。
『よし、降下確認、豊田、君は私と共に地上戦艦殲滅の指揮を執る、左翼の指揮を任せる!』
『了解ウナス司令、ああ、藤崎、降下したら第二線に出てくれ、前線の様子を見ないと指揮はどうも執りにくい』
彼等は指揮官用の複座機からそれぞれ指揮を執る。
塹壕のように窪んだ穴に機体を滑り込ませ、頭だけを出した。
「先行機より全機、標的の報告を行う」
ライフルを格納し、ルシードは拡大照準機を覗き込みながら通信をした。
その間も距離を詰める事を忘れない。
「目標は地上戦艦、大型砲を二門以上搭載の他、比して小型、だがそれも対機動歩兵用の小型武装多数。
艦橋の位置は前面に設置されている模様、また艦橋そのものも武装しており、ACのような形をしている。
恐らくこの艦橋を破壊すれば無力化出来ると考察」
『第二陣降下完了、指示を』
「第二陣、先程通達した機体は私と共に突入する、ついてこい!」
「よし、第二陣は左翼に展開、砲撃による危険半径は約300メートル、砲撃は驚異、注意せよ」
「どうやって注意するんだか……」
『注意、敵艦発砲、着弾予測位置、右翼後方』
至近に着弾した機体は木の葉のように千切れ舞い、そして跡形もなく消え去った。
そして余裕を持って展開していたはずの隣の機体がバランスを崩され、吹き飛ばされる。
機動兵器に搭載される高性能の姿勢制御機構もこれほどの衝撃には無力だった。
「あんな砲撃どうやって注意しろって言うんだよ!」
だがそれでもその他の制御機構を利用し、左腕と両足を器用に扱い十秒もせずに立ち上がる。
「回避しろ、それしかない」
「こちらノア、あと15秒で射程に入る」
『接近中の各員、射程外からでもかまわん、注意を引きつけてやれ』
複座機が両肩に装備されたロケット弾を乱射する。
「標的は砲台だ、砲台を全滅させて無力化しろ、あれだけでかければ撃破は至難だ」
艦橋、ACの形をした二門の小型砲が標的を捕らえた。
『艦橋から発砲、標的は右翼前面、バンコマイシン注意せよ』
だがその一撃は無駄弾に終わる。
ただ二発の遠距離砲撃を喰らうほどの素人はこの作戦に参加する事は許されない。
一発は遙か後方に、もう一発は右前方に着弾する。
元々照準性能が低いのか、ただ直進するだけで勝手に弾丸は外れていた。
「あれだけデカイとショウ専用のレスラーと同じだな、攻撃は大雑把でこっちの攻撃を全て受けるつもりのようだぜ」
「それでも一発殴られたら文句なくノックダウンだ、気を付けろよ、今のは牽制用のストレートだが次はジャブが飛んでくるぞ!」
果たしてノアはそのジャブの射程圏に入る。
ジャブの正体は対空砲だ。
全自動型40ミリ4連装対空高射砲、近接信管で破裂するそれは、沈黙させた基地の対空砲と比べ仕様が安定していない事が伺えた。
目標の要塞の対空兵装は30ミリ対空高射機関砲及び88ミリ高射砲であり、軽装のAC相手ならこれで十分過ぎる。
『上空より標的視認、新たに確認出来たのが4連装高射砲が……左右6、計12』
数える間に発砲が開始される。
敢えて近接信管を排除し、対地攻撃も可能とする発想は、取り付かれた場合を想定した物であろうが、対空での命中率の低下を招いた。
だがこの装備は確実に殺すという信念を感じさせる武装であった。
4連装の機関砲は、広域に弾丸を撒布する事が可能であり、それによって単位時間当たりの命中確率を上昇させる。
だが背面のブースターとACの手足を巧みに使い、総計48門の高射砲撃を全て回避していく。
そして甲板に着地し、前面の機関砲をサブマシンガンで沈黙させながら下がっていく。
そして戦艦の縁を蹴飛ばし、距離を取り、15メートル下へ着地する。
射撃可能な機関砲、そして角度的に見逃した背面設置の127ミリ速射砲が狙う。
それを再接近する事で回避、全ての兵装の死角に入り込む。
そこから上昇、戦艦の縁を今度は掴み、ACの腕力を利用して上昇する。
急激な出現に一瞬だけ対応が遅れ、ブースタを利用して急降下する。
兵装選択、爆雷。
投下標的、速射砲。
