BATTLE FIELD OF RAVEN



第5話 戦場−都市北部にて−
「商業区画への被害甚大、エリア間モノレール大破、各ビルの発電施設の3割が沈黙、上水道も一部欠損が確認されました。  ガス等の可燃物は地下の倉庫に退避させましたが、電話を含めた通信網、ライフラインはほぼ全滅です」 「司令部へ商業区画の破棄を提案、同時に上空制圧と対地攻撃の航空支援も要請しろ。  区画は全損してもテロリスト連中は殲滅してやるくらいのボムを用意させろ」 「それが、これらの事態は都市北区全域で発生している為航空支援も破棄も不可との通達が既に届いています」 「だが航空支援が不可能って事はないはずだ、近くの部隊との優先順位だけでも聞き出せ」 「現在数カ所の地点で攻撃が始まっています、一番近いのは……A−10部隊、対地攻撃専門の……」 「で、敵の上空戦力はどの程度だ?」 「垂直離着陸機……こいつは驚いた、ロイヤルネイビーズです、欧州圏の機体がこんなところにまで……」 「欧州圏、それも大英帝の機体だと? なら鉄十字の機体はどうなんだ?」 「確認は取れていませんが、少なくとも担当地域には居ないと思われます」 「大英帝のテロリストか……とりあえず戦力分析を司令部へ、こっちはこっちで攻勢にでる準備を、砲撃は突入5分前から」 「了解です、隊長、我々は生き残れるでしょうか?」 「レイヴンも雇っている、そしてテロリスト共は謎の生物兵器と交戦中だ、漁夫の利を狙えるだろう」 「ならば攻撃を遅らせるべきでは? 漁夫の利を狙うのが目的ならば両方から攻撃を受ける危険は避けるべきかと」 「漁夫の利ってのは、三つの勢力が二つになったら不可能だろ? なら早いほうが良い」 「え、それは……」 「いくら大英帝機でもな、あんなバケモノ相手じゃ一時間も保たずに全滅だ、だったらやるべきは決まってるだろ?  連中を囮にしてバケモノを倒す、そのまま大英帝も叩き潰す、簡単だろ」 「言うは易し、行うは難しって言いますがね」 「レイヴンが到着しました! ジュピターの2機、それからティトゥイーリの3機です」 「そいつはランカーに大当たりだ、生物兵器に集中攻撃を掛けるように伝えろ。  同時に砲撃開始、機甲部隊は再武装終了と共にレイヴンを援護!」 「位置が不明です、無駄に被害を出す可能性がありますが?」 「馬鹿、連中だってレイヴンだぞ、しかもランカーの、ましてティトゥイーリの三機って言ったらパスファインダーが居るだろうが。  こっちが位置を聞け、砲撃も正確な位置が必要になるんだからな」 「こちらティトゥイーリ、ハートブレイカー失恋野郎だ! ジュピターの敵にならなくて幸運に思う!」 戦場に不釣り合いなほどに派手な赤い機体の主が声を上げた。 「こちらジュピター、ドラゴンキラー及びエアマスター、受信状態良好、こちらこそよろしく」 射撃音が正面から響いてくる中、青と緑の機体が返答した。 「マーズパスファインダー探査機より後方の4機! 正面右のビル距離1500、生物兵器だ、とんでもない数だぞ!」 前方を往く黒い機体が警告を発した。 「ピースメイカーバラし屋よりパスファインダー、正確な数は分かるか?」 錆びた鉄のような赤で塗装された機体が弾倉を弄びながら言った。 「視認18、レーダーは光点だらけって状態だ、とりあえずそれぞれは貧弱だが、数が多ければ危険って連中だ、気を付けろ!」 爆音と共にビルが半分消し飛んだ。 「あっぶね……敵の火力は非常に高い、分散して接近しろ!」 「了解!」 パスファインダーの視界の隅には、大量の残骸が映し出されていた。 −テロリスト部隊、半壊 大量の銃弾が撒き散らされる。 轟音は人間の鼓膜を破るほど強く、それでもなお生物兵器への効果は見られない。 「ノア、お前のマシンガン、口径は何ミリだ?」 レーザーが空を裂き、直撃し、煙を上げ、それでもなお生物兵器の動きは止まらない。 『通常仕様の60だが、どうした?』 「いや、さっき上空を飛んでいた機体があったろ、A−10。ラグに調べて貰ったんだが、あれの口径って30ミリなんだよな……」 『30? おかしいじゃないか、なんでアレは効いてこっちは効かないんだ?』 「そこで考えたのは弾種だ、お前のそれ、装甲表層破砕用のショックシェルだよな」 『ああ、マシンガンに限らずショットガンでも基本的に弾種はこれだろ?』 ショックシェル、装甲表面を破壊し、その内部の電装品への衝撃を与えてエラーを発生させる事を目的とする。 装甲を貫通し、電装品へ直撃しても戦闘兵器のエラー回避対策は優秀であり、一部の損壊ではダメージにはならない。 これが装甲歩兵、MT開発に関わった開発者達の結論であり、衝撃弾、ショックシェル開発の始まりである。 当然、通常の鉄鋼弾に比べれば『対甲』能力は減少するが、『対精密機甲』能力は非常に向上する。 一部のダメージに限らず、衝撃によって機能中枢のエラーを誘発させるのがこの弾種の目的であり、隆盛した理由である。 「だとすれば、結論は、生物兵器は鉄鋼弾には弱いんじゃないか、という事だ」 肩部ミサイルランチャーシステムにアクセス。 