降下角度、75度前後。
「投弾!」
総計数百キロの爆薬、対潜攻撃さえも可能な爆薬の直撃で速射砲は完全に破壊される。
その黒煙で、センサー関連は沈黙、甲板に再度着地したノア機の姿を完全に隠した。
「この爆雷攻撃で砲弾薬への誘爆はないか、優秀な設計だ……」
ノイズの混じる通信機に向かって叫ぶ寸前の言葉を放つ。
「各機、有効射程への接近はまだか?」
その通信で黒煙の中の機体を判別したのか、照準を合わせる音を確かに聞いた。
『キラーゼ………だ耐え…くれ、狙撃可能な……は……に入ったが……撃程度で…………の有効打撃は不可……』
最悪の電波状況と、アラート音、同時に響いた高射砲の射撃音で通信は何一つ聞こえなかった。
腹這いの体勢のまま、甲板上を擦るように前進し、照準など無く手に持ったままのサブマシンガンを乱射する。
見据えた目の前を機関砲の弾丸が掠め、咄嗟に機体を停止させ、その次の瞬間には左へ飛ぶ。
果たしてその次の瞬間に寸前まで存在した位置へ後方から機関砲弾が掠めた。
そしてモニタの右上、後方視点を確認した時、ノアは己の失策を思い知った。
そこにあったのは巨大な主砲、列車砲もかくやという巨大な主砲が真後ろに存在していた。
そして次のコンマ1秒までに自らの得た情報を思い出す。
高射機関砲にも、速射砲にも存在した、巨大な爆風避けを。
巨大すぎる衝撃。
数キロ離れた初弾の着弾地点からは実感出来なかった強大な衝撃波。
それはACさえも、突風に遭遇した木の葉のように吹き飛ばす。
上下さえも理解出来ず、センサは全て白濁し、モニタの情報さえ信用出来ない状況。
甲板に踵が叩き付けられる。
その踵が折れる寸前、意識を失う寸前の領域で思い切り甲板を蹴って僅かにベクトルを修正した。
戦艦の側面から吹き飛ばされる。
縁の、恐らく人間用と思われる手摺りに頭部が僅かに引っ掛かり、その全身にかかるベクトルが強制的に変化させられる。
そして着地出来ずに落下する。
激痛で他の事が考えられない。
人体はその7割が水だ。
通常では、その水が衝撃を緩和する。
だが、この衝撃は、波紋のように体内の水を伝い、激痛を引き起こした。
幸運だった。
全ての射撃兵器の死角に落下した事は。
もし甲板を蹴飛ばさなかったならば、残骸となった速射砲に激突し、爆風が収まった次の瞬間には機関砲に撃ち抜かれていただろう。
頭部が手摺りに引っ掛からず、投げ出されたままならば、やはり同じく機関砲がトドメを刺していただろう。
『こちら工兵部隊! 着陸前なんだが、1キロ先になんかデカイのが着弾したぞ! 周辺制圧の目処は立ってるんだろうな?』
『工作部隊、現在そのデカブツと対峙中だ、かまわんから滑走路を敷設しろ』
『了解、資材積んだのを投下しろ、車の降下装備最終確認』
輸送機から数輌のトラックが飛び出し、パラシュートを展開して落ちていく。
『よし、続いて建設重機だ、コンテナにぶつかって壊すなよ、降下!』
『隊長、トラックは降下を完了しました、周囲に異常なし、物資を展開します』
『オーケー、ついでだ、周囲は安全なようだが、積んできた警護用のMTも全部下ろしちまえ、重機の手伝いをさせる』
『後部コンテナ了解、人員の降下準備も完了していますが、どうしますか?』
『重機部隊の降下が完了したら降下しろ、振り分けは事前の打ち合わせ通りに』
『通信士、総司令に打電、人員の降下を開始する、どうか警護をお願い致すとでもな』
『了解です、この機は隊長の降下を完了したら一度後退します』
『回収要請を聞き逃すなよ? マジで生死に関わるから』
『アイアイサー』
「よーしよし、先行部隊が取り付いたな、藤崎、我々も行こう、ここまで来たら火力が物を言う、火力制御をこっちに回せ」
「本気でやるんですか? 指揮系統の混乱を招かない事が第一では?」
「それは事実だが、指示を請うって通信が来るまではいいじゃないか」
「その時までに情報収集してて下さいよ、情報がなかったら正確に指揮できないでしょ」
「わーかったわかった、おっと、藤崎、左30度に敵機だ、そーれ、行け行け行け行け!」
「了解了解、方位30、距離2500……ファイア!」
複座の機体の持つ大型砲が着弾し、高速で迫りつつあった偵察機らしき機体が吹き飛んだ。
通常なら装甲表面で弾けるだけの距離だったのだろうが、全速で砲弾と接触した為であろう、装甲を貫通し、派手に爆炎を挙げた。
『全機、敵は戦艦だけじゃないぞ、左右から敵が接近中のようだ!』
「豊田さん、指揮機の援護を要請してください、どうやら今までの通信から指揮機が狙われているようですよ」
「なーに必要ねーよ、ひらりひらりと逃げ回れば良いんだ、そーれ、今度は逃げろ逃げろ!」
高速の機体が4機、周囲を顧みずに一気に指揮機へ接近してきた。
同時に展開したのは15機、指揮機への援護が出来ぬように、指揮機近くの機体を攻撃していく。
高度な連携だった。
「あーったく、貴方と組むようになって寿命が5年は縮まってしまったよ!」
大型武装しか持たない指揮機を巧みに操り攻撃を回避、逆に一機を撃破した。
「それだけ信頼されてるって事だよ、どうだい、火力制御、こっちに回してくれないか?」
「あんたはその為だけにこんなピンチを招いたか!」
そう言う彼も心底嬉しそうに笑う。
二人は紛れもない戦闘狂だ。
『こちら突入部隊第二陣、準備が終了した、これより突入する、先行部隊は内部の状況知らせ』
『こちらカロンブライブ、現在無人機械と思しき部隊と交戦中、敵は多数、援護を請う』
『突入経路は他にないのか?』
『少なくとも確認不能、弾薬切れの可能性もある、補給車を伴って来る事を望む』
『了解突入部隊、現状を維持しつつ敵を殲滅せよ』
通信は途切れた。
「各員突入用意、イクスプロードを戦闘として突入する、私の機体をその援護機とし、残りの機体は追随せよ」
「李大人、我々の機体を前方に配置するのは無謀では?」
「石、後方に下がるなど愚作だ、最前線で戦ってこそ将である、そうだろう?」
石竜勝は公司から派遣されたこの将がどこか気に入らぬと思っていた。
それはこの発言で明らかになった。
思考方法が違いすぎるのだ。
確かに指揮官が先頭で突入した方が兵の士気も上がろう。
だがそれも場合によりけりだ。
このような傭兵が部下ではそのような方法は当てはまらぬ。
ましてこの時代は銃火が飛び交う戦争だ。
大英帝国と呼ばれた国家はこの方法を主とし、近代戦争の先触れと呼ばれる第二次世界大戦でもこの方式が中心であった。
このため将校が真っ先に突入、死亡し指揮系統が機能せず、殲滅される事多数であったという。
大破壊の直前、彼等の文化圏における大祖国戦争の指揮官であった楊豪軍は『祖国の名将・前線の猛将』として知られる。
だがそれとて最前線の前衛にいたわけではない。
前線では後方に位置し、作戦中広域の妨害電波の元で尚指揮系統を常に確保し、それを即座に実行する事を徹底した為名将と呼ばれ、
さらにその呵責無い戦闘ぶりによって猛将と呼ばれるのだ。
勿論、その在り方を是としない人間も居るだろう。
将は前線に在るべきだと。
だが、それは将の在り方ではない。
その在り方が許されるのは火薬の発達前、最大でも戦車戦の行われる前までであろう。
恐怖によって弓を射れぬ、攻撃出来ぬと言う時代はとうに過ぎ去った。
現代は、恐怖によって引き金を引く、それだけで人を殺すに十分な弾丸が発射されるからだ。
「突入開始! 敵を殲滅し要塞を制圧する! それがこの不可侵領域制圧の橋頭堡となるであろう!」
通信が切れる。
ある者が一人呟いた。
「まーだ言ってるよ、ここの攻略はできても、『俺達の領域』を制圧出来ると思っているのかい?」
呟きが聞こえたのは彼一人、だからその笑みを見た者は一人も居なかった。
「ま、勝手な事を言ってるけどな、奴らの領土に作ったのは俺達なんだし」
そう、とても勝手な事だ。
だが、それでも、勝手を押し通す。
それが彼の結論だった。
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