内蔵するミサイル本体全ての多機能信管、着弾瞬間起爆を停止。 遅延起動設定、着弾より5秒に変更。 同時にFCSのロックオン目標を『反応』より『範囲』に変更、ロックオンは手動で作動。 発射目標地点を敵集団最後尾のエリアに設定、ロックオン開始。 ロックオンより発射まで約2秒、ロック終了までの時間にミサイル信管システム更新を完了。 ロックオン完了と同時に左右のランチャーより各三発、計六発のミサイルを発射。 最後尾を狙ったミサイルは前列の三体に突き刺さる。 『貫通したぞ』 「あと……3秒」 ノアは、その言葉と同時に、何を為すべきかを了解し。 交換したばかりの弾倉を投げ捨て、ハンガーの中から新たな弾倉を取りだした。 ショックシェルは言うなれば非被甲弾、UMJ、アンチメタルジャケット。 取り出すは、完全被甲弾、FMJ、フルメタルジャケット。 爆音と共に、ミサイルが突き刺さっていた三体は苦痛の叫びを上げ、暴れ出す。 『相手が生物なら、弱点は決まっているよな』 マシンガンを両手で構え、普段は決して定めぬ照準を慎重に定めていく。 「心臓、眉間=脳、大腿動脈、頸動、上腕血管、少なくとも人間は弱点だらけだ」 だが相手は違う、構造が違いすぎる。 頭は体に覆われ、足は節足動物のように体に付着し、その突き出した腕は歪に数十に湾曲している。 例えそれが生物でも、生物を超越した――― 「一つだけ同じ場所があったな」 放たれたのは僅かに9発。 三体の標的への三点の目標。 そこのみを狙ったバースト射撃。 眉間への直撃。 一発は皮膚、『表面装甲』をえぐり取り、二発は肉を確実に捉え、最後の一弾は確実に脳を貫通して止まった。 それで終わり。 究極に近い生命であった怪物の命はあっさりと止まった。 −戦域内残存生物兵器数、10 残存機体はACが一機、そしてMTが二機。 奇襲を好むテロリストは基本的にレイヴンと戦う事を想定に入れていない。 故に必殺。 レイヴンは戦う前に倒すべし。 これがこの連合都市を本拠とするテロリストの基本的行動であり、その点から言えばテロリストは既に負けていた。 だが、それでもなおテロリストは負けを認めなかった。 「作戦は失敗した、だが、空港機能を大半奪う事には成功したのだ、レイヴンは俺が足止めする、お前らは撤退しろ」 『……しかしそれでは!』 「議論している暇はない、敵はレイヴンだ、真っ向からやれば負けるだろう、だが、全滅しなければ組織はまた再建できる!  この都市に、ひいては全世界に革命政府を建設し、共産主義の正しさを見せつけねばならんのだ!」 『分かりました、またいつか』 そこまで言った瞬間、一機のMTが火を噴いた。 「レイヴンか?」 空港防衛部隊がどこからか放つバラージジャミングでレーダーは混乱し、通信も不可能な状況。 そして周囲は破壊された航空機と炎上する航空燃料の燃えかすと煙で視認は困難。 その状況下、ACは一機を狙撃し、残存する二機の前に着地した。 「投降せよ、ガードから投降者を受け入れる事が許可された」 着地と同時にMTにライフルを突きつける。 発射されれば間違いなく装甲を紙屑のように貫通し、パイロットは死ぬだろう。 MTのカメラ・アイがACを向く、ACは軽く頷く。 躊躇いも無く、引き金を引いた。 ショットガンの衝撃が機体を叩く。 同時にMTが体当たりを仕掛けてきた。 それを認識するよりも早く引き金が引かれ、MTの胴体が車に挽き潰された子供のように弾けた。 だが、MTの意地だったのか、銃身が握られ、ACを意識に入れるのが遅れた。 その僅かな間にACは跳躍し、物陰の多い格納庫エリアに低姿勢で突入、そのまま物陰に隠れながら脱出を計った。 ライフルがいくら強力とは言え、FCSにも、視界にも、意識にも捉えられぬ存在を撃ち抜く事は出来ない。 だから、愚直で確実な方法をとり、ルシードは敵ACの後を追う。 −空港解放、残存敵機数1 「突入する、全機に援護要請!」 青い軽量機が姿勢を低く、黒い偵察機の前方に出る。 役立たずになるはずのマシンガンは既に手の中に無く、代わりに二本の、ナイフが握られていた。 『了解!』 「準備良し! Let's dance!」 緑と錆鉄の重装機がビルの上に陣取り、周辺一帯への砲撃を始める。 互いの行動を予測し、その上で最適な砲撃地点を選定し、さらにそれを見てもう一方も着弾点を修正する。 初の共同作戦であったが、互いに一流同士、完全な連携だった。 青い機体の後ろを任された赤と黒は、前方の機体の隙を丁寧に潰しながら、スモーク弾を投擲する。 そして最前列の青は。 戦場を疾走する。 都市を疾走する。 膝への衝撃を後ろへ、後ろへ。 加速しながら疾走する。 故に接敵は一瞬。 その一瞬で敵の眉間奥の脳を貫き、そして血管を切り裂く。 地上を走る音速のコンバット。 生物兵器に殲滅させられ、そして周辺一体への砲撃からも生き残った数少ないテロリストは。 その姿に見惚れていた。 −テロリスト 部隊機能消失、生物兵器 3体撃破
第5話 完

第6話へ 第4話へ 戻る